統一神書 バルギニア版 第二の巻 聖嵐神
一
至天の光輝たる第一の座、天空と嵐と神罰とを司りたもう男神。始原が御身を裂きたまいしとき、最初にこぼれ出でし最も大いなる光より生まれたもうた、八柱のうち最も古く、最も力強き兄神である。最も大いなる光より生まれたるがゆえに、その身に宿す力もまた、八柱随一であると伝えられる。
二
御姿は、天を衝くばかりに背高く、雷雲がそのまま人の形を取ったかのごとき威容であるという。髪は白銀、あるいは淡き金にして、絶えず吹き上がる風のなかにあるかのごとくたなびき、その一筋一筋に、かすかな光が走っている。瞳は雷の芯のごとき青白さをたたえ、その眼差しは、遠き空に音もなく走る稲妻にたとえられる。肌は陽を浴びた青銅のごとく輝き、肩には嵐雲を織りなした衣を纏い、額には雲と稲妻を結いたる雷冠を戴きたもう。
三
御声は、常には低き雷鳴のごとくである。されど、ひとたびこれを荒げたまえば、その言葉のひとつひとつが、たちまち落雷と変じて地を灼く。ゆえにこの神は、めったに声を荒げたまわぬ。怒りを胸に秘め、なお静かに語りたもう。その抑制こそが、この神の威厳の根である。
四
御心には、二つの相反するものが、分かちがたく溶け合うている。ひとつは、第一の座を負う者としての厳格と矜持である。理を曲げず、不正を見過ごさず、罰すべきは罰したもう。されどその罰は、けして気まぐれや残虐より出でたものではない。怒りに遅く、されど怒れば烈し。最後の最後まで罰を控え、なお正されぬものにのみ、雷を下したもうのである。いまひとつは、この峻厳の裏にひそむ、深き慈しみである。天を統べ、万物を見下ろしうる高みにありながら、その眼差しは、しばしば最も低きところへと注がれる。
五
御業の第一は、天空を統べるという、尽きせぬ務めである。世の人は嵐を天の気まぐれと思いがちであるが、しからず。雲を集め、雨を降らせ、風を巡らせ、稲妻を放つ。その一切は、世界の隅々にまで滞りなく水と気を行き渡らせんがための、緻密きわまる御業である。もしこの神が一日でも天を律することをやめたまえば、地は乾いて裂け、あるいは際限なき長雨に沈むであろう。穏やかな空の下に生きとし生けるものの安らぐは、ひとえに、見えぬところでこの神が天を御しつづけたもうがゆえである。
六
その武勇は、並ぶ者なしと讃えられる。御声の一声に天は鳴動し、御手の一振りに雲は割れ、稲妻は意のままに天を奔る。世界の生まれて間もなきころ、いまだ定まらず荒れ狂うていた天地の気を、ただ一柱、御手をもって鎮め、整えたもうたのはこの神である。乱れたるものを律し、あるべき秩序へと戻す。荒ぶる力をそのまま秩序の力へと転じうるところに、この神の比類なき偉大さがある。
七
されど、この神の真の大きさは、力をふるうことよりも、ふるわぬことにあらわれる。かつて人が驕り、天に弓引かんとしたとき、神々の多くはこれを灼き滅ぼすべしと唱えた。だがこの神は、ただ一度、軽き雷を遠き山に落としてみせたのみで、人を罰したまわなかった。畏れを教えるには、滅ぼすに及ばず。そう諭して、人に悔い改める機会を与えたもうたのである。罰する力を持ちながら、なおそれを抑え、相手の立ち直りを待つ。この忍耐こそ、神罰を司る者の最も尊き徳である。
八
ある日、海辺の村で、一人の漁師が沖へ漁に出たさなか、にわかに空が掻き曇り、嵐が起こり始めた。岸に残された幼き子は、沖にある父の身を案じ、荒れゆく空に向かって、嵐よ止んでくれと一心に祈った。すると、起こりかけていた風はふいに鎮まり、暗雲は割れ、ひとすじの光が海を照らして、父の小舟は何事もなく岸へ帰り着いた。万物を統べる神が、名もなき幼子の声に耳を傾けたもうたこと、この一事にこそ、この神の慈しみの深さがあらわれている。
九
荒ぶる力を秘めながら、なおそれを律し、世界を穏やかへと導きたもう。嵐ののちに必ず訪れる、あの澄みわたった青空をこそ、この神の真の御心と見るべきである。
十 聖嵐神の教え
この神を敬う者の守るべき教え、二十を記す。
一つ。朝ごとに空を仰げ。汝の一日は、神の見ておられる一日である。
二つ。誓いは、空の下で立てよ。屋根は人の耳を遮っても、天の耳を遮らぬ。
三つ。誓ったことは果たせ。人は忘れても、天は忘れぬ。
四つ。空の下で偽りを言うな。屋根の下で言うた偽りも、いつかは空の下に出る。
五つ。怒るに遅くあれ。神は、罰する力を誰よりも持ちたもうて、なお最後まで罰したまわぬ。
六つ。怒りを、日の沈むまで持ち越すな。夜は、憩いのためにある。
七つ。人を呪うて雷を乞うな。神罰を願う口は、おのれの罪を忘れている。
八つ。復讐は汝の業ではない。正すことは神と律とに委ね、汝は汝の畑を耕せ。
九つ。雷鳴のあいだは口をつぐめ。神の語りたもうときに、人の語ることはない。
十。雷を、やましき者のように恐れるな。罪なき者の上に、雷は落ちず。
十一。雷に打たれた者を、人が裁くな。神の量りは、人の目に見えぬ。
十二。嵐の来る前に、隣人に知らせよ。風を読める者の務めは、読めぬ者に告げることである。
十三。嵐の過ぎたのちは、おのれの屋根を直し、次いで隣人の屋根を直せ。
十四。雨を呪うな。汝の呪うその雨で、どこかの畑が生き返っている。
十五。嵐の夜に旅人が戸を叩いたら、開けよ。
十六。海に出る者は、出る前に祈り、帰って感謝せよ。祈りなき船出は、驕りである。
十七。父なき子を、天の父の子と思うて養え。
十八。高きに登っても、天に届いたと思うな。人の登りうる高さと、天の高さとは、別のものである。
十九。力を誇るな。まことに強き者は、力を使わぬことにおいて強い。
二十。澄みわたった空を見上げたときは、しばし立ち止まれ。穏やかな一日は、贈られたものである。




