表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/4

統一神書 バルギニア版 第一の巻 創世

 天もなく、地もなく、光もなく、闇もなかった。ただ、果てなき虚空のみがあった。

 その虚空に、ただ一柱の神があった。何よりも古く、誰に生まれたのでもなく、おのずから在った。これを始原と呼ぶ。

 始原に、名はない。名とは、呼ぶ者があってはじめて立つものである。始原より先に在るものは何ひとつなく、始原を呼ぶ者は、ついに在らなかった。人はせめてもの尊称として、忘却の祖と呼びならわしている。


 久しきにわたり、始原はただ独りであった。

 あるとき始原は、寂しさを覚えたもうた。おのが身を裂くことを、定めたもうた。

 始原の御身は、九つに裂けた。八つの欠片は八柱の神々となり、残る一つは、祖として、今も在したもう。


 始原、御身を裂きたまいしとき、まづ最も大いなる光、こぼれ出でたり。その光、生まれ落つるや、ふたつに分かれ、昼を負う兄と、夜を負う弟とになりたまえり。兄なる光を、至天の光輝と称う。

 第一の座と第二の座とは、この二柱である。


 裂け目からは、おびただしい光が溢れ出た。光はまず水となり、深き水となって虚空に湛えられた。次いで生まれた陸は、その水の面に、筏のごとくに浮かんだ。

 世に魔力と呼ばれるものは、すべてこの光に発する。心せよ。魔力は人の作ったものではない。始原の御身より溢れたものである。


 八柱の神々は、おのおの司りを負うて生まれ出でたもうた。座次のままに記す。

 第一の座、聖嵐神シャナル・コーハル・ヴェルフィナ。天空と嵐と神罰とを司り、昼を統べたもう。

 第二の座、ディット・グー・ドーズ。夜と終焉とを司った。

 第三の座、叡智神クロル・ファナ・シーデリ。真理と知識とを司りたもう。

 第四の座、聖母神ラナ・ディル・ジーエーナ。生命を司りたもう。

 第五の座、律天神オルダ・ヴェム・カノーレ。世を貫く律を司りたもう。

 第六の座、堅磐神ガルド・モーン・ダグレナ。大地と山岳と鍛造とを司りたもう。

 第七の座、流転神セレ・ミウ・ターリエ。水と時と魂の巡りとを司りたもう。

 第八の座、門守神ノヴ・ガーレ・シルディン。境界と門と、死者の導きとを司りたもう。


 生まれたばかりの世に、昼と夜の別はまだなかった。

 聖嵐神は、おのが負うた光を天に掲げて太陽となし、天に道を敷いて、これを乗せたもうた。太陽は日ごとに東から昇り、西へ沈む。あの道は、このときに敷かれたものである。風は、この神の吐息である。雨もまた、地に落ちるまでは、この神の御業のうちにある。

 弟神は、おのが負うた闇で、夜を織りたもうた。日の沈んだのち、世に帳が下り、ものみなは休らう。昼が必ず終わり、夜が必ず明けるのは、二柱がひとつの光より分かたれた双子だからである。


 そのころ、大地はまだ定まらず、深き水の面を漂うていた。陸と陸とは離れてゆき、やがては世界の縁から滑り落ちるほかなかった。

 堅磐神は炉に籠り、幾世をかけて、途方もない鉄の鎖と楔とを鍛えたもうた。離れゆく陸を鎖で繋ぎ、継ぎ目を炉の火で縫い、それでも留まらぬ陸には、天から楔を打ち下ろしたもうた。

 山脈は、この鎖の跡である。深い谷は、陸の引きずられた跡である。野の只中にひとり立つ峰は、楔の頭である。朝ごとに大地が崩れずにあることは、あたりまえのことではない。


 かくて昼と夜とが巡り、大地は定まった。されど世界の際は、なお曖昧なままであった。生者の道に死者が紛れ、光あるべきところに闇が滲んだ。

 門守神は、三界の際に立ち、境を引きたもうた。地と空の際。海と陸の際。昼と夜の際なる、黄昏と暁。現界と輝界と闇界とは分かたれ、おのおのに門が据えられた。三つの世界は、これより互いを侵さない。


 律天神は、世の隅々までを歩み、律を敷きたもうた。同じ因からは、同じ果が生まれる。昨日の火と今日の火とは、同じように燃える。みな、このとき敷かれた律である。律は、神々をも縛る。

 流転神は、水に流れを与えたもうた。水は山を下って川となり、海に注ぎ、天に昇って雨となり、また地に降る。時もまた、この神の流れである。世に、留まりつづけるものはない。

 叡智神は、成りゆく世のことごとくを、見ておられた。世の理は、あますところなくこの神の内に蔵められている。


 世界の形が成ると、聖母神は生命を生みたもうた。裸の地に草を芽吹かせ、森を茂らせ、水に、空に、野に、生きるものを満たしたもうた。人が生み出されたのは、いちばん終わりである。

 人に与えられたのは、生きることだけではない。世界の運行の、担い手の役目である。ゆえに人は、神々の御業を知り、おのれの務めを果たして生きるべきである。


十一

 始原は、御身を裂きたまいしのちも、ただ一柱として在したもう。いずこに在すかを、知る者はない。八柱の司らぬもののすべては、始原の司りのうちにある。

 心せよ。世界は、始原の御身より成った。汝の踏む地も、仰ぐ空も、汝みずからも、もとは、ひとつの御身である。


 これが、世の始まりである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ