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第一話 つまらないわ

 連載再開です。今回はカイがヴィランになります。

 アメコミでは味方キャラが敵になることは珍しくないので。

「ああ、つまらないわ」


 ここはロサンゼルスのダウンタウン地区にあるゴスペル高校の教室の一角だ。休み時間なのか生徒たちは自由に過ごしている。雑談したり、校庭でボール遊びをしたりしていた。

 一番後ろの席には、茶髪のおかっぱ頭で赤い縁の眼鏡をかけた、灰色のトレーナーを着た地味な少女が座っていた。どこか陰気な雰囲気がある。先ほどのセリフは彼女が吐き出したものだ。

 日系4世のカレン・ミヨシだ。両親は鬼籍に入っており、祖父と二人暮らしだった。その祖父は留守にしており、彼の弟子たちが同居している。


「何がつまらないわけ? いじめられないのがそんなに不満なの?」


 カレンの隣に座っている金髪碧眼の美女が絡んできた。ロングヘアで活発そうな少女だ。イングランド系のアンジェリーナ・ハサウェイだ。父親のハワードはIT企業のオーディン社を経営している。実はカレンが影の社長でエンジニアだった。アンジェリーナことアンジーも影のエンジニアであり、教育AIと顔認識システムが会社の二本柱であった。


「そうね。もうみんながいじめてくれないのも不満だけど、生きることがつまらなくなったの」


 カレンは真顔で答えた。アンジーは一瞬顔をしかめる。彼女はカレンをいじめていたことがあった。7年前彼女の両親が交通事故で亡くなり、元気がなくなったからだ。カレンはマゾヒストなので適度にいじめることで、彼女の被虐趣味を刺激していたのである。

 現在はいじめはやめていた。カレンに自分の意思がばれているため、無意味になったからだ。


「あなたはブラッククノイチとしてアメリカを守る義務があるのよ。老人みたいに人生が飽きる歳でもないでしょうに」

「本来、私は最高の破滅を求めるために始めたのよ。それが予想外の展開になってうんざりしているのよ」


 アンジーの言うブラッククノイチとは、カレンの事である。

 カレンはロサンゼルスのダウンタウン地区で、ブラッククノイチとなり、マフィアや不法移民の犯罪者たちを狩っていたのだ。別に正義の味方になりたいわけではない。無茶な活動を繰り返した挙句、自身が犯罪者たちに殺されることを望んだのだ。

 彼女はどうせこの世は変わらないといつも口にしている。その一方でブラッククノイチの時は、この世はレボリューションを望んでいると前口上を切る。

 一見矛盾しているが、カレンにとってブラッククノイチは別人格である。人間には異なる人格が宿っており、普段は眠っているが、ひょんなことで人格の一人が目覚めることがある。

 かつてビリー・ミシガンという男がいた。彼は複数の人格を宿す多重人格者として研究の対象となっていた。

 カレンは今の自分ではなく、ブラッククノイチこそが本当の自分だと思っていた。今の自分は何もない空っぽな人間だと考えている。もっとも教育AIを制作し、影から社長を演じるなど普通ではない。それもブラッククノイチが起きてて、勝手にやったことだとカレンは決めつけていた。


「あなたの身体はあなただけのものじゃないのよ。ファインディングミラクルの試練に合格した偉人なの。合衆国大統領ですらあなたの命令を聞かなければならないのだから。もっとも今の大統領はカルフォルニアの沖にある島で新しいバーベラランドの建設に力を入れているみたいだから、忙しいと思うわよ」


 アンジーが力説した。ファインディングミラクル(以後FM)とはサンドクリークの虐殺から生まれた存在だ。先住民族が白人たちに一方的に殺されたが、先住民族たちも報復として白人を殺害している。アメリカには様々な人種が入り混じっており、不幸でない人種などいなかった。

 カレンの祖父はFMの試練に合格した者だ。彼女の両親はFMの部下に交通事故に見せかけて殺害されたのだ。

 ちなみに同じくFMに認められた前合衆国大統領、ハンナ・ゴールドバークは愚行を繰り返した挙句、ブラッククノイチに殺されたことになっている。現在はハナ・カナヤマとして第二の人生を送っており、カレンの家に居候している。元々カレンの祖父の弟子だからだ。今は妹弟子のマリアとゾフィーを連れて旅に出ていた。


「……そもそも私にそんな資格はないわ。あなたが代わりになってくれないかしら?」

「それは無理ね。FMが認めるわけないでしょう」


 カレンの提案にアンジーは呆れていた。カレンは自分が何をしたいのかわからないのだ。

 ブラッククノイチとして活動する前に、セントラル中央分署の警官たちを買収していた。さらにダウンタウン地区のホームレスたちを施しをして情報網を築き上げている。教育AIを作ったのも、自分が死後、社長のハワードは経営を続けられるためだ。

 破滅を望んでいるくせに、自分の死んだ後の事はきっちりしている。カレンの行動は矛盾しているように見えて、無意識に他人のために行動しているとアンジーは思った。


「それはそうと、カイが心配だわ。あの子が行方不明になって一カ月も経つのよ」

「アメリカじゃ誘拐なんて日常茶飯事だけど、彼がそんじょそこらのギャングに誘拐されるとは思えないわね」


 カレンの言うカイとは、従弟の中国系4世、カイ・ウォンのことだ。カレンの祖父の妹は、カイの祖父に嫁入りした。カレンの祖母は、カイの祖父の妹である。カレンは日本と中国のクォーターなのだ。

 カイは男だが、性同一性障害だ。女性のようにふるまい、カレンの真似をしてドラゴンクノイチと名乗っている。中国拳法の達人であり、銃火器を持つギャングの集団を相手にしても引けを取らない。


「そもそもリンおば様(カイの母親)のスマホからメールがあったのよ。もう帰らないって。ウォン家が探索しているのに全く引っかからないのよね」

「少なくとも一か月前にロサンゼルスの郊外に出たのはわかっているわ。隕石の墜落現場にあの子のバイクが発見されたけど、それっきり雲隠れしているわね」


 墜落現場には何もなかった。隕石が墜落したと思われる痕跡は見つかったが、肝心の隕石が見つかっていない。一般人が勝手に採取したのだろうかと思われる。そこにカイの所有していたバイクが乗り捨ててあったのだ。警察は事件性を疑ったが、カイの姿は今も発見されていない。

 ロサンゼルス市には監視カメラが複数設置されており、顔認識システムが作動している。それなのに見つからないのはカイは市内にいないことになる。


「おば様は怒っているし、メイも心配しているわ。人生はつまらないけど、カイを見捨てるつもりはないわ」

「それってカイが見つかったら、どうでもよくなるってことじゃない?」


 アンジーはカレンに対して危機感を抱いている。カレンが世界にしがみついているのは、カイがいるからだ。彼が発見されたら、彼女はどうなるだろうか。自殺はやらないだろうが、ブラッククノイチとして無茶な行動をしかねないと思っている。


「今日は、ユキおば様の見舞いに行かないと」


 カレンが言うと、休み時間が終わった。担任教師のジョリーが入ってきて、授業を始めた。


 ☆


 市内にある大病院にカレンは来ていた。ユキおば様はカレンの祖父の姉である。かつては結婚して子供を産んだが、夫と子供が病死したため、ミヨシ家に戻ったのだ。現在は80歳で、痴呆症を患い、ベッドの上で過ごしている。

 カレンにとっては大伯母に当たる女性で、子供の頃からお世話になっていた。

 5階建ての建物で、5階の個室にユキはいる。カレンがオーディン社からもらった給料は彼女の入院費に費やしていた。

 ユキは白髪頭でしわだらけの老婆だ。右腕に点滴がしており、生きるしかばねと化している。

 

 カレンは週に一度しか来れないが、こうして世話をしていた。


「……カレン」


 ユキが口を開いた。カレンは驚く。彼女が反応したのは数年ぶりだからだ。


「おば様……? つぶやいただけかも」

「違うよ。わしの意識ははっきりしておるわ」


 そう言ってユキは上半身を起こした。目はしっかりしており、カレンを見据えている。


「なっ、なんで!!」

「実は数か月前から意識がはっきりしたんじゃ。お主がブラッククノイチなるけったいな活動をしたと知ってな」


 ユキの目は鋭くなっている。痴ほう症患者とは思えない。もっとも条件次第では痴呆症になっても過去の記憶を取り戻すことはあった。ユキは又姪であるカレンの悪行を知り、意識を取り戻したのかもしれない。


「なんで今まで黙っていたの?」

「おぬしが迷っていると思ったからじゃ。このまま寝たきりで過ごしてもよかったが、そうも言ってられぬ状況になったからのう」

「……おば様は私の活動を知って、どう思いましたか?」

「どうもせんわ!! このたわけが!!」


 ユキはしわだらけの顔を歪めると、雷を落とした。カレンは思わず縮こまる。幼少時からユキは苦手だった。修行は厳しい祖父と違い、彼女は躾に厳しかったからだ。

 院内では何事かと、医者や看護師たちが騒ぎ出している。さすがのユキもばつが悪いのか、口を閉じた。


「おぬしの考えはわかるぞ。正義の味方を演じて、悪人どもに輪姦されて人生を終えるつもりだったのじゃろう。じゃが、無理じゃな。FMの試練を合格した者は普通の人生を送れぬ。おぬしが死を望んでもFMの力がそれを許さぬのじゃ」


 ユキがFMの事を知っていたのは驚いた。祖父から話を聞いたのだろう。

 カレンは彼女の話を聞いて気が重くなった。安易な自殺など選ぶつもりはないが、理想の破滅を望めないことにげんなりしていた。


「……おぬしは自分が愛される存在じゃないと思っとるじゃろう? なぜ周りが自分にかまうのか理解できずに悩んでおるのじゃろうな」


 ユキの言葉にカレンははっとなった。彼女には協力者が多い。アンジーやカイの他に黒人のアーミア・ブラウンや居候のマリア・エスポジトにハナ・カナヤマなどがいる。

 みんなカレンのためにクノイチとなって、協力してくれるのだ。自分など助けてもらう価値がないのに。

 ユキはそんなカレンの気持ちに気づいていた。だがカレンはまだ悩んでいる。自分を愛する者たちを置いて、理想の破滅を望んでいいのか。FMの試練ではアメリカの黒い過去に触れ、その歴史を肯定した。しかしカレン自身は守ってもらう価値があると思えなかった。彼女の心はまだ暗闇に閉ざされている。


 カレンが帰った後、ユキは考えた。時刻はすでに夜だ。市内は街の明かりでキラキラしている。

 彼女が来ない日はリハビリを続けている。実は普通に歩けるようになったのだ。だが若い頃と比べてばはるかに弱い。

 カレンに指導したい。若さはなくしたが、技術だけは体に染みついている。じっくりと体を鍛え、彼女に稽古をつけてあげたいと思っていた。


「その願いを叶えますよ」

挿絵(By みてみん)

 突如声がした。窓には一人の女が座っている。二十代で黒い髪の毛は龍のようだ。赤いチャイナドレスを改良したボンテージ姿だ。その顔をどこかで見たことがある。


「まさか、カイ?」

「違います。今のボクはドラゴンクイーンです。ユキおばさん。あなたにはボクの協力者になってもらいますよ」


 怪しい闖入者はカイだった。窓から五階の部屋に忍び込むなど普通はありえない。それにカイは男なのに胸には溢れんばかりの西瓜が二つも実っている……。明らかに異常であった。

 ドラゴンクイーンは右手に水晶を握っていた。それをユキの目の前にかざす。部屋は溢れんばかりの閃光に満たされた。看護師たちが慌てて異常に気付くと、部屋の中にユキの姿は消えていた……。

 第三章の題名は ThewonderofTheDragoncrystalです。

 直訳するとドラゴンクリスタルの脅威となります。

 今回はデータイーストのアクションゲーム、ドラゴンニンジャとならず者部隊ブラッディウルフを意識しています。

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新展開ですね。
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