第13話 ドラゴンクリスタルの弟が落ちてくるとはね
深夜のリトルトーキョーではサンタナたちがミラクルどもと戦っていた。犬やカラス、ネズミに憑依された死体が襲ってくるのだ。銀の弾丸があれば簡単に倒せるが、一般で流通しているわけがなく、大手ネット通販でも売っていない代物だ。
だがテレビショッピング番組のヘイ、クリスチャン!! で売られた怪しい商品は、対ミラクルの兵器なのでなんとか対抗できていた。
サンタナのチームは善戦していた。幼児組のチキータはミラクルの通り道に銀粉入りの爆弾を仕掛けており、ピコリータは町の中に銀の針を仕込ませてミラクルたちを倒していく。
ムチャチータの仕掛けた銀のワイヤーは蜘蛛の巣のように張り巡らされ、ミラクルたちを捕らえていた。
それらは身体が小さいフリホリータが建物の影や隙間から自由自在に移動していたおかげだ。
「うがー!! こいつらしつこいぞ!! 全然逃げないぞ!!」
身長が180センチもあるサンタナはミラクルたちを殴り飛ばすが、ミラクルは死体に憑依しているので死なないし、恐怖も感じない。普通の人間なら異常な光景に恐怖を抱くが、サンタナはこいつらしつこいなとしか思ってない。
「ミラクルってのは死体に憑依するらしいからな。身元不明の死体ならどこにでも転がっているだろうさ。メキシコに比べたら少ない方だがな」
ドレッドヘアにバンダナを額に巻いた眼鏡をかけた長身の女が答えた。サンタナのチームのリーダー、セニョリータ・スモークだ。彼女はサンタナより頭一つ背が高いが、彼女と違って体は細い。
スモークはノートパソコンを持っており、そこで自分のチームに指示を飛ばしていた。彼女は一度に複数の判断を下すのが得意なのだ。住民たちも木刀だと長刀などで対処している。
ミラクルたちの動きは単調だが、数が多い。ゾンビ映画もゾンビ自身は動きが鈍いが、複数でこられたら厄介な存在だ。
するとミラクルたちの体が爆発した。他のメンバーからもミラクルたちが爆散した報告が来る。
「なっ、いきなり爆発したぞ!! アメリカ人てすごいな!!」
「違う!! どうやらあいつらが解決したようだぞ。あいつらが夜を切り裂いたんだ!!」
驚くサンタナに対してスモークが答えた。すでに朝日が昇っている。リトルトーキョーは光に包まれたのだ。
☆
「今回は足手まといになってごめんなさい」
カイ・ウォンがカレン・ミヨシに謝った。ここはカレンの実家であるスキヤキドージョーだ。事件が終わり、後始末が終わった後だった。
「仕方ないわよ。相手はかなり手ごわかったようだし、あなたが気にすることはないわ」
カレンは慰めたが、カイは納得がいかない様子だった。中国拳法の達人である彼がミラクルに負けたことが許せないのだ。
「そうそう、メイがもうじき帰ってくるそうね。リンおば様から聞いたわよ」
カレンが話をそらそうとしたら、カイは露骨に顔をしかめた。メイはカイの双子の妹だが、病弱でロサンゼルスを離れ、療養していたのだ。病状はすでに回復したが、カイとは違う武術を習得したという。ちなみに頭は良くロサンゼルスの大学を飛び級で卒業して、研究員としてリモート勤務しているそうだ。
「……お姉さまは僕よりメイがいいというのですか?」
「そんなことは言ってない。大体双子なんて偶然の産物よ。同じ誕生日でもまったくの別人なんだから。アメリカ生まれの中国人なんだから迷信なんか信じちゃだめよ」
カレンの言葉にカイは口をつぐんだ。納得できない様子だった。
ファインディングミラクルとの決着は終わり、エリザベス・バーベラは普通の生活に戻った。荒らされたリトルトーキョーは彼女の私財によって修復された。
協力したサンタナやセントールたちは多額の報酬をもらい、ほくほく顔であった。アンジェリーナ・ハサウェイは父親のハワードにシルクリーパーの話をした。病死した妻がミラクルとして復活し、カレンの両親を殺した件を、彼は把握していた。カレンの父親が交通事故で死ぬタマでないことを理解していたからだ。
彼が所属するセブンスペシャルズは試練を受けるにふさわしいか試される。愛する家族を失う危険性があるが、それを防いでも問題はない。アメリカの歴史を否定せず、アメリカを受け入れる人間を探しているのだ。
ついでに言えばカレンは現アメリカ合衆国大統領、サラ・コーエンと秘密裏に対談している。FMの試練を乗り越えた彼女は今後合衆国大統領にお願いができるのだ。困ったことがあれば個人的なことでも融通が利くようになるという。カレンはあまり権利を使いたいと思わなかった。
だが前大統領であったハンナ・ゴールドバークが無茶をしたのも、この特権のおかげだと知り、腑に落ちた。祖父のケン・ミヨシが犯罪者を捕まえてもマスコミに公表されないのも、そのためだろう。
「ふう、私はこれからユキおばさんの見舞いに行かないといけないのよ。じゃあね」
「ユキおばさんて、ケン先生の姉でしたっけ?」
「そうよ。もう80歳で寝たきりなの。家族はいないから私がお金を出しているのよ」
カレンが言った。ユキはケンより10歳年上の女性だが、若い頃に結婚した。しかし子供を産む前に夫は亡くなり、2度再婚したが子宝に恵まれず離婚してしまった。カレンが幼い頃に面倒を見てもらったが、5年前から足腰が弱くなり、ロサンゼルスの郊外にある病院に入院していた。カレンはオーディン社からの莫大な報酬の一部をおばに出していた。カレンは週に一度は病院に行って世話をしていた。彼女にとって面倒なことは大好きなのだ。
カイはスキヤキドージョーを出た。彼は悩んでいた。自分の心は女だが、身体は男だ。女として扱われたいが世間は自分を男として扱う。アーミアとアンジーもミラクルにとらえられたが、二人は女性だ。自分は男なのにミラクルに負けてしまった。
心は女だが、カレンのように強い女性に憧れていた。彼女は自分の嗜好を満たすために陰でオーディン社を支え、ブラッククノイチとしてギャングや不法移民と戦っていた。自分にはまねできない、素晴らしいことだと思っている。
自分はドラゴンクノイチを名乗っているが、実家のあるニューチャイナタウンを守る程度だ。
母親のリン・ウォンは自分を後継者として認めているが、周りは自分を認めていないと肌で感じ取っていた。実際は違うのだが、カイはそう思い込んでいた。
さらに双子の妹であるメイは身体こそ弱いが、頭脳明晰だ。大学を飛び級で卒業した才女だ。さらに療養の傍らで武術に勤しんでいたという。もし彼女が帰ってきたら自分はお払い箱になってしまう恐怖を抱いていた。
「僕は弱い……。強くなければお姉さまの傍にいられない。僕が女だったら、みんなが僕を認めるのに……」
カイは被害妄想に囚われていた。わけのわからないイライラに悩まされていた。空にきらっと流れ星が見えた。
その時、カイの頭の中で声がした。いったい誰だろうと、カイは声の聴こえる場所に向かう。
カイはバイクに乗っていた。カルフォルニアでは16歳で本格的なバイク免許を取れるのだ。カルフォルニアというかアメリカは広い。自動車やバイクは移動に必要だ。
カイはロサンゼルスの郊外までやってきた。地平線の見える何も見えない荒野に、クレーターが見えた。それはバスケットボールほどの大きさだ。先ほどの流れ星はこれが落ちてきたためだろうか。
それは水晶のように見えた。
カイはそれを恐る恐る触れようとした。早く触れと命じられたような気分になった。
カイは水晶に触った。するとカイの体に異常が起きる。身体がむくむくと大きくなったのだ。服は破れ、乳房が膨らみ、女性のような体つきになった。その様子を自動車に乗った初老の女が見つめていた。
ぼさぼさの白髪頭に童話に出てくるような魔女の顔つき、丸眼鏡をかけていた。黒いトレーナーにジーンズを穿いており、その上に白衣を着ている。
「ドラゴンクリスタルの弟が落ちてくるとはね。さらにつがいを呼び込むとはさすがだよ。こいつは行動を起こせという意味かもしれないねぇ」
老女はにやりと笑った。彼女の名前はヴェロニカ・クロウリー。ドクター・ロニーと呼ばれていた。ニュージャージー州出身である。
ドラゴンクリスタルとは何か。肉体が変貌したカイはどうなるのか。
カレンの苦行は終わることはないのだった。
第2部 完。
次回は第3部、The Dragon Crystalをご期待ください。
今回で第2部は終わりますが、第3部はりかの連載が終わってからですね。
第3部はアメコミによくある、味方が敵に回り、二代目が活躍する話になります。




