表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
33/35

第11話 許さないわ!!

 カレン・ミヨシは両親を愛していた。彼らはコンピュータに関わる仕事をしていたので、カレンは父親のタクヤからコンピュータを教わった。最初はちんぷんかんぷんで何もできなかった。だが何もできないのが我慢できず、できるまで続けた。今思えばカレンのマゾヒストの素質が開花したのかもしれない。

 アンジェリーナ・ハサウェイの家族とも仲良くしていた。父親のハワードは軽率そうな雰囲気で、色男だ。技術はミヨシ夫婦が支え、販売はハワードがやっていた。日本人は良いものを作れば必ず売れるという独善的な思考が多い。ハワードがいなければせっかくの技術も宝の持ち腐れだ。

 アンジーの母親、シルヴィアは8年前に病死した。彼女は三日三晩泣き続けた。カレンはその後姿を見て、羨ましいと思った。なんでそう考えたのかカレン自身は理解してなかった。


 ミヨシ夫妻が交通事故で亡くなった日、カレンは足元から崩れ落ちるような錯覚になった。アンジーを羨む自分に対する罰だろうか。それとも天が与えてくれたご褒美なのだろうか。その日からカレンは変わってしまった。アンジーは彼女を慰めようと、母親の形見のブローチを渡した。カレンはそれを振り払いブローチにひびが入る。アンジーは怒ってカレンをひっぱたいた。その衝撃が忘れられなかった。

 

 カレンは祖父が書き記したノートを読み漁り、パソコンの専門書を読み漁った。現在生成AI絵が話題になっているが、これはネット上に散らばる画像を瞬時でかき集め、再構築したものだ。よって著作権に問題がある。下手だろうが、報酬をもらってなかろうが、ネットに投稿されれば投稿者に著作権が生じるのだ。

 カレンはそれとは違うAIを作ろうとした。それが教育AIだ。日本は義務教育といって文字の読み書きや計算の仕方、社会のルールや化学の知識、果ては家事や音楽に芸術など幅広く教えている。天才は少数で学校では嫌われた存在だが、平凡な人間はたくさんいるのだ。アメリカでは個人主義の弊害か、天才はいても替えの利かない存在が多い。一人の天才に頼り切るアメリカで日系人は生きずらいと思われるが、彼らは郷に入っては郷に従えという言葉に従っており、アメリカの流儀で暮らしていた。


 カレンの教育AIは読み書きのできないアメリカ人に革命をもたらした。さらにアメリカの常識や習慣も自然に学べて、周囲に溶け込めるようになったのだ。これは陰でアンジーがシェードクリーナーというハンドルネームでサポートしていたのが大きい。

 彼女がこのAIを作ったのは、自分が死んでも後釜に困らないためだった。もっともその目論見は崩れたが。


「「カレン……、カレェェェン!!」」


 今カレンの目の前には首が二つ生えた怪物がいた。右は父親のタクヤ、左は母親のシズカだ。常人より身体が大きく、ゴリラのようだ。仮にツインヘッドと呼ぼう。

 

「「カレェェェェン!!」」


 ツインヘッドの右拳がカレンの足元を打ち砕いた。岩の地面はひびが割れて、チリが舞い上がる。

 カレンが後ろへ飛ぶと、今度は左手で地面に落ちていた石を投げつけた。カレンの腹部に当たり、衝撃が走る。子供が体当たりしたような感じだが、少し動揺した。

 ツインヘッドは頭が二つある。互いにサポートをしており、隙が無い。


 カレンは逃げ出した。とても両親とは戦えない。いくらカレンがマゾヒストでも家族が関われば別だ。

 例えミラクルでもカレンの心に傷が残るし、周りも親殺しの自分を認めないと思っている。

 

「ああ、私ってば追い詰められている!! 親を殺しても殺されてもどっちも終わり!! 最高じゃない!!」


 カレンは逃げ出した。洞窟の内部は真っ暗だが、カレンのマスクは暗くてもよく見える。それに彼女は風の流れを感じ取り、出口を推測していた。

 普通の人間なら躓いて転ぶだろうが、カレンは昼間の歩道のように走っている。

 ツインヘッドは執拗に追いかけてくる。大きさで言えばゴリラほどで、野生のゴリラに追いかけられるとしたらこんな気分だろうとカレンは思った。

 

 カレーーーン!!


 ツインヘッドは執拗にカレンの名前を連呼した。数年ぶりに聞く両親の声にカレンの心はかき乱される。その一方で自分の身に降りかかった不幸に喜びを感じていた。

 数分もするとカレンは洞窟の行き止まりに行き当たった。風は感じるが穴がどこにあるかわからない。巨大な岩の柱があった。

 ツインヘッドは追いかけてくる。右手で落ちている岩を拾おうとした。カレンはその岩にクナイを投げた。クナイは岩に突き刺さる。クナイにはひもがくくられていた。さらにカレンは別の岩にクナイを投げて突き刺した。

 ツインヘッドは右手で岩を投げた。するとクナイに繋がった岩も一緒に飛んでいく。

 二つの岩はぐるりと岩のつららに巻き付いた。するとつららにひびが入り、つららが折れて落下しツインヘッドの体を潰した。あばらは折れ、内蔵も潰れたようだ。口から血を吐き出している。カレンが手を下したわけではない。ツインヘッドが自滅したのだ。


 ツインヘッドはうつ伏せでカエルのように潰れていた。紫色の煙が出てきた。もうじき肉体はドライアイスのように消えるだろう。


「ふふふ、カレン。成長したなぁ」「本当ね、私たちのカレンが立派になって嬉しいわ……」


 ツインヘッドは涙を流して笑っていた。カレンはそれを見て心が痛くなる。

 するとツインヘッドは爆散した。肉片はおろか骨すら残らなかった。まるで最初から存在していなかったように。カレンの目から涙がこぼれた。


「ふふふ。さすがだね」


 そこに一人の中年女が現れた。乱れたポンパドールにしわが刻まれている。上級階級のように品があるが、ボロボロの入院着を着ていた。ミラクルの元締め、ファインディングミラクルだ。


「あんたがミラクルのボスね。よくも悪趣味なことをしてくれたわね。許さないわ!!」

「長い人生、つらいことや悲しいことはたくさんある。あんたの場合、アメリカではよくあることさ」


 カレンの怒りを、FMは親が子供に躾けるような口調で返した。相手を侮辱しているわけではなく、淡々と事実を告げただけのように見える。カレンはかえって不気味なものを感じた。


「カレン!!」


 背後から声がした。エリザベスを中心にカイ、アーミア、アンジェリーナ、マリア、ゾフィーの6人が駆けつけてきた。どうやってこの場所を探し当てたのか。もしかしたらFMが彼女たちを誘い込んだのかもしれない。


「うむ、カレンの仲間たちだな。全員死亡しないでここまで来たことを賞賛する。だが試練はカレン一人だけで受けてもらう」

「お姉さまを苦しめて楽しむ悪人め!! 許さないよ!!」


 ドラゴンクノイチのカイがカンフーの構えを取る。彼は怒っているのだ。カレンを苦しめたFMが許せないのだ。


「試練のためならなんでも許されると思うなよ?」


 アイスクノイチのアーミアも静かに怒りの炎を燃やしていた。心はマグマのように熱くなっているが、頭は南極のように冷静であった。


「ママを復活させて、カレンの両親を殺したあなたを許さない!!」


 スパイダークノイチのアンジェリーナは感情的になっていた。友人であるカレンを苦しめたFMに憎しみを抱いている。


「仇を討ってんけしんだし《死んだ人》は戻らん。だが心に決着をつくっことはできっ」


 ブレードクノイチのマリアも怒っている。カレンの両親は兄弟子でもあった。ミヨシ家はもうひとりの家族だ。家族への復讐は必ずする。シチリア人の血がそうささやいているのだ。


「人生で家族が生き返って殺されかけるなんて、滅多にないよ。よかったね」


 ピエレッタクノイチのゾフィーは思考がずれている。カレンに対しては人生で特別なことが起きてよかったと思っているのだ。カイたちが彼女をにらみつけたのは当然である。


「FM!! あなたは私たちが倒すわ!!」

「そうやって母親を撃った罪をごまかすつもりかな?」


 ストームクノイチのエリザベスは固まった。確か彼女の母親は暴漢に銃で頭を撃たれたと聞いている。少なくともネット辞典ではそう書かれていたし、当時のニュースサイトもそう書いてあった。


「メアリー・バーベラはそこの女に撃たれたのだ。10歳の頃だったかな。子供のくせに母親を撃つとはおそろしいのう」


 FMは淡々と答えた。さすがのカレンたちも突然の暴露に動揺が隠せなかった。まるで石像のように固まっている。


「さらに黒人の男と結婚して子供を産んだ。この女が目覚めればどうなるかな? 恐らく白人至上主義様は頭が吹き飛ぶであろうな」


 カレンたちは黙って聞いていた。7人に囲まれてもFMは慌ててない。まるでベビーシッターのように落ち着いていた。エリザベスは動揺している。

 その隙にFMは右手をカレンの額に当てた。カレンの目から光が消える。まるで魂を抜かれたようだ。


「何をした!!」


 カイが叫んだ。6人はFMにとびかかれない。気迫で身動きが取れないのだ。まるで蛇に睨まれた蛙である。


「彼女には幻を見てもらっている。ここで戻ってこられるかは彼女次第。試練の意味を理解しない限り彼女は死ぬ。そしてアメリカも死ぬ時だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
これは本当に悪趣味ですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ