第3話 今日もブリブリ元気に行こうぜ!!
「ヘイ! クリスチャンだぜ!! 今日もブリブリ元気に行こうぜ!!」
ここはダラス、米国テキサス州北東部の商工業都市である。テキサス州では3番目に大きく、全米では9番目だ。豊かな自然とカウボーイ文化に綿花の取引地として栄え、石油・航空機工業が発達した。1963年、ケネディ大統領が暗殺された地でもある。
そんな中でとあるスタジオでは白人男性とヒスパニック系の女性がテレビショッピングの司会をしていた。
男は20代後半で天然パーマに瞳の色はブラウン。顎髭を生やしており、若い頃のクリント・イーストウッドに若干似ていた。服装はTシャツに水色のジャケットを着ており、司会者とは思えなかった。
男の名前はクリスチャン・ジョンソンと言った。
女の方は30歳ほどで、茶髪のギブソンタックだ。男と比べて身長は頭一つ低いが女性としては高い方である。こちらも化粧をしているが肌が浅黒く、精悍な顔つきと肉付きであった。黒いシックなドレスを着ているが、彼女の体形に似合っていない。
こちらはバレンティナ・ベガという名前だ。
「ティナ!! 今日の商品はなんじゃらほいのマイケル・ホイ!!」
「お待たせした!! 今日は魔よけの人形が先着100000名様に限り、50ドル(日本円で約7800円ほど)です!! お買い得でんなぁ!!」
バレンティナがテキサス訛りで拍手をした笑っている。紹介された人形はホラー映画に出てきそうなドレットヘアで赤と白の縞々シャツを着て釣りズボンを履いていた。ぎょろりとした目に出っ歯と愛嬌があるとは思えない人形である。
「魔よけの人形だって!? こいつはどう使えばいいんだい!!」
「家の玄関や、寝室に飾るだけでオッケーです!! 嫌な客や奥さんと夜の試合を回避できまっせ!!」
「そいつは最高だな!! 急な仕事の電話も代わりに出てくれないかなぁ!!」
「実は音声機能付きです!! 顔を電話に近づけると、ほら!!」
バレンティナが自分のスマホを取り出して、人形に近づけた。
『I'm going to curse you!(お前さんを呪っちゃうよ!』
ハンガリー訛りの不気味な声が出た。それを見てクリスチャンとバレンティナはげらげら笑い合う。
「こいつは最高だな!! これで嫌な奴が家に来なくなるな!!」
「もっとも親しい人も気味悪がって来へんくなるけどなぁ!!」
こうして番組は終了した。信じられないが人形は10分後に即完売した。
☆
「ふぅ、疲れた。いつまで続けなあかんのでっしゃろか」
番組終了後、二人は控室にいた。殺風景で机とパイプ椅子しかない部屋だ。バレンティナはタバコを吸いながらぼやいている。クリスチャンはウィスキーを飲んでいた。
「そりゃあ、罪を償うまでだ。本来ならお前さんは一生刑務所暮らしなんだぞ」
クリスチャンが慰めた。本来バレンティナは犯罪者であった。テキサス州でテキサス・トレイル・レイダースという強盗団を率いて、白人の財産を奪い続けた。元オートバイサーカスの曲芸師だったが、サーカスが潰れたため、彼女は団員たちを率いて犯罪者に落ちぶれたのである。マスコミに付けられたあだ名はセントール、ギリシャ神話の半人半馬の怪物の名だ。
クリスチャンは蒐集家という組織に所属する、ミラクルと呼ばれる怪物を退治する仕事を生業としていた。バレンティナはミラクルの事件に巻き込まれた経歴がある。元アメリカ合衆国大統領、ハンナ・ゴールドバーク大統領にそそのかされて、犯罪の片棒を担ぐはめになった。その後、新たにサラ・コーエン大統領が生まれたが、前大統領の罪を濯ぐため、彼女は蒐集家の一員になったのである。彼女の仲間たちも蒐集家の協力者となり、テキサス州で働いていた。
「わかってます。でっけどうちはこんなきらびやかな世界は合いまへん。肉体労働しとったほうがましです」
「別に嫌がらせじゃないぜ。お前さんは囮なんだよ。犯罪者がテレビのスポットライトに当たることが許せない奴らがいる。そいつらをおびき寄せるんだよ」
「そらあ構いまへんけどなぁ。返り討ちにしまっせ」
二人はそう言いながら、着替えをして外に出た。時刻はすでに夜だ。周りには誰もいない。
バレンティナはジャケットとジーンズに着替えていた。クリスチャンは着替えていない。
「お待ちしてましたわ。バレンティナさん♪」
路地裏に一人の女が立っていた。それは金髪ブレンドで腰まで伸びており、モデルのような美貌の持ち主だった。着ている服は赤いぴっちりした服で、胸元は開いており、スカートはパンツが丸見えであった。手には猛獣使いが使いそうな鞭を持っている。
普通なら夜で歩いていい姿ではないが、どこか肌は土色で、目は白く濁っていた。
「誰ですか、この人は?」
「おそらくミラクルだな。アメリカンドリームを実現したお前さんが憎くて探し当てたのかもしれん」
「そうなんですか? しょぼいテレビ番組の司会者がそないに羨ましいんですか?」
バレンティナの疑問をクリスチャンが答えた。だが目の前の女は訛りのある声で否定する。
「ちっちっち。わたくしはそんな小物ではありません。わたくしは偉大なるあのお方の命で、ブラッククノイチの関係者を捕らえるよう命じられたじゃんね!! 申し遅れました、わたくしレイヴェイジャーと申します」
女は頭を下げた。レイヴェイジャーとは略奪者を意味する言葉だ。
「ミラクルって、先住民が関わってるのやろう? なんでアメリカンドリームを憎むんですか?」
「正確にはあいつはフェイクと呼ばれるタイプだ。奴らより上の存在はナチュラルと呼ばれていて、試練を受けるにふさわしい人間を探している。どうやらブラッククノイチがお眼鏡にかかったようだな」
「ようわかりまへんなあ。ややこしい話は頭が痛なる」
クリスチャンの問いにバレンティナはため息をついた。
「ほほほ。わたくしは偉大な存在ですわ! この世のいい女はすべて私の人形! コレクションになるのが運命なのよ!!」
レイヴェイジャーが酔ったように叫んだ。彼女の背後に猫のような人間が現れた。
「背後のミラクルはレッサーフェイクだ。人の死体に動物の霊が乗り移ったもんだ。数が多いのが取り柄だな」
「あの女見たことあるんや、確か新聞でっしゃろか?」
「エリス・パーカーだ。ハリウッドでプロデュースを務めていたが、気に入った女を薬物漬けにして自宅に拉致監禁したサイコ女さ。女の一人に腹を刺されて死んだが、ミラクルとして蘇らせたようだな」
クリスチャンはバッグから拳銃を取り出した。銀の弾丸が装填してある。バレンティナもバッグから拳銃を取り出した。
「ほほほ、生意気なヒスパニックですわね。お前みたいな汚らしい存在がテレビに出るだけでおぞましいわ。面倒だで殺します。わたくしが決めました」
レイヴェイジャーは高笑いした。バレンティナはテキサス生まれだが、ヒスパニック系であった。白人至上主義者に何度差別されたかわからない。オートバイサーカスが潰れたのは、白人たちがサーカスは虐待の巣だと言いがかりをつけ、SNSで差別を繰り返したためであった。
「さあ、お前んたらあ。周囲の人間を殺しん!! それをこいつらのせいにするのよ!! そうせりゃあ世間はこいつらに憎しみを抱くわ!!」
レイヴェイジャーが地面に鞭を叩きつけると、ぴしゃりと鳴った。ミラクルフェイクたちはパッと蜘蛛の子のように散ったが、すぐに動かなくなった。まるで冷蔵庫に放り込まれた虫のようだ。
「なっ、なんで!!」
レイヴェイジャーはヒステリックに叫ぶ。自分の想い通りにならなかったからだ。なんで手下たちは動かなくなったのか。
「お前さんは俺たちが何を販売しているのか、理解してないから助かったぜ」
クリスチャンがにやりと笑う。彼の手には一体の人形が握られた。番組内で販売された不気味な人形だ。
バレンティナもバッグから人形を取り出している。さらにスタジオからスタッフたちも外に出てきて、人形をミラクルたちに向けていた。
「こいつはデゼラス工房の特注品さ。こいつの眼はミラクルの動きを止める鉱石を使っているんだ。雑魚相手には効果は抜群だぜ!!」
そう番組内で売られた商品はすべてミラクル対策のアイテムだった。ロサンゼルスに拠点を構える天才技師、デゼラスが蒐集家のために生みだしたものだ。テレビショッピングとして発売し、事情を知る警察関係者が注文しているのである。
「うがぁ!! 卑怯だに!! 正々堂々と戦え!!」
レイヴェイジャーが狼のように口を大きく開き、牙をむいた。自分の重い通りにならないと癇癪を起す子供のようだ。
「関係あれへん人を巻き込むアホの言葉なんか、耳に入りまへん」
「だまれぇぇぇ!! 俺はいいだわ!!」
レイヴェイジャーの鞭を持つ手が変形した。鞭は生き物のように血管が浮き出て、棘が生えてきた。
さらに体つきもごつくなり、まるでゴリラだ。美しさからかけ離れている。
鞭はクリスチャンの首に巻き付いた。首を絞められ棘が突き刺さる。常人なら痛みで悲鳴を上げるはずだが、彼はうめき声しか上げない。レイヴェイジャーは獲物が命乞いをしないことに腹を立て、さらに鞭で締めあげた。バレンティナは援護しようとしたが、ミラクルたちに邪魔された。
このままではクリスチャンの命は危ない。だが彼は不敵な笑みを浮かべていた。
「日本のことわざにこんな言葉がある。相手が勝利を確信した時、そいつの敗北は決定するってな」
「知るかぁぁぁ!! ジャップの言葉なんぞ聞く価値はないわ!! このまま殺いてやる!!」
レイヴェイジャーが鞭に力を籠める。だがクリスチャンは鞭に針を突き刺した。
すると刺された部分からぽこぽこと膨れ上がり、それはレイヴェイジャーの体全体に広がった。
「なっ、なんでぇぇぇ!!」
身体全体に疱疹が浮き出た挙句、頭が膨らんで爆発した。
「こいつは純銀でできた針だ。刺さればアナフィラキシーショックのようになる」
「さすがでんなぁ。うちも何とか撃退できた」
クリスチャンは鞭から解放されて、げほげほと咳をした。ミラクルフェイクたちはバレンティナだけでなく、他のスタッフたちの手で始末された。彼らもまた蒐集家で見習いなのだ。
「でっけどあいつは何なんですか? ミラクルって先住民の恨みから生まれたのやろう? 差別めっちゃ好き人間やったな」
「あいつはただの手先だよ。試験のひとつさ。あんなのに負けるくらいじゃ、試練を受ける資格はない」
「試練とはなんですか」
バレンティナはクリスチャンに応急手当てをしながら訊ねた。
「アメリカにふさわしいか見極めるためさ。ブラッククノイチはミラクルの頭に認められたんだよ」
「ブラッククノイチですか…。あなたが一番ミラクル退治したのに、報われませんね」
「俺はただ雑魚を狩っているだけだからな。本来は13年ごとにセブンスペシャルズの一人が選ばれるが、絶対じゃない。前回は無関係なハンナ・ゴールドバーク大統領が試練の資格を得て、無事合格したのさ」
クリスチャンの言葉にバレンティナは驚愕した。アメリカ一の狂人ハンナ・ゴールドバークがアメリカを守る試練に合格したのは寝耳に水だ。
「なんでうちらが狙われたのやろう?」
「ブラッククノイチと少しでも関わったから狙われたんだろう。本人ではなくほんの少しでも関わった人間を襲撃する。それをなんとか防ぐのも試練の一つさ」
「迷惑な話でんなぁ。まあ、うちは恨むつもりはおまへんが」
バレンティナが言った。この手のトラブルは日常茶飯事で、いちいち相手にはしない。
そうこうしているうちにパトカーがやってきた。近所の住人が通報したのだろう。さらにレスキューのサイレン音も聞こえてきた。長い夜になるとバレンティナは思った。
Hey!!!Christian!!! はいでっち51号さんの作品です。
クリスチャンと私のキャラ、カレンが出演してますが、この作品ではセントールことバレンティナになってます。
レイヴェイジャーは三河弁で話してます。




