地竜を追って真夏の国境添いへ
「え? 地竜達はフィオレ国へ、越境して、その先にいる?」
ギルド職員の驚くべき話に、俺達は啞然としていた。
何しろ昨日の情報と違うからだ。
ちなみに、地竜の討伐は、報告されている7頭が依頼分である。
それ以外にもいたら、一頭ごとに大銀貨5枚の賞金が出る。
今朝、地竜討伐の為出かけた俺達は、出現場所という所へ行ってみたのだが一頭も居なかったのだ。
それで、もう一度情報を確かめる為に、ギルドに確認に来た。
なんでも、依頼が来た時はその場所にいた地竜達が、どうも移動したらしいというのが、俺達と入れ違いに分かったという。
「竜種は、大体が暖かな場所を好みます」
「でも、今は真夏ですよね?」
そう、8月半ばだ。
ついでに言うと、旅先だが、8月15日生まれの、エマの誕生日祝いをささやかに、お祝いしたりもした。
「そうなんですがね、どういう訳か、魔の森を出た竜種はフィオレを目指してしまうんですよ」
「じゃあ、この依頼はなかったことに?」
「その、出来れば国境添いで、向こうが討伐したか、見届けて欲しいんです」
「それじゃあ、俺達にメリットないでしょ」
「言いにくいんですが、それも含めての依頼となっています。
あとは、気温や嗜好に左右されない竜種の依頼を選ばれるしかありません。
見貼っているうちに、うろうろ引き返してくるものも居ますので、それがチャンスです」
いや、チャンスじゃねえよ。
これは選択ミスなのだろうか…
仕方ないと、国境添いに俺達は向かうことにした。
勿論歩きで。
馬車で来てもいいのだが、シーナを置いて地竜と戦闘になったら、流石にシーナが危ないので、馬車は止めておいた。
泊ってる宿〔石の上にも3年〕の馬場に預けてある。
炎天下に備えて、俺はみんなのローブに氷の付与を施して着て貰った。
精霊の加護が付いてからの水魔法は、氷の魔法が驚くほど巧みに使えるようになっていたのだ。
初級のウィルやエマでさえ、もう氷魔法が使えている。
途中、地竜ではないが、走竜という、小柄で2本足で走る竜の群れとぶつかり戦闘になった。
暑いので、ファイアボールではなく、アイスストームの全体魔法を使う。
ウィルとエマも、練習とばかりに、アイスショットを撃っている。
セラ達も、セラはパレット、ジェミはバースト、アケルはウインドストームを撃っていた。
うん、いい感じだ。
皆が魔法も熟せれば、武器と合わせて臨機応変に戦える。
魔法で取り零した分の走竜と戦闘になり、斬り合いとなる。
俺とセラは剣、ウィルは杖、エマは手甲武器、アケルとジェミはショートソード。
肉弾戦になっても、皆には結界を始め、あらゆる付与魔法を掛けてあるので大丈夫だ。
閃光が走る、セラの剣は、親父さんが持たせてくれた剣だというが、魔法剣なのだろうか?
剣に魔力が乗っているので、切れ味がすさまじいばかりだ。
まるで剣姫のようだ。
『回収!』
屠った走竜を、一旦全部異空間収納に仕舞った。
ダンジョンと違って、魔石だけ落ちているとか、そんな風にはならないので、収納内で、自動に剥ぎ取りをして貰った。
結構な数が居たが、数えると87頭も居たみたいだ。
これは後でギルドに報告しなければならない。
誰かの依頼かもしれないからだ。
しかし、襲われた側は、迎え撃つ権利があるので、これが誰かの依頼だとしても、横取りにはならない。
さて、国境添いと言っても、元々国境添いの領なので、わりと近い。
2日ほどで、辿り着いた。
ルカニア国とフィオレ国の国境には、でかい石のタイルが点々とはめ込まれているだけだ。
兵士ではなく、どちらも雇われた冒険者が、交代で見回り常駐しているという。
こちら側の見回りに、地竜のことを聞いてみた。
「ああ、一昨日くらいに、数頭フィオレにに行ってたな」
「…… 向こうが倒した形跡は?」
「ははーん、見届けか。
まあ、大変だったな。
でも、ここらで待ってれば、多分引き返してくる」
「え、どうして分かるんですか?」
「フィオレの連中も、自分達の魔の森から出た魔物なら、しょうがないと思うだろうが、ルカニアから越境した分まで倒すのは嫌みたいだ。
そのうち地竜をこっちに追い立てて来ると思うよ」
「うわあ、マジか」
そういう話なので、いったん野営に入ることにした。
夜に紛れてこっそり【隠れ家】を出し、隠微、認識障害、魔物除け、結界を貼って、家の中に入る。
「思った以上に厄介な状況だな」
ウィルがぼやくのも無理はない。
「温泉場で討伐した竜擬きを思い出すねー」
そうだな、あれは冬山だった。
「フィオレとの国境がこんなに適当でいいのだろうか…」
アケルの心配は最もだが、相手は脳筋国だからじゃね?
「走竜飼い慣らせれば、便利な足になるのになー」
うん、魔獣は飼い慣らせないからねジェミ。
「色々不都合は仕方ありませんわ。
さっさと入浴して夕食にしませんか?」
「うん、セラに賛成。
風呂上がりに、冷たいジュースも出すよ」
「「「「「わあ、やったー」」」」」
その後は、俺達は、入浴、ジュースで涼み、夕食は、フィオレ料理に舌鼓を打った。
米と干した貝を使った料理で、前前世の正志の話では、パエリアに似てるとのことだ。
生ハムのサラダに、スライスしてカリカリに焼いたパンとチーズ、スープ、などのメニューである。
どうも、米のメニューは洋風しかないみたいだ。
翌日、また、国境添いを見張る。
索敵を飛ばしているので、来ればすぐ分かるのだが、現場に居ない訳にはいかない。
しかし、凄い日差しだ。
ふと思い付いて、地魔法を試してみることにした。
『形成!』
土でターフテントのような物を作ってみた。
要するに日除けだ。
正志の世界でキャンプや浜辺でよく見るあれだ。
同じく、土でテーブルと、椅子を作った。
皆、驚いてるな、一応地魔法上級だからな。
座ってると、ウィル、セラ、アケルがそれぞれ、風魔法や生活魔法で、風を流している。
涼しいな、はあ、これなら、見張りも辛くないよ、よかった。
途中昨日の見張りの冒険者が来て、俺らのようすにビックリしている。
「お、お前ら器用だな。
土魔法上級か、いいなあ」
「誰か土魔法の上級者はいないんですか?」
「いや、いることは居るけど、不器用な奴だからなあ」
「よかったら、教えますよ」
「ほんとか」
ただ見張るのも暇なので、
俺は土魔法の冒険者に教えたり、ウィルやセラ達も、魔法の練習やらをやっていた。
無事、土魔法の冒険者も、ターフや椅子を作り、風を流して涼んでいた。
そんな感じでダラダラ見張っていたのだが、三日目の夜、さあ、寝ようかという時に爆音が聞こえた。
慌てて装備をして外に出ると、派手な広範囲魔法に追われる地竜が見える。
俺は急いで、結界を始めとした付与を全員に全部掛け、光魔法のライトで辺りを満遍なく照らした。
地竜をここに引き寄せる為である。
来た!
ルカニア側に入ったぞ。
アイスストームを重ね掛けして撃った。
寒さに弱いって言ってたからな。
一頭、二頭、三頭、四頭、五頭、六頭、七頭、八頭、え?八頭?
一頭多いか、大銀貨5枚ゲットだな。
寝ようと思ったところを呼び出されて、ちょっと腹立たしく思ってた俺は、アイスストームを地竜の数だけ放って、凍りつかせてやった。
その後、ジェミがバーストを撃ったので、俺も便乗してバーストの爆音を何度も響かせた。
半死半生となった地竜を、後はタコ殴りである。
全部終わったのは夜明けだった。
地竜を全部収納に仕舞い、【隠れ家】を出し、みんな次の日の朝まで眠ったのだった。
フィオレの脳筋ども、追い立てるなら、昼間にしろよーー!!




