ダンスとテンプレと地竜に決めた!
俺達は今、グランツ領の都市マールに向かっている。
あれからラリックの街に戻り、更に準備を整えて、また買い出しにも行った。
主に食料の。
鍋50台分の料理以外にも、他に買う気満々である。
食い意地が貼ってると言うなかれ、俺達は育ち盛りなのだ。
燻製肉やハム、ソーセージ、後は焼きたてのパンを各種類ごと、ごっそり買った。
パン屋のおかみと交渉して、パン屋の休みの日に、材料も提供して、山ほど焼いて貰った。
野菜や、果物も沢山購入済みだ。
準備万端整い、アビー達に銀カード目指して行って来ると報告し出発した。
一年前と比べて、アビーがそれほど心配してない風なのは、俺の背がまた伸びたからかもしれない。
「アロイスはまた大きくなったね。
気を付けて頑張ってきて」
「うん、頑張るよ」
俺がもう、ラリックの街に根付いているって、みんな認知したせいか、今度の出発は普通に、そこらで行き会った者達に伝える程度だ。
だって、また必ず帰るんだから。
さて、グランツまでの道筋だが、ルグラン行きの街道を途中までまず行く。
途中から、街道を外れ、魔の森を前に、迂回しながら行くことにした。
魔の森は、アマラ聖王国との国境沿いに南北に伸びた細長い森だ。
北は、グローリア辺境侯爵領に隣接し、南は、グランツ辺境公爵領に隣接している。
魔の森から飛び出す魔物魔獣は、どういう訳か南に集中するので、それを討伐するべく、南のグランツ領都市マールが出来たようなものである。
ドラゴンのような大物が度々出現する。
また、南北中間地点であるルグラン補給外地にも、中型魔物魔獣が現れる。
魔物魔獣の出現が少ない北のグローリア領にとっては、幸いであるだろう、それでなくともアマラとの確執を抱えているので。
魔の森とは、濃い瘴気の為、人が入ることが出来ない森だ。
この瘴気の中で、魔獣、魔物が、絶えず発生されている。
発生したした魔物達は、強者が弱者を潰し淘汰されているらしい。
魔の森の外付近にいる魔物魔獣等々は、そこから逃げ出した弱い魔物、それを追う強い魔物だと考えられている。
むろん、真実は不明だ。
そして、この森の瘴気がこれ以上充満しないように、国や神殿から聖人や聖女が大浄化の儀式を行う為に、年に一回派遣される。
そこで大浄化の魔法が使われる。
他にも、献上されたり購入した浄化の花、エリカを供えるのだ。
それにしても、街道から外れ、魔の森付近に来た途端、ゴブリンの群れとそれを追う?オークの群れに出くわした。
ウィルと俺がファイヤーボールの乱れ撃ちをかまして、こぼれた奴らは、残りの全員に仕留められていった。
「アロイス、本当に此処で野営するのか?」
ウィルが不安に思うのも最もだが、大丈夫だ。
俺は今回、【隠れ家】を野営に使用するつもりだ。
空間テントも、魔物除けや結界を貼れるが、【隠れ家】の結界は更に強力なものなので安心だ。
勿論、魔物除け、隠微も強力に掛けられている。
今回人数も多く、危険も多い場所なので、より空間スペックがあり、強度のある【隠れ家】を使用する事にした。
そして、扉の間口は広く高く改造してある。
それは、愛馬シーナが入れるようにだ。
セラ達3人の目が半開きになっている。
呆れてる? いや、誉めていいのよ?
「アロイスには常に驚かされますわ」
「いや、反則だろー」
「………」
3人とは別に、ウィルとエマは大喜びだ。
「アロイスーっ、パン焼いていい?」
そうなのだ、【隠れ家】の方にはエマに強請られるまま、キッチンに魔石オーブンを設置した。
「訓練スペース使っていいか?」
うん、こっちはウィルにせっつかれて、戦闘訓練の為のスペースも設けてあるのだ。
そして、エマがうちに来た時点で、風呂も、女子と男子別々に分けて作った。
ちなみに大風呂だ。
俺は、女子4人が風呂にいってる間に、もう一つ訓練スペースと、セラ達3人のそれぞれの部屋を作った。
夜御飯は、アマラ風の辛味鶏野菜あんかけスープとウィル達が好きなでっかい肉まんじゅうだ。
鍋50台の他に、大将にも少し料理を頼んでいたのだ。
うちの国がアマラと仲が悪いと聞くが、それは上位の者達であり、庶民は別になんとも思っていない。
だから〔いぶし銀〕の大将も、料理修行に気楽に出かけたんだろう。
みんなの食いっぷりもすごい、いやあ、美味かった。
食後はエマはキッチンに行き、ウィルは自室、女子3人は訓練スペースに行った。
俺は、空いた時間に、錬金の魔道具、魔法陣、薬師のポーションなどの勉強を、脳内のユリウスに怒られながら自室でしている。
別に部屋を作るのではなく、部屋を広げて各勉強コーナーを作ったのだ。
ポーションだが、繊細な調合が苦手で、前世の賢者たるユリウスに、小言を言われっぱなしでげんなりしていたところ、部屋をノックする音が聞こえた。
開けたら、セラがお茶を二人分持って立っていた。
「あ、ありがとう、ええと、散らかってるけど、どうぞ」
にっこり笑ったセラだが、俺の部屋のだだっ広さに目を丸くした。
ダラダラしたい俺は、自室にもソファセットを設置してるので、そこへ、お茶を置いて貰った。
「アロイスは勉強してたのね」
「うん、隙間の時間にだから、あんまり進んでないんだけど」
「そんなことはないわ。
時間はかかっても少しづつ進んでいるのではなくて」
「そうだといいな」
「ねえ、アロイス。
ギルドのマナー教室でダンスは習ったの?」
「ダンス? いや、別に、なんで?」
「お城に招かれるということは、ダンスも必要でしてよ」
「うっ、そうなのか…」
「練習しましょうか」
「ええええええ」
セラが自分のアイテムバッグ、と言っても、腕輪型の収納アイテムだが、そこから銀細工の小箱を取り出した。
小箱の蓋を開けると、音が鳴る。
オルゴール?
この音楽は一般的なダンス曲なのだそうだ。
さあ、と手を出され、戸惑ってる間もなく、ダンスレッスンが始まった。
今回は自分で覚えろと、ユリウスの助けはなく、ぎこちない動きだったが、セラはずっと笑顔で楽しそうだった。
俺は自分でも単純だと思うんだけど、相手が楽しそうだと伝染するみたいで、俺も楽しくなってきた。
俺は真近にある、セラの小作りで美しく整った顔を直視しないようにしながら、ダンスの動きを覚える。
なんでかって? いや、見たらヤバイでしょ。
けぶるような金糸の睫毛とか白磁の肌とか艶やかな金の髪とか、見たら発作が起きるでしょ。
見ない、見ない、絶対見ない、絶対に…
「アロイス」
「ひゃ、ひゃい」
「今日はここまでで、よろしくてよ。
また、時間を見つけて練習しましょう」
最後に笑顔のセラを直視して固まる俺だが、何、またやるってか?
し、心臓が…
おやすみなさいと出ていくセラを見送り、俺も早々に就寝することにした。
さて、
このような、試練を度々乗り越え、旅を続けること半月。
魔獣魔物を蹴散らし、御馳走をたらふく食いまくり、ダンスレッスンの招集に怯え、ついに今日、グランツ領に入った。
このちょっと前あたりから、他の冒険者と思しき者達を見かけるようになった。
彼らは、ルグランの真下からとか、王都の真下から西へ向かってきたようである。
俺達の様に、わざわざ魔の森を迂回しながら来る酔狂な者は居ないのだろう。
大都市マールの入門の列に並ぶ前に、馬車は異空間収納に仕舞って、手続きを済まし街に入った。
マールの街は、ルグラン同様、住民区、貴族街、冒険者関連地区と別れており、真っ先にマールの冒険者ギルドに向かう。
俺よりも気が利く、アケルとジェミは、ギルドに入る前に、美しい自分の主人にローブを羽織らせ、目立たなくさせた。
そうだった、セラの美貌を隠さないと。
認識障害の指輪でも嵌めさせた方がいいのかもしれない。
ギルドには一応、ラリックから銀カード目指して来た旨を告げる。
適切で良い宿などをついでに聞いておく。
銀へ昇格出来そうな、討伐依頼を、皆で探すことにした。
「アロイス殿、これはどうだろう?」
アケルが指した依頼内容は、地竜だった。
地竜は、竜といっても、飛べないし、各種ドラゴンよりは強くない。
ただ、ブレスは吐くし、長い尻尾は振り回されて叩きつけられれば、ただではすまない。
皆で検討し、それに決めた。
さあ決まったら次は宿だ。
出て行く途中、エマの声が聞こえて振り返る。
草臥れた鎧の酔っぱらった男が、後ろからエマの髪を引っ張っていた。
獣人のエマは、人に化ける魔道具のペンダントで、今はお団子ヘヤでなくポニーテールにしていたのだ。
エマも力はあるのだが、髪を引っ張られては上手く躱せなかったようだ。
子供が来るなあとか喚く男の手を掴み、外した。
筋力1000あるので、加減が難しいが、握り潰さない様に苦心する。
男がまた喚く前に、魔力で圧を加えると、真っ青になって引いていった。
目立ちたくないので、エマを連れてさっさと出る。
ふう、これがテンプレか?
前前世の正志が、脳内で来たーーーーーっと、喜んでいる、喧しいわ。
「アロイス、ありがとー」
「うん、さあ、宿に行こうか」
後ろで、アケルとジェミがこそこそ話しているが、俺達は、ギルドお勧めの宿〔石の上にも3年〕に、大部屋を取ったのだった。
相変わらず、宿の名前が変だな…
「お嬢に、ローブ被せたの失敗だったかなー」
「ん、難しいね。
アロイス殿に庇われるという、美味しい役をエマ殿に取られてしまったね。
だが、乱暴者に、お嬢様が目を付けられるのも困る」
「だよねー、他のチャンスを、お嬢にこなして貰うか」
「エマさん、大丈夫だった?」
「大丈夫だよ、セラちゃん」
「わたくしも、あんな風に庇われたいわ…」
「ん? なんか言った?」
「いいえ、なんでもありませんわ」
「ウィル、さっき、ギルドで何聞いてたんだ?」
「指圧師の有無を聞いてたんだ。
こんな大きな街なのに無いなんて残念」
「それなんだけど、帰りにグランハイムの温泉施設に行けばいいんじゃね」
「それだ!
あそこの指圧は超一流だった」
「温泉も超一流、露天も入り放題」
「よし、そうしよう」
大部屋を取った俺達は、異空間収納から、空間カスタマイズされたテントを建て、中の広々した居住空間で寛いだ。
食事は食堂が混んでるようなので、作って貰い自分で収納に入れ、部屋に運ぶ。
みんな、空間テントの風呂に入り、夕食にする。
うん、肉野菜炒めとスープ、チーズとハムのでかいパンが美味かった。
ここも当たりだ、よかった。
明日から地竜狩りに挑戦だ、みんな頑張ろうな!




