お忍びと俺の不自由
あの美少女騎士様は、シャルロッテ様というらしい。
侍女さんが、「お嬢様」と呼んだら、我は騎士じゃ名前で呼ぶがいいと怒られて、名前で呼び直させられていたので判明した。
関わるつもりはなかったのだが、オウドの村からクランリ―の街までの2週間、最初の2日で、シャルロッテ様は退屈してしまったようだ。
暇そうに、チラチラ俺を見ている…コワイ。
「その薬草の本は、随分古くて由緒あるもののようじゃな」
とうとうシビレを切らしたのか、いきなり話しかけられてビビった。
侍女さんの方を見ると、怖い顔をしている。
だが返事をしない訳にはいかない。
「これは俺の師匠から譲り受けた本です」
「ほう、君の師匠は貴族だね」
うっ、鋭い…
「さ、さあ、俺の村で薬師の先生をしてたんですが、出身までは分かりません」
この後もヒヤリとしながらも、案外話は弾んだ。
シャルロッテ様は王都の屋敷へ帰るらしい。
おお、最終地が一緒だ、と内心喜ぶ俺だった。
さて、クランリ―の街までは、野営、野営、野営、と、女性には厳しい日が続く。
まあ、俺はテントをカスタマイズしたから快適なんだが。
どうも、シャルロッテ様のテントも空間を改造してるような雰囲気だ。
朝、出会うと、美しい御髪から髪洗い石鹸溶液独特のハーブの花の香がする。
ある日、侍女さんが、人生に絶望したような顔をしていた。
シャルロッテ様に聞いたら、髪洗い石鹸溶液が切れてしまって、村にも売っていなかったから買えなかったと嘆いていたようだ。
多分次の街で買うつもりが、間に合わなくなりそうで焦っているのだろう。
俺がそっと、3本ほど差し出したら、感動した様に喜びまくっていた。
その日以来、とても優しくなった。
余談だが、侍女さんのお名前はアンナさんだ。
そしてまた余談だが、シャルロッテ様のお隣に、年齢も近くて丁度いいと、俺を隣席に置く事を、オウドから乗る時に決めたそうだ。
シャルロッテ様は俺と同い年の13歳だとか。
嬉しいい、が、どうも無害な暇つぶし要員としてらしい…
馬車と野営の日々を送り、本日ようやくクランリ―の街に入った。
ここで2日程宿で泊まり、フラウ川を渡る為の船着き場に行く予定だそうだ。
フラウ川とは、我が国ルカニアを、北から南まで縦に分断する様に流るる大河である。
分断と言っても、途中で水路をあちこち設けている為、南に行く程先細りになり、国境を超える前に、地下の水源として潜ってしまったのか、川は無くなっている。
今回は小舟で流れに逆らいつつ、向こう岸に渡り、メイチェの街へ向かうのだ。
宿に入った俺は、部屋にテントを出して、テントの中で過ごしている。
その為泊まる宿には、金はかかるが大部屋を借りてテントを建てている。
そうまでしてもテントの方が快適だからだ。
テントと言えば、このテントだけど、詳しく語るならば、ユリウスの持ち物だったこの空間拡張テントは、最初ベッドとトイレだけだった。
まあ、ダンジョンで重要なのは確かにその二つだ。
用をたすのも命がけである。
女性はトイレにとても困ると思うんだが、どうしてるんだろう?と余計なお世話だが心配している。
もっともアビー達は、ザックさんの持っている、トイレ専用の魔道具小テントを使用している。
魔物除けの符も付いてるので、安心してトイレに行ける。
その他にも、トイレと4人分のベッドが置ける空間テントを所持しているという。
ザックさんは銀カードだけあって、抜かりはない。
風呂は無いが、フランツに生活魔法のクリーンを教えてあるので、アビーも困らないだろう。
話は戻るが、俺のテントは、後から風呂と居間を空間カスタマイズで新たに設けてあるのだ。
ダンジョンや、人目があったり、スペースが狭い場所では、【隠れ家】が出しにくいからだ。
風呂も、ダラダラ出来るソファーもない、そんなの嫌だ。
キッチンがないのは、今の所料理を作る予定がないからだ。
困らない様に、俺は常に、露店で買い置きを、パン屋で焼きたてパンの買い置きを、料理店で材料と鍋を持ち込み、お金を割高で支払いシチューやスープを作って貰うなどしている。
ミアさんのお店でも何回か頼んでいる。
なので今現在、キッチンの空間増築というカスタマイズはやらない。
さあ、2日間は自由だ。
俺はソファで寛ぎ、熱いお茶を異空間収納から取り出した。
ゆっくり飲みながら、どう過ごそうか考えている。
クランリ―は川があるのだが、魚は泥臭くて食べるのには適さないそうである。
残念だ。
そして、サーペントが出没すると言われているが、実際それはもっと南に下った方である。
取り合えず街を散策しよう。
露店の食べ歩きもいいな、武器屋を冷やかし、魔道具屋にも行きたい。
宿での昼食は止めて、街へと繰り出す。
まず、肉の串焼きを買ってラリックのものと食べ比べる。
美味い、これはハーブと岩塩かな?
«うん、これ、ケンタのチキンだ» と、呻る正志。
前前世の正志の台詞を翻訳すると、地球のケンタッキーフライドチキンと味付けが似てるそうだ。
っていうより、これ鶏肉か。
ラリックのおっちゃんの串焼きは、豚肉だったな。
あれは塩とおろし大蒜と生姜の液ダレに漬けたものだった。
あれも美味かったな、まあ、買い置き沢山収納してあるんだけど。
他にも野菜と味付き牛肉が挟んだパンや、正志の世界で言う肉まん?などを食べ歩いていく。
街が大きいから露店も充実してるな、ん?
行列をしてる露店がある?、見れば女の子ばかりだ。
甘い匂いを嗅いでいたら、正志の意識がスイーツかぁ、と答えをみつける。
よくよく行列を見ると、シャルロッテ様とアンナさんのお姿も…
俺は速攻でUターンした。
見る分には目の保養だが、関わるのは厄介だ!
が、
「アロイス!」
うっ、呼ばれてしまえば、行かねばならない。
「シャ、シャルロッテ様も散策ですか?」
「うむ、今、此処の揚げ菓子を食したいと思って並んでおる。
お主もどうじゃ?」
その後、シャルロッテ様の替わりに列に並び、路上のテラスでお茶を飲む二人に届けに行く羽目になる。
「使い走りのようなことをしてすまない。
アンナが疲れたと言うので、お主が替わりに並んでくれて助かった」
ほう、アンナさんが。
見れば、パチパチと瞬きしている。
はいはい、お嬢様を座らせたかったんですね。
いいカモが来たと…
そして俺はなし崩し的に、旅の期間限定の従者モドキに認定された、
アンナさんに。
はあ、思わずため息。
この二人の乗り合い馬車乗車は、訳アリだと、実は最初から気付いていた。
いや、みんな気付くよ!
どう見ても、浮きまくっている。
例え美少女と美女の組み合わせだとしても、関わりたいとは皆思ってない。
俺が多少相手にするようになって、他の乗客はあからさまにホッとした顔になった。
で、俺は他の乗客が気付いていないもう一つも気付いてしまった。
乗り合い馬車の護衛、あれ、冒険者じゃねえ。
腕の立つ騎士だ。
そして今も、遠巻きに護衛している。
そもそも可笑しいのだ。
何故、自分の馬車でなく、民間の乗り合い馬車利用なのかと。
シャルロッテ様の騎士設定も可笑しい。
身体を鍛えた俺には分かる、この方、まるっきり運動音痴だ。
せめて魔法師にすればいいのに、この設定も浮きまくっている。
従者モドキとなった俺に、実は隣国アマラに狙われていると、ぶっちゃけてくれた。
事情話すのはやめて~、関わりたくないんや~
アンナさんの目が、三日月の様に細められ笑んでいる。
そう、アンナさんこそ、腕利きの護衛騎士だった。
偶然見つけた俺を審査して、使えると判断したそうだ。
「アロイス殿、
貴方は剣の腕はそれ程でもありませんが、潜在能力はありそうですね?
ふふ、自分のステータス、改造して誤魔化してますね。
魔力はすざまじい程あるようだ。
何故分かるって?
魔道具の測定器でざっと測っただけですよ、警戒なさらず。
アイテムバッグもお持ちで、身の回りの物も平民の持つには過ぎた物ばかり。
そのローブ、中の革鎧、ブーツ、素材も特別で魔法付与もある。
おや、シャツとズボンは魔獣の毛織り?
貴族とて、そうそう持ちえない。
欺けているのは、それが華美でないからという点だけ。
どうしました?
顔色が悪いですね。
安心してください。
お嬢様が無事に王都に着けば、お役目は終わりですから」
はは、
安心できるかーーーーーーーーーーーーーーーーー!!




