7階層の秘密
起きたら夕方だった…
あるある、よくある、と前前世の正志が実感込めて頷いている。
そのうちグルっと回って元に戻ると請け合った。
そうか、
なら深く考えまい。
朝食、支度、準備と済まし、隠微をかけて外へ出る。
そういや前に言った、ダンジョンでは動かない物は消えるという件だけど、この持ち運びの家や、冒険者らのテントが動かない物なのに何故消えないのか?
これもよく分かってないのだが、ある一定の大きな物は一か月くらいは存在出来る期間があるらしい。
また小さな物も、魔力を帯びた物は消えないらしい。
え?
魔力のない人間がいたらどうなるかって?
皆魔力はあるはずだが、もしないとしても、それこそ人は動いてるし、人の中の心臓も動いているから大丈夫だ。
そして、テントの中の物は、テントの一部としてカウントされて、それも大丈夫なのだ。
持ち運べる家、【隠れ家】を異空間収納に仕舞込み、俺はゆっくり7階へと続く階段を下に降りて行った。
ここが最終だ。
7階はオーガーだったな。
オーガーはオークより大きくて皮も固い、バレット(魔力弾)で仕留められるかな。
それとボス部屋は不明?
不明ってなんでだ?
攻略されたことあるんだろう?
疑問だらけでモンモンとしながらも、7階に辿り着くと、なんだか奇妙な風景が目の前に広がっている。
城? 城の中?
それもやけにデカい城内のホールのような場所だった。
大理石の床と壁。
壁に嵌め込まれた装飾の彫刻には金箔が象眼され豪奢な雰囲気だ。
巨人の舞踏会でも開くのか?
索敵で魔力を飛ばすと、ホールの外に赤い点がうようよ潜んでいる。
やだな。
そいつらがこんな何もない所に押し寄せて来たら、囲まれてしまうよ。
«隠微で姿を消したまま城内を探れ!»
戸惑っていると、前世の大賢者ユリウス大先生からのありがたいアドバイスをゲットした。
円形ホールの周りにはそれぞれ巨大な扉が設置されており、扉の先に赤い点が沢山点っている。
一つ一つ扉に近づき探っていくと、無数の扉のうち一点だけ赤い点が無い扉が見つかった。
赤い点の無い扉を開けることにした。
巨大だが押すとなんなく外側に扉が開き先に進むことができた。
進んだ先には、上へ上がる螺旋階段が見える。
昇るか?
昇ってみた。
昇った先に短い通路があり、行き止まりにこれまた豪華な扉を備え付けた部屋らしきものがあるのが窺える。
行こうとした俺に、
【女神の加護】という名の指輪を出して装着しろと、再びユリウスから指示が来た。
言われた通り鈍い銀の指輪をはめる。
代わりに今まで嵌めていた【認識障害アイテム】の指輪を外すようにと追って指示され、それにも従った。
豪華な扉に手をかけようとして気が付いた。
あれ? 階下は巨人の城内風で巨大な扉だったのに、この扉は人間サイズだな。
そういや、螺旋階段もこの通路も人間サイズだ。
とりあえず、中の把握、
『索敵展開』
中に赤い点が一つ点ってる。敵だ!
まさかここがボス部屋か?
他のオーガーと戦わなくていいのか?
入ると中は入口と相反して巨大広間だった。
天井も高い。
巨大なのに、部屋の奥に、人間サイズの玉座がちんまりとあり、ドレスを着た女が一人座っていた。
俺は隠微をかけているはずなのに、女の視線が真っすぐ俺を捉えていた。
「ようこそ、勇者様。
ここまで辿り着くとは御見それ致しました。
さあ、
その御尊顔をもっとよく見せてくださいまし」
美しい女がにこやかに愛想良く語りかけてくる。
言われた通り進み出る。
物語のお姫様のように、挨拶のキスをせよというように、手を差し出してきた。
俺はその手を取ると、
思いっきり引き寄せ、近距離でバレットを打ち込んだ。
グッ…ギギギギギ クギャァァァァァァァ!!!!!!!
体を折り曲げながら恨めしそうに顔を上げた女は、
美しかった顔を歪め、雄叫びと共に小さな人間の姿から3メル(メートル)程の巨体のオーガーに変化した。
「…お前、魅了が 効かないのか? 小賢しや…」
その言葉にああやっぱりなと思った。
銀の指輪は状態異常無効の指輪だったんだ。
巨大化したものの、人の姿で受けた魔力弾が効いたのだろう、悔しそうな顔のまま巨体が消えていった。
安心して気が抜けてると、
頭の中に無機質な声が響いてきた。
『イベントが終了しました。
このイベントを今回、一回きりで終了しますか?
終了する場合特典褒章が出ます。
ただし、7階ボス部屋の挑戦権を失います。
また、終了としない場合、
特典褒章は出ませんが、
毎回このイベントの遭遇権と、
ボス部屋の挑戦が許されます』
な、
なんだってぇぇぇぇぇぇっ!!
なんじゃそりゃ…
どうしよう…
迷っていたら、ユリウスが、終了して褒章を貰えと言ってきた。
それを聞いて俺は、頭の中の声に答えた。
「イベントを終了する。褒章をくれ!」
『了解致しました。
特典褒章は、各種能力の中のいずれかを一つ、
+100上げることができます。
どの能力を選びますか?』
俺は魔力、と、答えそうになって、ユリウスに止められた。
«馬鹿者、よく考えろ。
魔素を浴びても絶対に伸ばすことが出来ないものがあるだろうが!»
え? それって、
«そうだ、それだ»
分かったよ。
「褒章の+100は、幸運度にしてくれ」
ちょっと残念だが、ユリウスの声に従った。
『了解しました。
幸運度を+100を与えます』
その言葉に、俺の体は大きな光に包まれ、やがて光が縮小し消えていった。
何か変わっただろうか?
分からない。
その時ふとまた声がした。
『挑戦権のない者はこの階層から排除されます。
以降の挑戦は6階までとします。
また、オーガーと戦いたい場合は、
5階のボス部屋の2回目以降の挑戦時に敵を選択することができますので御了承くださいませ。
では、戻れ!』
戻れと言われた瞬間、俺はスライムの1階層に放り込まれた。
幸い、スライム溜まりを除けられたので、奴らを避けて急いでダンジョン出口から出た。
時刻はもう真夜中だった。
ふう、
なんだかへんてこな夢を見ていたような気分だ。
体は疲れてないのだが、なんか消化不良な感じなのだ。
ゆっくり考えたいので、急いでダンジョンを離れ、適切な場所に【隠れ家】を異空間収納から取り出す。
隠微、結界と指示し、家の中に入る。
気が疲れた、風呂だ風呂!
ゆったり浸かりつつ、『イベント』を思い出す。
オーガーとの戦闘に思いを馳せて出向いて行ったのに、倒したのは人間に化けて弱体化状態のオーガーだけだった。
そりゃあ、魅了にかかったら餌食になっていただろうし、脅威は脅威なんだが…
オーガーって、変身するのか?
その問いに、するよ、と正志が答えた。
え?
«[長靴を履いた猫]って、物語に出てくるオーガーがそうだよ»
話を聞くと、地球の中世フランスの童話で、
人喰い鬼に対して賢い猫が
「貴方様は今ライオンに化けましたが、いくら貴方様でも小さなハツカネズミにはなれますまい」
そう煽った。馬鹿な人喰い鬼は、
「そんなの簡単だ。そら、変身したぞ」
ハツカネズミに変身。
それを見た猫はすかさずハツカネズミを食べてしまい、恐ろしい人喰い鬼を退治して、めでたしめでたし、という訳だそうだ。
俺は猫か?
いや、論点が違う、オーガーは変身するのか?
ダンジョンって、こんなイベントがあるのか?
????
«落ち着け!»
ユリウスが一喝する。
«いいか、ダンジョンにはダンジョンの意思のようなモノが宿る場合がある。
今回のようなことも稀にある。
あと、この世界のオーガーは変身するという報告は聞かない。
正志の言うような、地球の情報を知る何かが関わっているのかもしれないが、それは然程重要ではない。
重要なのは能力の+100があったということ、
7階のボス部屋との引き換えだったこと、
それらが、ラリックの街とギルドで一般に知られていないこと、
以上だ»
確かに。
«あくまで私の予想だが、この『イベント』がこのダンジョンの最大の宝だ。
5階ボス部屋、そして権利を失った7階ボス部屋も大したことはないだろう。
今回の褒章、貰った者は隠したいのだろう。
ギルドも知っていて認めている可能性がある»
なんでだ?
«+100だ。
ライバルは増やしたくないだろうさ。
あと、お前は脅威に感じたかもしれないが、魅了はそれ程強くはなかったし、
変身を解いてもあのオーガーなら、集中すれば、このダンジョンの常連なら倒せた。
あれは、冒険者らに向けた最大のチャンスだったのだ»
そうか。
成程と納得した。
やっと疑問も解けてスッキリだ。
長湯したが、気分は晴れた。
この後、遅い食事を取り、さて寝ようかと思ったら、
アロイス、ステータスを確認しろ。と、ユリウス。
分かった、『ステータス』
名前:アロイス
種族:人間
体力:65(+10ペンダント効果・他)
魔力:71/72(同)
知力:77(同)
攻撃力:71(+10ペンダント効果・+50剣効果・他)
防御力:77(+70衣服上下・鎧・ブーツ・ローブ・マント・ペンダント総合効果・他)
器用度:58(+10ペンダント効果・+30魔力制御・他)
幸運度:122(+10ペンダント効果・+100特典褒章)
スキル:幸運、薬師、逃げ足
魔法:生活魔法
:全属性魔法(初級のみ使用可)
:無魔法(中級まで可)
:空間魔法(上同)
称号:賢者未満
おおっ!!
全体的にまた上がってる。
幸運度も122かすごいぞ。
え?
スキルに幸運?
100超えたからか。
でも縁起が良さそうだ、ありがたい。
超ラッキー、超嬉しいぞー
«よかったな»
«おめでとさん»
ありがとう。
うんうん、成長が実感出来るって良いな、
さあ、一晩寝たら仕切り直そう。
テンション上がってるうちに、
5階のボス部屋再度挑戦と、手に入れた大量の魔石素材らを売りまくるぞー!!




