第11話:南方将軍は不貞腐れる
帝都城壁の外周には、避難民のための天幕が続々と設置され、そこかしこで炊き出しの煙りが上がっていた。
避難民のためのキャンプ地と化している帝都の外周部から少し離れると、武装した兵士達が12名編成の分隊規模で外周部周辺を警戒していた。
そこから更に帝都から離れた平原を、真っ白い巨躯の狼と、その両脇に軍馬に跨った男女2名が、その後ろに数名の部下を連れて周辺の警戒に当たっていた。
「あーあ、つまんねえな」
真っ白い狼の背中から、心底退屈だと言わんばかりの声が上がる。
狼の背中には、あおむけに寝転んで両手を頭の後ろに組んでふてくされたような表情を浮かべた少年が乗っていた。
「まあまあ、ジーダ殿、帝都周辺の警戒も重要な任務ですよ」
そんな少年に向けて、軍馬に跨り、日本の戦国時代の武将が身に着けたような和風の鎧を身にまとった20代後半と思われる艶やかな顔立ちをした女性が諫めるような声を出す。
「大将、暇なら暇にこしたことはありませんぜ」
少年を挟んで、女性の反対側にいた、やる気というものをあまり感じさせない顔つきでいる40代前半と思われる男性が、女性の言葉に乗っかるように話を続ける。
「そんなこたあわかってるよ。でもよー、せっかくアルトラル大陸とは違うところに来たんだから、どうせならこの世界にいるやつと、一番最初にやりあってみたかったな」
少年は二人に対して愚痴をこぼす。
少年は頭の後ろに組んでいた右手を抜くと、寝そべったまま上空に人差し指を立てて銃のような形をとった後、「ばーん」と呟いて、手で作った銃を撃つような動作をした。
少年は、南方将軍の役職に付いているガンナーのジータであり、彼の両脇にいる男女は、ジータの師団に属している神将と呼ばれる連隊規模の軍を率いる長であった。
女性の方はアーチャーのカエデで、男性の方はスナイパーのリカルドであり、彼らは執政官であるロザリエの差配の下、帝都と帝都外壁周辺で避難生活を送っている避難民の安全を確保するため、その外周を警戒しているところであり、この三人は、自らも警戒任務を行いつつ、警戒任務に当たってる部下達を激励するための巡視をしているのだった。
もっとも、師団のトップである南方将軍のジータは、警戒任務を命ぜられて、絶賛ふてくされ中なのであったが・・・
そんな3人のところに、背中につけた鞍に兵士を乗せた飛竜が一頭舞い降りてくる。
飛竜が3人の傍の地面に降り立つと、飛竜の背に乗っていた兵士が飛竜から下りて、ジータの傍まで行き膝をつく。
「報告します。帝都周辺を警戒中のドラグナー連隊の一部隊がワイバーンの群れに遭遇したとのことです」
その言葉を聞き、反射的に身を起こすジータ。
「どこだ?」
「はっ!ここより南方に10トゥスとなります」
「よっし!」
そう言って伝令の任務を帯びた兵士の報告に喜びの表情を浮かべるジータ。なお、トゥスとは、アストラル大陸における距離の単位であり、匠が元いた世界のキロとトゥスの距離は同一なので、キロ=トゥスと考えて差し支えない。
「俺が応援に行く。案内しろ!」
「あ、いえ、遭遇はしましたが、群れは少数でしたので、おそらく将軍が着かれる頃には戦闘も終了しているかと・・・」
さあ、行くぞと言わんばかりに身を乗り出そうとしたジータが伝令の兵士の声を聞いて固まる。
「私は、魔獣が確認されたので、帝都周辺の警戒に当たられている南方将軍に注意喚起をしてもらうために情報を伝えるように小隊長に命令されましたので・・・」
伝令の兵士は、ジータの様子を見て言い訳をするように言葉をつなぐ。
ジータは身を乗り出そうとした態勢で固まったまま、兵士の言葉を聞き終わると、体中からエネルギーが抜け出たと言わんばかりの様子で、ぐんにゃりとうつ伏せに狼の背に突っ伏した。
白い狼は自分の背に乗っている主人の落ち込んだ気配を察したのか、首を後ろに向けて、ジータの方に心配そうな目を向ける。
白い狼はカイザーウルフと呼ばれる、魔獣の中でもトップランクの実力を持つ魔獣であったが、内政官であるリーアの補佐官を務めるビーストテイマーのクウァンに幼少の頃に捕獲されて、クウァンからジータに譲られてから長く時を一緒に過ごしており、ジータと狼は、家族同然の間柄であった。
なお、このカイザーウルフの名前は「シロ」であり、その名前を知ったジータの部達は、自分達の上司のネーミングセンスのなさに恐れおののいたのは余談である。
「情報ありがとう。もう部隊に戻ってかまいませんよ」
ジータのその様子を見たカエデは、ジータをフォローするように伝令の兵士に対し原隊に戻るよう伝えた。
「は!了解です。」
兵士はカエデに敬礼した後、騎竜に乗って上空に舞い上がると、自らの部隊がいる方角に向かって飛んで行った。
兵士が飛んでいっても、ジータが身を起こす気配はなく、流石に不憫に思ったのかリカルドがジータに声をかけた。
「大将、ワイバーン程度の魔獣なんて大将の手を煩わせるほどのやつでもないでしょう。そう落ち込みなさんな」
「・・・でもよ~、こうも何もないとよ~」
狼の背につっぷしたまま、うんざりしたような声で答えるジータ。
「ジータ殿、そう腐らずともいずれ機会は来ますよ」
立ち直る気配のないジータに、カエデは確信めいたような言葉を投げかける。
ジータは、つっぷしたまま顔だけをカエデの方に向け、何でそんな風に断言できるのだと言わんばかりの目線でカエデを見た。
そんなジータの意図を汲み取って、カエデは自分の考えを話始める。
「これだけ肥沃な大地が広がっているのです。魔獣もそうですが、拙者たちのような国を作って住む者達もいるでしょう。そして、その者達が、すべからく帝国と友好的とは限りません。いずれ、ジータ殿や拙者たちの力が必要となる時が必ずくると、拙者は考えています」
だから、いずれ力をふるう機会はあると、ジータに言外に伝えるカエデ。
カエデのその言葉に納得するものがあったのか、ジータは、突っ伏していた体を起こす。
「ま、しょうがないか。今はおとなしく警戒任務続けるか」
そう言って、気持ちを切り替えて、二人に声をかけつつ、自分が乗っているシロの首筋を撫でるのであった。




