推しの令嬢、守護します! 1-15
◇ ◇ ◇ ◇
カリス経営 酒場。
一日の営業を終え、日課になっているカリスとの新作料理の研究をしながら、エドガーは考えに耽っていた。
エドガーの発想、日本での経験を元に、カリスは料理の再現に集中しきっており、厨房は料理を作る物音だけがこだましていた。
真剣な面持ちで料理するカリスを尻目に、エドガーは今日の出来事に関して、思い返した。
(レベルタとあの貴族の爺さん、まさか知り合いとはなぁ~~……)
エドガーは、カリスの店に来店したオルレッド・ガウスマンと、エドガーの師であるレベルタが、酒場にて偶然遭遇し、その二人のやり取りを見ていた。
レベルタとガウスマンのやり取りから、エドガーは二人が見知った仲である事を理解した。
そして、その後も二人で会う約束をレベルタは取り付け、エドガーはその一部始終も目撃していた。
(レベルタのあの様子だと、俺の話もしてそうだなよな……。
あの人、俺に対してもあんま良いイメージ持ってないし。
――悪く言われてそう…………)
エドガーはガウスマンを交え、レアリーの好みや彼等の情報を引き出そうと目論見を立てており、レベルタにより出鼻を挫かれた可能性が出てきた事を危惧した。
エドガーは現状を憂い、自然と溜息を付く。
(もうあの爺さん、俺を疑った目で見てくるだろうな。
当然だろうな、俺でもそうする、不気味でしょうがねぇもんな。
――最悪、この店にもう来ない可能性すらある。
レベルタは、俺がジェイスと関わりがある事を知ってるし、その話を爺さんにしてるだろうしな)
エドガーは完全に八方塞がりであり、自分が動く事で状況が好転する事は無く、殆ど神頼みに近い状況に陥っている事を悟る。
(まぁ、レアリーとこんなに幼少期に出会えた事自体が、儲けものだし。
まだまだゲーム本編にすら入ってない……、パシフィニア学園に入学する為の準備は殆ど整ってる。
変にレアリー嬢とこれ以上関わる方が、今後の事を考えると悪影響出そうだな)
レベルタのエドガーへの印象は良くなく、そんなレベルタからの報告である為、ガウスマンがエドガーに対して、悪いイメージを抱く可能性が大きく出てきていた。
そしてガウスマンを経て、孫であるレアリーに対しても悪い影響が出始める事を、エドガーは危険視し始めた。
(ただでさえ、嫌われてるからなぁ~~、レアリー嬢には……。
このままの関係で終われば、生意気な平民のクソガキ程度の認識で終わりそう……、何なら、記憶にすら残らなそう)
エドガーはガウスマン達に、来店をされなくなる事を、最悪の想定として考えていたが、途中で考えを改め始め、もはやこのまま来店されない事の方が、悪影響が出ないのではないのかと、そう考え始めた。
「まずいねぇ~~」
「――え!? 不味いッ??」
状況の悪さに、思わずエドガーは愚痴を零し、一言も声が発せられなかった厨房で呟いた、エドガーの言葉は、簡単にカリスへと届き、カリスはエドガーに振り返りながら、聞き返した。
「え? あ、違う違う。
料理じゃなくて……。
ちょっと考え事だよ」
「なんだ、考え事か……。
――お貴族様の事?」
料理の評価ではないと知ったカリスは、ホッと息を付きながら、調理へと再び集中し、作業をしながらエドガーの悩み事を言い当てた。
「ん? まぁ……、そうだね」
「やっぱりか。
お父さん、エドガーが何考えてるのか分からない事が多いけど、危ない事は止めてな??」
カリスは、エドガーの新作料理の提案もあり、自分の子供でありながらも、その異質さには気が付いており、またもや計画や策略を考えていると推察していた。
エドガーの考えを、具体的に推測するまでには、至らなかったが、カリスは、エドガーが悪い事をしようとしているとは思っておらず、エドガーを止めようとまではしなかった。
「危ない? 大丈夫、大丈夫。
俺はビビりだからね~。 危険を感じたら即座に逃げるよ~~??」
「本当か? ファラも口には出さないけど、心配してる節はあるぞ?
好奇心旺盛で、挑戦的なのは良いけど、無鉄砲にはなるなよ?
――危ない事はしない事。
いいな? これだけは親父との約束、男の約束だからな~~?」
カリスの注意を茶化すような、そんな返答をしたエドガーに、カリスはエドガーに視線を向ける事無く、淡々とした様子で話した。
そしてカリスは続けて、エドガーに語り掛ける。
「親よりも先に子供が逝ってしまうなんて、こんな悲しい事はないんだから……。
せめて孫を見せるくらいの年齢ぐらいまでは、元気に成長し続けてくれよ~~。
――よしッ! そろそろ出来るぞ!!」
料理に集中力を割いていたカリスは、発言する内容を事細かく配慮しておらず、ただただ本音を駄々漏らしていた。
カリスのそんな発言に、エドガーは今まで、考えもしなかった生前の両親、上原 望として生きていた頃の両親を思い出す。
上原 奏を亡くし、そして恐らく、その後に望までもを亡くした両親の心情を、エドガーは想像し、カリスの言葉をより深く受け止める。
「――分かってるよ。
気を付ける」
カリスの言葉を、今度は茶化す事は無く、エドガーは真面目に受け答えをし、頭の片隅にカリス達の思いを刻んだ。
そして、そんな閉店をした酒場に、来訪を告げるベルが鳴り響く。
「あれ? こんな時間にお客さん??」
酒場は既にCloseの看板を出しており、看板を出す事で、来店するお客さんが入ってくる事は殆どなかった。
「扉、まだ鍵閉めてなかったかも。
エドガー、お客さんの対応と鍵閉めお願いできるか?」
「了解!」
カリスに指示され、エドガーは厨房を出ていき、フロアへと顔を出す。
「すいませ~~ん、お客さんッ!
今日はもうッ……」
来訪者に声を掛けながら、フロアへと顔を出したエドガーは、来店した人の顔を見るなり、途中で言葉を途切れさせた。
「おう、ガキンチョ。
一年半ぶり」
フロアにいたお客は、エドガーにとても縁のある人物であり、最近は酒場への来店も、極端に減った事から、久しぶりに顔を合わせる人物でもあった。
「ジェイスさん?」
フロアにいた来訪者は、トレブ・ジェイスであり、最近は見慣れないジェイスの姿に、エドガーは驚いた。
「久しぶりに、話したい事があってな」
ジェイスは、何か困った表情を浮かべ、頬を軽く描くようにして、エドガーにそう告げた。




