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スズメバチの巣から救助 その96

「え? 埋めるの?」


栃原先輩が聞いてきた。


「目を覚ました時に、無詠唱で魔法を掛けられるやつなら困るからね」


目が覚めても、地面の中じゃ、対応出来ないからだ。


 後は、燻煙剤に火を付けて、大量に送りつけた。

 ホームセンターで箱で買ってきていたのだ。商品を展示する時に、プラスチックのケースに入っているのを並べるが、店舗にはそれを積み重ねて梱包されてダンボール箱で運ばれてくるのだ。


 今回の依頼は、必要経費が全額払い戻される。その為、お金が使い放題なのだ。業務用なら、もっと良い物が有るのかも知れないが、家庭用となると効果が弱く、大量に必要になるのだ。


 燻煙剤を四箱分を送りつけて、次は練炭だ。

 練炭は7個を一つに括って、二段14個で売っている。

その上に蚊取り線香を山ほど積んで送り続ける。

 最近の練炭は、中央部がよく燃えて、マッチ一本で着火するように出来ている。一旦火がつくと、途中で消えることがない。



ガサガサガサ、


「あんた達! ここで何をしてるの!」


 振り返ると、蘇我さん、桐崎、鶴見さん、少し遅れて白本さん、ずっと遅れて山田先生が山を登って来ていた。枝を掻き分け、歩いて登って来たようだ。もちろん、道など付いていない藪の中をだ。


「ん? 蜂退治」


(怒られる筋合いは無いが。それが目的で来たのだから)


 遠くで、サイレンの音がする。


(救急車は5台と言ったのに、数が少ないなぁ)


「ここに蜂が居るって、どうして言えるの?」


「吉田さん?」

「吉田ぁ〜!」


「せんせーぃ!」


(おりゃ? この娘は『吉田』と言うのか? そう言えば学校で、そう呼ばれていたなぁ)


「あんた達、この娘に何をしたの?」


「いや、何もしていないよ。何をされてるかが解らないんだ。手の打ちようが無いんだ」


「蔵内、蔵内か?」


(二人目の名前が判明! って、何人拉致されてるんだよ)


「救急車を呼んでるから、触らないでね。何されてるか解らないから」


「どう言うこと?」


「卵など産み付けられていたら、回復すると卵が成長するかも知れないからね。手出ししないで、プロに任そうと思うんだ」


ガチガチガチガチガチ


「私が診て見ようか?」

蘇我さんが言ってくれているが、蜂が上空にいる。


「あの先生を引き離しといてくれ」

「上、来てるんだ」

「あの、『ガチガチ』って音は、ハチの威嚇音なんだ」

「終わったら診てあげて」


「ええ、じゃあ逃げないと、急いで逃げないと」

桜木が上空を見て慌て出す。


「ふふふあはは! この状況で?」

「やつに知能があればなぁ。今なら、尻尾を巻いて逃げだせただろうに」

「俺なら怖くて、こんな奴らが居るところによう近づかないよ」


俺は、桐崎と蘇我さんと靏見さんを順に見渡した。


ガチャガチャガチャ。


 何処からか帰って来た、巨大スズメバチが、巣を壊されて、我々を威嚇して来る。


 俺はゆっくりと振り返って、


「葉月、ワイバーンの時みたいに、叩き落として」

「桜木、突き殺しといて」


「「「「「「ええ?」」」」」」


「ええ」


「俺?」


 瀬戸山さんが片手をスズメバチに向けると、近づいて降下してくるスズメバチが放物線を描いて落ちて来た。

落ちたら、手足を縮めて苦しんでいる。

 そこを桜木が、左手でカメラを構えて、右手でヤスを構えて、口を狙って放つ!

ヤスが突き刺さってスズメバチは動かなくなった。


 俺は、作業を続けている。


「ワイバーンって何?」

「おお、凄いぞ藤波、いい絵が撮れたぞ」

「スズメバチが……。」


「はじめ! 大丈夫?」


(栃原先輩の声だが、『はじめ』って誰だよ?)

顔を上げると、桜木のことだった。


「君、その蚊取り線香をどこに送ってるんだ?」


(各々が好き勝手の喋ってるんじゃねぇーよ。会話が繋がっていないじゃないか)


 ただ、俺は黙々と作業を続けている。


 蚊取り線香が無くなったので、次にポリ灯油缶に、新品の雑巾をねじ込む。雑巾は、ホームセンターで何枚かセットで売っている奴だ。新学期が始まると、学校に持っていけるように売っているのだ。

『ジェット云々』と言う殺虫剤や24時間云々の 殺虫剤をガムテープでポリタンクに貼り、雑巾に火を付けて送る。


「ポリタンクに火を付けて大丈夫なの?」

瀬戸山さんが聞いて来た。


「大丈夫じゃ無いさ。すぐに熱で溶けるさ」

「燃えて、缶が爆発して、薬剤が撒かれるさ」


「だから、どこに送ってるんだ!」


「これで死ななかったら、桐崎でも送るさ」


「私、あんなかっこするのはごめんよ」


(セブンオブナインになれなかったのは、俺のせいじゃ無いよ。日頃の君の生活の結果だ)


「次は、栃原先輩に頼むよ」


「なんで?」


 俺は黙って作業に戻る。

(まさか、『栃原先輩の方がスタイルが良い』とは言えないしな)


「お前ら何やってるんだ!」


(さっきから何言ってるんだ? この教師?)


「さて、5、6時間待てば良いだろう」


「あんた達なにやってるの?」

蘇我さんが再び聞いて来た。


「一酸化炭素中毒、勇人の得意技よ」

(得意技は止めろ! よく使うけど)


「誰を中毒にするのよ?」


「その前に、薬剤を大量注入しているだろう」


「スズメバチ」

瀬戸山さんが地面を指差して言う。



 警察と消防が山を登って来た。

魔法協会の人が先頭で誘導して来ている。


「あ、藤波です。被害者の生存者はあちらに、何をされているのか解らないので、そのまま安静にしています。犯人だと思われる人も確保しています」


「ご苦労様です。って、高校生か?」


「ええ」


「ウサミミパラダイスに会えるとは、光栄だなぁ」


「今回は、僕一人ですよ。パラダイスの依頼ではないですよ」


「ああ、そうなのか」


「瀬戸山さん、彼を出して、引き渡してくれる?」


「あら、出して良いの?」


「お願いだ」


 瀬戸山さんが呪文を唱えると、地面に穴が空き、中から括られた男が出て来た。男は、まだ夢の中だった。


「犯人は引き渡しますよ」


「他に生存者はいないのか?」


「調べた限りではね」


「どうやって調べたんだ?」


「魔法による感知 」

「自分でしてみたら? 生存者はいませんよ」


「『生存者は』か」


「スズメバチの幼虫への餌やりって知っています? 狩ってきた昆虫を、生きたまま噛み砕いて、ペースト状にした肉団子を口移しで与えるんです」

「人などの哺乳類には苦痛でしよ。痛みを感じますから」


「壮絶だな」


「無事だった人たちはそこに」

「ハチの毒は、細胞組織を融解して、血球を破壊して、毒の回りを早くするのです。俺には対処方法が分かりません。プロの医者に任せますよ」

「あれ? 毒か? そうか、毒か?」


「ああ、解った。こちらで対処する」


 俺は立ち上がって、被害者の所に行った。

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