スズメバチの巣 その95
「私は、相模川高校の教師で、生徒が連れ去られたんです」
「この近くに……。」
「君はウサミミパラダイスの……。君の相棒の子が座標を送って来てね。駆けつけたところだよ」
山田先生の話を遮って、おじさんは真里亞に話しかけて来る。
「場所はどうやら、この山の中腹らしいのだが、応援を待っているところだ」
「じゃあ、我々は先を急ぎますね」
「君は、桐崎君だろう。気をつけて行けよ」
「応援が到着したら、すぐに追いかける。気をつけてな」
桐崎達は、山の中に分け入った。
俺は、受信機の反応が有った、その辺りに着地した。
続いて、栃原先輩も降りて来た。
俺は、神奈川県警と魔法協会東京支部に連絡をして、現在位置の座標を送る。
そして、瀬戸山さんの持っているアンテナと受信機を回収し、桜木にヤスを渡す。
今は何でも有る時代だ。ヤスだって釣具屋に行けば売っているのだ。
竹の棒に三又に別れた矢じりがついているようなものでは無い。
カーボングラスファイバーの竿に先端の矢じり部分はステンレスだ。三本に分かれておらず、一本で、返しは、昨夜の内にもう削り取って有る。
三分割出来て、全長は2.2m。
サザンに頼んで、頑強と自動再生、威力増大の魔法を掛けてある。
刀なら1、2回は受けられるし、折れたり、刃がこぼれても、袋にしまって一晩置いとけば、元通りに直っている。
威力も、魔法の道具が使えるものが使うと、プレートメイルぐらいは通る。
「おい! 自分の身は自分で守れ!」
「ここで死ぬのは、お前か俺かだ」
「こんな細いので大丈夫か?」
「十分硬いよ」
「口から脳を狙うんだ。脳か心臓以外は死なんぞ」
「心臓は何処だよ?」
「知らん」
「脳にするよ」
桜木は、ヤスを槍の様に構えている。
(こいつ、ヤスの使い方を知らないんじゃ?)
「貸してみろ」
俺は、ヤスのゴムに、指を親指を除く4本だけ通し、引っ張って持った。
近くの木を狙って、指を離した。
パシュ!
ゴムが縮んで音がする。ヤスが数十センチ飛び出て木に刺さった。
「おお、そう言う風に使うのか」
ヤスの使い方を理解した様だ。
(本当の使い方は、来年にでも、海で覚えてくれ)
俺は、トリコーダで地面をスキャンしてコミュニケーターの位置を調べた。
ざっと、50mほど地下だ。
コミュニケーターの周りに、生きている人が4体ほどいる。全員で五名だ。
不思議な事に、近くにスズメバチはいない。小部屋に押し込められている感じだ。
この様子じゃ、今すぐ、幼虫の餌になる事はないだろう。
巣穴の形状も調べて画像化する。
地上近くまで伸びてる穴が出入り口だろう。
俺達は、再度、箒に乗って飛んで行き、穴を見つけた。直径1m程度の斜めの穴だ。
ウェストポーチから小枝を取り出し、岩を発生させる。
直径4.5mぐらいの岩が、目の前に発生して、落ちていった。
ドーン、バキバキバキ。
付近の木をなぎ倒して、多分穴は塞がった。巨大な岩が、大地にめり込んでいるので、密閉もされているだろう。
岩は空中で発生したから、落ちて行ったのだ。この小枝は、岩を発生するだけの魔法の杖なので仕方がない。
岩に維持する魔法なども掛けて居ないので、ほぼ45時間で魔力が切れて消失する。
桜木が、顔を引きつらせて撮影している。こんな映像が面白いのだろうか?
俺達は、元の場所に戻って着地した。
「さあ、彼女達を救出するから準備して」
「何をするの?」
「多分、生きてるが麻痺してるはずだ」
「どうするの?」
「わからん」
「ハチは昆虫は麻痺をさすが、哺乳類には聞いた事がないから」
俺は、転送シートを広げて、先程の五名をロックオンする。
「コンピュータ、上陸班と他四名転送!」
光の人影が、徐々に実体化して行く。
完全に実体化した時、一人が大声で泣いていた。
「今度は何ぃー!」
「何処よここ?」
「もう、大丈夫よ」
「ここは表よ。貴女は助かったのよ」
瀬戸山さんと栃原先輩が落ち着かせていた。
この一人を除いて、全員が意識が無かった。医学的知識の無い俺には、回復させて良いものかどうかが解らない。
せめて、何をされたかだけでも解ると対処できるのだろうけど。
とりあえず、救急に連絡だけして、プロに任そう。
「は……、葉月、手伝って欲しいのだけど」
「ん? あら、なぁ〜に」
(瀬戸山さんは名前で呼ぶと機嫌が良くなるが、上から目線になる)
「枯葉と生の葉っぱや小枝を大量に集めて欲しいんだけど」
「風か竜巻で」
「良いわよ」
「花田さんの時に、これを買っていたんだけど、使うかなぁ?」
俺は、ミスリルで加工した扇子と木のカバーの付いた某オイルライターを渡した。
扇子は、竹林に庵の絵が書いてある男物だ。
「サイズはこれぐらいでないと、力負けするだろう」
パシュッ!
瀬戸山さんは扇子を広げて、一回扇ぐと何やら、ほんの一瞬待っている。
ダシュッ! ドオオオォー!
辺りが竜巻に呑まれたかと思うぐらいの突風が吹いて、落ち葉、まだ生えてる葉、小枝を関係なく集めだした。
風は渦を巻き、つむじ風と言うには強すぎる風が吹いている。
栃原先輩は、足場が悪かったのか、よろめいて飛ばされていた。
桜木は木にしがみ付いている。
(このクエスト、俺いる?)
俺は、転送シートが飛ばされない様に四つん這いになって、上から押さえている。
風が止むと、落ち葉の山ができていた。
救出した人達は、枯葉で埋まっている。
「凄いね。次は、もう少し抑えてくれると嬉しいのだけど」
一応、本当に微力ながら、俺も草をむしったり、落ち葉を拾って集めて置いた。
俺は、ガスバーナーを取り出し、ガスタンクをセットする。
山積みの枯葉の下の方に火をつけると、穴の中に転送した。
二度、三度繰り返して、落ち葉を穴の中に送り込んだ。
後は、煙が出て来ないか、山の方を見ていた。
「どうしたの? また、一酸化炭素中毒?」
(人をなんだと思ってるんだ? まあ、後でするけど)
「ああ、さっきスキャンした時に、人が居たんだ」
「被害者じゃなく?」
「たぶん、犯人だ。魔法使いか、マッドサイエンチスト」
「何それ?」
「蜂は、自然にはここまで大きくならないよ」
「誰かが大きくしたんだ」
「そして、その誰かがあいつだ」
「そして、人がいる以上、換気扇か換気塔があると思ったんだけどね」
「それが、無いみたいだ」
「無いなら無いで、作戦続行するだけなんだけど」
「手伝って」
「何をするの?」
「あいつを転送するから、眠らせて」
「わかったわ 」
俺は、転送シートを操作して、男を一人、転送させた。
男は、光の粒子が実体化した時、葉月にすかさずスリープを掛けられて倒れた。
ウェストポーチから、新品の雑巾を取り出して、口の中に突っ込んだ。
その上から、ガムテープでぐるぐる巻きにして、手足は結束バンドで執拗に止めた。
手は、甲同士が合わさる様にして、指も結束バンドで止める。魔法を使わさせない為だ。
一応、目も耳もガムテープでぐるぐる巻きにして置いた。
そうして、瀬戸山さんに、埋葬の呪文を唱えて貰った。
男のいた地面に穴が空き、落ちて行った。魔力が強いせいか、穴が結構深い。
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