出会いと別れ その88
俺は、二人を校舎裏に連れて行き、花田さんに話をする。
「花田さん、カマイタチを使ってみて」
「ああ、でも弱いよ」
チュプん!
小さいまさに鎌のように三日月状のカマイタチが弧を描いて、風に流されて飛んで行く。
「今度は、これを使ってみて」
俺は、昨日買った扇子を渡して言った。
パラララシ。
花田さんが扇子を開いて構えている。
バン!
扇子で扇ぐと、先ほどの五倍はあるかと言う大きさで、力強く、真っ直ぐに飛んで行った。
「おおお! スゲェー! これは魔法の扇子なのか?」
「いえ、普通の扇子ですよ」
「精霊魔法は、その精霊の加護がないと使えません。ただし、風の精霊は、人口の風の中にもいるんですよ」
「おお、成る程ね」
「次は、火炎放射」
「ここは、火の気がないからなぁ」
チョロ。
「まあ、火の気がないし、そんな物でしょう。これを使ってみて下さい」
俺は、アニメキャラの描かれたジッポライターを渡す。
昨夜の内にオイルは入れてある。
シュッ、ボッ!
ライターに火が点いた。
ボオオオォォー!
先程より、明らかに大きな、強い炎が現れた。
「うわーっ!」
出した本人が驚いている。
俺は、左腕を捲り、校舎のコンクリートで擦って血を流さす。
「花田さん、癒し、回復は水の精霊なんです」
鞄からペットボトルの水を出し、傷にドボドボとかけて言う。
「さあ、治してみてください」
「俺が? 出来るのかな?」
「出来ますよ。自信を持って」
俺の左腕の傷がみるみる消えて行った。
「これが精霊魔法なんです。俺には使えませんけどね」
「え? こんなに詳しくて、使えないの?」
「ええ、全く」
「精霊魔法は、精霊にお願いする魔法です。精霊がいないとこでは使えないし、沢山いるところでは、すごい効果が出ます」
「使い方に気を使うと、素晴らしい効果が出る魔法なのです」
「森野さんには、これとこれ」
俺は、金田部長から巻き上げた魔晶石と魔法の杖をプレゼントした。
魔晶石は、ミスリルで竜の彫金をほどこして有る。
杖は、木の根っこの様なものでなく、イギリスの魔法使いの映画で主人公が使っていた、指揮棒の様なものだ。映画の流行で、あっと言う間に指揮棒の様な杖が主流になったらしい。
「有難うございます」
「『witch sisters』のピンクの娘は、お茶を沸かしたりトーストを焼いたりしていたよ。毎日が修行らしいよ。日常動作の中で、無理にでも魔法を使って、レベルをあげて行くんだって。見習うといいよ」
「本当ですね。有難うございます」
そんな事を話していたら、瀬戸山さんが来た。
「ユキちゃーん!」
「ハヅキー!」
「ごめんねー、お構い出来なくて」
「うんん、ハヅキすごーい! あんな事出来るなんて。学校の人気者じゃん」
「そんな事ないよ。センパイが人気あるだけで、あたしなんか、まだまだ」
(そら、そんな地味メンじゃ人気でないだろう)
俺は思うのだが。
「葉月、それ可愛い!」
森野さんが、葉月の耳飾りを見てそう言った。
「なんか、どこかで流行ってるんだって」
「え? 流行ってるのォォ?」
瀬戸山さんは、森野さんのそばに行き、耳元で囁いた。
「どこかのお馬鹿さんが、店員さんにそう言われて、買わされたのよ」
「え? あんなにしっかりしているのに」
「そうでもないよ。私がしている事に気付いてないもの」
「え? 自分で買ったのに? 鬼殺す!」
「そういう奴なのよ」
「誰にでも優しいしねぇ」
「最低〜ぇ」
「あなた達が来る事を、昨日から伝えてあるから、きっと何かするわよ」
「え〜?、あっ!」
森野さんは、花田さんへのレクチャーと、今貰った杖と魔晶石を思い出した。
「あら、もうしてた? ねえ」
「本当……。」
二人は顔を上げて、普通に話し出し。
「これから、どうするの?」
「えーっとね、今日は渋谷のハロウィーンに行って、明日はネズミーランドのハロウィーンに行くの」
「そうなの、楽しそう」
「花田さんに連れて行ってもらうんだ」
確かに、この時期のイベントとしては、外せない行事だ。
二人はこの後、散々、話し込んで盛り上がっていた。
「花田さん、失礼ですけど、木刀だけは降って置いたほうがいいですよ」
「世の中、魔法なんかより直接殴りに行ったほうが早い事が多いですから」
「そうだね。鍛えとくよ」
「俺さぁ、高認か夜間考えてるんだ。今年はもう間に合わないけど、来年、ちょっと頑張ってみるわ」
「家の近所から出るの久々なんだよ」
「このままじゃ、困るし。あいつと一緒に大学受験は嫌だから、ちょっと、頑張ってみるわ」
(なんでこの人、俺に語ってるの? 自分の人生だし、好きにしたらいいじゃん)
「そうですか、将来の為なら頑張ってくださいね」
当たり障りのない返事をして置いた。
「じゃあ、一般の人は15時閉門だから、私達は後片付けが有るの」
「そうなの? あたしきっとこの学校に来るわ」
「じゃあ、待ってるね」
俺達は二人を見送った。
「わたし、反省会と後片付けが有るから、行くね。6時に体育館の前でね」
瀬戸山さんは、二人を見送ると、ダンス部か魔法部の反省会に行ってしまった。
俺は教室に戻ったが、特に誰かいるわけでもない。ガラーンとした、だれもいない教室だ。
窓の外は、いわし雲がややオレンジ色の光に染められ始めている。赤く染まるには、まだまだ時間が必要だ。
まだ少し時間があるので、問題集を解いて行く。生徒が何人か戻って来ては出て行くが、特別気にはしない。
声を掛けることもないし、掛けられることもない。帰宅する生徒とは適当に挨拶を普通に交わしている。
魔法部は、喫茶店のブースを壊していた。作るのは時間が掛かるが、壊す分には作業が早い。
しかし、部員全員が無口でふさぎ込んでいる。
金田部長は重症で入院中、栃原副部長は退部すると言っているからだ。
鏡屋元部長が顔を出している。
作業は、後何回かゴミ置場にゴミを運べば終わりだろうと、作業に目処がついた頃。
「おい! 全員で運ぶぞ! そしたら、一回で済む」
鏡屋元部長が音頭を取って、上級生もゴミを捨てに行く。
「栃原、意思は変わらんのか?」
「ええ、サッパリしました。もう、未練もありませんよ」
「そうかぁ、桜木なぁ〜。なんとか出来ないかなぁ」
「彼も男ですからね。なんともならないでしょう」
みんなでゴミを捨てた後、少し離れて歩きながら二人は話している。
お互いと部員達が納得するだろう話の着地点が見つからない様だ。
部室に帰ると、緊急会議が開かれた。栃原副部長は、退部すると言っており、また、部長も重症で、クラブどころか登校もできない状態だ。後任の部長と副部長を至急決めないといけない。
「金田部長の入院に伴う、部長代理の選考、及び栃原副部長の退部による副部長の選考について」と言う議題でで話し合われていた。
部員達にも、金田部長の怪我の原因が、副部長と桜木への私怨で有り、栃原副部長の復讐であることは承知していた。
それ故、栃原副部長は退部すると言っているのも理解している。しかし、栃原副部長は、現在の魔法部には必要な人材なのだ。
もう既に、議論は三回ループしている。話がまとまらないのだ。




