葉月無双!主役交代か? その82
「フローラ、他のみんなに20分は頑張って欲しいと伝えてくれ。前回より、容量が大きいんだ」
「瀬戸山さん、顔の周りにきれいな空気を作れるようになった? それが出来ないと、今日は連れていけないよ。死ぬからね」
「出来るけど、どうして?」
「一酸化炭素中毒か?」
ニートが代わりに答えてくれた。
「ええ、貴方も近づかないで下さいね。入ったら死にます」
「ああ、その為の油粕か。密閉しているし、不完全燃焼だな」
その場で、20分程待った。
炎は収まったが、まだ油粕からは煙が上がっている。
そろそろ出発するかと、魔法の鞄より箒を取り出す。瀬戸山さんも黒猫のポシェットより箒を取り出している。
「俺の後ろにいてね。絶対、前に出ないでね」と念を押しておく。
フローラが左の肩に立って、耳や髪を掴んでいる。
「サザン、準備は大丈夫?」
「勇人、いつでも大丈夫ですよ」
「瀬戸山さん、魔法かけた?」
俺には、全く見えないので、聞くしか無いのだ。
「ええ」
瀬戸山さんの髪が後ろに棚引いている。顔の前に空気が発生している証拠だ。
(なるほどな)
「フローラ、頼む」
「はーい、勇人ったら、大事な時には私がいないといけないんだからぁん」
顔に風がかかっているので、魔法がかかっているのだろう。
俺達は、箒に跨って飛んで行く。瀬戸山さんはお姉さん座りで乗っている。
妖精達の結界の中に入ると、雑魚の妖魔達は倒れて絶命しているか、ピクピクと痙攣して倒れている。
サザンは、俺の背中から細い糸のような触手を出して、雑魚の処分をして行く。
これは、サザンにとっては食事なのだ。これだけの魔核を一度に食べられることはまずない。いや、スライムだから、一生なかっただろう。
彼の能力には「生命力奪取」が有る。元はスライムだが、現在はチートな妖魔なので、彼の攻撃には雑魚の妖魔には耐えられない。触れられると抵抗も虚しく、一瞬で死んでしまう。そこで、体を糸のように細くして、長く横に流して、触れる者を殺して食っているので有る。
妖魔の食事は、他の妖魔の魔核を食うことだ。肉体の方は、肉体を形成する為に摂取するが、特に必要はない。魔核が成長に必要なのだ。
サザンの細い触手のような体に赤い光が吸収されて、本体が有る俺の体に運ばれてきている。
運ばれてはいるが、俺の体に運ばれている訳では無いので、特に何も感じない。
瀬戸山さんは、片手で箒に捕まり、片手でカマイタチを発生させて、次々と妖魔達を惨殺している。
空飛ぶジェノサイドだ。
(あんな一面があったんだ。今度からは逆らわないでおこうっと)
魔王のベルゼブブ将軍とドラゴン達は、もう伸びて動けないでいる。
ベルゼブブ将軍は、右手右足をダラリと垂らし、口からよだれを垂らして、ドラゴンの背中に設えた椅子にグッタリともたれている。
「サザン、憑依を解いてもらえるか? 俺の力で倒してみたいんだ」
「いいぞ、勇人。でも、憑依を解くと防御も出来なくなるぞ」
「ああ、分かっている。あいつならなんとかなるだろう」
「勇人、彼は今、動けないみたいですね」
「爆発タマゴを五つ、脳の中に送り込んでやったからな」
「よく分かりませんが、解除しますよ」
サザンの声が聞こえなくなった。
俺は鉄刀を取り出して、片手で構えている。
「フローラ、この前の頭の「ここを使うのよ」って奴をして貰えないかな?」
「仕方がないわね。そんなに私の胸を触りたいのね」
バシッ!
一応、フローラを叩いておく。
俺は左手でフローラを掴み、後頭部をフローラに向ける。
「もう! ここを使うのよ」
フローラは、足を後頸部に掛け、左手で髪の毛を持ち、右手で後頭部を抑えている。
暖かい電気が頭から頸部を通って腕に流れてるのが分かる。
ステンレスの鉄刀に紫色の魔刃が細くか弱く発生している。
俺は、動かないドラゴンの上に着地(着竜?)して、ベルゼブブの所まで歩いて行き、胸を突き刺した。
反撃も何も無い、一方的な戦いだ。
ベルゼブブ、右目だけをギョロリと動かしたが、何も出来ずに死んだ。
ベルゼブブの胸から鉄刀を抜き、首を刎ねた。
倒れた死体から、赤い血が流れている。先に、心臓を貫いたので、首の切断面から血が吹き上げることはなかった。
次に、倒れている足下のドラゴンの首を撥ねようと鉄刀を振り下ろすが、鉄刀の刃渡りが短く、ドラゴンの首は刎ねられなかった。
絶命はしたが、首は繋がったままだ。締まりが無いが、数度に分けて切り落とした。
いつまでも遊んでいる訳にもいかないので、再度、サザンに憑依してもらう。
「有難う。ドラゴンの首はは刎ねられなかったわ」
「仕方が有りませんね」
鉄刀の魔刃が、赤く炎の様な文様に変わって行く。
俺は、鉄刀を他のドラゴンの首に向けて空振りすると、赤い魔刃が伸びて、ドラゴンの首を刎ねた。
サザンの力による魔刃は、魔力の桁が違う。ドラゴンの首も一撃だ。
鱗の防御も何の役に立っていない。
瀬戸山さんが、カマイタチをドラゴンに飛ばしているが、ドラゴンには傷すら付かない。
鱗で守られているドラゴンにカマイタチじゃ役者不足だろう。
「やっぱりダメねぇ」
「ドラゴンの身体を大きな真空で包むんだ。後は、鼻の中に高圧空気か氷柱を突っ込んで、脳を狙うんだ」
「え? そうなの?」
瀬戸山さんは、不思議そうな顔で俺を見る。
「エアーポケットさ。窒息して落ちてくるよ」
「それに、ドラゴンの周りにかける魔法だから抵抗も何もないし。脳の下部は骨が薄いんだ」
「距離と高さの二乗を足した数字が実質的な距離だ。ちょっと待って」
どんっ!
放物線を描いて、飛んでいたドラゴンが落ちてきた。
瀬戸山さんは、大きなカマイタチでドラゴンを包んだ様だ。
「わおっ!」
(人の話を聞けよ、まったく)
俺は手のひらを上に向けて、おどけて見せる。
ドラゴンの肺の中の空気も体外に鼻から抜け出た様だ。胸がパクパクと速く動いて、前足で顔のあたりを掻いている。
その後、ドラゴンは成すすべもなく絶命した。
「どうしてドラゴンが死んだの?」
「ドラゴンが肺の中の空気までなくなって、肺や血管が減圧して、血が沸騰したんだ」
「そして、沸騰した血液の泡が、各部位で梗塞を起こしたのさ」
「多分、潜水病に心筋梗塞か脳梗塞だよ」
「そうなの?」
俺が、残りのドラゴンを14匹の首を刎ねてる間に、瀬戸山さんが5匹のドラゴンを倒していた。
地面に倒れているドラゴンの死体の鼻に氷柱が刺さっているのだ。
竜族の長の威厳もヘッタクレもあったものじゃない。鼻の穴に、二本のつららが刺さっているのだ。
最後の死に方が、両の鼻の穴に氷柱が刺さって死ぬなんて、竜族最大の屈辱だろう。
その後、地面に落ちて、ジタバタとしているワイバーンを嬉々として狩っていた。
飛んでいたワイバーンも、突然、放物線を描いて落ちて来ている。CAT(Clear Air Turburence)だ。飛行物のワイバーンが、いわゆるエアーポケットに入ったようなものだ。ここはバミューダ―海域か? 飛んでいたワイバーンが次々に墜落してくる。
ワイバーンの周囲を真空にされたので、翼が揚力を失ったのだ。そして、あまりにも低空を飛んでいたので、地面に激突したのだ。
瀬戸山さんが、首を傾げて舌を出し、可愛い顔をして微笑んでいる。
場にそぐわない笑顔というものが、ここまで「悪い笑顔」に見えるとは思わなかった。
(君が倒して遊んでいるものは、最強、最悪のモンスター、神とも崇められるドラゴンだよ。日本で高校生をしていたら出会うこともないだろうけど)
ファンタジーパーティは、驚いていた。
普段の妖魔に加えて、トロールやグールまで従えて、魔族や、ドラゴンが攻めて来ていたのだ。
ゴブリンでも勝てないのに、ドラゴンなんて勝てるはずがなかった。
愚痴ったら、どなたかブックマークして頂けました。
ありがとうございます。
作者はメンタル弱いので、完結するまでブックマークを外さないでくださいね。




