熱い赤い血の絆 その81
日に三回も花が咲いていたので、六日で通常農家の十八年分の量になる。
単純計算だけでも、相当な量の菜種の量になる。
「ええ? 菜種を集めて、一体どうするんですか?」
「さあ〜?」
しばらくして、ファンタジーパーティ達もやって来て、共に戦おうとやかましい。
彼等は妖精達に何度も回復してもらった様だが、その為に何十匹もの妖精達がゴブリンに食われて居たのだ。妖精達は、一対一ではゴブリンには敵わないのだ。
襲われているものを救出するだけでも大変なのに、妖精のサイズでは至難の技だったであろう。
俺は、自習の方が一区切りついたので、顔を上げると、ファンタジーパーティとニートが俺を囲んで何か言っていた。俺の集中力では、これぐらいで気が散ることはないので、気付かなかったのだ。
(なんだ? こいつら)
瀬戸山さんを探すと、向こうの方で笑っている。
「その人達、一緒に戦って欲しいのだって」
「ふーん、無理。明日の準備があるので、危ないので下がっていてくださいね。明日は、後ろで見ていてくださいね。危ないですから」
俺は大きなあくびをして、脳に酸素を送る。
それを見たファンタジーパーティは、ばかにされたと思ったのか、何やら文句を言って来ている。
聞いてないけど。一応、忠告はしたしね。
この前、サザンに作ってもらった物理障壁のサイフォンを10個ほど取り出す。
これに、物理障壁で作った搾油器で絞った油を入れて行く。
俺には、物理障壁が見えないのだが、設計通りに動いてくれている様だ。搾油器もサイフォンも、トラックより大きく、工場の大型機械ぐらいの大きさがあるので、見ていて壮観だ。
絞った油カスは、これはこれで使うので、横に積んで行く。
これらの作業を妖精達が手伝ってくれるので、作業が捗る。
ファンタジーパーティが、俺らの作業を絶句して見ている。
何もない空間に、菜種油が溜まって行くのだ。魔法が見えない者には不思議で仕方がない。
フローラがパタパタと飛び回りながら、妖精達の指揮を取っている。
サイフォンを扱う者は、魔法の道具を使える妖精を担当に振ってある。
あと、風を起こせる者、小麦粉、トウモロコシの粉を作れる者、空気の壁を作れる者に分けて集まって貰った。
あと、弓と火矢だが、弓は以前使ったのがあるそうなので、矢だけ作ってもらった。矢の先に枯れ草で編んだ燃焼部に松脂などに浸して燃えやすくしたものを用意して貰う。
精霊界に雨や夜は無い。暗くなると暗黒の時代がやって来るのだ。
いつもお天気で昼間なのだ。時計を見ていないと、時間が分からなくなって来る。
翌日だろうと思う頃、空の雲はますます厚く、黒くなり、辺りは暗くなっている。
厚い雲からは、時々、地上に向かって稲光が走っている。遠雷の音が聞こえている。
妖精達も不安に感じているようだ。
前回の魔族の侵攻に比べ、横に三倍、縦に三倍の妖魔達がいる。
以前に比べ、規模がでかくなっている。少しは反省したのだろう。
ドラゴンも100mクラスを筆頭に20頭もいるし、ワイバーンも無数に飛んで来ている。
俺は、前回に比べて、そこそこの数を増員した事は評価してやろうと思った。
空から、地の割れるような声が響いて来た。
「我は魔族の王、ベルゼブブ将軍だ」
「精霊どもよ、皆殺しにしてくれる!」
「おわ〜、もうダメだ。逃げよう」
「だぎゃー!」
「魔族が来たよ〜」
「……、駄目かも……。」
ファンタジーどもがうるさい。
「サザン、あいつらまた、ベルゼブブって言ってるよ。挙句に、王だったり、将軍だったり。翻訳機が壊れてるのか?」
「勇人、ベルゼブブと言ってますね。この間のやつでしょうか?」
「さあ〜、同じ奴なら学習しているかな?」
「勇人、……。どうするの?」
瀬戸山さんも不安そうだ。
「え?」
「あんなのどうするの? ドラゴンもあんなに一杯……。」
「皆殺しにするんだよ」
俺は、魔法の鞄より、発電機とガソリンタンクと電子レンジとぐい呑みと卵を取り出した。
「降伏するなら今のうちだ。苦しまずに殺してやろう!」
空からの声が響いている。
「フローラ、全員を配置位置に移動してもらって。それから、もう菜種油を加熱して」
俺は、発電機にガソリンを入れて、スターターレバーを引き、スターターロープを勢い良く引く。
「プルプルン」「プスん」
(あれ?)
「プルプルン」「プルプルプスン」
(おい!)
「ブロロロロロ」
(おお!)
三度目で、発電機のエンジンが掛かった。
電子レンジのプラグを発電機のコンセントに繋ぎ、水平な場所に固定する。
そして、中の回転皿にぐい呑みを逆さに伏せて置いて、糸切り底の部分に卵を乗せて、電子レンジをスタートさせる。
卵は約5分で破裂した。
「爆発タマゴですね。以前テレビで見ましたけど、こんな時に何やってんですか? 逃げましょう!」
ファンタジーのリーダーなのか? 両手剣の剣士が言って来た。逃亡を誘ってくれているようだ。
「危ないから、あなた達は逃げていてください。決して近づかないでください」
俺は、転送シートを広げて、トリコーダで敵の座標を測る。
電子レンジの卵を五つ入れて、タイマーをセットし、スタートボタンを押す。
「フローラ、始めてくれ!」
「わかったわ。良いわね」
「みんなぁ〜! 始めて〜!」
妖魔達の頭上に、小麦粉やトウモロコシの粉が降り注ぎ、風が粉を舞い上げている。
「ガハ、ガハ、ガハ、なんだ? この白い粉は? 痛くもかゆくも無いぞ!」
「目隠しのつもりか?」
「サザン、あいつ、学習していないわ。別個体かな?」
「別個体かもしれませんね」
「さあ、そろそろかな? スコット、転送しろ」
「勇人、『スコット』ってだれ?」
葉月が聞いてくる。
俺は、転送シートを操作する。サイドバイサイドの転送は初めてだ。緊張しないと言うと嘘になる。
電子レンジの中の卵が、光の粒子に包まれて消えて行く。
「ガハハハハ、精霊王よ! お前達の攻撃は……。」
突然、静かになった。
「五つ共、送り込んであげたよ」
「「「「「え?」」」」
(((((ゆで卵を? 何処に?)))))
「さあ〜〜、プレゼントだ」
「菜種油班、上の蓋を合図で取ってください」
「3、2、1、ハイ! 転送!」
菜種油を入れてある物理障壁の容器は、先に小さな穴が空いていて、中の液体を霧状に吹き出すのだ。
妖魔達のど真ん中に出現した菜種油は、蓋がなくなり、減圧し、沸騰し出したのだ。熱せられて、蒸発し、サイフォンの原理で高温蒸気の菜種油を吹き上げる。
小麦粉やトウモロコシの粉は、風に乗って上や下にと暴れている。
暗黒の雲の下の空気とこちらの空気は、妖精達に頼んで遮断してもらっている。空気のみの結界を張ってあるのだ。
小麦粉やトウモロコシの粉を降らす班は、ドンドン作成している。
それを風魔法で掻き回して貰っているのだ。
戦法は半年前と全く同じ。爆発卵が増えたくらいだ。
指揮官が、声を出せないでいるので、妖魔達は、その場で立ち止まっている。侵攻するための指示待ちだ。
俺は、油粕も、ドンドン転送して行く。
そろそろ、小麦粉が濃くなって来たので、フローラに言って、弓矢を用意させる。
「勇人、何してるの?」
瀬戸山さんが聞いて来た。
ニートは理解したようだ。
「粉塵爆発か? でも密閉しないと爆発はしないぞ!」
彼には、魔法の素質がないので、魔法が見えないのだ。その為、妖精達が張っている空気の壁も見えずにいた。
「見てて下さい」
「フローラ、矢に火を点けてくれ。そして、風魔法で支援して飛ばしてくれ」
俺は、弓を引いて、45度の角度で打ち上げた。
火のついた矢は、弧を描いて飛んで行き、ほぼ中央部に落ちた。
数キロも飛んで行ったことになる。流石に、普通の矢ではあり得ない。
「ボオォーーン!」
火は中央部から外側に燃えながら広がって行った。
爆発は起こっていない。どちらかと言えば燃焼だ。
距離があり、規模の大きい出来事なので、炎が広がって行くのが見える。
菜種油の蒸気は、一気に燃え上がっている。
油粕も炎を上げて燃え上がっている。
見ているこちらまで、顔が火照るぐらいの熱が来るが、炎や爆風はこちらには来ない。
結界の壁で止まっている。
へこむわぁ~。
数が少ないから、増えても減っても目立つのよね。
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