向こうの世界でも その80
「フローラ! コレを王様に持って行ってくれないか」
俺は、ホールケーキを一つとハチミツの瓶を二つ持たせて、王様へお使いを出した。
「ケーキ、足らなかったね」
「俺は、奴らがゴキブリに見えて来たわ」
妖精達は、ケーキを切り分けるという事をせずに、ケーキに顔を突っ込んで食べていたのだ。
向こうから、人が歩いて来た。
この世界に人が居るとは珍しい。
外見は、ファンタジー物のパーティとスエットスーツの上下のヲタだ。
両手用剣、片手用剣、アーチャー、魔法使い、先ほどのニートだ。
剣士二人は皮鎧を着て居る。年齢は大学生ぐらいか。魔法使いはローブを着て、長い杖を突いている。女性で中学生ぐらいだ。
アーチャーは、どこかの大学のアーチェリー部の様だ。大学のジャージを着ているし、弓も滑車やスタビライザーや照準サイトが付いている。腰にはカーボンかグラスファイバーの矢を入れた矢筒を提げている。
ニートは、160cmぐらいの身長に120kgの巨漢。グレーのスエットスーツの上下にアニメキャラクターが描いてある。髪はいつ切ったかわからない長髪に室内スリッパ履きだ。家でゲームでもしているところを拉致られたのか。
「君達は高校生かな? 私達はこの世界に召喚された勇者なのだが、君達もそうなのか?」両手用剣の男が話しかけて来た。
「いえ、高校生ですが、今回は召喚された勇者じゃありません」
「俺たちと一緒に来て戦うか? 俺達は、勇者五人も居るんだよ。多分、安全だよ」
「いえ、良いです。遠慮しておきます」
「今、この国の人達は魔族の侵攻に対して無力なんだ。そこで、魔族と戦う勇者として我々が呼ばれたのだ。この国を救う為、誰かが戦わないといけないんだ」
「はあ」
「共に戦いたくなったら、いつでも言ってくれ。歓迎するよ」
「ああ」
「ありがとうございます。また、機会があったら、ぜひご一緒させてください」
「みんな行こう! 彼は、我々のパーティには入りたく無いようだ。まあ、実物のゴブリンを見たら、考えも変わるだろうけどな」
ファンタジーパーティは、離れていった。
「あんな奴らといたら、こっちが危ないわ」
「それでも、なんであんな言い方するの?」
ぶっきら棒な返事をした事を、瀬戸山さんが攻めてくる。
「かかわらない方がいい奴だっているんだよ」
フローラが帰って来ると、手の空いている妖精達に、この精霊界の大地いっぱいに菜の花を咲かせて、種を採取する様に伝えさす。
これを6日間続けてする様に伝えておく。
俺は、油絞り器とサイフォンの様な噴霧器の設計図に起こし、魔法陣にする。材質は物理障壁だ。シャトルの外側のボディのBー1の応用だ。これで容器を作るのだ。
そのあと、用心の為、サザンを呼び出し憑依させて置く。
今はまだ、設計して魔方陣を書くだけにとどめておく。
「サザン、悪いね。また妖魔が攻めて来たんだって」
「聞いていましたよ」
「世話になるねぇ」
「私も食事ができるので助かりますよ」
「ありがとう」
(さあ、勉強、勉強!)
こちらは時間の流れが速いために、いくら勉強しても、元の世界では時間が進んでいない。
勉強や修行にはもってこいの場所なのだ。
瀬戸山さんは、フローラに精霊魔法を教わっているらしい。
他の妖精は、朝昼二回と夜に菜の花を成長させて咲かすものだから、菜種が山の様に溜まっていく。
勇者様達は、あれから3回死んで(本当は瀕死で妖精に救出されているのだが)、2回全滅、一回遁走している。彼ら、本当に要る?
妖魔が来ている方向は、もう空に真っ黒な雲が広がっているし、大地にはゴブリン達が蠢いている。
数日経つと、一画に見えていた黒い雲と暗黒の大地は日増しに大きく広がって来ていた。雲の下には、ゴブリンやオークがうじゃうじゃと待機している。
六日目の朝、俺は胡座をかいて、花畑で勉強をしていた。
あるワードを覚えるだけで無く、そのワードが答えになる様な逆引き問題を作って、ノートに書き出していた。何種類も書き出す事で、そのワードを覚えていくのだ。
瀬戸山さんはフローラに付いてもらって、精霊魔法の練習をしている。呼吸のできる空気の生成も、出来る様になる様に頼んでおいた。
「ユウト、ゴブリンが近ずいて来るぞ!」
サザンが教えてくれる。
「ああ、俺達は関係ないだろう」
顔を上げて、瀬戸山さんの位置を確認する。
その時、悲鳴が聞こえて、ニートがゴブリンを引き連れて逃げて来た。
まるでRPGのトレインってやつだ。
「助けてくれー!」
「お前らも逃げろー! 殺されるぞぉー!」
(逃げるのか? 助けるのか? どちらかにしてくれ)
俺は、魔法の鞄からフェザー銃を取り出して構えた。
俺のオリジナルの改造だが、引き金にあたるスイッチに指を掛けると、赤色レーザーが出て、照準の代わりになるのだ。これが無いとどこに当たるか解らないからだ。
胡座をかいたまま、先頭のゴブリンに赤色レーザーを当てて、スイッチを押す。
「バシュ」
音がして、光線が飛ぶと、ゴブリンに当たり、ゴブリンは蒸発した。
この光線は、サザンが作った光弾魔法が50連発も飛んでいるのだ。
あの、ビリビリビリとした蛍光灯が飛んでいる様に見える為に、0.5秒の間に50連発も撃っているのだ。これで、人の目からは光線が飛んで行くように見えるのだ。
二匹目に照準を合わせて、スイッチを押す。
バシュ
二匹目も蒸発する。
まあ、五十連発じゃしょうがない、蒸発もするだろう。
そこへ、横から陽炎の様な物が二つ、弧を描いて飛んで来た。
真空と大気圧が有る空気との密度の差で、陽炎のように見えるのだ。
幅7m程のカマイタチが二発。
ゴブリン達が血しぶきをあげて倒れて行く。
ゴブリンに当たったカマイタチは、当たったところは消えるが、周りが障害物のゴブリンを回り込み、進行方向が変わり、広がったり、合わさったりして、拡散して消えて行った。
一番前を走っていたニート君の呼吸音だけが聴こえている。
(ニート君、痩せないと心筋梗塞で死んでしまうぞ)
こんな時って、いつも関係ないことが気になってしまう。
俺は、参考書に目を落として、キリの良いところまでやってしまおうと、勉強を続けている。
「大丈夫ですか? お怪我は有りませんか?」
瀬戸山さんが、ニート君を気遣っている。
「ぜアーゼア、ヒューヒュー、グウワァシュ、ばわイィ」
多分、
「ああ、ありがとうございます。助かりました」とか言っていたんだろうな。
はっきり言って、よく聞き取れない。
相撲取りの一番を終えた後のインタビューのようだ。
瀬戸山さんが、ニートに回復魔法を掛けている。みるみる、手や足の傷が治って行った。
「はあ、はあ、はあ、はあ、ありがとう、ありがとうございます」
「あなた達は魔法使いだったのですね」
「いえ、魔法使いは私だけです。彼は、落ちこぼれ受験生ですかね。ただ、私たちの常識を超える事をよくしていますよ」
(なんだそりゃ、中学英語の教科書の例題か?)
「はあぁ、受験生ですか? 三年生?」
「いえ、まだ、一年生」
「早くから頑張ってるんですね」
「ねえ」
「ところで、こんなに強いなら、俺達と一緒に戦って貰えませんか?」
「明日には、あいつらの親玉がやって来るそうなんですよ。今のうちに倒さないと、手がつけられなくなります」
「さあ〜、あんな事してるので、何か考えてるんじゃ無いですかね」
瀬戸山さんは、振り返り、菜種の山を指差して言った。そこには、巨大な菜種の山が出来ていたのだ。
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