魔法の罠 顛末 その70
後日、瀬戸山さんが、ダンス部との練習が終わるのを待って、一緒に帰った。
週末の予定はいつもダンス部との練習に振られており、会う機会が無かったのだ。
写真集「magic girl」の人気が高く、ダンス部と文化祭でコラボイベントを行うことになったのだ。ただし、四人は、ダンスの基礎もできていないし、体型も筋力も柔軟性も厳しいのだ。
「このままではダメだ!」と言うことになって、急遽、ダンスの特訓を行なっているのだ。
「待った?」
「いや、全然。今、図書館を追い出されて来た所だよ」
嘘である。図書館を追い出されたのは、瀬戸山さんやダンス部が体育館を追い出されたのと大体同じであった。
そこから、シャワーを浴びて、着替えている間待っていたのだ。
「もう、体のあちらこちらが痛くて」
全身が筋肉痛で痛いことをアピールして来る。
「身体、全身マッサージしてやろうか?」
俺は腕を前に突き出し、イヤラシイ手つきをして指をクキクキと動かしてみせる。
ルパン三世が富士子ちゃんにする手付きだ。
「キャーッ、ヤダーッ! 勇人に襲われるぅ〜!」
お互いにふざけ合いながら、駅までの道を歩いていく。
駅前のファーストフードショップに入って、軽く食べる。
「今度の土日も、瀬戸山さんの誕生日も、一緒に遊べないだろう」
「ごめんね。ダンス部との練習になってるの」
「うん、良いよ。でね。これ。こんな所で何だけど、『お誕生日おめでとう!』」
「嬉しい。な〜に?」
葉月は、ちょっと小さくてしっかりした紙袋に驚いた。
もちろん、知らないブランドではない。
「開けて良い?」
「良いよ」
スーッとリボンをほどき、包装紙をあけて中の箱を出していく。
ふたを開けると大きな真珠のピアスがみえた。
金のフックに金細工の茎と葉をモチーフに6六弁の花が咲いていて、真ん中に真珠がある。ガクの部分はプラチナだろうか? 細かい細工だ。
「うれしぃ〜!」
(ピアスって、私の耳にピアス穴空いてないじゃん)
「どうしたの?」
「うん、真珠なら目立たないから良いかなと思って」
高校生が貰えるような金額ではない事は、瀬戸山さんにもすぐにわかった。
「高かったでしょう?」
「俺は、特殊なアルバイトを出来るから」
「そっか」
(金額は問題じゃないのか? やっぱり、自分で買いに行ったのね)
「勇人が選んでくれたんだ」
「ちょっと、分からないから、店員さんに聞いたけどね」
「今、流行ってるんだって」
「ありがと〜ぅ」
(流行ってないし、これ高いものを売りつけられただけだからぁ)
「つけてみてよ」
「え?」
葉月は、ニコニコ笑って、嬉しそうにスマホを持っている勇人に困ってしまった。
「ちょっとで良いからさ、つけた姿を見せてよ」
「うーん」
「どうしたの? 気に入らなかった?」
「よく聞いてね。勘違いしないでね。このピアスを買ってくれた事は嬉しいのよ」
そう言って、葉月は髪をかきあげて耳を見せた。
「でも、私はピアス穴を開けていないの」
俺の顔が、血の気が引いていくのが自分でも解った。ザーッ! と音が聞こえた気がしたのだ。
その後に、顔が赤くなっていたのだろう。顔がが火照っているのも解った。
「だからね。今は付けられないの」
瀬戸山さんは、店内を見渡し、とある女の子を指差し、説明してくれる。
「あの子の付けているのがピアス」
「あれは、初めから開けてある穴に針を通すの」
指で説明しながら、
「こちらに飾りがあって、耳の向こうに針先があるので、蓋で止めるの」
「ユウトの買ってくれたのは、穴にフックを掛けるタイプなの」
「どちらも事前にピアス穴を開けておかないといけないの」
「……。」
勇人は俯いて声が出せないでいた。
「でね、私みたいにピアス穴が空いていない子は、耳たぶにネジで止めるの」
「ネジで?」
「ネジを刺さないわよ。ネジで挟んで締めるだけ。痛くない力加減でね」
(この人、そこに食いつくの?)
「ああ、クランプか」
「まあ、その様なものね」
(クランプって、私の耳は町工場か!)
「だからね。勇人のプレゼントは、今は付けられないの。嫌いとか嬉しくないとかじゃないの」
「ああ、ごめんね。交換してこようか?」
「ううん、これは、これで、ユウトの思いがこもってるから大切にするね」
「ありがとう」
葉月は、勇人が貴金属店に入って、大きな体を丸めて展示ケースを覗き込んでいる所や、女店員に「今はこれが流行りですよ」と言われて、それを買っている姿を想像して、嬉しいやら可笑しいやら、笑ってしまった。
「うふふふ、おかしいぃ」
「え? なんで」
この章はここまでです。
次回より、新章になります。
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