魔法の罠 その69
それを右手で、スマホで録画して置く。
唇を離すと、白本さんは恍惚とした顔をしている。
「ありがとう、魔法を解いてあげて」
「な、な、何してるの!」
「ちょと、脅迫されてるので、防止用にね」
「へ?」
「キスの動画が?」
「うん」
「解くわよ」
背中に手を当てて呪文を唱える。
白本さんが我に返っていく。呪文がかかっていても、記憶は普通にある。特定の人を好きになってたまらないだけなのだ。
その為、呪文が解けると、好きでも何でもなくなるだけで、記憶はそのままだ。
俺のことはどうでも良くなった様だが、次に、恥ずかしさがこみ上げてきた様だ。顔が赤くなってうつむいている。
「あんた! 何してんのよ! 『私が奪い取る』って、魔法を使って脅してるだけじゃないの」
「……。」
「自分で何をしたか解っていないでしょう。彼が困って、私に助けを求めてきたのよ」
「今度から、魔法を使わずに、自分の魅力で奪い取りなさいよ」
「……ごめ……さい……。」
蘇我さんが白本さんを〆ている。俺は口を挟めないでいた。
それにしても、いつまでもくどくどと怒られているので、逆に気の毒になってきた。
さすがに、もう許してあげた方がいいと思い出した。
「まあ、その辺で許してあげたらどうかなぁ。悪気はあった様だけど」
「藤波は甘いのよ!」
「いや、もう夜も遅いし」
「じゃあ、もうニ度としたらダメよ。怒るだけじゃすまなくなるわよ」
「はい……。」
やっと解放する気になった様だ。
「あの、こっちも動画を取らせてもらったので、お互いに一斉に削除しようかと思ったけど、コピーとっていたら同じなのでお互いに持ち合っておきましょう」
「何方かが公表したら、私は、この動画を拡散するということで」
「はい……。」
以外とあっさり納得してくれた。
俺と蘇我さんは、落ち込んで駅に向かう白本さんを見送った。
「ありがとう、暗いので家まで送るよ」
遅い時間に、駅近くまで来てくれた蘇我さんを家まで送って行く。
家の近所とはいえ、放っておくことは出来ない。
「ところで、カウンターアタックの御守りはどうしたの?」
「一回きりだから、もう消えたよ」
「そう」
蘇我さんは、俺の腰を持ってきた。
「勇人、今、何か魔法が使われました。私の状態異常抵抗で不発に終わりましたけど」
「ああ」
サザンはレベルが四十もある。妖魔最強のチートスライムなのだ。普通の魔法使いと言うか、人間には、魔法がかけられない。
(何で蘇我さんが、俺に魔法を掛けるんだ?)
そのまま、蘇我さんが手を繋いでくる。
「こんな方法が有ったんだ」
「なに?」
「なにも」
「そこの公園で話せる?」
「ああ、良いけど」
二人で公園のベンチに腰を掛けた。
さほど大きくも無い児童公園だ。ありふれた住宅街の公園だ。
もちろん、この時間になると、遊んでいる子はいないし、犬の散歩に来る人もめっきり減っている。
公園の周りは、低い樹木で囲まれており、表の道からは見通しが悪い。
辺りの家の電灯は点いているが、歩いている人はいない。週末の為、家路を急ぐサラリーマンも居ないのだ。
「私ね、あなたのことが好きなの」
(ええええぇぇぇぇーー!)
(この人、何言ってるの?)
「葉月より、ずっと前から好きだったの。でもさ、気が付いたら葉月と付き合ってるし」
「私もさ、貴方と花火見たり、お祭り行ったりしたかったな」
(『したかったな』と言われても、無理じゃん)
「どこで狂っちゃったのかな?」
「葉月がさ、『勇人と付き合ってるのか?』って確認してきたのよね」
「その時、付き合っていなかったから、『付き合っていない』って答えちゃってさ、今じゃ後悔しっぱなしよ」
何か一方的に喋っていたが、静かになった。
「あの、最後の思い出にするから、キスして」
「最低よね……ごめん。白本さんにあんなこと言って、私、同じことしてる」
俺は右手で蘇我さんを抱き寄せている。蘇我さんが小さいので、頭の後ろに手を回して抱き寄せると、背中を回って手が胸の横に触れている。
手が、蘇我さんの右乳房のふくらみの下の方を触っている。
それでも、蘇我さんは嫌がるでなく、俺にもたれかかっている。
俺は背中を丸め、ゆっくりと蘇我さんの顔に顔を近づけて行く。
唇が触れる頃には、蘇我さんは目を瞑って居た。
プリッとした柔らかい唇が、俺の唇に触れる。
顔を離して、
「可愛いね。好きだよ」とささやいて、もう一度唇を吸った。
「んぁは」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい……ごめん……ごめんなさい」
「もう、こんなことしません。だから、今日だけは許して」
声が泣き声に変わっている。
俺の首に手を回して、引き寄せて、再び唇を重ねた。
しばらく、俺に顔を埋めて泣いて居たが、立ち上がって呪文を唱える。
難しい呪文なのか、初めて使うのか、ゆっくりと呪文を唱え、指先を使って振り付けも付いている。
(ああ、これは、記憶削除の呪文だな)
俺は、使えないだけで、知識はちゃんとあるのだ。試験に落ちないように勉強しているからだ。
蘇我さんが、
「ごめんね、もう二度としません」
と謝って来て、
「白本さんと別れてから、今までの事を忘れなさい」
と言って、俺の耳元で指をパチンと鳴らした。
「勇人、今、魔法を掛けられましたよ」
「ああ」
(どうすりゃ良いんだ? 取り敢えず、かかったふりをしておくか?)
蘇我さんは振り向いて、俺に顔を見せずに喋ってくる。
「じゃあ、私の家はもう近いから、ここまでで良いよ。また明日ね」
「あ、今、なにかぼーっとしていたよ。またね。今日はありがとう。助かったよ」
俺は普通に礼を言って、いまのことには触れないでいた。
「昨日は精神系の魔法を掛けられたのでしょう? 魔法か何かの副作用かな?」
「じゃあ、また、明日、学校でね」
(今日だよ。さっき解いてくれたじゃねぇーか)
「ありがとう、バイッ!」
蘇我さんは、こちらを振り向きもせず、走って帰った。
俺も、ボツボツと駅に向かって歩いて行った。
「勇人、人の精神構造は複雑だな」
「ああ」
「そういう事なら行ってくれればよかったのに」
「想いが通じないのは辛いのだろうな」
「うん」
「しかし、蘇我さんの方が絶対可愛いよな。白本さんでも良いわ。胸でかいし」
「勇人」
「んん?」
「お前、最低だな」
サザンがつぶやいた。
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