撮影大会顛末 その66
学校に帰って、最後の撮影をする。
お昼過ぎだが、登校のシーンを撮る。
影は短くなるが、色温度を調節し青くすると朝の風景に見えるのだそうだ。
エキストラ役の演劇部が登校している上空を、高度を落として自転車置き場に着地する四人。
「おはよう」
「おはよう」
「あら、おはよう」
自転車に乗っている生徒も、自転車を自転車置き場にしまっている生徒も、普通に挨拶している。
四人は、自転車置き場の横の箒立てに箒を立て掛けて、歩いて学校の玄関に向かう。
カメラは四人を前から撮っているので、カメラマンは後ろ向きに歩いている。
栃原副部長は、歩きながら帽子を脱ぎ、上着のボレロを脱いで、黒猫のポシェットにしまい、代わりに学校のブレザーを取り出した。
後ろの方で靏見さんが、自転車置き場に降りて行くのが見える。
栃原副部長は颯爽とブレザーに腕を通すと、あたかも普通の様に着こなした。歩きながら、お団子にしていた髪をほどき、シュシュで束ねて後ろに流した。
もう、見た目は普通の学生と区別がつかない。
「おはよう」
「おはようございます」下級生役なのか、演劇部の生徒や映研の生徒が挨拶をしている。
栃原副部長は、数段の階段を駆け上がって、学校に入って行く。
これで、撮影は終わった。
俺達は、学校近くのファミレスで打ち上げをしている。
全員では無いが、ほぼ全員が入って、店は貸切状態だ。
中には、コミュ障な学生がいて、打ち上げよりもPCやデータと向き合っている方が良いと言う学生もいて、早速編集作業に入っているので全員は来ていない。
映研の部長や写真部の部長やダンス部と演劇部、オカ研の部長が挨拶とお礼を言っている。
演劇部はエキストラの要員を出して援助したので、礼を言われる立場だと思うのだが、他部との交流が図れた事で、いい経験になったと言っていた。
「magic girl」と言う題名で、写真集を売り出すのだそうだ。その付録にはBDのPV付録がつくのだ。
四人は、他の部の男女に揉みくちゃにされている。大人気で俺なんかが近づけない状況だ。
桜木が、ノートPCを持ってやって来た。全ての生データが入っているのだそうだ。
「部長の奴、俺の企画を盗みやがってさ。全部お膳立てしたの俺だよ」
「分かってるよ。これ、どう見ても栃原副部長のPVじゃん」
「え? バレてたの。そんなつもりは無かったんだよ」
「どんなつもりだったんだよ」
「お前がさあ、樹海で『栃原副部長の胸に抱かれたい』って言ったから、みんなの興味が出ちゃったんだよ。で、あのダンスビデオで人気が出ちゃってさ。あれよ、あれよと言う間に、写真部と映研とで話が進んでさ。ダンス部と演劇部が参加して、こうなったのさ」
「どうでも良いけど、幾らで発売するんだ?」
「4千円から5千円ぽい。ページ数が増えそうなんだ。蘇我さんのファンも居るから、そっちも外せないんだ」
俺は財布の中身を計算した。
「オカ研で撮った分はこの中に入ってるぜぃ!」(じ、自慢かっ! 見たいけど)
「江ノ島の夕陽のシーンを見せてくれ」
桜木がPCをこちらに向けて、マウスを差し出した。
PCの前にマウスが転がっている。マ、マウスが!
俺はマウスを手に持って、
「ハロー! コンピュータ?」
「何やってんだ? このファイルだよ」
桜木が、横からパッドをトントンと二度叩く。
栃原副部長が髪をたなびかせて飛んで居るシーンが映る。
「おお、透明アルミがあるじゃ無いか」俺は叫んでいた。
「おお!」
「ええなぁ」
「くうぅ」
周りにいた生徒がPCを覗きに来た。
(いや、徹底してスルーだな。お前ら)
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