高尾山 その65
これは飛行用の衣装で、ゴムやマジックテープなどで、いい具合にはためくように加工してあるのだそうだ。
前傾姿勢になっても背中が見えたり、スカートが変に捲れないように長く採寸したり、余裕をもたせてカットしてあるのだそうだ。
上昇しているので、箒の柄が上を向いている。彼女達の背景が、先ほどいたカフェになっていたが、突然ビルの上に出て、視界が広がり屋上が見える。
俺とドローンはここで水平移動に変わり、速度を落とす。すると、四人は、俺たちの上を飛び越えて行ってしまう。
俺は、箒の向きを180°向きを変えてバックで進む。
遠景に横浜港を望みながら、四人は消えて行く。
俺の仕事はこれでお終い。休憩所に戻って、ホットカフェオーレとナポリタンスパゲッティを食べるとしよう。しかし、なんで、おしゃれな店にナポリタンがメニューに有るのだろう?
次は、ダンス部の撮影だ。道の両側に、隠してスピーカーが置いて有る。
映研がドローンを配置して待機している。
「ダンス部の二人の男女が喧嘩しながら歩いて来る。それを見つけた四人の魔女がお節介を焼く」と言うストーリーだ。
ドローンが浮き上がり、準備が始まる。
先ほどの店でお茶をしている四人の魔女。
目の前で、二人の喧嘩がはじまった。
それを見た、慌てた四人が飛んで行った。二人の話を聞くも、会話は平行線だ。
ここで、六人で踊っているのだが、ダンス部の二人に比べて、明らかに四人は下手だ。
四人の魔女は、ガラスのバトンを取り出すと一振りした。金色の星がキラキラと飛び出して空中を舞っている。星には厚みがなく、星が回転すると消えたり現れたりしている。
星の出現は魔法だが、実は、他には魔法をかけていない。
突然音楽が変わり、通行人が踊りだす。脚の上がり方が全然違うし、全員息がぴったし合っている。流石にダンス部だ。
四人の魔女が、二人の男女に魔法をかけると、二人はクルクル巻いながら浮かび上がって踊っている。
一般の服装の部員の後ろに、色取り取りの魔女の扮装をした部員が踊り出した。
その中に、靏見さんと桐崎が混じって踊っている。箒に乗って飛び回る靏見さんに飛行の魔法で桐崎が飛び回ってる。
二人の男女は仲直りして、喜びをダンスで表現しているのだ。
秋山さんと蘇我さんは、結構アクロバットに回転したりしている。
遠くで、桐崎が魔女衣装のダンス部員を放り投げて、靏見さんが箒で受けている。放り投げられたダンス部員も、そのままアドリブで踊っている。
「ジャン!」音楽が終わって、ダンスが終わる。ダンス部員は動きがピタリと止まり、ドローンが上空に飛んで行く。
ダンス部と映研の後片付け部隊が、ロケ場所を掃除して、店に礼を言って回っている。
我々は、横浜港上空、横須賀港上空で撮影を済ませ、フェリーで金谷に渡り、鋸山のロープウェイ、鋸山の展望台、天然温泉に海鮮舟盛りコースではしゃぐ四人を撮影している。
「桜木ぃ、悪りぃな。俺までこんな良いもの食わせて貰って」
「休日に旅行に来て、海鮮丼って幸せすぎる」
「かまわねぇよ。どうせ、写真部と映研の予算だしな」
俺達は、別室で海鮮丼を頂くが、スタッフは味わう間も無く、食べては出て行った。
温泉の写真は、男子立ち入り禁止にされたが、靏見さんの話によると、期待が持てそうだ。帰ったら、写真集とBDの予約を入れようっと。
食事が終わると急いでフェリーで久美浜に戻り、JRで鎌倉を目指す。
鎌倉のファミレスで最終打ち合わせをし、四人は近くの美容室で化粧直している。我々は日没待ちで、そのままファミレスで待機している。
ロケ班から連絡が来たので、我々も撮影に向かう。
各決められたポイントを飛ぶだけの仕事だ。
各ポイントで、映研のドローンが待っているのだ。さすがに一気にはバッテリーが持たない為、何機か準備しているのだ。
四人が美容院から出て来て、最終打ち合わせを行った。
栃原副部長は、長い髪を編み込んでいた。後ろから見るとうなじが見えて色っぽい。一つしか変わらないのに、他のメンバーにない艶やかさが醸し出されている。
俺は、写真部のカメラマンを後ろ向けに後ろに乗せて、飛び上がる。
鎌倉の大仏が背景に入る様に飛ぶのだ。誰もが知っている街並みをわざと入れているらしいのだ。その辺のロケハンは終わらせてあるらしく、目標となるコースを指示されてある。
この時は南側を飛び、背景に大仏を入れたのだ。このまま西に進み、今度は北側から走って来る江ノ電が入る様に撮影をする。
最後、江ノ島の沖に沈む夕日に照らされた四人のアップを撮り、彼女達がシルエットになる様な位置に並ぶ。
その時、栃原副部長が帽子を脱ぎ、左手で持った。
右手を頭にやり、編み込みをサクッと解いて、首を左右に振った。
髪の毛が、サァ〜と風になびいて行く。
その全てを見せず、シルエットで表現する。女性は、自分の一番綺麗に見せる方法知っていると言うが、いまがその時だったのだ。
何事もなかった様に、再び帽子をかぶり、その長い髪をたなびかせている。
そして、スッと箒を上に向けて高度を落とす。
「何?」
皆が慌てた。
俺は一緒に高度を落として、ドローンも一緒に高度を落とした。
夕日が高度を落としたために、シルエットにならず、江ノ島の影を空に伸ばしている。
栃原副部長が箒に乗ったまま足を延ばして、波を蹴っている。
波の山の部分に足が触れると、ぷわっと波を切って水しぶきが飛ぶ。
バシャバシャバシャ!
蘇我さんが箒に跨ったまま、右手で波を触って水しぶきを飛ばして、カメラの前を横切っていく。
夕焼けの赤い空に、魔女が二人で海の波を切って水遊びをしている。
瀬戸山さんと秋山さんは、予定外の行動に対応できずに、空に浮いているままだ。
蘇我さんが、栃原副部長の前や後ろを蛇行して水しぶきを上げている。
しばらく遊ぶと、また高度を保って、四人でそろって飛んでいく。
今日の撮影はここまでだ。
我々とダンス部と演劇部はここで解散するが、映研、写真部、オカ研はデータのチェックをする為に学校に帰った。
翌日は、高尾山に集合だった。
早朝にもかかわらず、登山客が多い。
ここは小学生の頃から来る遠足の山なのだ。ロケハンなど要らぬぐらいに知り尽くしている。
飛んでいる魔女達をケーブルカーの内と外から撮影して、あとは一般登山客の邪魔にならぬように人気の無い登山道で撮影する。
映っている周りの登山客は、じつはみなエキストラだ。
「箒の人! 準備してくださ〜い!」
(だから、名前を覚えろよ)
俺達は山道を箒に乗って、追い掛けあって撮影したり、イギリスの某四人組歌手が横断歩道を渡るシーンのレコードジャケットの写真を登山道で真似たり。シャッタ速度を遅くして、カメラと被写体が等距離で移動すると、被写体の周りが流れるのだ。
それを利用し、高速で飛んでいるような写真にしているのだ。
そして、俺はカメラマンの指示通り飛ぶだけだった。
普通に登山風景だったり、お弁当を食べたりしている。
朝の8時に、各色に色分けされたお弁当を食べたり、はしゃいだりして撮影して行く。
色温度を変えて、黄色っぽくすると昼の雰囲気が出るのだそうだ。
最後に、高尾山から飛び立った四人の周りをぐるりと回って、富士山を背景に入れて終わった。
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