ゾンビの後始末 その60
「その子たち、大丈夫? 何も食べていないんでしょ。喉通るかしら」栃原先輩は、女生徒の方にペットボトルのお茶とおにぎりを持ってやってきた。
「ありがとう」辺りを見て「もう、ゾンビは居なくなってる」と呟いている。
「あ、倒しちゃったからね。道の駅かパーキングが有ったら止めてもらうね」
確かにゾンビはいなくなって居て、帰り道にはその姿を見る事は無かった。
バスはゆっくりと未舗装の道を走って行く。
一般道の方に出る駐車場の手前で、みんなは息を飲んだ。大量のゾンビが殺されて居たのだ。ゾンビなので倒されて居たと言うべきか。
マイクロバスが通れるスペースだけは、確保されて居た。
トラックが数台停まっており、作業員が働いて居た。白い不織布の繋ぎに、肘までのビニール手袋をはめてゴーグルにマスクをしている。
そのうちの1人が近づいてきて、ゴーグルとマスクを外す。勇人だ。
窓を開けて、真里亞が話しかける。
8月の焼けたアスファルトの熱気と腐敗臭が車内に入って来る。
「お疲れ様、救出出来た?」
「三名居たわよ。あと、ゾンビが建物の中に三体、駐車場に五体、倒して有るわよ」
「回収しておくよ」「蘇我さん、カメラを頂戴、一緒に出しておくよ」勇人は自分のこめかみを指差して、蘇我さんに手を伸ばした。
車内の皆は、車窓に広がる死体の群れに絶句して居た。
「誰が、こんなに倒したんだ?」
「どうやって……」
相模川の魔法部の部長の柿田部長が、やっとの思いで呟いた。これもあの男の仕業なのかと震えて居た。
「真里亞が……」
「蘇我さんが」
瀬戸山さんと桜木が答えた。
真里亞は名前を呼ばれたのかと振り返ったら、全員の視線が自分を見ていた。
「え? なに? どうしたの?」
「これ、真里亞が倒したよね」
「ああ、うん……。……テヘッ!」
真里亞は右手で頭を叩き、首を右に傾けて舌を出した。
(((((『テヘッ!』と違うわー!)))))みんなが一斉に心の中で突っ込んだ。
瀬戸山さんが後ろの方の窓から顔を出した。
「勇人、来て」
「なに?」
「手が汚れてるから後ろに回して、私の方に持ってこないで、服が汚れちゃうじゃない」
「ああ、ごめん」
「目を瞑って」
「なに?」
葉月はそっと勇人の上唇を吸った。
「私の」
「手は動かさないで、汚れるから」
勇人の頭を抱える様にキスをしている。
「おいおい、何やってんだ?」金田部長が怒り出した。
「私も残って手伝うね」
「早く帰って、LINEするから」
「日没までに片付けないと危険なんだ。作業員が暗がりの中で襲われちゃうからね。遅くなるから、先に帰って」
「遅くなってもいいから、私も残るね」
「終わったら、県警に行って、手続きするから、深夜になるかもしれないし」
「深夜になってもいいから、手伝うね」
「県警で風呂に入って、匂い落とすから、すっごく遅くなるかもしれないよ」
「一緒に県警まで行って、一緒に遅くなってもいいから、手伝うね」
「遅くなって、泊まりになるかもしれないよ」
「一緒に泊まって、一緒に寝るから、いいの」
「え? ええ? 俺、今日、今日、コ、コ、コ、コン、コンド……、持って来てないし……」
「え? ……。そ……、……そんなことしません!」
「あーあ、自爆したな」
「あちゃー」
「馬鹿……」
「そんな事、誰も言ってないだろう」
周りのギャラリーから、小さなツッコミが入る。
が、真剣な者もいた。
「瀬戸山! 遊びで来たんじゃないぞー!」金田部長が顔を真っ赤にして怒っている。
「お前は、彼氏を連れて来て、デートのつもりかぁー!」
(連れて来たのは真里亞だし、ここの仕事をしたのは藤波と真里亞だろうが。彼らの仕事で、自分たちはゾンビに出食わさなかったんだ。仕事してないのは、お前だろう)
秋山さんが立ち上がりかけた時、「私が言いますね」と栃原副部長が立ち上がって、金田部長を手で制した。
「瀬戸山、お前は時と場所を考えろ。一体どういうつもりだ。人の生き死にが関わっている時に」
「はい、部長、部員の規律の乱れは、副部長である私の責任ですから、私が叱ります」
「瀬戸山! お前は気が緩んでるんだ。反省しろ。猛省出来るまで表で頭を冷やして来い! 荷物をまとめて出て行け! 早くしろ!」
「え?」と予想外の展開に皆が驚いていた。
元々、一日分の食料とバトルスタッフぐらいしか荷物がないので、栃原副部長が瀬戸山さんに荷物を手渡ししている。
「反省したら帰って来い! 今夜は寝かさずに反省しろよ」
頭を撫でて背中を押してバスから下ろす。
「しませんから、そんな事」
「私も降りる」真里亞が立ち上がって振り返る。
「止めなさいよ。みっともない。降りたって、一緒の部屋に泊めてくれないわよ」
秋山さんが真里亞の腕を掴んで諌めている。
「運転手さーん 、すいません。バスを出して下さい」
2人を置き去りにして、バスは発車した。
「なんでいるの?」
「反省しなさいって」と勇人は瀬戸山さんに笑顔で答えられた。
「いや、俺、仕事してるんだけど……」
瀬戸山さんは、他の作業員には好評だった。真夏に不織布の繋ぎを着て作業するのは、死ぬほど暑いのだ。その為、熱中症にならない為に水分補給は必要なのだ。そして、自分の娘ぐらいの年齢の娘さんが、お茶やお弁当を運んでくれる 。これは嬉しくないはずがない。
瀬戸山さんが、「みなさん、お茶です」とか何とか言って配っている。別にタダで貰っている訳ではない。ちゃんとお金を払っているのに、お父さん達の人気者だ。
作業は、日暮れまでには片付いたので、県警まで連れて行って貰った。
手続きを済ますと、近くの観光協会の会館で風呂を借りている。勇人達は作業員の仲間と風呂に入っている。汚れと匂いを落とす為だ。瀬戸山さんも隣の女湯に入っているはずだ。
遺体は、事件性? が無いと遺族に返される。 ゾンビに食われてるのは事件では無いらしい。で、殺人事件でもあると、警察の出番となる。
しかし、わざとゾンビに食わせたりしても、時間が経っていると分からないそうだ。因みに、殺人事件等で、先に死体になると、ゾンビにならないので、今回の遺体にはいない。
冷蔵庫に入れられた遺体のうち、身元の分かるものを身に付けていると、数週間で家族に連絡がいくそうだ。
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