発車、オーライ! その59
「おい! 急いでバスに戻ろう。今からが本番だ」勇人が移動をする様に促してきた。
「生存者の救助に行くぞ!」
四人で、ゾンビやゾンビの体液を避けながら、駐車場を後にした。
勇人は、バスに着くと、三人をバスに乗せ、後を桐崎に任せて駐車場にとって返した。
「桐崎、後を頼んだ。桜木、入口の件頼んだよ。『開錠』をかけて貰ったら鍵は開くから」「俺は死体の処理をして来るから、ゾンビを避けないとバスが通れないからね」
「ああ、分かった」
「ああ、まかしとけ」
桐崎が、「運転手さん、バスを進めてください」とお願いする。
アスファルト舗装はされていないが、道は有り、特にバスがゆっくり進むには問題がなかった。
柿田部長がスマホを見ながら道案内をして行く。と言っても、最初のT字路を左に曲がるだけだったが。
前の方に施設が見えて来た。運転手が「バスをどこに止めますか?」と聞いて来た。
柿田部長が、
「入口から少し離れた辺りで……」
「車用のゲートの左側に人用の扉があります。そこに金網に付けて止めてください。金網との隙間は30cm以下に付けてください。奴らが入ってこない様に」横から桜木が指示を出す。
柿田部長が渋い顔をしているが、こちらも生死が掛かってるので、桜木も譲るわけにはいかない。
運転手さんは、頷いてピッタシに付けてくれた。バスの左ミラーが電動でたためる様になっており、きっちりと寄せてくれた。
桐崎が扉を開けて降りて行く。
「あ、南京錠が掛かっているから開けないと」「誰か、『開錠』できる人いますか?」桜木が車内に向かって聞いていた。
桐崎が、金網を広げて手を突っ込んで、無言で南京錠を掴み、引っ張って開けた。
「カチッ」と音がして錠が開らく。
「え? 開いてた?」桜木が、「さっき確認した時は閉まっていたのに」と言って不思議がっている。
桐崎が、ニタッと笑い金網に手を入れたまま、かんぬきを動かして、扉を開けている。
栃原先輩が、桜木の肩を叩いて、「行くよ」と微笑んで来る。
金田部長が立ち上がって、「留守番は商業でしますよ。心配でしょう。どうぞ、行ってきてください」と金田部長が突然留守番を申し出た。
「お願いしますね」
みな、なんの疑問もなく礼を言っている。
金田部長、瀬戸山、倉田の三人が車内に残っている。
「行ってらっしゃい」栃原先輩が桜木の肩を叩いている。
「相模川高校、整列」
「左右、後ろに気を配って行け!」
「部長、駐車場ゲートの方を確認してきます」
「田崎か、気を付けて行け! 白本、田崎副部長をサポートして行け」
一行は警戒しながら進んだ。
秋山さんと蘇我さんが「探索」の魔法を使った様だ。桐崎に、「一階に一体、二階にニ体よ」と言っている。
扉の前に来ると、相模川の田崎副部長、白本さんが合流するのを待つ。
桐崎が、ノブを回して、ロックされているのを確認する。
「カチッ」音がしたら、再度ノブを回して開けようとする。
「ゴン〜」扉は鈍い音を立てて開かなかった。
扉が二重ロックになっていたのだ。
「チッ」桐崎が、舌鼓を打ちながら、扉の上の方の鍵穴に手を当てる。
「カチッ」
もう一度、ノブを回して、扉を開け様とする。
「待て、これを使って中を確認するんだ」桜木が空いている手で、ピンクの鏡を桐崎の顔の前に差し出した。
ピンクの鏡の裏には、「藤波 勇人」と持ち主の名前が書かれて有る。
二人は、互いの顔を見て笑った。
「借りとくよ。どこで買ったのかね」
「渡された時は、驚いたよ。真顔だったし」
桐崎は、隙間から鏡を入れて、中を確認した。廊下の少し離れたところに、一体いるのを確認した。
田崎副部長が追い付いてきた。柿田部長に死んでいたメンバーを報告している。
「柿田さーん、こいつ切り捨ててOKですか? なんなら、自分でします?」
「いや、やってくれ。知り合いを殺すのは偲びない」
桐崎は扉から離れる様に指示する。扉が外開きの為だ。
桜木はカメラのライトを点けた。室内が暗い時の用心だ。
秋山さんが扉のノブを持って待っている。
桐崎が、指でカウントダウンを始めた。
「4、3、2、1、開けろ!」
秋山さんが扉を開いたと同時に、桐崎が飛び込んで数歩走った。
ゾンビが気付いて、手を挙げる間も無く、左腰の刀を右手のみで抜いて切り上げた。
ゾンビが右脇から頭頂部にかけて切断された。
桐崎が、切り上げた刀を両手で構え直した時には、目標は立っていなかった。
「階段を見張れ!」
「階段を確保!」桐崎に命令されて、靏見さんが階段の下で見張りに付いている。
「吉田〜、すまない」
柿田部長がゾンビに謝っている。
桜木は、桐崎の後について撮影を続けている。
桐崎と真里亞と秋山さんが、順に部屋とトイレと給湯室を見て回る。
先程の「探索」の情報通り、一階には誰も居なかった。
裏口に相模川の福島、正面入り口に靏見さんが警戒に当たっている。
扉の鍵は閉めたのを確認して、二階に上がる。
二つ目の部屋から、ゾンビ特有の「ウー、ウー」と言う唸り声がする。
しかし、桐崎は、手前から順に調べて行った。
「隣の部屋じゃ無いのか? 早く助けてあげて欲しいんだ」柿田部長が疾っている
「退路を塞がれない様に、一つ一つ、順に確認していくんだ。落ち着け!」
最初の部屋に、誰もいないのを確認すると、問題の次の部屋に移る。
扉は内開きの扉なので、少し開けて鏡を突っ込む。
喋らず、手でゾンビの居場所を伝えると、秋山さんに開けてもらう。
踏み込んだ桐崎は、今度は頭を横に払う。コメカミの辺りで、綺麗に切れる。
柿田部長が、「伏尾? 伊香野?」と呼びかけている。
数回呼び掛けると、机の下から2人の女生徒が出てきた。
「部長〜、副部長、白本さ〜ん」泣いて、声も掠れて喜び合っている。
桐崎と秋山さんは、次の部屋、次の部屋と確認して行くので、真里亞は女子トイレの前で見張っていた。
トイレの扉は内開きで、中から「ウー、ウー」とゾンビの声がしている
真里亞が扉の内部を警戒していると、相模川の田崎副部長がきて、「昌美!」と言いながら押し開けてしまった。
そこには、相模川の女子学生の服を着たゾンビが立っていた。
田崎は、手を伸ばし襲って来るゾンビに動けないでいた。
「昌美! 昌美、目を覚ませ!」泣いて呼びかけている。
「あなたが目を覚ましなさい! 自分で倒せる?」真里亞が田崎の襟首を引っ張って聞いてみる。
「昌美! 昌美、俺だよ。分かるだろう」
ゾンビは両手を田崎に伸ばし、掴んできた。
「昌美、俺だよ」
ゾンビが大きく口を開けて、田崎の喉か下顎あたりに噛もうとした時、左目から後頭部にかけて、氷柱を突き刺されて崩れ去った。
「悪いけど、倒させてもらったわよ」
真里亞が、右手を伸ばして言った。
女性用個室の一枚のドアが非常に血で汚れ、壊れかけていた。
その個室から、不思議なものを見る様な目で相模川の生徒が出てきた。
「副部長? 副部長ですか? 昌美が、昌美が」
「川原、無事だったのか?」
田崎と川原さんをトイレから出して、真里亜は桐崎と個室を調べて行く。
「ここには、もう、誰もいない様だ。」
桐崎がOKの合図を出す。
助かった三人に「鑑定」を掛けて、ゾンビへの感染の有無を調べるが、全員無事の様だ。
「急いで出るわよ。柿田部長、動けない娘には手を貸してあげて。田崎君が、副部長がおかしいので、側で様子を見てて」「急ぐわよ」真里亞が、全員を急かせて、撤退を開始する。
「急げ! 撤退だ。撤退!」柿田部長が命令を出して階下に降りる。
「福島! 撤退だ! 急げ!」
全員はバスへ向かって走っていった。
バスの前の金網の扉の前で、栃原先輩が待っていてくれた。
8月の晴天の中、ゾンビの腐敗臭に満たされた庭で立っていてくれたのだ。
「お疲れ様、お疲れ様、お疲れ様」通り過ぎる人にいちいち声をかけて労っている。
助かった三人には、
「良かったね。もう、大丈夫よ」と安心させている。
最後の人がバスに乗り込むシーンを撮影し終わった桜木に、「お疲れ様〜」とニッコリと笑い背中を叩いて、バスに乗る様に促した。
栃原先輩は周りを確認し、後ろ向きに扉をくぐると、金網の扉を閉め、かんぬきを閉めたが、南京錠は閉めなかった。今後、誰かがここに逃げ込める様にである。
バスに乗り、扉を閉めるとロックをする。
「運転手さーん、お願いします」
まるで、昭和の車掌である。
「トルルルンン。」
エンジンがかかり、バスが動き出した。
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