ゾンビの盆踊り大会、再び。 その58
「俺は、瀬戸山さんを守る。次は蘇我さん、お前の順位は低い。この作戦が失敗するとさっきの施設の中の娘が危ない。或いは、バスの中のメンバーが危なくなる。その時は、お前より作戦を優先させる」
「ああ、別にかまわんよ」
「だから、蘇我さんの側に居ろ」
「彼女なら、ここのゾンビ全部倒しても平気で居るだろう。彼女の側が一番安全なんだ」
「瀬戸山さんが危ないんだな」
「まさか、好きな娘を優先させるだけだ。秋山さんや桐崎や靏見さんも一人で十分だ。危ないのはお前と俺の二人だけだ」
「俺達だけが一般人なんだよ。真っ先に死ぬのは、俺かお前だ」
「栃原先輩は?」
「蘇我さんに比べたら大したこと無いし、戦闘は苦手だろう。でも、賢いから死ぬことはないだろう」
「ああ」
「デートに誘うのは、今日はやめとけよ。大人だし、素敵な女性だけど、死体の中じゃね」
「しねぇよ」
「好きなのか?」
「ああ、気になってるんだ」
「『お姉さん』って感じで憧れるよな。俺も先輩ならデートしたいな。あんな胸に抱かれて見たい」
「先輩を変な目で見るなよ。お前こそ、蘇我さんはどうなんだ?」
「俺たち付き合っていないよ。みんな聞くんだよ。仲はいいんだけど、それが気になるのかね」
「そっか。お前鈍いな。万能かと思っていたよ」
「んよ? 何がだ?」
「もう話は終わりか?」
「ああ、蘇我さんの側にいてくれたら良い」
「わかった」
「行くぞ!」
「おお」
桜木が、バスの左横に行こうとした。
「桜木!」俺は桜木の襟を掴んで止めた。
「飛び出すな。まず、これから行くところの安全を確認してから行け」
「ああ、すまん」
「この鏡を使え。飛び出さず、まず確認しろ」
勇人が渡してくれたのは、100円ショップで売っている様な、柄の付いたピンクの手鏡だった。裏にマジックで「藤波勇人」と書いてある。
「サンキュー……」(ピンクの鏡は、さすがに恥ずかしいんだけど)
「襲われたら手を噛ませろ」「そして、すぐに腕を切り落としてもらえ。死ぬよりいいだろう」
「腕が無かったら困るだろう」
「彼女達に頼んだら、半年で生えて来るよ」「そうかここで永遠の命をもらうかだな。一生歩いていられるぞ」
「解った。大事にするよ」桜木は左手を見た。
「行くぞ」
俺達は横に回って、バスの扉を叩いた。
二人の会話をみんなが聞いていた。
(どうして他の女の名前を出すんだよ。早速、自爆してるじゃん)秋山さんは、もう、真里亞の方を見れなかった。
「ね、あいつは馬鹿でしょ」
「勇人は馬鹿だね」
真里亞と瀬戸山さんは納得して頷いていた。
「馬鹿ども……」栃原先輩は顔を真っ赤にしていた。
勇人達は、バスの扉をノックして開けさせた。
「行くぞ! 早く!」
真里亞と瀬戸山さんが降りると、桐崎がロックしに出てきてくれた。
その時、桐崎は俺を見て「ニヤリ」と笑い、親指を立てた。
俺も親指を立てて返して置いた。
「あいつ、本当、馬鹿だなぁ」
「桜木くんも、帰りのバスを撮れば面白いのに」と靏見さんが毒を吐きながら笑って居る。
柿田部長が、
「あいつ、盛大に地雷踏んで行ったなぁ」
「地雷の上でタップダンス踊っていましたね」
「死亡フラグ立てて行ったなぁ」
「生きて帰ったら、殺されますね」
相模川高校の柿田部長と田崎副部長が小声で話している。
俺は、三人から離れて、花火を上げてラッパを吹いた。
桜木、真里亞、瀬戸山さんの三人が前を早足で歩いて居る。
その後ろを勇人が歩いて、それをゾンビ達が追いかけて居る。
真里亞が、
「『隠れ』の魔法をかけるわね。勇人に言われた通り、私から離れないでね」
と桜木に言った。
「ああ、ありがとう」
「ええ? なんで?」
「あら、気付いた? あなた達の会話、みんなに聞こえてたわよ」
「ま、まほう? まさか魔法で」
「まさか、窓が開いていたのよ。知らなかったでしょう」
「先輩にも聞かれていたから」
と瀬戸山さん。
「ええぇぇ! どうしよう? 俺」
「葉月! あの男、あの胸に抱かれて見たいんだって」
「好きって言ったくせに、好きって言ったくせに。殺す!」
瀬戸山さんが、勇人を睨み付けると、こっちを向いて笑って手を振っていた。
駐車場に着くと、真里亞はアスファルトに円を書き、結界を張った。
この中にいると、ゾンビ達には見えていても意識にひっかからない。そして、障害物でもあるように避けて行くのだ。
真里亞は二人を結界の中に引き入れ、勇人に合図を送った。
勇人は、合図を受けて、結界の周りを回り出した。
花火を上げ、ゾンビを避けながら歩いている。しゃがんだり、頭を下げたり、ステップを踏んで回ったりして避けている。
桜木が顔を引きつらせながらカメラを回している。「『ゾンビの盆踊り』の正体はこれだったのか?」と。
三人の周りをゾンビが何重にも取り囲んで、グルグルと回っている。
「オテェモーヤァーン、あんた……」
「でかんしょぉー、でかんしょぉーおぉおではんとしくらす。ヨイヨイ!」
「あいつ、歌下手よね」
「タンバリンの微妙なズレが苛つかせるな」
「歌、下手だね」
勇人が、タゲ取りして、三人の周りを離れたり近づいたりして回っている。
桜木が、カメラを高く上げると、半径50mぐらいのゾンビの群れが、自分たちを中心にぐるぐる回って歩いていた。まだ、午前中なので、明るくよく映る。
まだ、新しいゾンビが多く、襲われた時の状態が生々しい。腐敗が浅く、原形が見て取れるのだ。
ゾンビが着ている衣服が、まだ、真っ赤に汚れていたりする。
臆病だとパニックになって叫びそうだし、気が弱いと卒倒しそうだ。
真里亞が、バトルスタッフ一本持って、中央に立っている。桜木は、真里亞が余裕の表情で辺りを見ている様を見て、勇人が「蘇我さんの側から離れるな」と言った意味を理解した。あの瀬戸山さんですら動揺を顔に表している。なのに、堂々とした姿だ。
桜木自身は、心臓が口から飛び出しそうだし、手足が震えているような気がしている。カメラを持った手を震わせないのは、自分でもさすがとしか言いようがない。
30分もしたら、追加でやって来るゾンビもいなくなった。
「ロッコォオオローシニィー……」
変な調子の歌が聞こえる。
「応援歌が歌えないようだと、どうしようもないなぁ。あいつ。出来るのは受験勉強だけかよ」桜木は頭を抱えた。
どこからか、声が聞こえてきた。
「蘇我さん、そろそろお願い」
桜木は真里亞にレンズを向けた。
真里亞は立てていたバトルスタッフを持ち上げて、後ろの石突きで地面を叩いた。
一度使った魔法だし、簡単な魔法の組み合わせなので無詠唱である。
「コツゥーーーーン」杖が響いた。
近くのゾンビから順に動きを止めて、その後、順に崩れ落ちて行く。
ゾンビの群れが大きく、広範囲な為、魔力の広がり具合がよく分かる。中心から外に次々に倒れて行くのだ。
三人から少し離れたところで、左手にタンバリン、右手にラッパを持っている長身の馬鹿が立っていた。手前のゾンビが倒れて見えるようになり、後ろのゾンビが次々に倒れて行くので、一人だけ踊ってる姿で取り残されたのだ。
「あいつ、本当に馬鹿だなぁ」
「うふふ、馬鹿でしょう」
「馬鹿よね。普通じゃ考えつかないわよ。こんな魔法」
アンデッドを検索→ポップコーン用のトウモロコシを作成→トウモロコシを加熱→アンデッドの頭部に加熱したトウモロコシを転送→ゾンビの脳内でトウモロコシが爆発→ゾンビの脳損傷→ゾンビは死亡
と言う魔法だ。
累々と倒れている死体の群れを撮っていて、桜木は言った「コレが魔法学科1組の実力なんだ。藤波が『ここのゾンビを全部倒しても平気な顔をしている』と言っていたのは比喩じゃなく、事実だったんだ」と。
ゆっくりとカメラをゾンビの死骸から真里亞に向けると、目線をくれて微笑んだ。
(地獄のアマゾネス、地獄の堕天使、地獄のバルキリー、どうしても頭に「地獄の」と言う言葉を冠したフレーズしか思いつかない)桜木は今になって足が震えた。
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