ゾンビの道 その57
相模原商業の金田部長が聞く。
「栃原、お前の友人は無敵か?」
「私の友人は瀬戸山です。後輩ですけど、仲はいいですね」
「あいつは?」
「瀬戸山の彼氏です」
「いや、無敵なのか? 大丈夫なのか?」
「片手で木刀振って、大木を二本、切ってましたし、幽霊船に蹴り入れて壊してましたよ」
「ああ、それは見た」
「あいつは優しいからね」真里亞が喋っている。
「優しいよ」
「馬鹿で、愚直で勉強しか能が無いけどね」
「馬鹿だよ。察しないし、気が付かないけど」
「気が付かないよね、今に要らないこと言って自爆するよ」
「もう、何遍もしてるよ」
「そう?」
「うん」
(怖ぇよ。この二人、怖ぇよ。このままで真里亞は良いのかよ。って、葉月が譲らないだろうけど)
秋山さんは二人の顔を見ず、外を見ていた。
「桜木ぃ! 逃げろよ! 死ぬぞ!」
「うおぉ! 引っ張るなよ。いい絵だったのに」
桜木はカメラのファインダーを覗きながら逃げている。カメラ横に付いている液晶では、画質が違うらしい。
ただファインダーの映像も液晶なのだが。
俺は、交差点に来たので、ドラゴン花火を点火する。夜の時ほど効果は少ないが、やはりゾンビは花火を見ている。ゾンビは動くものに興味を奪われてしまう。
その間に、ゾンビ集団と離れて距離を取るのだ。
逃げる時にも走る訳にはいかないのだ。ゾンビの気を引かぬように、さりげなく歩くのだ。
近くのものは襲って来るが、それらをかわして、ゆっくり歩くのだ。
桜木は撮影になると落ち着くようで、パニックにもならずに付いて来ている。
交差点の角を曲がると、森の中に施設が見えて来た。
金網が有り、車用のゲートがあり、中は駐車場だ。
入口の看板には、「山梨新生物研究所」と有る。
新生物と言えば癌の事だが、医療系の設備には見えないし、だからと言ってゾンビの研究所にも見えない。
コンクリート二階建ての普通の事務所にしか見えない建物だ。
駐車場の中には五体の女子高生ゾンビがいた。制服からすると相模川の生徒だろう。
花火騒ぎを聞きつけて、駐車場のこちら側に来て、金網を掴んでいる。
撮影をしていた桜木がOKを出したので、さくさく倒して行く。
俺は右利きなので、右手でドライバーを持ち、ゾンビの左目を突き刺す。
このドライバーは、以前に工業科の生徒に、先端を鋭利に削って貰って、焼きを入れて貰ったものだ。
長くて、車の整備用のドライバーらしい。
金網からドライバーを突き出して、押すように体重をかけると、金網がしなって揺れる。するとゾンビの目にドライバーが刺さって倒れて行く。
眼窩の骨は額などに比べて薄いので、脳まで簡単に刺さるのだ。
ゾンビは後ろからもやって来るので、さっさと倒してしまう。モタモタしていると、挟み撃ちにされてしまう。一体倒すたびに「がシャン」と金網が鳴るので、ゾンビを引き寄せてしまうのだ。
俺達は車用のゲートでは無く、人用の小さな入口を探す。
探すと言っても、道から見たらそこに有るのだけど。人が出入りするだけなので、大きなゲートを開け閉めしなくて良いように、車用のゲートの横にある、人用の金網の扉だ。
カギは、中からかんぬき型のロックを南京錠で止めてある鍵だ。
俺は、金網の扉が内開きなのを確認して桜木に言った。
「バスを、ここにきっちり横づけさせるんだ。金網との隙間は30cm以下になるように。すると、乗り降りの時に襲われないからな」
「俺が言うのか?」
「お前しかいないじゃ無いか」
「お前は?」
「多分こいつらの後処理をしていると思う」
「意味わからんが、解った」
「帰るぞ!」
「ピィーーィ…… パンッ!」打ち上げ花火の種類が変わっていた。
「藤波!」
「なんだ?」
「それ、その花火な、爆竹で良かったんじゃ無いのか?」
「え?」
「そっちの方が安かっただろう?」
「……」
相模川高校魔法部2年の伏尾 優子と伊香野 秀美は、抱き合って震えていた。
ゾンビ退治と称して富士の樹海に夏合宿に来たが、パーティが全滅したのだ。倶楽部公式の行事では無いが、三年生が企画して、下級生の声をかけて貰った生徒だけが参加した。
初日の晩に、ゾンビの大群に出くわし、襲われてしまったのだ。勇敢にも男子生徒は女生徒を守って食われたが、生き残ったものがこの施設に辿り着いた。
その時は既に何人かは怪我をしていたが、全員で建物の中に隠れた。
表はゾンビだらけで出られず、隠れていたら、その晩、仲間の生徒がゾンビに変化した。襲われた時に、すでに噛まれており、そこから感染していたのだ。高熱にうなされた時にちゃんと隔離すれば良かったのだが、情に流されてそれが出来なかったのだ。
騒ぎでひっくり返っている事務所の中で、倒れているホワイトボードと机の間の三角形の隙間に逃げ込んだ。
ゾンビは内開きの扉の為外に出られず、崩れた事務用品の為に身動きが取れなくなって、ゾンビと二人は一部屋に一緒に閉じこめられたのだった。
救援要請ラインは打ったものの、どうにも出来ないので隠れ続けていたのだ。
すると、4日目の朝になって、建物に銃の音が近づいて来た。
「銃はダメ、奴らを引き寄せてしまう」と思っていると、「ピィィィー」と花火の音だった。
この非常時に、誰かが表で花火をしているが、連絡の手段がなかった。同じ部屋の机の向こうにゾンビが居るのだ。同じクラブの友達だったゾンビが。
「プゥ〜ププププゥ〜」勇人は歩きながらラッパを吹いて居る。
音が出て居るのが奇跡のような音だ。
「あはは、あは、吹けないのか? 止めてくれよ。あは、真剣にしろよ」
「これでも練習したんだぜ」
バスに50mぐらいまで近づいた頃、勇人はドラゴン花火を二つ点火して地面に置いた。そしてクラッカーと言う煙の出る遅延性の爆竹もばら撒いた。
ゾンビの注意をそらし、足止めする為だ。
バスの前まで来ると、俺は、中の蘇我さん達に待つように手で合図を送った。
その時、バスの運転手の窓が少し開いていたが、俺達は知らなかった。
エンジンを止めていた為、エアコンが動かないので何箇所か窓が開いていたのだ。
俺と桜木はフロントウインドウの前で話していた。
「桜木! ここからは蘇我さんから離れるな。いいな」
「ああ、どうしたんだ?」
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