樹海で花火大会 その56
バスは、2時間ほどで樹海に着いた。
俺は、駐車場の位置などを確認する。スマホで座標確認、地図アプリを起動して、山梨県警に送っておく。
今回は、生存者が施設の中に隠れているという事だったので、施設前までバスで行ってもらう事になった。
富士の樹海は、日中は明るい。まだ、森ができて若いのだ。
溶岩が風化しておらず、表土が肥えていないため、木々が育たないのだ。
磁石が効かないというのも嘘である。溶岩に鉄分が多く含まれているための伝説である。今は、GPSも有るし、迷子になって出られないということはない。帰って来ない人は、なんらかのアクシデントに出会ってしまったのだ。
むかしから樹海の中は駐車場や遊歩道の整備された観光地なので有る。
しかし、最近は観光名物が一つ増えたのだ。ゾンビで有る。
自殺の名所で有るから、死体はいくらでも有る。昔からおどろおどろしい噂のあるところで有る。噂は一気に膨らみ、怖いもの見たさで人が来る。youtubeにアップしようと撮影に来る。そのため若者の死体の供給が止まらないのであった。
ゾンビがパンデミックする前に、数を減らさなくてはいけないので、討伐隊が何遍も送られるが、追いついていないのが現状だ。
バスは、樹海の道をゆっくり進んでいく。施設があるぐらいだから、ちゃんと道が整備されているのだが、舗装がされて居ない。そして、ところどころにゾンビが歩いている。
そして、彼らは、物音に気付いて寄って来るのだ。例えば、話し声やバスのエンジン音に寄ってくるのだ。
相模川の部長が作戦を話している。大勢で、隊列を組んで行くつもりだ。
(何人助けるつもりか知らないけど、それじゃあ、こちらも何人か死んじゃうよ)俺は作戦を聴きながら、そう感じて居た。
窓の外に目をやると、太陽の光に輝く緑が美しい。何人か、歩行者の姿も見える。彼等をバスのエンジン音が呼び寄せているようだ。
(あーあ、やっちゃったよ。このままじゃ、どんどん集まってくるぞ)と眺めて居た。
施設は、コンクリートの二階建て、事務所と研究所が入っている。
建物の外には、金網が有り、鍵も閉まるようになっている。
金網の中は、中庭と大きな駐車場になっていて、職員、来客の駐車スペースになっているらしい。
部長の話では、その中に生存者達が逃げ込んだらしい。
なので、駐車場にバスを横付けして、施設に突入するつもりらしい。
バスを進めると、徐々に、ゾンビの影が濃くなって来ている。最近、誰かがどんちゃん騒ぎをしたのだろう。
(たぶん、相模川高校のやつらだろうがな)
俺は席を立ち、運転手の横に行く。
「運転手さん、止めてエンジンを切ってください。このままじゃ、カルガモ一家になっちゃいますから」
俺はバスを止めさせた。
このままじゃ、トレインして全滅するのが目に見えているからだ。
トレインとは、RPGで敵キャラのターゲットになって、後から付いて来られて、逃げ回っている姿が電車ごっこのようだから、付いた隠語だ。
「ゾンビが増えて来たので、ちょっと連れて行って来ますね。施設はこの先ですか?」と柿田部長に聞いてみた。
「この先300m程を左折して100mだそうだ」
俺が自分の話を聞かないので、苦虫を潰したような顔をしている。
「お〜い、桐崎、後は頼んだ。ゾンビちゃん連れて行って来るよ」
「蘇我さん、ちょっと付き合って貰えますか?」
と二人に聞いた。
「おう! 居なくなったら突入で良いんだな?」
「私も行く」と瀬戸山さんが言い出した。
「おう、頼むわ! えっ?」
「いや、無理無理無理。お願いだからここに居て」
「ああ、俺も行くわ」桜木までもが言い出した。
「私も行く。行きたいの」
「いや、だから安全なところに居てくれる?」俺は瀬戸山さんに言う。
「お前死ぬぞ、俺は四人も守れないよ」
振り向いて、桜木に言う。
「三人なら守れるんだよね」
「だから、おねがいだから、ここに居て」
「行く」
「解った。蘇我さんと喧嘩とか殺し合いとかしてないよね」
気になった事を確認して見た。
「うん、してないよね」瀬戸山さんは、真里亞に同意を求める。
「してないよね。たぶん」
「じゃあ、施設の周りのゾンビを連れて来るから、いつでも出れる準備しておいて」
「蘇我さんもお願い、依頼を受けてきたから」と小型カメラを真里亞に渡す。
「桜木、行くよ。バスが進めるように、周辺のゾンビを集めに行くぞ」
「突入は桐崎に頼むから、後でついて行くと良いよ」
「おう! おおう!」
桜木はちょっと声が震えている。たぶん、本物のゾンビを見るのは初めてなのだろう。
俺は大きなリュックを背に担いだ。リュックにはラッパとタンバリンとたくさんもの花火の袋が付いている。
「それ、要るのか? 置いて行けよ」
と桜木が言う。
「今から使うんじゃないか。キャンプファイアでもすると思ってたのか?」
「花火なんかあげたら、奴らが寄って来るぞ」
「当たり前じゃないか。寄せるんだよ」
「「「「「えええっ!」」」」」車内がどよめいた。
二人でバスを降りると、扉をロックするように身振り手振りで指図をする。
辺りには、腐敗臭が漂っているので相当臭い。気の弱い人なら、嘔吐する者もいるだろう。
蚊取り線香に火をつけ、適当に打ち上げ花火を上げる。「月旅行」と言う安い打ち上げ花火だ。
「シュッ パンッ!」
単純に上空で爆発するだけだが、それで十分だった。
ゾンビは、破裂音にはよく反応した。ゾロゾロとこちらに向かって歩いて来る。
アスファルト舗装はされていないが、それでも道なので歩き易い。
道を追いかけて来る者、道を前からやって来る者、横の森から出てくる者、様々な方角から、様々なゾンビがやって来る。
真里亞は、瀬戸山さんに話しかけて居た。
「いつから付き合ってたの?」
「このあいだ、横浜に一緒に花火を見に行ったんだ」
「いつから好きだったの?」
パンッ! 花火の音が車内まで聞こえる。
「海で溺れかけた時。優しくて、力強くて、素敵だなって思って」
「そっかぁ、あの頃かぁ。あいつ、人外だよね。葉月に取り付いてる怨霊ごと担ぎ上げていたよ。そっかぁ、時間も機会も有ったのになぁ。自分でも気づいていなかったよ」
「うん、そうだと思った。公園で眠らせた時、そうだと気づいてた」
パンッ!
「ああ、本当だね。あの時に気づいとくべきだったね。もう遅いね」
「うん」
パンッ!
秋山さんも栃原先輩も、外の景色も怖いが、中の会話も怖い。誰も話しかけられずに息を飲んでいる。
「一応、葉月達のことは応援しているね」
パンッ!
「嘘よね」
「嘘だけど、本当」
花火の音が徐々に遠くなって行く。
「葉月達の事を応援しながら、隙ができるのを待ってる」
「ありがとう、あたしも真里亞の事が好きだから」
「ふふ」
「ふふ」
柿田部長は思っていた。
(あいつ、花火上げながら、ゾンビ引き連れて行ってしまったよ。なのに誰も彼の事を心配していないし、車内で緊張した女子トークが行われているし)
「田崎、俺たちどうしたら良いんだ?」
真里亞達の話を聞いていた田崎副部長が答える。
「え? ええ? ああ、待つしかないでしょうけど、生きて帰って来るんですかね。二人とも」
ゾンビがバスの後ろから前の方に、花火の音を追いかけて歩いている。
「ああぁ? 俺にはわからん」
パンッ!
花火の音だけが遠ざかっていく。
すいません。
「その○○」って言う番号ですが、打ち間違えていました。
修正しましたので、お間違えの無いようにお願いします。




