樹海 再び その55
勇人は部屋で、飛行物の設計に取り掛かっていた。
それを収納する場所をウエストポーチに作った。4トントラックぐらいの大きさになるはずだった。サザンが作れる魔法の鞄の最大の大きさだ。
ただ、勇人は、憑依した状態でないとサザンとは話せないので、一人でブツブツ喋っているように見える。
医療用トリコーダーも完成し、上陸班の装備はほぼ出来上がった。
コミュニケーターも20個ほど出来たし、後は本体を作るだけだったのだ。まさか、数百メートルも有る宇宙船を作るわけにもいかず、シャトルで我慢して置いたのだ。
まあ、夏休みの自由研究だ。
「勇人? コレぐらいは別に構わないのだが、これらは本当に必要なのか?」
「勿論だ、サザン。解らないだろうけどな」
みんなの分の空飛ぶ箒も作っておく。
(桜木は、作っても飛べないよね。どうしようかな?)などと考えて、みんなで空中散歩する妄想に浸っていた。
突然、真里亞からの電話がなった。
「藤波君、明日空いてる?」
「いや、予備校の夏期講習」
「良かった。相模川の白本さんを覚えている? 助けて欲しいんだって」
「だから、予備校の夏期講習」
「魔法部の仲間が、富士の樹海にゾンビ退治に行ったのだけど、どうも全滅したらしいの。だけど、何人か生きている連絡が入ったんだって」
「か・き・こ・う・しゅ・う」
「で、行くでしょう」
「おい、見事なスルーっぷりだなぁ。用事があるって言ってるじゃん」
「あんた、胸に顔埋めて喜んでたじゃん。その白本さんが頼んでるんだよ。また、顔埋めさせて貰えるかもよ」
魔法道大会の記憶が蘇る。あの時の優しく柔らかで、暖かい胸の感触となんとも言えない汗の香りが鼻腔の奥に蘇る。
顔が赤くなっていくのが自分でも分かる。
「いや、押さえ込んだだけだから」
「じゃあ、明日、相模川の校門前で。学校じゃないよ。相模川高校の方だよ。6時ね」ピッ。
「返事聞けよ!」
続けさまに、瀬戸山さんから電話があった。
「勇人君、あのね、明日空いている?」
(やばい! 蘇我さんに約束をしてしまった)
「うん、どうしたの? 約束は有るけど、今なら断れるけど」
「えっと、どうしようかな? 勇人君が来てくれたら、心強いんだけどなぁ。用事あるのか?」
「大丈夫だよ。瀬戸山さんが言うのなら、向こうを断るよ」
「うん、この間会った相模川の魔法部の部長さんが、うちの部長に助けて欲しいんだって。うちの部長が受けちゃって、明日行くことになったの」
「樹海のゾンビの件?」
「そう。知ってるの?」
「蘇我さんから連絡があったよ」
「そう、真里亞から……」「で、行くの?」
「行くって返事したけど、断るよ。瀬戸山さんの用事は何?」
「そのゾンビの件」
「蘇我さんと一緒に行くの? 別件?」
「確認してみるね」
「はい」
(なんか、この頃、瀬戸山さんは、真里亞と仲が悪いのかなぁ?)俺は、まだ、自分が地雷を踏んでいる事を気づいて居なかったのだ。
俺は、浅草まで花火を買いに行き、久しぶりに、御茶ノ水の魔術師協会で依頼を受けて来た。
山梨県警にも連絡して、遺体引き取りの準備を頼んで置いた。
瀬戸山さんから、同じ案件なので、一緒に行動する旨連絡が来た。
翌日、相模川高校の校門前に集合した。6時に着こうとすると、始発で行かないといけない。
朝からセミが鳴く中、相模川高校に着いた。空は果てしなく青く、白い夏の雲が湧き出していた。朝早い時間だが、もうすでに暑い。
瀬戸山さん、栃原先輩に蘇我さんはもう着いていた。
マイクロバスが校門の横で止まっている。
桜木が、全員が集まって来るところを映像に押さえている。
最後に桐崎たちが来た。彼は、俺の中では最強戦力なので、居てもらわないと困るのだ。
他に集まっているメンバーは面識が無い。一応、会釈だけしておく。
全員が揃ったところで、改めてお互いに自己紹介をする。
「相模川高校の部長、柿田です。この度は申し訳ありません。昨日の午前に、ゾンビ狩りにでかけた部員のパーティが全滅した旨連絡がありまして。そして、その後まだ2名が生きている旨の連絡、報告がありまして、救援隊を出すことになりました。みなさんの救援協力に感謝します」
「相模川高校の魔法部、副部長の田崎です」
「白本です。商業の蘇我さんには、急な応援要請に答えてくださって感謝します」
「相模川高校の魔法部、福島です」
「白本さんの友人の蘇我です。仲間が大変な事に、心中お察しします。すぐにでも助け出しましょう」
「蘇我さんの友人の秋山です」
「蘇我さんの友人の靏見です」
「その友人の桐崎です」
「そのまた友人の藤波です」
「ええっと、皆さんは魔法道の大会に商業の魔法部として出て居ましたよね」と柿田部長が聞いてきた。
「ええっと、そうでしたかね?」声が震えて、何かをごまかしている。蘇我さんは嘘はつけないタイプのようだ。
その時、白本さんと知り合ったのだから、魔法部所属でないとおかしいのだ。
「相模原商業高校、魔法部部長の金田です。皆さんのご友人を、一刻も早く救助したいと思います」
「副部長の栃原です」
「魔法部の瀬戸山です」
「魔法部の倉田です」
「オカルト研の桜木です。皆さんの記録を撮らせていただきます」
各々が自己紹介をして行く。
みんながバスに乗り込むと、桜木が運転手と何か話すと降りていった。
どうやら、発車のシーンを撮りたかったようだ。
桜木を残して発車すると一旦止まって、桜木を待つ。
桜木が走ってバスを追いかけてきた。扉を開けて、飛び乗って来た。
「すみません、お待たせしました」
「何やってんだよ。お前、十分ややこしい奴になってるよ」
相模川の部長さんが、バスの中で苦言を言い出した。
「応援に来てくれたのには、本当に感謝している。が、遊び半分で来られても困ります。一歩間違えると死んでしまうのです。もう一度、気を引き締めて、なんならこのバスから降りないのも選択肢としてあります。死なないように、注意してください」
「ほら、部長さんが怒ってるよ。お前が動画ばかり撮って遊んでるから」俺は、朝ごはんのコンビニお握りを食べながら桜木に言った。
「遊びに来てるのはお前だろう。なんだ、この荷物は? ラッパに花火にタンバリンって。持って来た武器はドライバー一本てどうよ」
「これは、以前、工業科のやつに作って貰ったんだよ。使わなかったから、今日は使えるかなっと思って。どうせ、俺は戦わないし。桐崎がいるから俺の出番はないよ」と喋ってると、栃原先輩がやって来た。
「流石だね。少年! よくそんな格好で来るよね」
「あ、先輩」桜木が挨拶をする。
「あ、先輩。少年はやめて下さい。一つ下なだけですから」
「ドライバー一本で来るなんて、瀬戸山じゃ無くても惚れてしまうわね」
「え? あ? ええ? なんでそれを?」
「ゴブリン騒ぎの時に、瀬戸山のスマホで君を呼んだのは私なの」
「ええ? 何? どういう事?」
「君達二人がなかなか進展しないからさ。ちょっと、キューピットになって上げようと、ピコピコっとね。まさか、本当に文字通り飛んで来るとは思わなかったけどね」
「因みに、覚えて居ないようだけど、あの時、君が腕を切り落とした内の一人が、あちらの部長さんだ」
「ええ! すいません。すいません。申し訳なかったです。もう、腕は大丈夫ですか?」俺は立ち上がって、手におにぎりを持ったまま、なんども頭を下げている。車内にはなんとも言えない空気が流れている。
「ああ、日常生活はもう大丈夫だ」妙に平静を装った返事が聞こえてきた。
「まだあるぞ、忘れているようだけど、五人切り倒した後にキスして居たのはあの娘だ」
「え? なんでそれまで?」
「「「「「「「ええぇぇ」」」」」」」。みんなから非難の声が上がる。
「ちょっと少年、こっちに来い」
「瀬戸山! お前もだぞ!」
栃原先輩は、二人を隣同士に座らせたら、去っていった。
(これが、目的かぁ? もっと、普通に座らせたら良いじゃないか?)
(向こうの部長さん、なんか固まってるし。蘇我さんは、「なんで?」って言ったきり俯いてるし)
揺れるバスの中、桜木が栃原先輩の横に座りに行くと、我が校の魔法部の金田部長が動かなくなったし。車内が修羅場だ!
俺は、コンビニお握りの続きを食べている。隣で、瀬戸山さんが小さなお弁当箱で朝食を食べている。
女子はなぜあんな小さなお弁当で足りるのだろう?
って、ちゃうわ! このバスの中の空気、おにぎりが喉に詰まるわ!
ブックマークをお二人の方にして頂きました。
まことにありがとうございます。
皆様の方に、足を向けて寝られません。




