橋本神社の夏祭り その53
「良いかな? 彼は今回は神様の使いで来てたんじゃ」と住職が言い出した。
話の腰を折って、それかいっ!
「はあ?」
「はぁ?」
「へ?」
「あれがぁ?」
と気の抜けた疑問符しか出てこない一同が気の抜けた返事をしている。
「お前達が狩に行って、ゴブリンの群れを襲っただろう。その時、メスのゴブリンが居ただろう。わしは会ってないから知らんけどな。そのゴブリンのメスが神様に祈ってのう。願いが聞き届けられたのじゃ」と。
「はあ」としか答えようの無い一同である。
「彼も、君達も、わしも呼ばれたわけじゃ」と栃原先輩と瀬戸山さんを指差した。
「いえいえ、私は誰にも呼ばれて居ませんが」と栃原先輩。
「ふん」と瀬戸山さんは頷いた。
「お前が、あの少年でも無いか、男を呼んだのだろう」と栃原先輩を指差した。
「君の携帯を使ってな」と次に瀬戸山さんを指差した。
(ええ? このおっさん、なんで知ってるの? キモイ!)と栃原先輩はちょっと引いた。
「でも、それじゃあ時系列が合いません。あなたの話は時間が無茶苦茶です」と鏡屋部長が話の矛盾点を突く。
「今、我々は4次元の世界にいる訳だが、時間だけは不可逆的に一定の速度で流れている訳だ。四次元時空連続体とも言う人も居るが、要するに、時間だけは一定方向に一定の速度で進んで居るわけだ。が、神や仏は可逆的な上位の世界にいる」
「我々が手を上下させても平気だが、CTやMRIの世界では出現したり消えたりする様なものじゃ。あちらさんには、神や仏には時間流れるなんて概念は無い。我々が手を上げ下げするようなものじゃ」
「ところで、山道で転んで骨折でもして、辺りに人もいなく、日も暮れて来て、もうダメだとおもって手を合わして『南無観世音菩薩』と拝むと、金ピカの身長4mの手がいっぱい生えた、顔がいっぱい付いててっぺんに馬がブヒヒヒーンて奴が走って助けに来てくれると思っているかい?」と聞いてくる。
(何? 千手観音の事?)
「嘘くさいけど、違うんですか?」と鏡屋部長が聞き返す。
「神や仏が助ける時は、縁を結ぶんじゃ。直接、物理的な作用などしない。
この例え話の場合、彼は、たまたまこの山に来ていた、親切なご夫婦に見つけられて助けられるんじゃよ」と。
「ええぇぇ〜!」と一同。
「しかし、ご夫婦がここに来るまでの縁を結ぶんじゃ。このご夫婦が50歳だとすると、50年前に生まれないといけない。
この世界は時間は不可逆的だからな。
優しい子に育って、大学では登山部に入って、二人が出会って結婚して、仲のいい夫婦で、その日に山登りに来ないといけない。
そんな限りなく低い確率の縁を結ぶんじゃないのかなぁ」
「そうして、怪我をした人と出会うんじゃ」
「もし、君たちが笹舟を一艘持っていて、川でおぼれているアリを助ける時、川の上流に笹舟を浮かべるだろう」「そうすると、アリの元に笹舟が流れていくからな」
「これが縁で、川が時間じゃ」
「あの男は昼休みに、わしは夕方の6時頃に、君達は8時頃に、みんな縁を結んで居るんだよ」と長い状況説明が終わる。
「住職さんは何故それを?」
「わしには、指示があった時にビジョンが届いた。まあ、一瞬に見る白昼夢じゃな」と言っていたら、
「あっ……」と瀬戸山さんが呟いた。
「銭湯の女の人……」と思い当たる節が有ったらしいが呟きは無視された。
一同は、彼女達にもあったが、気づいていなかっただけで、それはゴブリンを助ける為だったと理解した。
「まあ、まあ、コノハナノサクヤヒメは水や桜、美人の神様だけど、この辺じゃ安産、子宝の神様だから、女性のあんた達には、きっと良いことがあるよ」と言った瞬間思い当たったもの達が、
「あっ」と瀬戸山さんが口を押さえる。
「ああぁぁ〜!」
「ああぁぁ〜!」
と鏡屋部長と森田副部長が瀬戸山さんを指差した。
「え? 何かあったの? 良いことがあったの?」と栃原先輩は三人を順々に顔を見ている。
「四人とも、きっと美人になるよ」と住職さんは笑っていた。
(俺らは、泣き寝入りか? 腕切られたんだぞ)相模川の部長は思った。
この夜、鏡屋部長ら三年生の追い出しパーティーが開かれた。
そして、次期部長と副部長との選出が行われた。
魔力の良し悪しでは無く、統率力と面倒見の良さで選ぶ様に、鏡屋部長が念を押す。クラブの活動を維持するためには、部員をまとめる力というのは大切なのだ。
結果、部長に、金田 竜二。副部長に栃原 優希 が選ばれた。
順当な結果だった。
この後は、ジュースとピザやお菓子で盛り上がり、遅くまで騒いだ。
3日後、5日間の全ての予定を終了して、魔法部の合宿は終わった。
腕を切られた者も、日常の動作なら問題ないところまで回復していた。
瀬戸山さんが治療した三人目の男子は、相模川高校の二年生だった。名前を加藤 大地 と言った。
瀬戸山さんにラインのアドレスを書いた紙を渡しに来たが、鏡屋部長等が防いでくれた。
「この子には、もう彼氏がいるから」と聞こえる様に断っていた。
もちろん、護られたのは加藤君の方である。
八月に入って最初の週末が、橋本神社周辺での橋本七夕祭りだ。祭日は8月1日なのだが、七夕祭りの方が盛り上がるのだ。
七月七日でも無いし、旧暦でも無い七夕祭りなのだが。
当日の夕方、橋本駅の改札を出た所で、瀬戸山さんと待ち合わせていた。
俺は、トンボ柄の浴衣に下駄を履いて気合を入れて行った。
改札を出た所で、俺を見つけた瀬戸山さんはこちらを向いて手を振っている。
ん? 何故か、待っている人数が多い。瀬戸山さん以外に、蘇我さん、秋山さんが居るのだ。
(彼女らは、何故居るの?)と疑問に思いながら近づいて行った。
「三人とも綺麗だね」と一応、浴衣を褒めておく。
(ああ、昨日、何か言い難そうにしていたのは、この事だったのか)と理解して微笑んでおく。
桐崎と靏見さんが遅れて来て、全員揃った様だ。瀬戸山さん以外に会うのは、ほぼ2週間ぶりになる。
瀬戸山さんは、この前の浴衣と違い、薄い水色地に桐の花が艶やかに咲いて居る浴衣を着ていて大人っぽい様相になっている。
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