魔法部の部長が その52
「はあぁ?」副部長の森田は部長の顔を覗き込んだ。
「へっ?」報告に来た学生も、トンチンカンな返答に戸惑った。
「うん、兄貴が好きでな。DVDをよく見ていたんだよ」と説明している。
俺は暗がりの中で、一応部長達に挨拶した。頭を下げて、会釈しておいた。
そして、俺はウエストポーチから箒を取り出し、跨って飛び上がった。
部長達が部屋に入ろうとした頃、8人ほどのグループが山を登って来た。
月光院の住職さんと医師達だ。
住職、小坊主さん、手伝い住職さん、医師、看護師、薬剤師、荷物運び二人の8人だ。
急いで道場に入って行き、「まだ帰って無いのかっ!」と大声で叫んでいる。
鏡屋部長達も道場に入り、様子を見た。食堂を病院の処置室にする予定のようだ。惨状を聞いて上がって来たのだろう。
(あれ? 早く無いか?)そう思いながら、一旦自室に戻った。
少しすると階下が騒がしくなって来た。腕を落とされた者たちが帰って来たのだ。あの事件から1時間ほどなので、余程急いで帰って来たのだろう。
三人程でおぶっている者、落とされた腕を持っている者、代り番こに背負って来たのか、全員が血だらけだった。
「ここに寝かせろ」
「そいつはこっちだ」と喧しい。
通常使う、傷やHPの回復魔法では、腕が生えて来たり、切れた腕が繋がったりはしない。それ専用の魔法があり、スキルレベルも高く、消費魔力も大きい。
それに、そんな高度な魔法は、皆が使えるとは限らないのだ。
案の定、彼等は傷回復の魔法で応急処置をされただけだった。しかし、それがされないと、今頃は失血性ショックか出血死だったろう。
階下が騒がしくなったので、鏡屋部長は、森田副部長、栃原先輩、瀬戸山さんを連れて降りて来た。事件の事情聴取をしていたのだ。
四人で降りて行くと、ひどい惨状が広がっていた。廊下は血まみれの人でいっぱいで、食堂の中を伺っている。
「通して、通して、ちょっと通して」鏡屋部長が中に無理やり入って行く。
森田副部長と栃原先輩と瀬戸山さんが後に続く。
中では、住職さんと手伝いのお坊さんは、傷の大きな「先生」から治療している。
生徒たちは順番に寝かされており、医者が点滴の準備をしていた。
患者の側に行った瀬戸山さんが、医者に「この方の傷を洗って消毒してもらえませんか?」と突然聞き出した。
医師が看護師に指示を出し、看護師が大きな点滴から、中の液を大きな注射器に吸い出した。
その注射器で水鉄砲のように手と腕の両方の傷口を洗ってくれた。いわゆる、生理食塩水だ。この点滴に薬を混ぜて点滴にするので、中の液は薬でも無く、細菌に汚染されてもいない水なのだ。消毒にはならないが、表面は綺麗に洗えるのだ。
瀬戸山さんが、腕と手をそっと引っ付けて呪文を唱える。
あたりに光の粒子が飛び交い、次第に二重螺旋の軌道を描きながら傷口に集まり出した。
回復魔法の「接合」だ。大きな傷や手足の切断時に使う魔法だが、落とした四肢の先の部分が無いと使えない魔法だ。
両手が落とされているので、一人につき二回行わなければならない。瀬戸山さんが見る見る疲弊して行く。
二人が終わったところで、瀬戸山さんの手が止まった。
大きく深呼吸して、次の人の脇にしゃがみ込み、準備をしだした。
「まだ、するの? 良いから休もう?」と周りが止めても聞かない状態だ。
僧侶がチラッとこっちを見たが、自分の方の手が離せなく、出来るなら頑張って欲しい顔をして、「先生」の治療をしている。
瀬戸山さんは、肩で息をしながら、治療を続けていた。顔には玉の様な汗が滲んでいる。
「藤波君が切っちゃったから、私が治さないと」という思いもあったが、目の前に怪我人がいるので、衝動的に治療していたのかもしれない。瀬戸山さん本人にも解らない感情だった。
三人目の両腕を繋ぎ終わって、瀬戸山さんが倒れた。魔力を使い過ぎたのだ。目の前が暗くなって、会話や物音が遠くで聞こえ出す。心臓の拍動が打っているのか打っていないのか解らなくなった。
暗がりの中に女性が立っているのを見た。オオクニヌシのミコトとかアマテラスオオミカミとか羽衣の天女とかいう時代の服装や髪型をしている。
富士山をバックに桜の花びらを散らして立っている。
「良くやってくれました。礼を言います」
(お風呂屋さん?)
「違います」
(遠山の金さん?)
「それも違います」
そう言って、消えて言った。
瀬戸山さんは自分の部屋で目を覚ました。灯りが点いたままで、布団に寝かされていた。まだ、窓の外は暗い時間だった。
隣では、栃原先輩が体育座りをして壁にもたれて眠っている。
身体は気怠くて、指を動かすのも億劫だった。
瞼が重く、目を瞑ったら、そのまま、また意識が遠くなった。
翌日、昼前に部長が起こしに来た。横で、栃原先輩が畳の上で横になっていて、夏布団を上から掛けられているだけの状況で寝ていた。
男子に見られたら、百年の恋も冷めるだろう。
「起きろ! 瀬戸山! 栃原!」と鏡屋部長が体を揺すってくれる。
「顔洗って、飯食って来い。シャワー使って良いから、身だしなみを整えて、2時に集合」と笑って指示を出してくる。
一階の食堂が使えないので、各フロアーの会議室で食事となった。
一階の食堂兼教室は、まだ彼らが寝かされていたのだ。
繋いだ腕は、シーネで動かない様に固定されていた。もう指は動くが、まだ感覚が無いらしい。
点滴の袋がいっぱいぶら下がっていて、足から点滴をされている。
瀬戸山さんは、(腕じゃ無いんだ。足からも点滴ができるんだ)と思って見ていた。
三人目に治療した男が、瀬戸山さんを見つけ、「ありがとう。助かったよ。君は天使だよ」と礼を言って来たので、
「なんとか繋がって良かったですね」と微笑んでおいた。
化粧っ気のない洗い晒しの、まだあどけない顔の女性に微笑まれて、男の心は舞い上がってしまった。が、動けない彼は、名前と学校を覚える事しか出来なかったのだが。
二階の会議室で、月光寺の住職が待っていた。
鏡屋部長、栃原先輩、瀬戸山さん、相模川の部長が参加していた。妙法寺の部長は、両腕を切られていたので、一階でまだ治療中の為寝ているのだ。
「あの男は何者なんですか?」相模川の部長が怒って発言している。
「痴漢はするは、ゴブリンは横取りするわ。あいつは、なんだったんだ!」怒り心頭である。
「痴漢の話ですが、彼は魔法が使えないので、女の子なので投げて押さえ込んだら降参すると思っていただけですね」と鏡屋部長が説明すると、相模川高校魔法部の部長である佐藤雄二は口を開けて驚いた。
「一瞬にして五人を倒した男が魔法が使えないだと?」信じられる話ではなかった。あんなファイヤーボールを魔法障壁を張らずに手ではたき落としていたんだぞ! しかし、それは魔法障壁を張らなかったんじゃなく、張れなかったと言うのか?
しかし考えて行くと、「ああ」と、なにか納得できるところがあった。
「しかし、箒で飛び回っていたが?」相模川高校魔法部の部長の佐藤雄二部長は聞いて見た。
「あれは、『空飛ぶ箒』と言う魔法の道具を使っているだけです」と鏡屋部長が説明している。
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