横浜 花火大会 その46
一年生1学期の期末考査が終わる。
外はもう真夏の気配で有る。各地の神社では、夏祭りが行われて居る。
空は晴れて、入道雲が高くそびえ立つ。そろそろトンボが飛び、セミがなく時期でも有る。
勇人は、「魔法科の実技」以外は、ほぼ満点だったろうと高を括っていた。
魔法使いの素質がない勇人には魔法が使えないのだが、ペーパーテストは習った知識を書くだけなので自信があった。それに、授業で習う程度の事は、もう自習で終わっていた。
勇人には、読んだ書物の内容を忘れない素質と内容を理解する素質があった。いわゆる、天才と言われる素質だ。ただ、その知識を生活に応用できるかどうかは本人次第だが。
本日、試験最終日、最後の試験が終わった直後なのでクラスの中が騒がしい。 それに増して、明日は横浜の花火大会の日。その為、特にクラス内が騒がしいのだ。また、夏祭りも有るので、今の時期、高校生はイベントだらけなのだ。
みんな、この試験休みと夏休みで遊びに行く予定を決めて居るのだ。
このあたりの高校生は、海に行くなら茅ケ崎、遊園地なら横浜だ。ネズミーランドにも時間的には可能だ。
高尾山にハイキング、と言う高校生はまずいない。あそこは、小学校の遠足で行く山なのだ。
桐崎と靏見さんが、海に行こうと誘って居る。秋山さんと蘇我さんは行く気のようだ。
瀬戸山さんが、クラブの合宿が有るからと返事を保留している。
「藤波は?」と桐崎が聞いてきた。
「行かない。予備校の夏期講習に申し込んで有るから」と俺は断った。
「でもさぁ、女子の水着だぜ。プルンプルンの水着だぞ」桐崎が自分の胸に手をやって言い出した。
「ゴクッ」
桐崎と俺は、秋山さんの胸を見て生唾を飲んだ。これが不味かった。
「私行かない」
「私も行かない」
急に、秋山さんと真里亞の二人が行かないと言いだした。
いや、秋山さんは分かるよ。秋山さんは、シャツの胸のボタン位置にシワが入っているぐらいだ。確かにセクハラだった。しかし、蘇我さんには何もしていないじゃないか。第一、見せるほどの胸も無いじゃないか。何が不満なんだ。
しかし、二人ともヘソを曲げてしまったようだ。
この後は、何を言っても二人は話を聞いてくれず、帰って行ってしまった。その後、桐崎が靏見さんに叩かれていた。
海水浴の話は、女性二人と俺が行かないと言うので流れてしまった。桐崎よ。君達二人で勝手に行ってくれ。
「じゃあさ、じゃあさ、明日、横浜に行かない? 花火上がるしさ」めげない桐崎が聞いて来た。
「俺、塾だから」といつものお断りをしていると、「あたし、行きたいなぁ」と瀬戸山さんが声をかけて来た。
「葉月行く?」靏見さんは満面の笑みで、彼女は釣れた獲物を離すつもりはない事が解った。
(おいおい、この二人は何か企んでるぞ。瀬戸山さん、よく考えろ)
「私いきたいなぁ」再度、瀬戸山さんが言ってきた。
(俺か? なぜ俺に言う? 別に、俺たち付き合って居ないよ)
「行きたいんだってぇ〜」靏見さんが、こっちを向いて瀬戸山さんの言葉に被せてくる。
「おい、行きたいんだって」桐崎もこっちを向いている。
(あっち向けよ。喋ってるのは彼女だ!)
「試験休み中は、合宿とか無いから自由なの」と瀬戸山さんは予定が空いている事を説明している。
そして、 三人で俺の方を見てくる。
(こっち見んなヤァ〜、わて関係おまへんやん)心の声は届かない。
楽しく、四人で行くことが決まった。
勇人達は、昼前に、橋本駅で待ち合わせになった。高校最寄り駅より大きな駅のためだ。
この駅は京王線や相模線の乗換駅でもあり、駅前も発展している。
当日、勇人は予備校帰りの為、黒系のスラックスに白いシャツ。背中に参考書の入った黒系のディバックを背負っている。午前中だけ受講してきたのだ。本日は初日の為、手続きと受講料の払い込み、オリエンテーションだけであった。
女子二人と桐崎が浴衣姿だ。瀬戸山さんはピンクに紫の朝顔などの花柄の模様が入った、夏らしい浴衣を着ている。靏見さんは、初音ミクがアニメのコスプレをしている柄だった。
桐崎も浴衣を着ている。どうも、靏見さんと合わしたようだ。それにしても、アニメの浴衣、男物も有るようだ。
(どこで売っていたんだろう? バカップルめ!)
40〜50分程電車に揺られると、横浜駅に着く。みなとみらい線に乗り換えて、元町・中華街駅まで行く。もう車内はすごい混みようだ。瀬戸山さんが俺の前で、押されて、俺にもたれかかって来てそのまま動けなくなっている。
車窓から見る人混みは、もう、凄い人だ。港の公園が人で埋まっている。
まずは、桐崎が予約してあった店に行って、お昼を食べる。中華街の外れに有る店を予約してくれていた。なかなか美味いのにリーズナブルな店だ。高校生でも支払いに不安がない。
俺と桐崎は瀬戸山さんと靏見さんの分まで支払う。
(これデートなの? ダブルデート? クラスメイトのお出かけだよね)
まだ、日没まで時間がある、このまったりとした時間を露店など見ながら運ばれて行く?のではなく、喧騒と人混みと人の流れに流されて行く。流れに逆らうと言うことはできない。
パレードとか演奏会とか、イロイロと楽しめるようにイベントだらけなのだが、楽しめたのは露店だけだった。
瀬戸山さんが、綿菓子を一つは多いと言うので、一緒に分けて食べた。
露店の店でも、テキ屋のオネェさんがカラー綿菓子を作ってくれるのだ。
瀬戸山さんが「風船ヨーヨー釣り」、「金魚掬い」をしているところを写真に撮っていると、彼女にスマホの待ち受け画面にされた。
(どーすんのこれ? 俺達付き合ってないよね。告った覚えも告られた覚えもないのだけど)
規制される前に、山下公園に着きたかったのだが、遅かったようだ。
ガードマンの指示に従い、ノロノロと列になって歩いて行く。
日中、パレードなどの行事など色々なイベントを行なっているのだが、それを見て居た人たちも集まって来ており、混雑に拍車がかかっている。
空いているスペースを見つけ、俺達は、レジャーシートを小さく広げて四人で座った。
空が赤く染まり、徐々にグレーに変わって行く。山下公園は、前が北東に開けており、日は後ろに沈む。
俺達は雲の色の変化のみを見ることになる。
空いているうちにと、俺と瀬戸山さんが先にトイレに行った。女子トイレは混んでいて、瀬戸山さんはなかなか出てこなかった。
二人で桐崎達の所に戻ったが、すでにだいぶ混んで来ていた。
予定では、海にはイルミネーションで飾られた船が浮いているはずだが、ここからは見えない。
そろそろ時間だと言う頃に、桐崎と靏見さんがトイレに立って行った。
(だから、早く行っとけよ! メチャ混んでるよ。間に合わなくなるよ)
「いってらっさい」俺は手をヒラヒラと振る。
「ドン! パチパチパチ〜」花火が始まった。
爆発は近くにいると甲高く、短く聞こえる。爆発の衝撃波が皮膚と内臓を揺らす。
花火の色に、瀬戸山さんの顔が染まっている。代わる代わるの色の花火が打ち上げられるので、瀬戸山さんの顔と浴衣が、その都度、違う色に染まる。




