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遺体 その45


 遺体が埋まっていた場所は浅く、直ぐに辿り着けた。勇人が掘ったところは頭部の場所だった。もう白骨化しており、男女の性別も分からない。

 もう勇人の顔は涙でグチャグチャだった。

「桜木! お姉さんの御遺体を撮影するなよ。栃原先輩! 110番! 警察に電話して! 瀬戸山さん、もう一度手伝ってくれる? 犯人を探し出す!」と指示を出した。

 桐崎と靏見さんが、遺体に人が近づかないように見張っていてくれた。


 勇人は道に戻って、リュックから所謂ツールナイフを取り出した。


 そして、また、お姉さんの御遺体のそばに行き、長い髪の毛の先を一本1cmほど切った。


「お姉さん、ごめんね。必ず犯人を見つけますから、髪の毛を少し貰います」とご遺体に了解を貰った。


 他の人に顔が見られないように、顔の部分に少し土を被して、桐崎に任せた。


 森の中は大騒ぎになっていたが、桐崎が「警察が来るから、現場を荒らすな。道の方にいろ!」と追い返している。


「瀬戸山さん、協力を頼めるかなぁ。すごく辛い場面を見せることになるけど」と聞いて見た。


「大丈夫よ。藤波君の友達の敵討ちだもの」と納得してくれた。

(あんなに泣いて貰って、あんなに真剣に憤って貰えて、あの幽霊さんに嫉妬しちゃうな)瀬戸山さんはあの幽霊が羨ましかった。


 勇人は、カメラを回している桜木に、

「魔法陣と呪文を撮るなよ。秘伝だ!」と嘘をついて少し離れるように言った。


 スケッチブックにコンパスで円を描き、魔法陣と呪文を書いた。


 呪文は、大地より魔力の抽出、物の記憶、自動書記だった。

「物の記憶」はファンタジーで野伏せりが追跡に使ったりする魔法だ。


 勇人はスケッチブックを瀬戸山さんに渡し、腰に手を回し、ピンマイクを探して投げ捨てた。


「え?」瀬戸山さんは、一瞬勘違いした自分を恥じた。

「おわっ!」(何をするんだ、それは高いんだぞ!)桜木はピンマイクの心配をしていた。


 スケッチブックに描いた魔法陣の上に髪の毛を置いて、瀬戸山さんは呪文を唱え出した。

 地下深く流れる山の龍脈から魔力が上がって来る。

 森の草木から魔力が吸い出される。

 夜になり、冷えた空気から、大気から魔力が流れ込んで来る。


 瀬戸山さんには、暗闇の奥に、初めは暗く小さく、短い一本の髪の毛の記憶、先ほどの幽霊の女性の生前の記憶が見え出した。


 森の中、空を見上げている。口はガムテープで塞がれているが、鼻で息はできている。手足は括られていて動かない。

 男が三人こちらを覗き込んでいる。やがて、土を掛けられて見えなくなった。息が出来なくて苦しい絶望感。土を掛けられる音と圧迫感、恐怖と絶望の嵐。それらが、瀬戸山さんの頭に流れ込んでくる。


 藤波君がエンピツを渡してくれた。スケッチブックに絵を描き出した。手が勝手に動くのだ。しかし、(この絶望感は、絵に出来ない。

この恐怖心は絵で表現できない。

この無情な世界は絵に表すことが出来ない)

 瀬戸山さんは、魔法に体を委ね、絵を描いて行った。写実的を通り越して、モノクロ写真の様な絵をすごいスピードで描いている。一枚平均3分程度だった。

 それを、桜木が上から撮っていた。


 男の顔と名前を描き出した。

「ミッキー」と呼ばれる男、パーマをかけて痩せ型。

「センパイ」と呼ばれる男、ゴツイ体にスキンヘッド。

「ヨッシー」と呼ばれる男、眉が細く、剃り込みがある。


 三枚目は、「センパイ」の両腕がこちらに伸びている。首を絞められている所だった。「「苦しい。助けて!」叫べど誰も助けなど現れない。絶望感」


 次は、女性の脚が広げられていて、間に「センパイ」が下半身裸でいて、女性の体に乗っている。女性の上半身は誰かの腕で抑えられている。

レイプの現場だった。

「気持ちの悪いモノが自分の中に入ってくる。汚されて、汚されて行く自分の体、男のニヤついた顔が許せない。

二人の男に抑えられて抵抗が出来ない。女はなんて非力なのか、私はお前達を許さない!」


 次は、今いるこの道に車が停まっている。日本最大のメーカーの超高級車、今は別ブランドだか、先代の頃の車を族仕様に改造してある。

助手席にナンバープレートが置いてあり、しっかりと描かれていた。

 リアドアが開いて、男が立っている。男は上半身を車の中に入れている。室内からは女性の脚が出ている。

「止めろ! 止めろ! お前達の言いなりなんかにはならない!」


 栃原先輩はスケッチブックを見ながら泣いている。

桜木がカメラを回しながら絶句している。


 絵は、このトンネルへの道になった。通ってきた道順の逆に描かれて行く。「どこに連れて行くの? お願い離して」


 今はもうない店の看板や工事現場が描かれて行く。


 地元、八王子市内の駅で拉致される瞬間、会社の外観、お姉さんの親であろうか、中年の女性にギターを弾いている風景が描かれる。

「お母さん、ありがとう」


 最後に女性の顔と女性の名前と住所、殺された日時が書かれて終わっていた。「私はここよ」

 これらの出来事は、14年も前の出来事だったのだ。


 瀬戸山さんは、「何も出来なかった。私は見てたのに、何も出来なかった」と泣きじゃくっていた。


 俺は、「ごめんな、辛いものを見せたね。ごめん」と肩を抱いて慰める。

「昔の話だから、誰にもどうにも出来ないんだ。だけど、これで裁ける。お姉さんは、きっと瀬戸山さんに感謝しているよ」と言いながら、彼女の最後の言葉を噛み締めた。


 間も無く警察がやって来た。

直ぐに、森の中は立ち入り禁止になって、我々は管轄の警察署に連れて行かれた。


 夜中の0時過ぎに、高校生が集まって遺体を見つけたらそうなるだろう。所謂、補導ってやつだ。


 桜木が、ビデオのデータカードを入れ替えて誤魔化していた。その辺に才能が有るみたいだ。


 警察で、同じ事を三回聞かれて帰された。

警察の取り調べは、違う担当官が三回同じ事を聞くのだそうだ。その事情聴取した内容を比べて、それぞれ齟齬が無いか比べるのだそうだ。


 俺の取り調べが終わると、栃原先輩、桜木が富士見さん、桐崎と靏見さんの五人が待っていてくれた。

俺は、最初の時にお姉さんの事を喋ってしまい、長く、何回も聴取された。その為に遅くなったのだ。


 瀬戸山さんの聴取が終わった時には昼を回って居たので、会議室を借りて、カツ丼の出前を頼んだ。

 警察で聴取されても、カツ丼は出ないのだそうだ。自分で出前を取って、料金を払うのだそうだ。

「普通は会議室も貸さない」と言われたよ。


 昼下がり、七人揃って、帰路に着いた。帰りのカメラを入れたアルミケースは重たかった。


 瀬戸山さんは、どうやらお姉さんに感情移入し過ぎている。自分にも責任があると感じているようだ。時間の流れがゴッチャに混同してしまっているようだ。14年も前の事件だと納得させて、肩を抱いて上げる。

 彼女には、ちょっと、辛い出来事になってしまったようだ。


 翌日には桜木が映像を編集して、アップしていた。


 オカルト研としては大成功の映像になっていたが、違うところで話題になった。

 スケッチブックに描かれた高級車と三人の男と被害女性が実在したのだ。

(当たり前だ。魔法をなめるな)


 ミッキーは「三木 義雄」、センパイは「山田 悟朗」、ヨッシーは「吉木 将人」だった。

 当時、地元では有名なワルだった。すぐに実名を晒すコメントが上がった。

 そして、もうみんな嫁や子供がいて家族を持っていた。

 その後、本人だけじゃなく、その家族もテレビ局に追いかけ回されていた。


 テレビのワイドショーにお姉さんのお母さんが出ていた。

もう70歳近いそうだ。


 あの日、俺達が遺体を見つけた日、娘が帰って来たんだと感じたそうだ。

もう、一人暮らしの年寄りなのでする事もなく、さっさと寝ていたそうだ。


 夢の中で、娘が「星影のワルツ」をギターで弾いていたらしい。

「娘が大学時代、『私が好きな曲だ』と言うと、何処からか楽譜を探して来て、ギターで弾いてくれたんです」

「あの時と同じ所で詰まってね、ああ娘が帰って来たと分かったんです」

「すると、翌日、警察から連絡が来て、DNAの採取を言われました」と娘が生きていた当時を思い出して泣いていた。


 犯人達は捕まったが、起訴されるかどうかは分からない。証拠が少なすぎるとテレビでは言っていた。


 因みに、桜木の映像には、俺が一人で闇に向かって喋っているところが映っており、何もないところから鉄刀を出して、引きずり出される映研の男子学生を助けに行っていて、話題になっていた。

 スケッチブックに比べたら、小さな話題だったけどね。



次回より、新章になります。

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