暗闇に黒いオーラが見える? その42
休憩していると、トンネルの方から女性が歩いて来た。
年の頃なら20代半ば。まだ若いおねぇさんだ。
放送部や映研の生徒達が待機して居る方だ。その前を歩いて来る。
「はあ、どうもこんな時間に賑やかにしてすいません」相手に先に声をかけるのが、問題を起こさないコミュニケーション術だ。自分から先に声をかけ、先に謝ってしまうのだ。ここで悪いイメージを持たれたりすると、警察に通報されたりするからだ。
七分袖の白いブラウスに金の針金で出来たヨットの形のブローチ、紺のスカートに藤色の細い飾りベルトをしている。
靴はベージュのパンプスを履いている。
髪は青い髪留めで後ろにまとめている。
薄化粧にピンクの口紅。
そして、ピンクのブランド物のバッグを持っている。
こちらを見て、可愛く首を右横に曲げて挨拶をした。後ろに束ねてあった髪が右肩からサラサラと落ちる。俺はこの人が笑ったような気がした。
彼女は、カメラに興味があるのか、こちらを見て動く気配がない。
こんな真っ暗な道端で、荷物を広げている高校生の集団は気持ち悪くないのだろうか?
遠くから、エンジン音が聞こえて来る。
誰か馬鹿が肝試しにでも来たのだろうか。まあ、俺たちも十分馬鹿な御一行様だが。
近づく車のライトが見えて来た。道のカーブの状況に寄って、見えたり消えたり、エンジン音が大きくなったり小さくなったりしている。
(んん? ヘッドライトの動きがおかしい)
俺は近づいて来る車の異常さに気づいた。ライトが左右バラバラに上下左右にふらふらと動いているのだ。
「ちょっと、道の端まで下がって、そのケースより後ろに」と俺はその女性に指示を出すと身振りで示した。
車は赤い縦目ベンツだったのだろう。もう、おどろおどろしく変わってしまって元の車が何か分からない状態になっている。
それがボコボコ揺れながら走って行く。ボウッ、ボウッっとボディーの下から火を吹いている。
中にはゾンビが四人乗っている。
そして、中からこちらを向いて窓ガラスを叩いているじゃ無いか。
(なんじゃありゃ? ハンドル握って、前を向けよ。事故るぞ)
俺は一体何を見たいんだ? これが俺の脳内で見ているのか?
そう考えて見ていたら、映研の方でも悲鳴が上がっている。
「なんか見えてるじゃん」と声が出てしまった。
「大正時代に出来たトンネルに、どうして落ち武者の霊が居るんでしょう?」栃原先輩が富士見さんに聞いている。
「ここで亡くなったのではないでしょう。さまよっているうちに……。」
「また! 寄って!」栃原先輩が手で合図を出す。
「桐崎君、寄って!」瀬戸山さんがカメラの後ろに命令する。
みんなで横に並んで何かを待つ。
桜木は、カメラのレンズを栃原先輩が見ている方に向けている。
栃原先輩の視線に合わせてカメラを向けて動かす。桐崎がライトを点灯したまま、ライトを反対の壁に向けているが、何者も見えないし影すら出来ていない。
栃原先輩、富士見さん、瀬戸山さんの三人が何かをトンネルの奥へと見送っている。
桜木は姿も音も無いトンネルの奥へとカメラを向けるが、何かが写っている気はしていなかった。
俺は、女性が通り過ぎようとしないので、アルミケースに座るように促した。
「立っているのもしんどいでしょう。良ければ、好きなケースに腰を下ろしてください」と言うと、ニコニコと微笑んでいた。
俺は、(不思議な人だな。こんな時間に怖く無いのかなぁ)と思ったりもしている。
今度は、山の中を灯りが列を成して進んで来る。
(あ、狐の嫁入りだ)俺は思った。
「普通、狐の嫁入りとは、晴天なのに雨が降ることを言う。しかし、地方によっては、山の中を灯りが行列をなして、音もなく進んで行く。いくら追いかけても、灯りの行列に追いつくことはない」と言うのを何かの本で読んだ事を思い出した。
俺は、本で読んだ内容は覚えている。忘れる事はないと言う特技があるのだ。
「あはは、狐の嫁入りが向こうからやって来ますよ。これは珍しい」と女性に山の中腹を指して、この現象が稀な事を説明した。
だんだんと近づいて来て、道に降りて目の前を進んで行く。
顔はお面の狐だった。裃を着た狐が提灯を持って歩いている。獣の狐とは明らかに違う生き物だ。
これは大体わかる。「狐の嫁入り」と言うワードを思い出したが為に、狐の顔になったのだろう。ひょっとすると、百鬼夜行になったかもしれないのだ。
男衆と言っても狐だが、狐の男衆に担がれた輿が近づいて来る。
白無垢の花嫁衣装に文金高島田に髪をに結い角隠しを被っている。
俺の脳内が見せているなら、俺にはこれが間違っているのか、正しい狐の嫁入りなのかはわからない。
トンネルの入り口付近で悲鳴が上がる。
「うわっ!」
「ヒャッ!」
さっきからずっと、ややこしい奴らが通っているのに、どうして道の真ん中にいるのかね。あいつらの行動理論も分からん。
「百鬼夜行だね」俺は女性に話しかけた。微笑みながら頷いている。
(喋らない人だなぁ)と俺は思っていた。まあ、こんな夜中に気持ち悪くて友達にはなれんわな。
桜木は、栃原先輩達が目を剥いたのを見逃さなかった。三人とも同時に、自分の後ろを見て、目を見開いたのだ。
「桐崎、靏見さん、左の壁に逃げろ、桐崎! 照明を消せ!」と叫んで壁を背に、カメラを構えた。
桐崎と靏見さんは素直に壁際に移動した。
栃原先輩達が、道を空けた頃、照明が消された。
真っ暗なトンネルの中をフラフラとピンポン玉のような灯りが20個程列を成して進んで来る。
桜木は「ウィルオーウィプス?」と呟いた。
富士見さんが、「狐の嫁入り……。」と言うのを聞いた。
桜木も本物を見るのは初めてだった。
遠くに通り過ぎた頃、栃原先輩が瀬戸山さんに、「ここは凄いのがでるねぇ。まさか出くわすとは思わなかったわ」と興奮している。
勇人は、今度は遠くから道路を牛車が走って来るのを見た。灯りも無いのにちゃんと牛車が見える。牛車と言っても農作業の荷馬車ではない。平安時代のお公家様が乗る牛車である。
動きが速い、牛が暴れ牛で爆走しているようだ。牛が左右に噛みつかんばかりの勢いで吠えている。暗がりの中、黒いオーラが出ているのが見える。
(暗闇に黒いオーラが見えるよ。あれは多分ヤバイ奴だな)俺は直感で感じた。
「おねぇさん、下がって!」俺は女性の前に立ち、背中を女性に向けたまま、手のひらを女性に向けて前後に動かす。
「あれは普通じゃ無いですよ。ヤバイ気がします」と言い、俺もジリジリと後ろに下がる。
ブックマークありがとうございました。
どう? ただだったでしょ。いまなら、ただでブックマークが出来るのですよ。
さあさ、みなさんもどうぞ、どうぞ。




