深夜の撮影準備 その41
オカ研の俺たちは、シナリオが無いので手順だけの打ち合わせになる。
「こちらの撮影は終了しました。次使ってください」
放送部の一年生が、撮影が終わった旨を連絡に来る。
桜木は、「オカ研通ります。前を失礼します。すいません」なんか下手に出て挨拶をしている。
暗がりで分かりずらいが、他の部は2年生の先輩がいるかもしれないので、丁寧に挨拶をして前を通るのだそうだ。
映研の前で、何人か集まって泣いている。
どうやら、誰かに何かが憑いて来たのかもしれないし、そんな芝居を撮影しているのかもしれない。
俺は関係ないとばかりに、荷物番に戻って行った。一応、桜木達には軽く手を振っておいた。
時間が来たので、6人が撮影に行ってしまった。荷物と一緒に俺は暗がりで一人になったので、用意しておいた「霊視」の魔法紙を使った。
魔法は使えないが、魔法の道具は使えるのだ。事前に準備し、魔法の紙に一回限りの魔法の呪文を書いた道具が魔法紙だ。ファンタジーでは、「魔法のお札」とか言われて売られている道具だ。一回限りだが、現実には妖魔との戦闘もないし、急ぐ必要もないし、これで十分だ。
俺は、スマホの手帳型ケースに付箋のように貼ってあるのだ。以前、伊豆に行った時準備したものだが、向こうでは使わなかったものだ。
一枚剥がして、呪文を唱える。踊りはしないが、手の振りは必要だ。
淡い光と共に見え方が変わった。
近くはまだ色が付いているが、遠くは緑とグレーの中間の色でモノクロームだ。
それが、現実の視界と重なって見えている。現実には、数メートル先は闇で何も見えないが、霊視は霊力がある者は遠くでも見えるのだ。その為、目の前をチロチロと蛍のように何かが飛び回っている。
山や木々の精霊なのだろう。怖いと言う気はしない。どちらかと言うと綺麗である。
近づくと、フローラの様に人型をして飛んでいるのが分かるが、こちらに関わろうとはせず、フラフラと飛んでいる。
それらの光の玉が近づいて来ると、ある者は徐々に金魚に見えて来た。フナの様では無くらんちゅうの様な金魚だ。
尻尾をフリフリ空中を泳いでいる。また、あるものは蝶々に見えヒラヒラと飛んでいたりもした。人間と言う物が気にならないようだ。
栃原先輩達は、先ずは トンネルの手前に有る廃屋を撮影していた。
廃屋の中で、富士見さんが「ここには何もいませんね」と説明している。
三人は照明に照らされて明るい、その為、周りが暗く真っ暗で何も見えないのだ。
ふいに、栃原先輩と瀬戸山さんが左側を目だけ動かして見る。ビデオを撮っている桜木からは右側になる。
(ん? 二人して同じ物を見ている。俺の右後ろやや上。上って、そんな所に何が居るんだ?)とファインダーを覗きながら桜木は恐怖した。
「ええ、ここには何もいませんでしたね。次行きましょうか?」視線をゆっくり戻して、栃原先輩が移動を促して居る。
「はーい」
「はーい」
後ろで桐崎と靏見さんが返事をする。
(振り向いても大丈夫なのか?)
幽霊などは見えない桜木は、自分の勘が正しいことを祈った。これは、長年の勘だ。こんな取材をしていると、見えなくても感じることがあるのだ。
(振り向いたら何かいる。今振り向いてはいけない)
「ん?」帰りかけた富士見さんが左上を見た。
(やはり何か居る)桜木はゆっくりと右側を振り返った。
桜木は何も見えないし気配も感じないので、そのままそっと廃屋を出た。
「さっき、何か感じたの?」桜木が聞くと、「突然、強い気配を感じたの」と富士見さんが答えて居る。
「ヒヒがいた」
「ヒヒが屋根の上にいた」と栃原先輩と瀬戸山さんが呟いた。
俺は、アルミケースに腰を掛けて周りを見ていた。
カメラを見て「この景色が撮れているのかねぇ」と呟きながらこの景色を堪能していた。
「カラン、コロン、ガラガラガラガラガラ。」
何やら、道をやって来る。今しがたタクシーで来た方角から音が近づいて来るのだ。
見えるようになると、それは大きな妖だった。何だこれは?
大八車を獅子舞の顔をした、格好は天狗のおっさんが引いている。
彼の下駄の音と大八車の車輪の音が聞こえて来ていたのだ。
大八車の荷台には棺桶が載っている。鎖でグルグル巻きにして、南京錠で留めてある。近付くと、それはねずみ小僧とか水戸黄門とかの時代劇に出て来るような錠前であった。
あの「錠前破りの辰五郎」とか言われて、L字型の鍵で開く奴。
しかし、棺桶の蓋が振動でずれて、少し開いている。その隙間から、老婆か老人かのしわがれた手が出ている。その手を獅子舞顔の烏天狗が二匹、棺桶の横を飛びながら錫杖で叩いている。
「カランコロン、カランコロン、ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ」大八車がトンネルの方へ通り過ぎていった。
サザンの魔力が強すぎるようだ。余計な物まで見えている。
「幽霊や妖と言うのは、自分が作って見ているのだ」と言う本を読んだ事がある。
今見えているそれは実際の姿では無く、相手がそう見させたいか、自分が脳内で、自分で勝手な映像を作って見ているのだそうだ。
過去に見た記憶や想像した記憶の中から、適当なものを選んで見ているのだそうだ。
最近は、テレビや漫画、絵や写真などの影響を受けた物を見る報告も上がっているそうだ。口裂け女や人面犬など、テレビでいったん映像化すると、皆その姿を見るのだそうだ。
しかし、今のは何の影響を受けた記憶の合成なのだろうか。
俺は、自分で自分の厨二ぶりに驚いたと共に、笑えて来た。
「あそこ、壁のあそこに落ち武者の
「このトンネルは、今でこそ遊歩道
「靏見さん、桜木君、こっちに寄っ
「同時に喋るのは
顔が見えます。赤い色のレンガの横
になって、靏見さん、端に寄って」
って、速く!」
やめて下さい、聞き取れ、え? 何?」
の所、此処は大正時代に、何?」富士見さんも振り返る。
瀬戸山さんが向かって左端に寄るように手で指示を出している。
皆が好き勝手に同時に喋った為に、桜木が怒っていたのだ、それを制するように瀬戸山さんが端によるように言って来たのだ。
栃原先輩と瀬戸山さんと富士見さんの三人が、トンネルの端に避けながら、何かがトンネルの奥へ通り過ぎていくのを振り返りながら見送っている。
桜木には、その何かは見えないし、音も聞こえない。
が、三人の動きが何かが通り過ぎて行ったことを物語っていた。
「何が通って行ったの?」桜木は恐る恐る聞いて見た。
「大きな強い、白いものだった」と富士見さん。
「大八車を山伏が引いていた」と栃原先輩。
「天狗? が棺桶を引いていたわ」と瀬戸山さん。
三人の意見がばらばらで意味がわからないが、凄いのに出くわしたらしいのは確かだ。
桜木は生唾を飲み、「一人づつ喋って貰えませんか? 被って、聴き取りづらくなるので」と説明する。
気を取り直して、栃原先輩がうなずいて話し出す。
「みなさんこんばんは。このトンネルは大正時代に作られたトンネルで、現在は遊歩道として使われています。そして、このトンネルは、最恐スポットとしても有名なんです。そう、幽霊を見たと言う証言が後を絶たないのです」と一気に喋り出す。
「では、霊視能力のある……。」
取材が進んで行く。
俺は、アルミケースに腰掛けて、留守番をして居る。無いとは思うが、盗難防止の見張りのためだ。
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