オカ研の荷物持ち その39
桜木が人夫の駆り出しに来た。
にっこり笑って、桐崎と俺に声をかけて来る。
どうも、よそを回って見たが、必要な人数が集まらなかったらしい。
条件は、一晩、荷物担ぎにこき使われて、報酬はタダ。そら、誰も集まらんだろうよ。
「2年の結城先輩も来るよ。一晩一緒だよ」と条件を出してくる。
ややこしい言い方をしているが、学校内で有名な放送部の美人の先輩だ。校内外でファンクラブも有るとか無いとか噂にはなっている。校内でも有名な美人だ。学内アイドルと行っても過言ではない。
勿論、一晩一緒と言ってもそんな関係にはならない。一緒に撮影ロケに行くだけだ。話ができるかどうかも怪しいものだ。
多分、放送部が夏に向けて怪談特集を組んだのだろう。
MCの女優さんと機材運びのバイト君だ。間違えても、そんな関係にはならない。
それに桐崎はリア充だ。靏見さんと付き合っているので、そんな話に興味は無いだろう。
それに俺は塾の時間だしね。夏休みを制する者のみ、受験戦争に勝利するのだ。
しかし、そこに靏見さんが興味を示した。
「面白そう。手伝ってあげましょうよ」と。
(荷物を持つのは自分じゃ無いし、幽霊なんて見ようと思えばいつでも見れるはずだし。なに考えていやがる。参加する意味は無いじゃ無いか。ああ、「一晩、桐崎と一緒」か?そっちか?)
「桜木君、荷物運び見つかった?」栃原先輩と瀬戸山さんが入って来た。
(なんで、うちのクラス限定なんだよ。よそのクラスに行けよ)
「ええ、桐崎君と靏見さんは参加してくれるそうです。あと、……。」桜木が言葉を濁す。
「俺は行かないから」(さっきから、ハッキリ断ってるじゃ無いか)俺は、キッパリと断った。
「若い男女が、一晩青春の時間を過ごせるんだよ。ねぇ、藤波く〜ん」栃原先輩が誘って来る。
栃原先輩と二人っきりで、一つの部屋の中で過ごすならともかく、荷物運びの人夫仕事じゃ無いか。誰が行くかよ。
「藤波君も行くよね」瀬戸山さんが振ってくる。
(お前らグルかよ。なんで、いつも仲がいいんだよ)
「行かない。俺は行かない。メンバーを見て、益々行かないことにした。桜木、栃原先輩と瀬戸山さんって最悪じゃん。フラグ立ってるじゃん。徹夜で何しに行くの?」
と正直な意見と質問をした。因みに、フラグとは西伊豆の事件の事で有る。
「今度、オカ研と放送部と映研と合同で、心霊スポットの取材に行くんだよ」
と桜木がニコニコと説明して来る。
要約するとこうである。
各部とも収入源は学校から出される部費が有るが、活動するには少ないので、インターネットに映像をアップして、一部広告費を得るのと、活動の発表の場にしている。
放送部は主に校内向けの情報発信が活動内容だが、アナウンス大会や一部取材記事などをアップしている。
前出の結城先輩は放送部の先輩で、彼女がメインアナウンサーの番組を作ったり、また、彼女がMCのバラエティ番組を作っている。放送部自体は、最近は、高校生バンドと中学生アイドルの番組を作って好評を得ている。
映画研究会は、基本活動は映画を作る事で有るが、流石にバンバン作る事が出来ない。そこで、数班に分けて、小さなコンテンツを発表している訳だ。今回は、心霊スポットの取材に同行したドキュメント作品だ。
今回は、放送部やオカ研の取材が撮影され、取材されるわけだ。
オカ研は、まあ、いつものゴシップ記事の心霊スポットの取材に行くのだろう。ここは、こういう取材がメインだからね。特に不思議はない。
前回、桜木が取材した「西伊豆事件」は好評だったので栃原先輩と瀬戸山さんにも声をかけたようだ。
しかし、基本どのクラブもお金が無い。単独取材ができるほどの予算がない。そこで、合同取材となったようだ。
オカ研は、栃原先輩と瀬戸山さんにMCとアシスタントを任せ、霊能力者の人件費を節約した。後は、機材運搬の人夫をただで確保するつもりらしい。
しかし、栃原先輩と瀬戸山さんは俺を誘いたい見たいだ。執拗に誘って来る。だけど、魔法も使えない俺を連れて行ってどうするつもりだろう。単純に体が大きいので、荷物を多く持てるからだろうか。
「藤波君がいたら、この子も安心だしさ」栃原先輩は、今度は瀬戸山さんを出汁に使って来た。
「じゃあ、始めから行かないといいじゃ無いですか?」俺は再びキッパリと断った。
「・・・。・・・。」瀬戸山さんがポロポロと涙を流し出した。
(はあ? なんで自分お思い通りならないと泣くの?)俺は困惑していた。
瀬戸山さんは、自分お思い通りにならないから泣いたのでは無い。
自分の名前が出たのに断られた事に、自分が否定されたような気になったのだ。(彼の中では自分を思う心が少ない。「もし、これが蘇我さんなら断っただろうか? 付き合っていないと言うが、彼女の言う事には従うじゃ無いの」)と、その場にいない蘇我さんへの嫉妬も入っている、そんな感情の涙だった。
栃原先輩は察しがついていたが、それを言うわけには行かない。
軽く彼女の肩を抱いて廊下に出て行った。
桐崎が俺と瀬戸山さん達を交互に見て「(二人の間に)何があったの? 何が嫌なの?」と聞いて来た。
「はあ? 何もないよ。俺は塾に行けないし、勉強時間が減るし、第一、栃原先輩と瀬戸山さんって面倒なことしか起こる気しかしないし」と話す。
「そうそうあんな事は起こらないよ」と呑気に桐崎が答える。
(お前は良いよ。そりゃ楽しいだろうけどさ。でも、こっちは迷惑なんだよね。そろそろ、予備校の夏期講座にも予約しないといけないしね)
しかし、俺は午前の授業は全く集中出来なかった。俺の返事でポロポロ泣かれると後味が悪い。
(ああ、しょうがない、人夫出しに行くか?)
昼休み、瀬戸山さんに、手伝いに行く旨を伝えると、「そう、無理しなくてもいいのよ」と上から目線で、そっけなく返事される。
気分が悪いが、「詳細が決まったら教えてください」とだけ伝えて、席を離れる。
俺は、(もう誰か運動部か誰か力のあるメンバーが決まったのかな? それだと良いなぁ)と思っていた。
その日の晩、塾で勉強中にラインが来ていたようだ。瀬戸山さんからだった。
「お昼はゴメンね。藤波君がついて来てくれたら安心です」と書いてある。結局、行くことになったようだ。
キコキコと自転車を漕いで帰る。
夏の暑さと湿気が鬱陶しい。
梅雨明けはいつなんだろう。
自室に戻ると、以前、西伊豆に行った時に作った魔法紙の道具に、「霊視」を加える。
後、スケッチブックにコンパスとマジック、鉛筆に筆記用具を用意して置く。
「準備って、こんなものか?」と後必要なものを再度確認しておくことにして、勉強だ。
週末の夕方、学校で桜木達と合流して、駅までの荷物持ちを行う。
現地に午後九時ごろに着く予定をしている。
映研と放送部は、もっと人数が多い。
流石に大きなクラブは違うね。
桜木は、オカ研の霊媒師の子を連れて来ていた。栃原先輩で霊媒師を節約するつもりじゃなかったのか?
彼女は、富士見さんと言うらしい。なんでも、よくそう言うのが見えるらしい。
重いアルミのケースを四つ、両肩に掛け、自分のリュックを背負って歩く。桐崎、桜木も同様だ。学校から駅までが遠く感じる。
女子の富士見さん、栃原先輩と靏見さん、瀬戸山さんは大きなリュックと自分の鞄を持っている。
映研などは、器材を車輪の付いたキャリアに載せて引いている。ビジネスマンが鞄を載せて歩いてるあのキャリアだ。
それでも、相当大人数になっている。映画でも撮るつもりなのかなと思う。
一行は、学校最寄りの駅から電車に乗り北へ向かう。
通勤客で混み出す少し前の時間なので、座席に座ってケースを足の前に積み上げて置く。
(これって、手荷物料金が要るんじゃないの? 誰か払った?)
栃原先輩に促されて、瀬戸山さんが俺の横に座って来た。
「重い目させてごめんね」瀬戸山さんは謝って来た。
「ああ、自分で決めた事だから、瀬戸山さんは謝らなくていいよ」特に意識もせず、気にしていない事を伝える。
「何か撮れるといいね」
「桜木は嬉しいだろうけど、向こうはどうなんだろうね。幽霊になったことが無いので分からないけど」幽霊の心配などしながら、たわいの無い話をしている。
窓の外は、梅雨の間の夕焼けが綺麗だ。前線が南に下がったとかで、雨が上がっていたのだ。
西の空に筋雲や飛行機雲が赤く染まっている。まだまだ、天気は下り坂のようだ。
瀬戸山さんの髪が赤く染まっている。
そして、日が沈むと光が消えて空はグレーに染まる。瀬戸山さんの髪も、車内の蛍光灯に照らされ、黒色に戻る。夜の帳が下りるにはまだ時間がある時間。
外は明るいが、電車の中の照明が灯る。
夏の日没は遅い。途中乗り換えて、いつの間にか通勤時間も過ぎていた。
現地最寄り駅に着くまで、どうでも良い世間話を続けていた。
この話も、割と好きな話なのです。
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