まどう大会顛末 その38
コートが使えない状態なので、横に並んで挨拶をして終わった。
相手の学校の選手が俺を睨んでいるような気がするが、気のせいだろう。
みんな、決勝まで観て帰ると言う事なので、俺は着替えて私服になる。
ジャージが焦げて破けて、ズタボロになっていたからだ。
蘇我さんも着替えて来たようだ。バターだらけだったからだが、女子の私服は華やかで良い。
第三試合の四校は、バターやグリスやサラダオイルのオンパレードになっていた。
攻撃魔法より、生活魔法の方が得意としている生徒も多いのだ。彼らに取って、バターを出すのは、全然苦では無いのだ。普段使わないファイヤーボールや魔法障壁の方が難しいのだ。
そして、この戦法は、特に桐崎の様に物理攻撃を得意としている生徒には有効だ。
走り回って、自分で勝手に転けてしまうのだ。
結局、先程俺達と闘った相模川高校は第三試合で負けてしまっていた。
で、みんなが俺の不始末を謝罪に行くと言い出した。
(俺、そんな悪い事したかよ?)
桐崎に小突かれて、しぶしぶ控え室に行く。
相模川の生徒が、監督なのかコーチなのか引率の先生に怒られている。
どうも、負けたのは気合が足りないと言われている。
確かに、魔力競争なので、気合で魔力が出るものならその指摘は正しい。が、この教師は単に体育会系運動部のノリだろう。
砲台型の戦闘ならともかく、バターと水型の戦闘なら、予め戦略と経験が必要だ。相手をどう追い込むかが勝敗を分けるからだ。
話がひと段落付いた所で、俺達は謝罪した。
「先ほどは、すいませんでした」と全員で声を揃えて言う形になった。
こちらを見て、白本さんが男子生徒の後ろに隠れる。
「何しに来たのかな? 痴漢くん」
部長と言う人が話しかけて来た。
(「痴漢くん」は失礼じゃないか?)
「痴漢するつもりは無かったんですけど、結果的にそうなってすいませんでした」と蘇我さんが謝っている。
俺も「投げたら、普通に押さえ込んでしまって、すいませんでした」と一応謝っておく。ルール上は問題ないはずなんだけどな。
相模川高校の生徒が口々に俺を罵ってくれている。
「女の子になんて事したのよ。ほんと」
「押さえ込んで胸触るなんて、最低!」と姦しい。
「すみません」と蘇我さんが俺の頭を抑えて、謝罪している。
「君は魔法が使えないそうだね。今までどうしてたの?」と引率の先生が聞いてくる。
「はあ、今日が二日目で、戦わない予定だったのですが、予定が狂いまして」
「しかし、そんな事は言い訳になりません。失礼な戦い方をしてすいませんでした」と一応謝っておく。
「いや、ルール上は反則ではない。今後、こちらも剣道や柔道の対策を練習に取り入れておくよ。君達に謝罪の必要は無いです」と謝罪の必要は無い事を告げて来る。声は冷たいけど他校の生徒だしね。そう、強くも言えないのだろう。
「で、前回はどうしたの? 投げたら相手は降参した?」嫌味っぽいなぁ。
「いえ」
「そうだろうな。投げただけじゃ降伏し無いだろう。締めて落とさ無いと」
「そうか、落とさ無いといけないのか。 いえ、前回はスタッフで叩き潰しただけで、レフリーストップになりまして」
「え? 柔道じゃないのか?」
「ええ、柔道は中学の体育の授業でやって以来です」
「ああ、林田先輩か。お前、顎と頭の骨を砕いて、脳挫傷にしていたなぁ。ひひ、まだ、麻痺が残ってると聞いたよ。お前が、林田先輩の口に足を突っ込んで、降伏させないようにしたって、国山先輩が言ってたわ」俺と先生の会話に桐崎が入って来た。
最悪のタイミングと内容じゃないか。
「そうか・・・。普通に戦えばそうなるな」この教師は、藤波が自分のバトルスタッフをも捨てていた事を思い出していた。
もう少しで、自分の教え子が撲殺される所だったのだ。
「ま、今後は気を付けて戦いなさい」と謝罪を認めてくれた。
大柄な男子生徒の後ろにいる白本さんは「この人は、私を軽く倒していただけでしたし、……。」と何か言ったが、全員にスルーされていた。
昼食は、体育館の観客席で、持って来ていたお弁当を食べた。
冷たくなって、べっちゃとした白米ごはんにかつお節の猫まんま、その上に海苔を載せて、海苔弁にしてある。
おかずは、卵焼き以外はレトルトの手抜き弁当だ。
突然、隣の空いたスペースにドカドカと相模川の生徒達が座って来た。
顔が合ってこちらも驚いたが、向こうも驚いている。
今更席を移動するのもバツが悪いので、重い空気のまま隣に座っている。
引率の先生同士が挨拶をしている。
生徒の方は俺に対する空気が悪いので、俺は出来るだけ離れて弁当を食べている。
桐崎が隣に来て、唐揚げとハンバーグを交換しよう。と行って来ている。(子供かよ)
蘇我さんは、白本さんと一緒に弁当を食べ出した。誰とでも仲良くなれる奴だ。だから、俺とも喋って貰えるんだろうが。
桐崎が、
「次はどうするの?」と聞いて来た。
「次なんてないよ。俺、魔法使えないし」
「俺はどうしようかな?」
「『どうしようかな?』って強いじゃん」
「足下にバター撒かれたら、立って戦えないよ」
「飛べば良いじゃん。飛行ランス隊。顎どころか頭骸骨砕けるぜ!」
「そっか!」
「そっか!」
「そうか」
「そうか」
「そうか」
「魔力が続かん」
「ほう」
「ふん」
桐崎以外に、周りから驚嘆と納得の声が上がる。
「爆撃隊と高射砲だな」桐崎が笑っている。
「どれだけ魔力が要るんだよ」誰かがボソリと呟いている。
午後からの決勝戦は、大会史上稀に見る悲惨な状況だったらしい。
バターの上で、滑っては転び、転倒しては転び、ひっくりがえっては転んでいた。いつ立ち上がるのか? 全く立っている時間がない状態だった。
しまいに、お互いに転んで、四つん這いのままジェット水流を出し、相手を転ばして押し出そうとするのだ。
結局、藤枝市の聞いた事もない学校が優勝していた。
(魔法部がある学校は、意外とあるんだなぁ。)
長い式典が終わると、我々は帰路についた。
「おーい、桐崎! 学校に寄って、ジャージを買って帰るわ」と皆と別れて学校に向かった。
明日、体育の授業に着るジャージが無いからだ。
次回から新章です。
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