まどう試合 その37
俺は左前に伏せて避けた。
その瞬間、頭の上を光の玉が飛んで行った。
(光子魚雷かよ。フェザー砲なら、死んでたな)
彼女は右利きなので、体の右側にバトルスタッフを構えている。
つまり、彼女の攻撃範囲は、正面から右45°、左90°ぐらいだろう。
俺は、左前に、左前にと回避して行き、螺旋状に彼女に近づいて行く。
彼女の魔力は凄まじく、光弾の連射をして来る。靏見さんか秋山さんと同等ぐらいの魔力が有りそうだ。
その為、攻撃は砲台型で、その場から連射している。
俺は、左に避けながら少しずつ近づいて行った。そして、バトルスタッフが届く距離まで来ると、彼女のバトルスタッフを俺のバトルスタッフの先端で跳ね上げる。
それを体を右に捻りながら、左手で掴みに行く。
左手で彼女のバトルスタッフを立てさせて、一旦自分の方に引き寄せる。そして今度は体を左に一回転させて、彼女の前で背中を向ける。そのまま、左手で彼女のバトルスタッフを引き寄せ、奪い取った。体で巻き込んで奪い取ったのだ。
俺は体育会系では無いが、180cm超えの大柄な男子なので、力技では負けることがない。
そのまま、奪い取った彼女のバトルスタッフと俺のバトルスタッフを場外に投げ捨てる。
コートから離れた所に投げたので、拾いに行くと場外で負けてしまう位置だ。
魔術師は杖が無くても魔法を発動出来るが、使いにくいらしい。その為の嫌がらせだ。
後は、右手を彼女の首に回し、襟首を持って、彼女の足の後ろに右足を出して引き倒す。
この時、左手で脇を持って、勢いを殺す。
「キャッ!」短い悲鳴が聞こえる。
そして、離れて、距離を取って起き上がるのを待つ。
彼女は起き上がると、手のひらをこちらに向けて光弾を撃ってきた。
驚くべき魔力だ。エネルギーが尽きないのだろうか? いったい、何発撃てるのだろう。
光弾をギリギリで避けながら、彼女の周りを回りながら近づいて、今度は大外刈りで倒す。
彼女の右手を左手で掴み、右手でジャージの襟を持ち、肘を胸に当てる。
右足を大きく振り上げ、綺麗に彼女の足を刈り上げる。
「キャッ!」倒されるのは慣れていないのか、またもや短い悲鳴が聞こえる。
彼女の右手は離さず、ゆっくりと倒す。床が畳では無く、木の床だからだ。
受け身が取れない女子を投げ飛ばすには床が硬すぎるのだ。
そして、手を離して、また距離を取って待つ。
本当は、中学時代、大外刈りから腕挫逆十字固めに入ってコンボを決めるのが得意だった。しかし、腕ひしき逆十字は小さな女子には躊躇した。本当に腕を折りかなねないからだ。
彼女は再び起き上がって来て、戦った。魔法が使えないので分からないが、何故、こうも連射が出来るものなのだろうか。現実に殺し合うとなったら、真っ先に魔術師の頭を叩き割ろうと思った。
しかし、俺は魔法防御が無いので、一発でも当たる訳にはいかないのだ。当たると俺は死ぬ。死ななくても重症だろう。
俺は、伏せたり、転がったり、横に飛んだりしながら、少しづつ距離を詰めて行く。
そして、彼女の正面に立ち、左手で右手を取り、右手で彼女のジャージの襟首を掴む。
左に回転しながら左手を引き払い腰を掛けて、ゆっくり倒す。
「ウッ、キャッ!」抵抗はしたみたいだが、またもや投げられて、悲鳴が上がる。
そのまま彼女の右横に両膝を付いてしゃがみこみ、そして、彼女の上に乗って横四方固めをしてしまった。
これは、中学の時の体育の授業の所為だ。自然に体が動いてしまった。
体が大きく、手足が長い藤波には、他の生徒に掛けやすかったのだ。
襟首に手が楽々届くのだ。
しかし、相手の胸の上に乗り、股間から手を回すこの技は、男子が女子にかけるなど以ての外、屈辱的なセクハラ以外にない技だ。
第一、床に押さえつけたからと言って、「参った。」するはずがなかったのだ。ルールが違うのだから、一本も有効もないのだ。
俺は、白本さんの膨よかな胸と柔らかい腹を感じて、驚いた。
よくマシュマロと表現されるが、壊れない硬い目のプリンのようだった。こんな触っていて気持ちの良いものが他にある物かと思えるほど魅力的な感触だった。そして、この温かさ。安心と保護の対象に思えた。
「しまった!(セクハラの痴漢行為じゃないか)」気付いたが今更遅かった。体は勝手に動いていく。
股間から回した右手は、俺が身長の高く腕が長いので、上着の裾か帯を取りに行くのだが、白本さんはジャージだったのでそれが無かった。
が、癖で腰のあたりに帯を探してしまったのだ。
「キャーーーァ」体の下から悲鳴が上がり、足をジタバタと動かしている。
本来、横四方固めの脱出方法は、「ブリッジをして腰を少し浮かし、体を捻って海老になる」、を繰り返し少しずつ逃げ出して、最終的には亀になるのだ。「亀になる」とはうつ伏せで手足を引っ込めて丸くなる事を言う。
しかし、文化系の女子がそのような事を知らなくても仕方がない。
そして、足をジタバタと動かすものだから、俺の右腕がより深く股間に入って行く。
「イヤァーーアァァ!」体育館に悲鳴が響き渡る。
周りの視界が真っ赤になって、頭から背中にかけて、激痛が走った。
熱痛打って熱く無いのね。受けた時は痛いのだ。
その後、暗がりの中で背中が熱痛い夢を見ていた。
「相模原商業、反則負け!」との声を聞いた気がする。
俺の覚えているのはそこまでだった。
後で聞いた話だが、蘇我さんが真っ赤な顔をプルプルと震わせて、俺にファイヤーボールを撃ち込んだらしい。
審判も「相模原商業、反則負け!」と言ったり、会場から拍手が起こっていて、異常な雰囲気だったらしい。
本来なら、「相模原商業、反則!相模川高校!」と言い、相模川高校に勝利宣言をする。しかし、思わず、「負け!」と言ってしまったようだ。
因みに、蘇我さんが俺を攻撃した為に反則負けになったので有って、俺の押さえ込みのせいでは無い。
やっとの思いで意識を取り戻すと、蘇我さんが相手の副将と戦っていた。
どちらも砲台タイプで、蘇我さんが氷弾、相手が光弾の撃ち合いになっている。互いの魔法障壁と物理障壁を打ち破れず、無駄に魔力の消費合戦になっている。
俺の背中は、ジャージが焼けてズタボロになっているが、傷は靏見さんが治してくれたようだ。痛みはもう無い。
俺は起き上がるが、まだクラクラする。
砲台型の撃ち合いは、魔力が切れた方が負ける。弾切れを起こすか、障壁を破られるかのどちらかだ。
このままでは消耗戦だ。
(なんて馬鹿な戦闘を行ってるんだ。)
つい声が出てしまった。
「蘇我さん! 奴の足下にバターと水! それに突風で押し出す!」と叫んでいた。
蘇我さんはこちらをチラッとこちらを見て頷いた。指示を理解をしたようだ。
蘇我さんは杖を下げて、相手の足下を杖で指す。
無詠唱の魔法なので、瞬時に効果を発揮する。
見る見る、相手の床にバターが現れて、分厚くなって行く。
そこに薄く水が撒かれる。
魔法を掛ける対象が床なので、相手は防ぐ事が出来ないでいる。
相手の副将の「犬山」は足を滑らされている。バランスを崩して、次に足を出すとそこも滑るのだ。二歩三歩足を出してバランスを取ろうとしたが、結局転んでしまった。
そして、そこに蘇我さんのバトルスタッフの先端から台風並みの突風が吹いて、相手を押し出してしまった。まるで、モップか何かで掃除をしているみたいだった。
「相模原商業!」白旗が上がって、勝ちを宣言される。
蘇我さんが戻って来る。
「あら、目が覚めたのね」何か言葉が冷たい。
コートの中では掃除が行われている。
氷や岩や色々飛び交うので、試合後の掃除は普通なのだが、係の学生が滑っている。
流石に、バターに水は不味かったか。
次は大将対大将戦だ。
お互いに、試合開始と共にバターの出し合いになり、水を撒いている。
お互いに足下にバターが発生すると場所を変えないといけない。立っていると滑るからだ。
先を見越して、バターを発生させるのだが、直ぐにコート内はバターだらけになってしまっていた。
と、なんと蘇我さんが足を滑らされて、膝をついてしまった。もう、足の踏み場が無くなって来ていたからだ。
そこに、ジェット水流が叩き込まれ、転倒する。
水流の圧力でグルっと回転し、そのまま場外に押し出されてしまった。
「相模川高校!」
審判の声が上がる。
我々は負けてしまったのだ。
皆さん、読んで頂いてありがとうございます。
明日は仕事なので、更新回数が少なくなります。




