家に帰ると その33
俺は徒競走の後、準備委員の仕事と後片付け、明日の準備をして下校した。なので、林田がどうなったのか知らなかった。
放課後、鏡屋部長が激怒していた。
記録用のビデオを見て、明らかに国山と林田が調子に乗ってチョッカイを掛けた事が判ったからだ。
林田はまだ、保健室にいる。
国山がみんなの前に座らされている。
「今後の事を話し合いたい。
県大会への出場は無くなった。
せっかく、譲歩してくれたのに、全て水の泡になった」
鏡屋部長が、話し出すと、女子部員達から、悲鳴が上がった。泣いている生徒もいる。
「詳しくは来週話し合うが、覚悟しておいてほしい」
栃原先輩は、映像を見て、
「よく生きていたものだ」と呟いている。俺が全然力を入れて居ないのが分かったからだ。
「彼が本気だったら、頭は無かったよ」と独り言を言っている。
彼女は、勇人が怨霊を四体も憑けながら、瀬戸山を担いで海から出て来たのを見ている。そして、瀬戸山が言った、真里亞と言う子の言葉、「あんたが暴れると殺してしまうからやめなさい!」と言った言葉。
多分、大袈裟などでは無く事実なのだろうと理解した。
「国山と瀬戸山は残って。では解散!」全く厳しい顔だ。
部長の鏡屋、副部長の森田と国山と瀬戸山の4名が居残り、聞き取りをされていた。
夜の11時頃、俺は自転車で帰って来た。塾から帰って来たのだ。自宅最寄り駅までは自転車で通学しているのだ。
塾は、八王子駅前の大手の塾だ。
通信で、有名講師の講義が受けられるし、各教室の個別授業も受けられる。
見逃した授業や、気になる授業をネットで再受講も出来るのだ。
電車で最寄り駅まで帰り、駅からは自転車で自宅まで帰ってくる。
変速機も無いし、電動でも無い普通のママチャリだ。
自宅マンション横の自転車置き場に自転車を止めると、マンションの何処かで誰かが騒いでいる。
遠くで、パトカーのサイレンも聞こえる。
物騒な夜だ。と俺は思いながら、自転車を止めて、4階の自分の家に帰る。
エレベーターを降りると、騒ぎの声が大きく聞こえる。
俺の家のマンションは、一階にロックがなく、誰でも自由に上がって来られるし、夕方の5時で管理人さんも帰ってしまう。
最近、ストーカー事件があったとかで、監視カメラが付けられたが、全体にくたびれたマンションだ。
エレベーターホールに着くと、誰かが騒いでいる声が大きく聞こえて来た。
俺の家は端から2番目。その前で、男が二人、扉を蹴ったり殴ったりしている。
俺は、スマホで動画を撮影しながら男達に近づいていく。
(あれ? あれは林田と国山じゃ無いか?)
そうすると、パトカーの音に驚いて、二人がこっちに逃げてくる。
廊下の俺の家の反対側は、行き止まりになっており、燐家の扉があるだけだから逃げ道はこちらしか無いのだ。
二人は俺の顔を見て、
「あっ!」
「ぐあっ!」
と驚いている。
こっちの方が驚くわ。
林田は、顔中包帯でグルグル巻きにされて、右足を引き摺っている。
「お前!」国山がこちらを見て叫んでいる。
「グアッ!」声にならない声を林田は上げている。
麻痺が出て、言語障害も出ているのに、ご苦労なことだ。
二人は階段を走って降りて逃げて行った。林田は一段一段、降りて行っている。
俺の家の扉は、靴の跡が付き、化粧板が剥がれていた。
「ただいま」
「怖かった。今、あなたを出せと男達が来ていたのよ。何かしたの?」
「6時頃に来て、8時に来て、今も来ていたのよ」
「警察呼んじゃったけど、貴方の友達じゃ無いよね」
母親が興奮して、経過をまくし立ててる。
俺は、扉を撮影しておく。
扉も少し凹んでいる。あいつらには困ったものだ。
そうこうしていると、警察官が来た。
母親が、またもや経過を説明している。
一応、被害届は出すそうだ。
12時過ぎ、親父が酔って帰って来た。
親父はリビングに座らされて、母親に怒られている。
「一人で、暴漢に襲われて、震えていたのに、貴方は飲み歩いていたのね」と責められている。
親父に責任は無いが、仕方のない事だろう。
翌朝、俺は魔法部の部室に行き、鏡屋部長に昨夜の事を話し、動画と扉の写真を見せる。
見る見る内に鏡屋部長の顔が青ざめる。
「あのぉ、いい加減にして貰えませんか? 迷惑なので」俺は、本当、迷惑そうに言っておいた。
「すいません」土下座でもするんじゃ無いかと思うぐらい謝られた。
さて、どうしたものか?
言うだけ言って、俺は準備委員の仕事に戻った。
夜遅く、瀬戸山さんから、「明日の朝、魔法部迄来て欲しい」と電話があった。俺が塾に行っていて、携帯を切っていたので、遅くになったのだけど。
体育祭終了後、魔法部で緊急ミーティングがあったらしい。
翌、月曜日、火曜日は、体育祭の代休になっている。一般生徒は休みだ。そこを休日登校をしろと言う。
普通、ここは塾の講義を受ける日だろう。
魔法部の部室に着くと、部員達は全員集合していた。
「何ですか?」俺は呼び出された内容を聞いた。
「迷惑かけてすまない。
よく来てくれました」
「なんと言ったらいいのか、我々の管理責任が悪いばかりに、うちの部員が迷惑をかけた」
と、謝って来た。
「我々は、貴方に謝罪と責任を取る意味で、私と森田と林田と国山は退部します」と関係者の退部を表明して来た。
「ええぇ〜!」
「ええぇ〜!」
「ええぇ〜!」
「ええぇ〜!」
「ええぇ〜!」
部員達の悲鳴にも似た抗議の声が上がる。
俺は知らぬ顔をしておく。
「それはどちらでも良いのですが、家の扉を弁償して頂けるのでしょうか?」金銭の事はきっちりしておかないとね。
「すいません。それはさせて頂きます。後、彼等には貴方に関わらぬようにきつく言い含めますので、安心して下さい」いやいや、それは信用できないよね。
「いえ、貴方に部員の管理能力が無いのは理解しています。この件は、後ほど話し合いましょう」と一旦話を置いておく。
「ところで、国山先輩、どうして私の家の住所が分かったのですか?」答えは一つしかないのだけど、一応聞いて見た。
「……。」国山は黙って俯いて喋らない。
「……わ・た・し…………。」意外な所と言おうか、予想通りと言おうか、瀬戸山さんが手を上げて、口を開いた。
「わたし、先輩から『謝りたいので教えて欲しい』と言われて、教えてしまいました」と消え入りそうな声で俯いて答えている。
「ふむ、納得しました」と俺は片眉を頑張って上げて答えた。
「では、今後、この様な事がないように、「ギアス」を掛けさせてもらえますか? 口頭や書面の約束が信用できないので」と強制的に提案した。
(この答えにNOは無いだろう)
(って、スルーかよ! 似ていただろう。片眉を上げただろう)
部長と林田、国山はしぶしぶ頷いた。
「瀬戸山さん、協力して貰えますか?」俺は瀬戸山さんに協力を求めた。
「はい」小さな声で瀬戸山さんが答えている。
「ところで瀬戸山さん、ギアスの呪文使える?」と確認すると、「そんな高度の呪文は知らない」との事だった。
精神操作などの呪文は対人に使われるのを嫌がられるので、学校では教えない事が多いのだそうだ。
「これを使って」俺は昨日から準備していた、魔法陣と呪文の紙をラミネートした物を取り出す。
魔法の辞典から写し取った物で、魔法の道具にはしていない。
「内容は、『今後、藤波に善意、悪意に関わらず、関与してはいけない。』でお願いします」と内容を瀬戸山さんに伝えた。もちろん、部員全員に聞こえるように、ハッキリと言った。
瀬戸山さんは、紙を見ながら呪文を唱え、二人に順にギアスの魔法を掛けてくれた。
「後、自分にも『藤波の連絡先を知らない者に、本人の許可なく連絡先を教えない。』で掛けて」と頼んだ。
部長や他の部員は驚いていた。
瀬戸山さん本人は泣きそうな顔になっていた。
「自分にギアスを掛けろ」とは、「お前を全く信用していない」と同意語だからだ。
因みに、自分にかけたギアスは、解除は本人が出来るので全く意味がない。
頷いて、瀬戸山さんは泣きながら、自分にもギアスを掛けていた。




