魔法道 その32
辺りをウロウロしていると、他の準備委員が低い平均台を出している。幼稚園で使う様な低い平均台だ。
前の競技が終わり会場が捌けると、サッと次の競技の小道具を出さないといけないので、近くに出して置くのだ。
時間もあったし、俺は両手に一台づつ持って手伝った。中央を上手く持てば、バランスよく運べるのだ。
で、手伝った後軍手を返しに行くと途中で何やら聴いたことがある声がした。
「あれ、あいつじゃん」林田の声だ。
「呼んで、やってやろうぜ」こっち声は国山だな。
「おい、瀬戸山! あいつ呼べよ」
「俺達は接触できネェからな」
「だって、・・・。」先輩の命令に瀬戸山さんが困っているな。毅然としないから、馬鹿につけ上られるのだ。
「呼べよ! 早く!」林田の声だ。全く。
それにマイク入ってるよ。全部、聞こえてるよ。接触したらいけないんでしょ。誓約書書いたよね。
「ふじなみくん・・・。」呼ぶなよ。揉め事嫌いなんだ。無視しておこう。
「おら、大きな声で呼べよ!」
(充分聞こえてるよ)
「藤波君!」
(はいはい。分かりましたよ)
インカムで本部に連絡する。
「魔法学科の1年1組の藤波です。この音声、録音出来ますか?」
「出来るけど、して置く?」とオペレーター。なんか軽いな。
「お願いします」と頼んで置く。
「はいはい。何ですか?」俺は瀬戸山さんに答える。
「あのー、ちょっと戦って行って見ませんか?」瀬戸山さんが困って言ってる雰囲気を出して言っている。
「あのう、魔法部が『魔法道』の体験とデモンストレーションをしているので、体験して行きませんか?」瀬戸山さんが必死に声を出して居る。分かってるけど、関わりたくないんだよね。
「体験しないと、瀬戸山さんが困るんでしょ?」
瀬戸山さんは黙って頷いていた。
「じゃあ、宜しくお願いします。先輩」
「ところで、私は魔法が使えないんですけど良いんですか?」どうやら、司会は国山みたいなので、聞いてみる。
「大丈夫ですよ、みなさん! 魔法道は魔法が使えなくても出来るスポーツなんです」国山が、やけに明るく聴衆に話しかけている。
(んん? やはり国山がMCなのか? このイベント失敗するよ)
「ルールを教えて下さい」下手にルールから聞く。
「よし、解った。もう一度ルールを教えるぜ!」
「まず、この杖、『バトルスタッフ』と言うのを持って戦うんだ」
聴衆に目を向け、一呼吸置く。
「木で出来ているが、先は真鍮で出来ている。こっちが上で、こっちが下だ」形状が橋の欄干かイスラムの寺院の屋根の様になっているのが上らしい。丸い半球の方が下で石突きらしい。つまり、玉葱が付いている方が上で、丸い方が下だった。
以前、蘇我さんが使っているのを見て知っているんだけどね。
「この上の方を相手に向けて、魔法を撃つ」
撃つって魔法が使えない者には撃てないよ。
「私は魔法が使えないのですが」
「その場合は、突いても殴っても良いぞ!」殴って良いんか? この勝負勝ったな。
「はい、分かりました」
「このリングから出たら負けだ。某アニメの「天下一武道会」と同じだな。あと、ずーっと上まで有効だから出ない様になっ!」飛べない俺には関係ないな。
「勝敗の決定は?」肝心な所を聞き逃す所だった。
「相手が、降伏を認めるか、死ぬかだーっ!」
殺して良いのか?
「床を三回叩くとかは?」一応、聞いてみる。
「無い。場外へ出るか、口頭で『参った!』と言わないと負けを認められない。または、意識を失うか、死ぬかだ」 大層なフリの演技を入れて説明する。
「解った」
ん? スッタッフの一人が、慌てて何処かに隠れて電話をしているのが見えた。
「相手を怪我させたり、殺した時の責任はあるのですか?」と笑って聞いてやる。先ほどの回答に対するジョークな質問だ。
「ボクシングと同じで、ルール内で戦っている限りは、有りません。
たとえ、相手が死んでも無罪です。フルコンタクトのスポーツなんですから、怪我はあるものです」国山は妙な笑みを浮かべた。
三年生なのに子供かよ。魂胆がバレバレなんだよ。
「でも大丈夫! どんな怪我も魔法でチョチョイノチョイと治しますよ」と国山がほざいている。
バトルスタッフは貸してくれるらしい。俺は、1.5mぐらいある、一番長いバトルスタッフを選んだ。太さも他のより太い様だ。
「では、両者中央へ」と国山が中央へ出てくる様に手招きする。
それに答えて、場外から林田が立ち上がって出て来た。
二人が左手にバトルスタッフを持ち、右手で握手をする。
「クソ野郎、今度は殺してやる」と林田が小声で言って来た。
(インカムで全部録音されてるんだけどな)
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
両者、元気に挨拶する。
中央付近の白線まで下がって構える。
国山が審判もする様だ。多才な奴だなぁ。
「よーい、はじめ!」
国山が開始の合図をする。ゴングとかないのかよ。
俺は魔法攻撃を避けようと、体を低くして構えた。
「え?」林田が構えて詠唱をしている。
バトルスタッフの先端がオレンジ色に光りだす。
(え? 良いのか? なんで戦闘中に詠唱なんかに集中しているの?)
俺は、一歩踏み込んでバトルスタッフの先端を突き上げ、林田の口にぶち込む。
「ぐぉ!」、林田は口を押さえて詠唱を止めてしまった。
二発目、鼻の右横、直ぐ際に決まった。
鼻の骨が折れたかな? 結構な手応えがあった。歯も抜けたか折れた様だ。
真鍮の玉ねぎで突かれたのだ。怪我をしない方がおかしい。
林田は、バトルスタッフを持った左手で、「待った」をして、右手で顔を押さえている。
やや右を向いて、傷を庇っている。
何やら「グオオォー」と音か声かを出している。
3発目、左顎に命中。
身が削げて、白い物が見えている。
頭を振り回されたためか、膝を突いて倒れた。相撲の張り手と同じだ。頭を振られて軽い脳震盪を起こしたのだ。
バトルスタッフは数キロ有り、縦に受けると相当重い。
全部の荷重が、玉葱状の頭の一点にかかるからだ。
防御のない皮膚など簡単に切れてしまうのだ。それに、魔法のエネルギーを流す為の物なので、先は鈍磨だ。鋭利に切れたりはしない。その為、傷口は潰れて汚い。
倒れた林田は俺の右足に抱きついて来た。防御のつもりだろうか?
仕方なく、左足の爪先を、林田の口に突っ込んで、グリグリと奥に差し込む。
で、顔が固定されたので、林田の左側の顔に杖の先端を叩き込む。
(あ、外れちゃったよ)
杖が目標から外れ、左目付近に命中した。
林田が、頭と顔を抱え込んで悲鳴を上げている。
次は耳の上、側頭部に叩き込む。
「ストーップ! ストップ! 止めろ! 止めろ!」国山が止めに入る。
「どうしたんです? 相手はまだ降参していませんよ」
そう言って、俺はもう一発顔の何処かに適当に叩き込む。杖を持ち上げて、落とすときに力を込める。
「これ以上やったら死んでしまう! ストップ!」国山が答える。
「でも、さっきは『意識が無くなるか死ぬまで。』仰いましたけど」俺はルールを再確認した。
「そんな事、本当にしたら死んでしまうわ!」本当に意味が分からないが、死ぬ迄は戦わないらしい。
「意味が分かりませんね」
「彼は、まだ『降参』と言っていないのですよ。なのに彼は負けてしまうのですか?」と大袈裟に質問する。
しかし、手は休めない。
右手でバトルスタッフを持ち上げ、ガシガシと顔への攻撃を止めてはいない。
「お前が口を塞いでいるから喋られないんだよ! 止めろって!」そんな事は計算尽くである。その為に口を塞いでいるのだから。
「お前の反則負けだ! 早く離れろ!」国山が俺に下がるように指示する。
俺は、バトルスタッフを持ちながら、両手を広げて、手のひらを上に向けて、少し上げる。
アメリカ人が良くする「参ったね」のジェスチャーを行った。
そこに、鏡屋部長が駆け込んで来た。
「あなた達、何をしているの!」怒鳴って、注意したものの『何をされてるの』の方が的確な状況だった。
「早く、林田を保健室に運んで! 森田! 付いて行って回復して上げて!」
「双方引きなさい」いや、もう俺は引いてるし。
「部長さん、せっかく誓約書を書いて貰いましたが、4日しか持ちませんでしたね。体育祭が終わったら話し合いに行きますよ」
と俺は魔法部のブースを後にした。
俺は、インカムに話しかける。
「ありがとうございました。この後、クラスの徒競走に出ます」と連絡する。
ブックマークをして頂きました。ありがとうございます。
そして、評価して頂いた皆さんも、ありがとうございます。
頑張って、書かせていただきます。
あ、この話は再投稿なので、もう書いてあるのですが。
新作をちまちま書いています。
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