体育祭初日 その31
栃原先輩が誰かに電話をしている。
「部長、大変です。林田先輩と国山先輩がこの間の1年男子を……。」
「蘇我さん、大変、藤波君が3年の先輩に……。」瀬戸山さんも電話をして居た。
予想通り、公園に着いたらちょっと拳で先輩達と話し合うことになった。
いきなり、林田先輩が胸ぐらを掴んで来たのだ。会話をしなくていいなら助かるなぁ。俺コミュ障だし。
さあ、話し合いの始まりだ。
「直ぐに部長が来るって、先輩! 部長が『大会前に暴力なんて、やめなさい!』って!」栃原先輩が叫ぶ。
「直ぐに真里亞が来るって、藤波君! 真里亞が『あんたが暴れたら、殺すからやめなさい!』って!」瀬戸山さんが叫ぶ。
「え? 瀬戸山、何言ってるの? こいつが俺達を殺すって? あはは!」国山先輩と言う方が笑って居る。
(ええ? 殺したらダメなのか? 人間のクズだろ。努力して来た瀬戸山さんや栃原先輩をバカにして。
彼女らが命懸けで戦った仕事なのに)
(まあ、取り敢えず、蘇我さんが来るまで待ってみるか?)俺は両手を顔の横に上げ、前腕で顔と頭部を守る姿勢をとり、背中を丸め防御姿勢のまま待機する。
気合を入れて、ステータスを上げて力を入れる。この間、妖精のフローラに教えて貰った方法だ。こうすると、酔っ払いの蹴りぐらいでは、傷付くことはない。
与里野の爺さんがくれた指輪も使い、 ステータスをまだ上げる。こうすると人の限界をはるかに超えた数値になるからだ。
サザンが入ってる指輪だ。
本来は、与里野の爺さんが修行について来れるようにとくれたものだ。
すでにステータスを上げた状態で使うとさらにステータスが上がり、俺は人外の強さになる。
脚を開いて立ち尽くす俺に、先輩達は、当初こそ殴る蹴るを繰り返していたが、ダメージを与えられない事を悟って、蹴りだけになって来た。
その頃、部長と言う人が到着した。
「あなた達、下級生に何してるの? 直ぐに止めなさい!」と叫んで近づいて来た。
部長の後ろから、真里亞が走って来ている。
「藤波君! 落ち着いて!」と叫んでいる。言われんでも俺はいつも冷静だ。
「蘇我さん、来てくれたんだね。じゃあ、こいつらの蘇生をお願いするね」応援に駆け付けた蘇我さんに礼を言って、俺は腰のポーチから鉄刀を取り出した。
「げっ! どこから出した!」
「げっ! それをどこから出した!」
俺の側で見て居た先輩達が固まった。
「え? 何? 今、何処から出した?」と部長。
「どう言うこと?」栃原先輩も理解出来ないようだ。
「ああ、話して居たやつ」瀬戸山さんは、以前聞いて居た鉄刀だと思って納得していた。
真里亞は、ゾンビや幽霊船でも使わなかった武器を俺が取り出したことに驚愕した。
真里亞は「藤波君の怒りは相当に達しているわ。ヤバイ!」と理解した。
「葉月、先輩に防御!」真里亞は瀬戸山さんに指示をして、俺に「金縛り」をかけて来た。
「はい」瀬戸山さんは、先輩達に範囲魔法で物理防御をかけた。
「え? 無詠唱?」部長が驚いている。
「無詠唱? この子達は!」栃原先輩も驚いている。
呪文を詠唱せずにかけるなんて、相当高レベルの魔術師だけだ。それが、一年の二人が普通にやってのけたのだ。
ガッシ、ガッシ、ガッシ。
「ひっ!」
無詠唱でかけた魔法に抵抗して歩く俺に、栃原先輩が悲鳴をあげた。
無詠唱で魔法をかけると言う事は、高レベル魔術師なのだ。その魔法を物とせず、抵抗して歩いてる俺に恐怖が背筋を走ったのだ。
複数の怨霊に憑かれながら、瀬戸山さんを担いで歩いて来る姿と重なった。
あの時は頼もしかったが、今は敵側に居るのだ。
真里亞の前まで来たら、
「藤波君。寝なさい」
もちろん無詠唱で「睡眠」の魔法をかけられた。
俺は、意識が遠くなり、倒れて寝てしまった。時間的に一秒とかかっていなかった。
魔法部の部長、「鏡屋 珠美」が真里亞達に謝って、林田先輩と国山先輩を連れて行った。でも、謝る相手は俺だと思うんだけどな。寝てるけどね。
「あなた達、分かっているの? 飲酒して、下級生に暴力を振るって!」酔いも覚めてしまう剣幕だ。
俺は、二つ並んだベンチの一つに寝かされている。
頭を真里亞が膝枕して、両手で抱えてくれている。
もう一つのベンチに、栃原先輩、瀬戸山さんが座っている。
今日の事を栃原先輩が説明して、一昨日の事を真里亞が報告している。
俺は、まだ意識が戻っていない。
魔法抵抗が無いため、一旦かけられると、よく効くのだ。
真里亞がポツリと、
「こいつ、瀬戸山さんの事が好きなのかな? 海の時も凄い顔して怒っていたし。
今日も、異常なほど興奮していたしね。
あたしだったら、あんな顔してくれたかな?」と呟いた。
独り言の確認か? 同意が欲しかったのか。
「あたし・・・。」
瀬戸山さんは、
「あたしは、藤波君は蘇我さんの事を好きだと思う」と言いかけて、声にならなかった。
海で溺れた時、力強い手で引き上げて、肩に担いで、頭を下にして背中を叩いて飲んだ水を吐き出させてくれた時、意識は無かったが、薄っすらと力強い背中と胸板を覚えているのだ。
桐崎君に背負われて、靏見さんの回復魔法で意識が回復したが、その前、夢の中の力強い手と胸板を覚えているのだ。
そんな記憶が、言葉の後ろを消してしまった。
言葉にすると現実になる気がして、真里亞に藤波君を取られる気がして。
だから、瀬戸山さんは蘇我さんの膝枕が羨ましかった。出来たら、自分がしたかった。まだ、自分でもわからない嫉妬を真里亞に覚えていたのだ。
夜の公園で、そんな時間が流れた。
翌日、俺は朝から魔法部に呼び出されて、部員全員で土下座されて謝られた。現実には、土下座はしていないが、頭は床につきそうだった。
魔法部としては、県大会が近く、今の時期、問題を起こしたく無かったのだ。
俺は、許す代わり、俺には関わらない。との念書をとって手打ちにした。本心を言うと、他人の県大会などどうでも良かったのだ。
それにしても、大会前に飲酒、暴力事件って馬鹿すぎるだろう。
県大会の事など、俺には本当に関係ない事だし、どうでも良かったのだ。
まあ、犯罪の隠蔽といえば隠蔽だが、他人事だった。
週末の体育会では、各クラブがイベントを行い、人気を博して居る。
例えば、剣道部は、スポンジと発泡スチロールで出来た竹刀での試合を行なって居る。
もちろん、勝てばそのカラーグループに点数が入るので、みんなは必死になる。
サッカー部はフットサルを短時間で行う等ルールを変えて行なっている。
低い平行棒の上でするボクシングも人気だ。手には大きなグローブをはめて、バラエティー番組風になっている。勿論、落ちると負けで有る。
メイン会場の中央のグランドは陸上競技が中心になる。
しかし、そこはそれ、足に付けた風船を割る競技が間に入っていて、生徒を飽きさせないようになっている。
当日、俺は、集合場所から待機場所まで選手を誘導する係だった。
プログラムとメンバー表を確認し、全員揃うと待機所に誘導するのだ。その先は、別の準備員が選手を入場させる。俺の仕事はここまでだ。
インカムで指示された選手を集める。
「400mリレー、選手の皆さんはこちらですー」みたいな感じで手を上げて大声で叫ぶのだ。
並んでもらって、学年、組、名前を確認する。
インカムから移動の指示があると出発する。
プログラムとメンバー表を見て、それを繰り返す。
俺が出る競技は、初日、午後からの徒競走だけだ。200mを走るだけだ。嫌な係を押し付けられて、面白い競技を取られたのだ。
向こうの世界からフローラが来た時に学校を休んだ。その時に桐崎が仕組んだのだ。わざわざ俺を準備委員に推薦しやがった。
その後の評決も満場一致だったらしい。それは、イジメじゃ無いのか?
昼の休憩後、俺は準備委員を抜けた。
自分の出場種目が有るからだ。
「魔法学科1年1組、藤波、抜けます。」インカムで本部に連絡する。
勿論、予定通りで、交代のスタッフが来ている。
まあ、徒競走は花形競技なので、応援も多い。本当は、明日の最後のリレーが一番盛り上がるのだけど。今日のメインレースは徒競走だ。
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