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藤波がいない その28

この話、魔法部の栃原先輩 目線です。


 栃原と瀬戸山さんは、夕食の後、今後の対策を話し合っていた。


今までのままでは、全然効果が出ていない。

「今のまま続けても意味が無いんじゃないかな」

「全然、歯が立っていない感じなの」

「 もう、私の手には負えないわ。不動明王を勧請して、護摩焚きの行を行おうと思うの」


「護摩焚きですか? お手伝いします」


「で、他の人達も手伝って欲しいの。魔術師なんでしょ。ちょっと応援して貰えないかしら」


「ええ、聞いて見ますね。藤波君だけは、ただの人ですけどね」瀬戸山さんが笑って頷いてくれた。


瀬戸山さんが席を立って行ったので、彼女達の協力の依頼は、瀬戸山さんに任せておく。

私は、今晩の祭り事の準備をしていた。


 私は、護摩焚きの祭壇を用意する。携帯用の護摩壇を持って来ているのだ。

不動明王の手前に護摩壇を作る。

手順を確認し、 祭壇を組み上げていく。

 着々と準備が進んで行く。

 そこに蘇我さんが飛び込んできた。


「瀬戸山さんが海に引き込まれちゃった! 速く!」


 帰って来ていた桐崎君、靏見さん、秋山さんが蘇我さんを追いかけて行く。

 私も、少し遅れて駆け出した。


 海に着くと、砂浜の中ほどで、瀬戸山さんを肩に担いで歩いて来る男が居た。

それは、藤波君だった。長身のモヤシくんだったのに、今は力強い男に見えた。


 彼が肩に担いだ瀬戸山さんの背に、白いブラウスの老婆がしがみついているのが見える。


 藤波君は、瀬戸山さんを桐崎君に渡して笑顔で歩いて来る。この状況で余裕があるのか、馬鹿なのか。


 桐崎君が瀬戸山さんを背負って走り出した。横から靏見さんが回復魔法を掛けながら付いていく。


 この子達はどんなレベルの魔法使いなのよ。走りながら、普通に回復魔法を使っている。


 そして、この藤波君は、腰に元サーファーの怨霊を付けている。この怨霊は彼を海に引き摺り込もうとしているのだろう。顔は見えないが、ウェットスーツにサーフボードが見える。霊はなぜ意味の分からん自己主張をするのだろう? 今更、そのサーフボードに何の意味が有るのだろう。

そして、左足に漁師、右足に若者の霊が付いている。

 三っも体に怨霊を付けていると、相当重いだろう。精神もコントロールされて、海に自ら入りたくなるものだ。

それに抵抗しているのだ。

そして、背中に老婆を付けた瀬戸山さんを海から救い出して来たのだ。

部長達が聞いたら腰を抜かすだろう。


 藤波君が「ありがとう。助かったよ」と蘇我さんに礼を言う。


「大丈夫だった?」


「うん、ありがとう」


(へへへへ、普通かよ。全然大丈夫じゃないよ。いつ海で死んでもおかしくない状態だよ。あんた)


 思わず笑みがこぼれてしまった。


「あんたの彼氏、強者だねぇ」

走りながら、蘇我さんに話しかけたら、「彼氏じゃあありません」と即答で否定された。


 浜から堤防に上がった頃、藤波君が老婆の霊を気にしている。

手を伸ばして触ろうとしているのだ。

何かを感じてはいるようで、ペシペシと手で触っている。


 瀬戸山さんに付いている少女風の老婆の霊が、首だけを回して来た。

「やめろ! お前から海に引き摺り込んでやろうか?」怨霊はしわがれた声で脅して来る。

が、藤波君には聞こえて居ないようだ。


「あんたの彼氏、無敵だね」蘇我さんに話しかけた。

「だから、彼氏じゃあ無いです」とまたもや否定された。


 そして、ついに藤波君は、睨んでいる老婆の顔を掴んで引き剥がしてしまった。

(そ、そんな力技の除霊なんて初めて見たよ)


 彼は触れられる事が分かったのか、腰や足の霊も踏んづけて掴み出した。

(こいつは、全く規格外な奴だな)


 旅館に着いたら、布団を敷いて瀬戸山さんを寝かせる。

部屋の外に桐崎君と桜木君を追い出して、濡れた服を脱がせて着替えさせた。

秋山さんと靏見さんが看病にあたっている。普通では考えられないレベルで治療されて行く。回復魔法がガンガンかけられて行くのだ。彼女達は魔力切れを起こさないのだろうか?


 ふと見ると、蘇我さんと藤波君が居ない。

「すわ一大事、今度はこっちの二人が海に引き込まれたか?」と飛び出して、道を浜に戻る。

 さすがに、4匹の怨霊に憑かれてるのに放って置いたのはマズかったか。後輩の瀬戸山さんに気をとられすぎた。


「どうしたのですか? 何があったのですか?」

急に慌てたので、異常に思ったのか桜木君が付いてきた。


 堤防まで戻ると、怨霊が道路標識に括られて居た。


「え? 何これ? あり得ない」


 今までこんな物は見たことが無い。

当たり前だ。霊体が物質に括り付けてられるなんて聞いたことが無い。

落語なら、幽霊が網で捕まっても、現実にはあり得ない。


 怨霊は、上半身こそ人の姿をしているが、胴から下が細く長く、紐のようになっている。

絵に描いたような幽霊やろくろ首を想像してもらうと近いだろう。


 道路標識の横を凝視していると、「ここに何かいるんですね」と桜木君が撮影し出した。


 カメラを固定し、蝋燭を二本立てる。線香の灰をその辺りに、ぷわっパッパッと掛ける。


 動画で撮ると、何か存在する所には灰が掛からない。蝋燭の炎が揺らめくと影が動くので、灰が存在しない場所が見えるのだそうだ。


「撮れましたよ」と桜木君が喜んでいる。

「何ですか、これ?」

一体なら人の怨霊に見えるが、四体もいたら、何かの塊だ。それはそれは、何やら分からない映像が撮れた事だろう。


 私は黙って海を指差す。

波打ち際に船が乗り上げている。

そんなに広い砂浜じゃ無いが、夜の砂浜に難破船が乗り上げているので、真っ暗で分かり辛い。


 そして、向かって船の左側に誰かいる。

そちらの方に、桜木君がカメラを向けた。


 船の横にいる人から、船に火の玉が飛ぶ。


ドオオーーン! と船が炎に包まれて爆発する。操舵室の屋根が炎を引いて吹き飛んでいる。


「ヒィ!」

「うわっ!」

二人とも思わず悲鳴を上げてしまった。


 爆風と熱がここに居ても顔に感じる。


 船の横にいる人は、船が燃える炎の為に顔が見えないが、多分、蘇我さんだろう。


 彼女が両手を上げて、何やら呪文を唱えると、大地からマナが噴き出す。

大気中に出たマナが虹色に輝いている。

「何をしているんでしょうね?」と桜木君にはマナが見えて居ないようだ。

蘇我さんの身体が光出して、手から強い光を出しだした。


「うわっ! 露出が合わないよ!」って、そっちかい!


 ホーリーライトだが、すごい魔力だ。

「大地からマナを吸い出しているんだ」思わず声が漏れて居た。桜木君に言っても分からないのに。


「ホーリーライトで浄化するのか?」確認する様に独り言をつぶやく。


「え?」驚くと声が出ないと言うのは本当だ。


「どうしたんです?」

「何が起こってるんです? 分かるように解説してください」桜木君が、説明を求めて来る。


「蘇我さんが召天の魔法を使って、怨霊を天に、向こうに送っている」


「白く光る光が、船から出て、彼女の周りを回って登って行くだろう。あれが日本で言う成仏だ。魔法が生まれた国の天使が魂を送っているんだ」分かっているのか、分からないのか判らないが、桜木に説明をする。


 私は、思わず手を合わせてしまう。

 呪文の影響を受けているのか、それとも巫女スキルによってなのか、ボウっと身体が光る。召天の魔法が勝手に発動したようだ。

 側にいた四体の怨霊が私の体に入って来て、浄化される。

一体でも大変なのに、四体も一度に入って来たら体がもたない。

 怨霊に、身体からマナを吸い取られて行く。

立っているのが辛い。


「先輩、大丈夫? どうしたの?」

桜木が、黙り込んだ私を心配してくれる。だが、意識を保ってるのも難しい。身体中のマナが枯渇したのだ。


 光っている私のの周りを、四つの、握り拳ぐらいの白い光の玉がくるりくるりと回って登って行く。

 そして、蘇我真里亞と私は、ほぼ同時に光るのをやめた。


 私は、「これは、死ぬわ。これは、大地のマナが必要だわ」と両膝を付いて座り込んだ。


 人々が、野次馬がゾロゾロと出て来て、消防やら警察を呼び出した。


 ドオーーン! とプロパンガスのボンベが弾け飛んでいる。船は、再びお大きな炎に包まれた。


 意識がなくなりそうな時、桜木君が機材を持ったまま背負ってくれた。



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