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難破船 その27


 難破船の向かって左側、船の右舷側に立ち、底に近い右舷を蹴り上げる。


 船の後部はイケスになっている。クレーンや巻き上げドラムの下はエンジンだろう。PTOを取り出さないといけないからね。じゃあ、キャビンはその前辺りだ。


 キャビン周辺に狙いを定めて蹴り上げる。

さすがに一発じゃビクともしないので、気合を入れて、三連発で蹴り上げる。

ボコッ! ボコッ! バン。

難破船のどてっ腹に穴が開いた。


 一旦穴が開くと、こう言うものはもろい。全体に力を逃していたものが、一部が壊れる事で、力を他に逃す事ができないからだ。


 後は、人が通れるぐらいに、穴を蹴り広げるだけだ。

単純に蹴りを入れ続けると、簡単に穴は広がった。


「蘇我さんはここに居て」俺は、自分一人で船内に入った。


 その辺りの内壁をぶち壊し、部屋の中に入る。


 夜の浜辺の沈没船の中なので、中は真っ暗だ。俺はスマホを取り出し、ライトアプリを起動する。


 ライトで照らしているところが明るく見える。LEDの白い明かりが船内を照らし出す。


 しかし、そこには誰も居ない。無人の誰も居ない、静かな沈没船だ。


「 こらあー、出て来いよー!」俺は船内を怒鳴りながら捜索するが、何も居なかった。


 俺は、置いて有るものや設えてあるものを蹴って壊すが、何も出てこない。


「ギシ」

 暴力が繰り返される度、船体が歪み、音がする。木が乾き縮むのか、重力で締まるのか、時々船体が鳴っていた。


 しかし、表で待っている真里亞には、勇人が暴れる度に怨霊達の声が聞こえて居た。

「殺してやる」

「仲間だ。仲間にしてやる」

「こっちに来い」

「柄杓をかせー」

「溺れさせろ」


 真里亞は心配になって中を覗いて見たら、勇人が暴れて居た。

「大丈夫?」


「ああ、中に何かいると思ったんだけどね、何もいねーわ。残念だけど」


 真里亞には、勇人の背中にも腕にも透明な何かがしがみ付いているのが見えている。

勇人の圧倒的な力の前に、霊体の怨霊では無力だったのだ。重くも感じていないようだった。

 そして、勇人には見えないし、何も聞こえない。霊感も魔力もない勇人に、彼らの訴えは届かなかったのだ。


「蘇我さん、その下のタンク、過熱できる? そこ。エンジンの方の下のタンク」俺は、キャビンの床下のエンジンよりのタンクを指さす。


「ええ、出来るわよ。大丈夫」


 蘇我さんが詠唱すると、タンクがボコッと膨れる。変形したタンクに付いておられず、海藻や貝殻が落ちる。加熱されて、内圧が上がって変形して来たのだ。タンクは丸く膨れてきている。


 タンクが膨れた所から破れて、油臭い蒸気が出て来る。弱いところから吹き出したようだ。


「出て、出て、速く、速く、危ないから!」勇人に促されて、二人で逃げ出す。


「離れて、離れて、速く!」勇人が真里亞を急がす。


「火球、あの穴に撃ち込める? 小さくて良いんだ」


「ええ、撃てるけど」


「じゃあ、穴の正面から外れて」


「爆発するから気を付けてね」


 真里亞は、少し移動した所より火球を撃ち込む。無詠唱で小さな火球を撃ちこんだ。


ガンッ!


 さっきいた場所に炎が吐き出される。爆発現場に近いと、爆発音は高く短く聞こえる。ドーンと聞こえるのは距離が離れているか、映画だけだ。


 操舵室の屋根が炎の帯を引いて上空に吹き飛ばされている。

落ち着いて、勇人が落下地点を見定めている。どうやら、着地地点は船体の反対側のようだ。


「蘇我さん、これをお願い」

勇人が魔法陣と呪文を書いた紙を真里亞に渡す。

自分は、ウエストポーチから、2m四方のシートを引き出した。


 前回とは違い、今日のはサザンが作った魔法道具だ。使える魔力が桁違いにと言うか、ふた桁違いに強い。


 大地のマナを組み上げ → 魔法達成率の上昇 → ホーリーライト → 召天

の呪文を唱える。


「ホーリーライト」が入っているので、真里亞は、勇人が予定していた状況と違ったんだなと察した。滅する怨霊が居ないんだもの。


 真里亞が魔法陣の中央で呪文を唱える。普段使わなかったり、初めての呪文は、ゆっくり、落ち着いて、身振りもつけて唱えることになる。


 大地よりマナが噴き出して来る。

真里亞の身体では、ほんの一部しか吸収できないでいる。

残りは、虹色の光となり、上空に噴き上がっている。

 真里亞は以前の呪文に比べ、魔力が強くなっていることを感じていた。全部体内に吸収すると、体が持つかどうかわからないので、大半は空に逃し、上空に上げた。

 それでも十分の魔力があり、身体全体が光っている。特に、魔力を放出する両手がまばゆく光っている。と同時に怨霊達の悲鳴が上がる。

迂闊にも、この光を受けた怨霊は地獄だろう。死者なのだから地獄も極楽もないのだけど。


そして、真里亞は知らないこの呪文。この世に彷徨う霊を、向こうの世界へ送る呪文。これを唱えた。


 大地から、真里亞から、黄金を強く、白い色にした優しい光。

こんなに強いのに、眩しいとか、痛いとか、不快な感情が無い光。

そんな光が天に昇っている。

後光ってこんな光だったのだなぁ。天使の頭の輪っかって、こんな光を出しているんだと、真里亞は感じた。

海で亡くなった方の霊が真里亞の周りを螺旋状に回りながら上昇して行く。

 その時、大地より吹き上げるマナに触れて、各地で奇跡が起きていた。

霊達の最後の願いのエネルギーになった様だ。



次回の話は視点が変わります。



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