豆田を探して その25
結局午後は、コンクリートの堤防に座り、遠くで、栃原先輩達がしている浜での祭り事の様子を遠巻きに眺めていた。
砂浜に祭壇を作り、栃原先輩、その隣に瀬戸山さんが立って、二人で拝んで居る。
後ろに、蘇我さんと秋山さんが神妙な顔で立っている。
桜木が、それを撮影しながらウロウロとして居る。
同じ高校生なのに、みんなしっかりして居るなぁ。
勉強しかしていない俺とは大違いだ。
周りのクラスメイトが大人に見えて来る。
とは言え、俺に幽霊がどうこう出来る訳も無く、遠くから見守っておこう。これは、生暖かく見守るという奴だな。
少し南に行くと、漁港が有った。
ここならサビキで五目釣りが出来そうだ。オキアミブロックで小アジが入れ食いだろうなぁ。まだ、時期的にはまだ小さすぎるかな?
「お兄さん、観光かいの? 海に近付いたらいかんよ。最近は事故が多くて困っとるんよ」婆さんが声をかけてくれた。
「昨日も小さな子が溺れての。警察や近所の人が出て探したんよ」と教えてくれた。
「はあ。ありがとうございます」
(昨日?、会長さんが言っていた子かな?)
婆さんとの話を適当に切り上げて逃げて来た。
あれ? そういや、桐崎と靍見さんを見てないや。朝の食事の時、食堂で見たきりだなぁ。まあいいか。きっと、楽しんでいるのだろう。
「日本一の夕日の街」と幟が上がっている。
(今の時期は日が長いので、夕日は夕食後だなぁ。見に来ようかな)
今日は一日中潮風に吹かれていたので、体の潮気を風呂に入って落とす。
まだ、桐崎も桜木も帰って居ないようだ。広い風呂を貸し切り独り占めだ。
それに、明るい内の風呂は気持ち良い。来て良かったけど、良いのか? 倫理的に。俺、何もしていないよ。
女風呂から、女性陣たちの声が聞こえて来る。話の内容から、除霊の成果が出なかったようだ。それに霊能者達の声も聞こえる。
んん? 靏見さんも混じって、桐崎の事を聞かれて居る。
おい、いつの間にか、話が女子トークになってるぞ。仕事はどうした?
靏見さんは恥ずかしがって居るが、お前ら仕事もせずに、桐崎とウロウロと遊んでいただけじゃないか! 俺もだけど。
夕食は、季節の山菜ご飯に茶碗蒸し、トンテキに小さなオムレツ、金目鯛の煮付けに刺身の舟盛り。
豪華だが、なんか統一感がない。和食? 洋食?
食後、そのままテーブルで栃原先輩が瀬戸山さんとミーティングを始めたので、席を外す。部外者が居てもね。
夕陽を見に行こうと玄関まで行くと、真里亞と出逢った。
「蘇我さんも夕陽を見に行く? 日本一なんだって」と聞いてみる。
「そうね。ここに居てもする事がないしね。私の専門外だからね」と頷いた。
二人で浜に向かって歩き出す。
手を繋ぐ訳でもなく、離れる訳でもない距離感が二人の関係をよく表して居る。
浜には高さ1mぐらいのコンクリートの堤防で仕切られて居る。階段があって、堤防から浜へ降りる場所は鉄扉がしまって居る。
鉄扉の向こうに階段があり、コンクリートの堤防から4mほど階段を降りると砂浜が続いて居る。
その、コンクリートの堤防に二人で腰掛けて、夕陽が沈んで行くのを眺めて居た。
空は、薄い筋雲がオレンジから赤に染まって行く。
海は朱色に輝いて、太陽の光を反射している。
ドパッン、ザザざぁー。ドパッン、ザザァーーン。
砂浜に、波の打ち寄せ砕ける音が聞こえる。
相模湾に面しているので、太平洋の波が来るが、湾の中なので、波は穏やかな波だ。
沖の方に、消波ブロックの一文字が黒くシルエットに見える。
左手遠くに岬が見えて、木々が赤く染まり出している。
真っ赤にギラギラと輝く太陽が、ゆっくりと海に沈んでいった。
最後は、遠くの海の上の雲に隠れてしまった。
太陽自身は、沈んでもう見えないのに、上空の水蒸気に太陽の日差しと雲の影が映し出されている。
その、オレンジ色のストライプも数分で消えた。
辺りが、グレーに染まり出した。
ドパッン、ざぁー、どプン、ザザァーーン、ドパッン、ザザざぁーん。
波の音が繰り返し続いて聞こえる。
「綺麗だったね」
「うん」
俺の左手の指先に、蘇我さんの右手の指が当たって居る。
心臓がドキドキと速く打ち出す。
ヤバイ状況になって来た。蘇我さんが、俺の事を好きじゃないのかと勘違いしそうだ。
とっぷりと日が暮れて、辺りはグレーから真っ暗になり、夜空に星が見え出した。
「あの波が砕ける辺りを見て。薄いけど、青く光ってるよ」
「本当! どうして?」
「夜光虫なんだ」
「赤潮が発生すると、もっと綺麗に見えるらしいけどね」
ドパッン、ザザァーーン、ドプン、ザザーン、ドパッン、ザザァーーン
波が崩れると、青く夜光虫が光って居る。
この辺りは水が綺麗なので、強くは光って居ないが、青い波は神秘的でもある。
いつの間にか、自然に蘇我さんの手を握って居た。
お互いに子供の時の事とか、中学時代の面白いエピソードなどを話した。
「クラスに好きな娘とか居るの?」来たか? この質問。
「居ないよ」
「じゃあ、クラス以外では?」
(俺、そんなに社交的じゃないんだけどな)
「中学時代には居たけど、告らないで卒業しちゃったしね。もう、高校も別々だしね。会うこともないよ」
「それに、告っていても振られていたよ。きっと」
「どうして?」
「バスケットボール部でキャプテンだったんだ。俺とは釣り合わないしね」
「じゃあねぇ〜、・・・・・・」
「誰だ? あれ。」
質問を止めて、俺は右手で浜辺を海に向かって歩く女性を指す。
「瀬戸山さんじゃない? ウチの学校のジャージだし」
その女性は、そのまま海に入り出した。
「ああああぁ、瀬戸山さん、完璧に魅入られてるよ」俺は困って変な声をあげた。
「蘇我さんは、皆んなに知らせて!」
俺は砂浜に飛び降りて、走り出した。
「うん!」真里亞は、旅館に向かって走り出した。
その少し前、栃原先輩と瀬戸山さんは、今晩のお祓いの事について話していた。
朝の勤めも、昼の祭りの時も、手応えが無かった。何か次の手を打たないといけないが、相手が強く、全然歯が立たない感じがしていた。
「 もう、私の手には負えないわ。不動明王を勧請して、護摩焚きの行を行おうと思うの」
「護摩焚きですか? お手伝いします」
「で、他の人達も手伝って欲しいの。魔術師なんでしょ。ちょっと応援して貰えないかしら」
「ええ、聞いて見ますね。でも、藤波君だけは、ただの人ですけどね」
ミーティングが終わって、玄関近くまで来た時、開いたままの玄関の扉の向こうに女の子が立ってるのに気づいた。
「どうしたの?」瀬戸山さんが自分から声をかけた。
「仔犬が何処かに行ってしまったの?」少女が答える。
白いブラウスに赤っぽいチェックの吊りスカート。
オカッパで時代を感じるスタイルだ。
「どんな犬?」
「豆太」
「豆太は、どんな色の犬かなぁ?」瀬戸山さんは靴を履いて、自分から出て行った。
「茶色」
「いつもどこにお散歩に行くの?」
瀬戸山さんは、自分から少女の手を引き、歩き出した。
少女は瀬戸山さんの腰ぐらいの背だ。
幼稚園児か小学一年生ぐらいの子供か?
「公園」、近くの公園まで手を引いて見に行った。
「まめーたー!」少女と探し回った。
「大っきい公園」
少し遠い「大きな公園」まで二人で歩いたが、そこでも犬は見かけなかった。
「海」少女は泣きそうになっている。
瀬戸山さんは少女の手を引いて、言われるままに一緒に探しに行った。
浜に降りて、砂を踏み締める。
「豆ちゃんいないねぇ」
「あそこぉ〜」少女が波間の先を指差す。
そこには、花畑の中で茶色い豆柴の仔犬が鳴いている。
すみません、一話を飛ばして投稿していました。
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