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伊豆の港町 その24

 海沿いの国道を走って行くと、ちょっと大きな集落に着いた。

国道を曲がって、集落に入った所で降ろして貰った。

 旅館の前の道は、軽自動車が一台通れるかどうかぐらいの幅しかない。

辺りは民宿と土産物屋が多いが、まだ繁忙期では無いのか、シャッターが閉まってる店も有る。


 玄関で並んで挨拶をすると、空気の読まない桜木がカメラを回していた。

 女将さんが、「よう来てくれて」と喜んでくれた。


「さぁさ、はよ上がって下さいね」と丁寧にもてなしてくれる。


 旅館に入ると、結構大きな声で勤行が聞こえる。見ると、玄関すぐの客間に祭壇が組んであり、誰かお勤めをしている。


 早速、魔法部二年の栃原先輩が挨拶に行って居た。


 奥の大広間に食事が用意して有り、荷物を部屋に下ろすと、早々に皆でご馳走になった。

さすが、海の村だけあって魚が美味い。ネタの新鮮さが違う。

食べ終わった頃、状況の説明に観光協会の会長さんが部屋に来た。


「最近、ここ30年ぐらい、この浜で亡くなる人が多いのだよ。

海水浴で溺れる人は分かるが、冬に釣り客まで溺れる。

それに、助かった人は、『足を引っ張られた』とか、『手を引かれた』とか証言があるんだ。

年間3人も4人も、夏も冬も溺れるのはちょっとおかしいんだよ」

「で、坊さんやら神主さんやらにお祓いして貰ったり、地蔵堂を建てたりしたが、効果がなかったんだ。

今も、玄関口の部屋で、お祓いして貰ってるが、全然効果がない」とため息混じりに話されている。


「どうして効果が無いと言えるんですか?」と栃原先輩が質問する。


「今日の昼、千葉から来ていた女の子が亡くなったんだ。別に泳いでいたわけじゃ無いよ。祖父の家に遊びに来ていて、『さっきまで、親と一緒にいたのに』って、気がついたら居なくなっていたらしい。それで、探したら痛ましいことに」


「で、先々週、おれの東京の姉の孫が、こんな話の専門家がいると言うので頼んで貰ったんだ。遠いところを申し訳ない。が、まさか高校生とは思わなかったけどなぁ」

どうやら、その姉の孫が我が校の卒業生らしい。

いや、全く、こんなにゾロゾロ関係ない者が付いて来て、こっちが申し訳ないです。

(専門家は一人だけだしね)


 話が終わると、栃原先輩と瀬戸山さんは、先出の霊能者に正式に挨拶に行った。桜木もビデオを持って、撮影の為について行った。


 残りの者は、さっさと自室に戻り入浴を済ませた。旅館の風呂は大きくて気持ちが良い。桐崎は何か用事がある様で、急いで出て行ってしまった。


 和室に布団を三枚敷いて貰い、男部屋とした。畳の部屋の奥に板の間が有り、籐で出来たテーブルセットが置いて有り、その向こうが大きな窓になっている。

 女性部屋は隣の部屋では無く、もう少し離れたところに、栃原先輩、瀬戸山さん、蘇我さん、秋山さん、靏見さんの5名が女部屋になった。女部屋は男部屋より部屋が大きいらしい。


 桜木が布団に入りながら、ノートパソコンで、本日の映像の編集や、他の資料やら、オカルト研のネットの対応をしている。

対照的に、桐崎は何処かに出かけて行った。


 俺は、和室の奥の3畳程の板の間の籐の椅子と机でくつろぎながら、そこで参考書を読んでいる。


 午前一時を回ったぐらいだろうか?

ガラス窓の向こう、階下の屋根の上を白いブラウスに赤い吊りスカートのおかっぱ頭の女の子が歩いていた。

 その子は視界の端には見えるが、振り向くと見えない。目を凝らしても、ますます見えない。

どうせ、この世のものじゃ無いなら関係ないので無視して、参考書に目を落とすと、窓ガラスを叩いているのが分かる。見えているのでは無く、分かると言う感覚だ。

 まあ、俺には関係ないので、無視、無視。そんな事より勉強だ。他の受験生より遅れた分を取り戻さないといけないからな。


 午前3時になったので、明日もあるし、小便でもして寝ようと思って布団に行く。ガラス窓の入った障子を閉め、板の間と和室の部屋の間の障子を閉めていると、いつの間にか桐崎はもう帰って来て寝て居た。


 横で、なにか桜木がうなされている。彼の掛け布団の上にさっきの女の子が四つん這いでいる。どっちかと言うと居るのが分かると言うのが近いかな。


「うーん、うーん」と桜木が油汗を浮かべてうなされている。


 俺は持っていた参考書で、女の子の居た付近を叩いて見る。見えないので、本当に適当だった。


「パンッ!」って、女の子を素通りした参考書が、桜木の鼻付近に命中した。


ヤバっ!

 桜木が起きたら、納得する何か素晴らしい言い訳を考えないといけないなぁ。


 女の子が逃げた気配がするので、その辺をバンッ!

布団の向こうに逃げた気がする。バンッ!

バンッ! バンッ! バンッ!


追いかけて叩いていると、ふすまの前に居る気がする。トドメだ!

ボンッと襖が揺れて音がする。

ヤバイ、ヤバイ、襖を破くところだった。


 しかし、桜木が起きて来て礼を言ってくれる。


「助かったよ。襲われて、動けなかったんだ」


「いやいや、こっちこそ叩いてすまなかった」


桜木は、目は覚めていて、全てを見て居たらしい。


「金縛りにあって居て、あいつに首を絞められるし、本当、助かったよ」


「ああ、うん。良かったね。トイレ行ってくるわ」


俺も顔を叩いてしまってバツが悪いのでトイレに逃げようとした。


「ああ、俺も行こう」何故か桜木も付いて来た。


 小便を済ませて部屋に帰ろうとすると、女子組5人がゾロゾロとトイレにやって来た。

女子はよく集団でトイレに行くが、こんな時間も一緒に行くのか?


「ああ、おやすみ」と挨拶をすると、真里亞が「男子は何もなかった? この旅館、なにかヤバイよ」と言ってきた。


「いや、別に何にも。1時ごろに女の子が窓の外を歩いて居たのと、さっき、その子に桜木が首を絞められていただけ」と答えると、栃原先輩が口角を上げて笑いながら引いていた。


「何もなかったら良いんだけど、気をつけてね」って、おいおい、桜木は計算に入っていないのかよ。


 トイレから出て来た桜木が、

「女の子じゃなかったぞ。顔はしわしわの婆さんだったよ。カッコは『チビまる子ちゃん』だったけどな」と言って状況を説明し出した。


 俺、早く寝たいんだけどなぁ。


 栃原先輩が真里亞に、「あんたの彼氏、強者だね〜」と話して居る。


「彼氏じゃ有りません」と速攻で否定された。


(まあ、事実付き合ってないし、蘇我さんはクラスの人気者だし、付き合うと周りがややこしいだろうな)と思う。

強者と言うのも違ってるしなぁ。


 靏見さんがキョロキョロして誰かを探して居る。

(解り易す!)


男は、女子みたいに集団でトイレに来ないんだよ。残念だね。


 そして、俺は桜木を置いて先に帰って眠った。


 朝、洗顔して、階下の食堂に行く。

ご飯に焼き海苔、目玉焼きに焼き鮭、ウィンナーにスクランブルエッグ、味噌汁だった。

なんか、変に一品多いぞ。


 桐崎と桜木が遅れてやって来た。

今朝の話で盛り上がって居る見たいだ。


 さて、栃原先輩と瀬戸山さんは、午前は霊能者と一緒にお祓いのお勤め、午後からは二人で浜に出て、鎮魂の祭りをするらしい。

そして、桜木はその様子の撮影をするらしい。

(仕事熱心だね)


真里亞と秋山さんがそれを手伝うと言ってるので、俺は部屋で勉強だ。

こう言うのは、朝の涼しいうちが良いのだ。

 塾に行けない分を取り戻さないとな。

海だと言っても、今の季節は静かだなぁ。勉強が捗る。

そういや桐崎、どこに行った?


 昼、土産用の伊豆の名物を探しにウロウロする。ちょっと休憩して、気分転換だ。


 辺りを歩くが、まだ、夏の観光シーズンには早いので、街が寂しい。


 国道沿いに、やっと開いているお土産屋を見つけたので寄って見た。


 この辺りの名物の土産って、ワサビと干し魚しか無いんだよな。あとは、どこの観光地にでも売って居るような物ばかりだ。「踊り子饅頭」に「伊豆海老せん」とかだ。

この「学生さーーん」って何だ?


 まあ、家族用に、わさびのふりかけなどを買っておくか。

しかし、本物のワサビは高いな。驚いてしまう。うちの家はチューブのだからね。


 国道を歩いているとサッポロラーメンの店を見つけ、昼飯を食べる。伊豆で札幌ラーメンって、ウヘヘ、インスタ映えという奴だな。

俺には、写真を撮っても送る奴がいないし、SNSはしていないし、意味ないな。


 コンビニで花火を売っていたが、さすがに今日は要らないだろう。俺、今日はオマケだしな。

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