フローラ来襲 その22
勇人は自室で寝て居た。
午前2時を回って、明日も学校がある為に、もう休もうと眠りについた。
眠りに落ちたか落ちる直前か、そんな不安定な時に、天井が黒く開いた。
ドタッ。
ドタッ。
ドタッ。
ドタッ。
ドン!ドン!
こんな時間に階下の人が怒ってきそうな騒音だ。
全長約2mの円錐形の白い物で、やや曲がっている。まるで、大きな犬歯だ。
それが四本降ってきた。
そして、直径2mは有りそうな黄金のビー玉。二つ。
続いて、鋭利な鎌のように曲がった白い爪。
まだまだ、赤い何かが降って出て来ようとしている。
その赤い物は、この部屋より大きそうだ。
思わず飛び起きて机に走り、引き出しから指輪を取り出す。
「サザン、憑依!」スライムに憑依する様に命令する。
「サザン、ステータス強化!」
見た所、天井の赤い物は巨大な心臓の様だ。
ドクンドクンとうごいている。
「サザン、喰えるか?」と聞きながら鉄刀を探す。
「食えますが、妖精の『フローラ様』ですよ」
「あれがか?」心臓の妖精だったのか? 花や昆虫じゃ無かったのか?
「かまわん! 食え! 家が壊れる」
「はい」サザンが了承して返事を返してくる。
「なんで、私を食べるのよ」心臓の向こうからフローラが顔を出した。
「家が壊れる。持って帰れ。来るな」
「サザン! 食え」
「やめてよ。あなたの物を持って来たんじゃ無い」
「知らん。帰れ。もう、関わりあう気は無い」
「これは、貴方が倒したドラゴンよ。何十年もかけて綺麗に掃除して、こうして持って来てあげたんじゃ無い。喜びなさいよ」
「知らん」
「じゃあ、貴方を向こうに召喚するわね」
「・・・・・・、フローラさん、遠い所をよく来たね。懐かしいよ」
「でも、フローラさん? あの巨大な心臓のような物は小さくできないかなぁ」
「無理ね。あれは古龍の心臓、私達妖精の力でどうこう出来るようなものじゃ無いの」
「サザン、やはり落ちて来る前に喰え!」
「良いんですか?」
「かまわん」
「ダメよ!」
サザンが広がって、パクリと食った。
サザンの色が、若干ピンクになった気がする。
「ぎゃあぁぁ〜〜! 何するの?」
「あれを取り出して、掃除して、綺麗にするのに30年もかかってるのよ」
ドラゴンの心臓は、無限魔力発生装置らしい。ドラゴンの心臓を喰えば、魔法を使い放題になるらしい。が、魔法が使えない俺に、そんなものいらん!
今回はサザンが食ったので、特に問題はなかったが、もう少しでマンションの床が抜けるところだった。
あんなもの食ったし、これでサザンが魔法を使い放題になるのかな? サザンも魔法は使えないけどね。
まあ、取り敢えず、これで家が潰れる心配は無くなった。
「これ、あの時のドラゴンの牙と目玉か。ありがとう。でも『気ぃつこて貰わんでもかまへんかったのに』」思わずエセ関西弁が出てしまった。
しかし、今晩寝る場所が無い事の方が問題だ。
俺はフローラに砂糖水のお湯割を作ってやると、彼女は相当美味しいのか、ちびりちびりとやっている。
突然、思い出したように、赤いルビーのような物を集めた、小玉スイカほどの球体を出してくる。一つ一つは米粒ほどの透明な赤い石、見た目はルビーに見えるものだ。
これは、妖魔の核なのだそうだ。
これは食べてもうまいし、魔力を引き出したり、魔法の道具の動力源にもなるらしい。
そして、お皿を100枚? それは龍の鱗だった。大きさは、座布団ぐらいはある。
(鎧でも作れって言うのか? ファンタジーなら喜ぶのだろうけど、現代日本だぞ。ドラゴンメイルでも作れって言うのか? 今時の戦車はセラッミクの複合素材だぞ。そのような物は要らんぞ)
今日は、両親が仕事に出た後、学校を休んで、フローラの相手をしている。
妖精のフローラは、こちらの世界では、特に飛行能力以外は何も能力を発揮できない。こっちの世界はマナが少ないのだそうだ。
飛行には羽を使うので、特に普通に飛べるのだそうだ。
(普通は無理だぞ。その大きさの翼で羽ばたいて浮上するのは無理だ)
10時になると、美味しいと評判のケーキ屋と酒屋、自然食品の店を自転車で回り、チョコレート、フルーツたっぷりのケーキ、100%ジュース、ワイン、ハチミツなどを数本ずつ買って帰った。
フローラには、意外とケーキが大ウケだった。小さな体で、俺の分も食べてしまった。自然食品が売りで、悪いものは入っていないと思うけど、自分な体の数倍も食べて大丈夫なのだろうか。
因みに、サザンは肉食と言おうか、妖魔しか食わないのだ。
「こんな美味しいものがあるなら、ちょくちょく来ないといけないわ」
フローラが膨れた腹をさすって言う。
「勇人は小さくなったわね」
「こっちの世界に戻ったら、体も元に戻ったよ」
「ここを使わないからよ」と下腹部をズンズン押してくる。
痛いので、力を入れると、
「そうそう、そうよ」と言いながら、どこにこんな力があったのかと言うぐらい力を入れてくる。
抵抗して力を入れると、「ミシッ」と音がして、首から肩の筋肉が膨れ上がった。その後、背中、腹、脚と筋肉が膨れ上がって来た。向こうの世界にいた時の体のようだ。
驚いて力を抜くと、「シュー」と元に戻り始める。
「魔法は頭を使うけど、身体はここを使うのよ」と自分の額と下腹部を順番に押さえる。
半日程で、自分でコントロール出来るようになった。
で、部屋を見渡して、(今はこの牙と目玉を片づけないと、今晩寝るところが無い)と思案するのだった。
「『魔法の鞄』は持っていないの?」
「なんだそりゃ?」
要は、某猫型ロボットが付けている4次元ポケットらしい。
「そんなもの有る訳無いだろう」
「ユウト、作ろうか?」とサザンが言ってきた。
「作れるの?」
「作れますが、魔法を知りません」
「ダメだこりゃ!」長介さんが怒ってくるよ。
「私は魔法が使えませんので、知識が有りません。ですからユウトの魔法の知識を使います」
「私は魔法の道具は、作れるのですよ。ユウト」
「道具は作れるが、その方法は知らんって、意味ないじゃん。ところでお前、なんか賢くなってないか?」
「ドラゴンを三匹倒して、悪魔をも倒していますからね。知力も貴方達の言葉で『カンスト』していますよ」
「お前、スライムのくせにカンストしてるのか?」
「今なら、オーガやトロールも殴り殺せますよ」
俺は、スライムに殴り殺されるオーガを想像した。スライムのくせに腕はどうする? 蛇の競歩ぐらい無理な話だぞ。
(チートや、使い魔のスライムが、チートしてまんがな。どないしたらよろしぃんやろ。)
転生してチートするスライムの話があったが、ひょっとするとこいつが主役で、俺は脇役か?
取り敢えず、本棚から魔法の本や辞典を取り出し、「魔法の鞄」を調べる。知識も呪文も詠唱時の振り付けも覚えた。
元々この呪文は、魔法道具を作る呪文らしい。魔法を使う呪文と魔法道具を作る呪文とは区別される。同じ魔法の道具でもファイヤーボールを撃つ指輪とそれ自体が魔法の道具な「魔法の鞄」は違う魔法で、「魔法の鞄」は魔法道具を作る魔法に入るらしい。
次に材料を調達する。
羊革のウエストポーチを探し出した。
黒い革にチェックのラインが入っている。大きさは、今のスマホを横にすれば入るぐらい。中に仕切りがあり、外側にポケットがある。
ウエストポーチを目の前に置いて、詠唱する。今回は、「頑強」と「魔法の鞄」の魔法をかける。
口が勝手に声を出し、手足も勝手に動く。サザンがコントロールしているのだ。
自分を中心に部屋が魔法の光で満たされ、明るく輝いている。
「きゃあ〜!」フローラが光に弾かれ、部屋の隅で防御姿勢をとり震えている。部屋が「ミシッ!」と音を立てている。
(おいおい、魔力が強く無いか? 家が壊れそうだぞ。俺の家は鉄筋コンクリートのマンションなんだが)
光が治ると、いつもの俺の部屋に戻る。
ファスナーを開けると、仕切りの内側に暗黒が広がっている。
大きさは、20フィートコンテナが四個分もある。
重さは、4.8トン迄無荷重に感じる。
鉄ならすぐに埋まるが、綿なら結構入る事になる。
「おい! なんだこれは?」
「私が普通に作れば、このサイズになります」
「貴方達風に言えば、私、今は妖魔最強の40レベルです。これ以上はドラゴンぐらいしかいないでしょう。スキルは120レベルでカンストしています。
480倍の魔力が有りますからね。
ほぼ、計算通りです」
(魔力は、素質xスキル÷10で計算される)
スライムは、普通1〜3レベル。
トロールを襲ってるスライムなど聞いた事もない。
それどころか、出会った人間の初心者勇者など即死だよ。
それにしても、魔法の鞄と言う奴は、入口が小さいのに良く入るものだ。
牙と目玉と龍の鱗と魔物の核と鉄刀を放り込んで置いた。
夜半過ぎ、フローラが月が出ているうちに帰ると言い出したので、ハチミツの瓶三本をお土産に持たせて見送った。
あの身体のサイズで、蓋を開けられるのかな?
いつ来ても良いように、今度から、魔法の鞄にハチミツを入れておいてやろうか。
「一度やってみたかったのよ」と机の幅の広い薄い引き出しの中にゲートを開いて、足から入っていった。こら、こら、そんな事、どこで覚えた? 向こうはテレビ放送はないだろう。
「『妖精王の手』をまだ使ってないの? 頑張ってるのね。バイバーイ!こっちにもまた来てね」と言って消えた。
「おい! これはどう使うんだよ」たぶん、聞いていないなと思いながら、ゲートの閉じた引き出しの奥に聞いてみた。
勿論、返事はない。
ちょっと長くなりました。
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