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未知の洞窟

グリュプスが飛来してきてからひと月が経った。

種も充実してきて収穫量も上がり、チェインに納品する薬草の量が増えた。

これによりチェインのポーションの生産量も上がり店先に並べられるくらいに作れるようになったらしい。

村人を一人雇い、売り子をさせている。

そして、何かが安定してくれば、何か他のこと、新しい刺激を求めてしまいがちになる。


「今度、未探索エリアに連れて行ってくれないか?」


このろくでもない台詞が七人を混乱させてしまった。

ろくに攻撃も防御もできないお荷物をどう守るかで話をしている。


「いつも通りでいいと思うんだけど。」


ルインが言うには、アリサ、レイナが前衛をし、後衛にマリカ、リオン、キャス、ルイン、真ん中にロウを配置してバックアタックにも対応できるような布陣らしい。

レイナとルインはいつでもスイッチして前衛と後衛を入れ替える。

しかしここに素人が入るとなるといろいろ変わってしまう。

白熱する議論、これはまずったな。


「いや、無理にとは言わない。ただみんなの畑の外の姿を見たかっただけだから。村近くの森でもいいし。」

「ううん、おじさんが興味持ってくれたの嬉しい。私たちの活躍を間近で見て欲しいの。」

「そうだよね。アルセスたちを追っかけ回していた頃と違うよ?」

「つかマジついてくんならジュンはあたし守るし。」

「キャス、抜け駆け許すまじ。」


マリカは最近同じことばかり言っている気がする。

ギルドでその名を轟かすくらいだ、もうみんなどこか不安気だったり泣き虫だったりということはない。

自信に満ちて頼り甲斐のある冒険者に少しくらい甘えてもいいかもしれないな。


「ポイムに乗せてもらうか。」

「え?それだとポイムとの連携が。」

「連携?レイナはポイムと連携して攻撃するのか?」

「うん、凄いんだよ?!ポイム!」

「魔獣を誘導して攻撃をしやすいように並べるのがうまいわ。」

「数が多いときとかはポイムがいないと手こずっちゃうかも。」


そうなのか。

剣の女子三人からの信頼は厚いらしい。

すると、ロウの横にぴったり張り付くか。


「ロウのそばにいたらいいか?」

「それが無難かしら。」

「それならおじさん守りやすい!」

「何かあったらすぐロウが回復してくれるね。」

「僕がいるから何かなんてないよ。」

「ロウ強いもんね!」

「あたしジュンの隣いれば完璧じゃね?」「隣は私。」

「じゃあ私はロウの隣ね!」「え?私がロウの隣でしょ?!」


話がまとまったんだかまとまらないんだか。


「はいはい、ロウ、よろしく。」

「僕が強くなったところ見せたいから!僕から離れないでね!」

「はいはい。」


頼もしいな。

だがこのまま丸腰では流石にいかんだろうな。


「防具を作った方がいいか?」

「あ、それは絶対必要。ものを投擲してくる魔獣もいるから、無いと簡単に心臓貫かれちゃうよ。同じ男だから僕と同じ装備を作ろうよ。」

「だめ!」

「え?何で?レイナ。」

「だって、ロウとアリサはお揃いの腕輪してるでしょ!だからおじさんの装備は私とお揃いにするの!」

「どんな装備?指輪?」「おそろの首輪とかいんじゃね?」


アクセサリーはよくわからん。

ていうか、アリサとロウはそんなことしてたのか。

二人とも長袖だし気にも留めなかった。

もうくっついてたか。

よくよく見るとリオンもルインも腕輪をしているな。

なるほど。


「装備はレイナたち三人に任せる。おじさんはそういうの疎い。できれば動きやすいのがいい。ところでロウ。」

「なんだい?」

「未探索エリアには珍しい鉱物とかあるのか?」

「うーんとね、洞窟があってロゼに色々拾ってきてもらってるんだけど、やっぱり深いところに行かないと目新しいものはないみたいなんだ。」

「そうか。」


持っていく武器は決まったな。


「マジックバッグは、もう全員持っているんだったな。せめて荷物持ちくらいはしたいんだが、マジックバッグは余ってるか?」

「余ってないよー。あとジュンには持たせられないかな。」

「何でだ?」

「バッグって抱えながら戦うの難しいんだ。アリサを見てよ。腰に小さな鞄があるでしょ?あれがマジックバッグなんだ。大きいと剣を振る邪魔になるからああやって小さいものをつけてる。ジュンは冒険初心者だし、いつも僕が荷物持ちしてるからあまり気にしないでいいよ。」

「なるほど。そうだな。鞄に振り回されてしまっては逃げられるものも逃げられないな。もし付けるなら背負う鞄があればいいんだけどな。」

「それならいつか僕が作るよ。」

「ん、ならロウに作ってもらう。作り方ももう知ってそうだしな。頼むぞ。」

「任せてよ!」


それから数日後、鍛冶屋はお得意さんとして装備と武器を優遇して早めに仕上げてくれるおかげで未探索エリアの準備が整い、チェインの雇った売り子に留守にすることを伝えて、村を出発した。

未探索エリアの距離をどう稼ぐのか気になったが、マリカとキャスの魔法でどうにかしていることがわかり、疑問は解決する。

魔法のことはよくわからないが、とにかくスタミナが切れずに自分の限界を凌駕して速く動くことのできる魔法がかけられている、ということだそうだ。

戦闘においてもこの魔法は有用で、相手を翻弄して手出しをさせることなく魔獣を蹴散らしていく。

よくもそんな速く動いて頭の中がこんがらがらないものだ。

慣れとは恐ろしいものだな。


「どう?おじさん!今の最後の一撃見てた?」

「あ、ああ。凄かったな。」


何が起きたかさっぱりわからん。


「ふふん、でしょー。」


隣にいるキャスに動体視力を上げる魔法がないか聞いたところ、もうかけているとのことだった。

これで天使と呼ばせるのか。

また悪魔に戻してもらった方がいいのでは?


「今のレイナの見えなかった?まじ?」

「キャスの魔法、私と同じくらい上位。それでも見えなきゃジュンの目が悪い。」


ヒソヒソとキャスとマリカと話し、これはついていくのもやっとだということがわかった。


「ロウ、みんなの足を引っ張っていないか今不安なんだが。」

「あー、うん。いつもよりも丁寧に倒してるよ。」


もう隠さず足手まといって言ってくれた方がいいんだけどな。

その気遣いは余計傷つく。


「今日は奥まで足を伸ばさないから、これくらい丁寧でもいいわね。」


魔獣は戦う奴、逃げる奴と厳選して、戦う奴の後始末はポイムとキナコとロゼの腹の中で処理をする。

とまあ、アリサたち前衛が相手をするだけで昼前には目的地の洞窟にたどり着いた。


「ここ、奥まで続いているのは見てわかるんだけど、狭くて先に進めないんだ。」

「ロウの地形変動の魔法でどうにかならんのか?」

「中から何か出てきたらと思うと、広げない方が良いかなって。塞ぐのは簡単だけどね。」


蛇か邪か、不用意に中に入って眠れる獅子を起こしてしまうのも問題か。


「そうか。この洞窟も含めた自然の摂理を大事にしているんだな。ただ、もうここは未探索ではないのだろう?誰かが入り口を広げるのも時間の問題だ。ならば、見つけた我々で底まで見てみないか?」

「おじさんあったまいー!」

「行こう行こうロウ!こっち!」

「ジュン、離れないで。」「はっ、あたしと密着するし。」

「さあ、ロウの私の手を取って。」「ロウ、こっちよ。」


三者三様、リオンを先頭にアリサとルインはロウの片手ずつ手に取って入口の方へ、レイナたち三人は、ただのおしくらまんじゅうだ。


「ロウ、村を出る前に預けたものを出してくれ。」

「僕の魔法ならすぐ入り口を広げられるよ?」

「ああ、そうなんだろうが、こいつの使用感をちょっと掴みたくね。」


白魔金で仕立てられたツルハシを担いで入り口を拡張しに向かう。

黒部のトンネル掘削員もこんな感じだったのではなかろうか。

ヘルメットないけど。


「いーよいしょ。」


別にそんな声は出さなくても、この白魔金という鉱石はとても軽く、そして頑丈だから、岩に向かって振り下ろしても軽く先端が刺さり、掘削も楽だ。

岩のとあるポイントをツルハシで叩くと岩が簡単に瓦解することも、この世界に来た経験で得ることができた。


「これは、良いものだな。」

「おじさんの武器って聞いたからすごいのができると思ったらそれなんだもん。」

「なんだ?レイナ、不満か?」

「ゔー。もっとかっこいいのが良かった!」


素直でよろしい。

ツルハシを担ぐ男全員がカッコ悪いわけではない。

レイナの趣味ではなかったということだ。


「同意。」「ダサい。」


他二名の趣味でもなかった。

確かにツルハシなど持って来なくとも、ロウの地形変動の魔法さえあればこんなもの出る幕などない。

だが、ツルハシに個人的に特別な思い入れがある。

アリサを縛った魔具を破壊したのは紛れもなくツルハシだ。

未来を切り開く道具として優秀だし、自分に合っている。

洞窟の奥、行く手を阻む岩の壁にツルハシを叩き込む。

鍬のときと同じ感覚で、硬そうな岩の壁も岩を破壊しつつサクッと力を込めなくとも身が岩の中に吸い込まれ引き抜くときも岩をガリガリ削ってくれる。

鍬もこのツルハシも、体を鍛えるという意味では全く効果はなさそうだが、いくら楽とはいえ体を動かすことに変わりはなく、背中や腕が振るうたびにキツくだるくなってくる。

無心となって叩き続けてようやく人一人が入れる穴まで広がった。


「ロウ、悪い、安全に通れるように魔法で形を変えてくれないか?」

「え?うん、ジュンがせっかく苦労して掘ったのにいいの?」

「ああ、構わん。時間かかってすまなかったな。」


ロウが手をかざすと、固い岩壁がみるみるうちに変形し、最初からそこに壁などなかったと思わずにいられないほどに見事な通路が出来上がった。


「おー、やっぱり魔法はすごいな。ロウのセンスもいいんだろうな。」


どこかバツ悪そうにするロウと女子たち。

冒険についていくっていうのは今後無しになりそうだな。

岩の壁から奥は少し開けた場所で、下に伸びる急な斜面が広間の奥に現れてロウの魔法で階段を作りながら下へと進んでいく。

魔獣という魔獣は現れないが、この斜面を滑って下へと滑落し、もう上には戻って来られないのだろう。

階段を作っているから、もうそれも無くなるわけだが。

洞窟の暗い道、地面には骨や岩が転がっていたり、鋭く尖っていたりして足場はかなり悪いのだが、魔術師によって明るくてらされたおかげで足を取られず傷もつかずに進むことができている。

奥に何やら光るものが見えてきた。

そして暑くなってくる。


「この暑さは。」

「たぶん溶岩が噴き出てる。服とか靴が燃えないように気をつけないと。」


溶岩、そんな気をつける程度でいいのか?


「みんな、これ。スウィートクーラーから作ったポーション。飲めばこの暑さも和らぐから。」


体温を維持しつつ、発汗から体の周りに冷たい空気の層を作り出すことのできるポーションなのだそう。

飲んで奥に進んでいくと、暗闇を照らす魔法がいらないほど赤く煮えたぎる溶岩が発光して洞窟全体を照らしている。

溶岩は洞窟の奥へとゆっくり流れているのが見て取れ、ロウの魔法で溶岩を避け暑さから身を守りつつ、流れの先に進んでいく。

すると、溶岩が湖のように溜まっているかなり開けた場所にでた。

赤く光る溶岩湖のほとりに立って遠くを眺める。


「ここで行き止まりっぽいね。」

「ええ、希少な鉱物はあるかしら?」


アリサの言葉にここにきた意味を思い出したロウは、壁を人年に調べ始めた。

アリサ、ルイン、リオンはロウと一緒に岩の壁に手を触れてロウの調べた後をなぞり、レイナ、マリカ、キャスはそんな三人を離れたところで眺めている。

溶岩の熱で大気が常に揺らいでいる。

こんな灼熱地獄の釜の中に耐えられる魔獣はいない、そう思い込んでいた。

ポイムやキナコが後ろを警戒し威嚇している。

後ろを振り返ると、巨大な岩石が足と手を生やして近づいてきていた。


「お前ら!ロウのところへ!」


咄嗟に出た言葉はそれだけだった。

自分が前に立って何になる。

ロウと完全に離れてしまった。

巨大な岩の塊が腕を模している岩石を投擲してきた。

あんなもの、装備もへったくれもない、当たれば潰されて終わりだ。


「レイっ。っ!」


レイナが前に滑り込んできた、その身を盾にするつもりか。

投擲された岩石を剣で受けるが、地面を両足が這うように滑り、岩石の勢いに剣を弾かれロウのいるところまで弾かれた。

レイナが剣で受ける直前に見えた透明な膜。

あれがなければ今頃レイナは。

マリカもキャスも、魔法を唱えたのだろうが岩石の勢いに負けてしまっている。

化け物が、こんなところに、こんなところで。

足元にレイナが飛ばされてきたのをみたロウが岩石の魔獣に両手を伸ばす。

相手は岩石、なら変幻自在のはず、だがロウの魔力をもってしても岩石に変化は起きていない。


「あいつ!僕よりも早く!岩石の作り変えを!」


ロウの魔法は岩石を確かに作り替えをしているのだが、そこからさらに岩石の魔獣が作りかえを上書きしているらしい。

要するに、ロウよりもやり手。

岩石が両の腕から投擲される。

向かう所敵なしのパーティが音を立てて、崩れようとしていた。


「岩なら、これでいいだろ。ポイム、キナコ、下がれ。」


ロウに向かって投げられた岩石への対応にアリサやルインが遅れ、リオンはロウの体を強く押して岩石の軌道の先から外そうとしているのが見える。

岩石と標的との間に割って入って、二つの岩石をツルハシで一回ずつ、素早く叩く。

もともと速度のある岩石だ、思い切り振り抜かなくても、向こうから狙いを定めたように来てくれる。

岩石のポイントとツルハシの当たる衝撃で、ツルハシが岩石を粉々に砕いた。


「ほほー、柔らかいな、これ。」

「は、はぁ?」

「ロウ、みんなを守れ。さてさて、ダサいの汚名返上と行きますか。」


はっきり言って岩石の魔獣自体の動きは緩慢だ。

仲間の方が早く立ち回れるだろう。

剣に杖、弓矢と岩石に対抗できる武器はなく、魔法も岩石の魔獣の弱点に当たらなければまた再構築されて無意味だ。

アリサの剣なら岩石を真っ二つにすることも容易いだろうが、真っ二つではまたすぐに岩石同士がくっついてしまうだろうし有効ではないだろう。

負けはしないが勝ちもしない、岩石の魔獣をこの場に残してここを去るのが得策なのだろう。

しかし、せっかく岩石に対抗できる武器があるのだ、使わない手はない。


「こっちだ。」


マリカとキャスのおかげで体が軽い。

岩石の魔獣を左右に翻弄し、まずは足を、だるま落としの要領で岩石を一段飛ばしてバランスを崩させる。

倒れたところで手足を粉々に砕き、体と思われるところに駆け上ってツルハシで出鱈目にただ掘る。

胴体にポイントがないところ、ずっと作り替えを行なっているからだろうな。

岩石を作り替え動かしている何かがあるはずだ。

巨体がぐらぐら揺れる。

手足の再構築、いや新たな岩石に命を吹き込んで自分の手足にしたのか。

巨大な岩石が立ち上がった。


「くそっ!」


岩石の魔獣は無闇に投擲をするのではなく、こちらの出方を窺っているようだ。

それなりに知能もあるということか。

岩石の胴体が再構築されツルハシで掘った箇所は綺麗に直ってしまった。


「ジュン!大丈夫?!」

「ああ、アリサ。大丈夫だ。マリカとキャスのおかげで体は動くし、レイナにも助けられたからな。ありがとうな。」


そんな心配そうに見るな。

必ず、あいつを攻略してやる。

簡単だ、再構築よりも早く掘り返し砕けばいいだけのこと。

もってきた薬草、効果あるかね。

石食草の葉をツルハシに擦り付け、擦りつぶれた葉と一緒に持久草の葉を食べる。


「ジュン!!何食べた!」

「あ?ロックロックと持久草だが?」

「そんなの??食べられないだろ?!ロックロックは体に毒なんだぞ!!」

「それが、食えるんだな、これが。」


そんなにこちらの様子ばかり見ている気になら、こちらから動くまで。

動き出した直後、岩石の魔獣が腕を全て、片腕二つずつ、計四個の岩石をこちらの進路を妨害するように投擲を行ってきた。

向こうも出し惜しみはしないことにしたらしい。

回避など高等な技術はない。

正面から、ツルハシを振るだけ、当てるだけ。

三つ、ツルハシで砕き最後の四つ目は岩石の魔獣に打ち返すように思い切りツルハシを振る。

岩石はツルハシによって砕けるよりも早く、岩石の真芯を捉えたことにより魔獣の方へと返り飛びながら割れていった。

魔獣の胴体に、打ち返した岩石が当たり真後ろにぶっ倒れた。

胴体に素早く登り、また出鱈目にツルハシを突き立てる。

石食草の効果か、さっきの手応えよりも柔らかく、より粉々に粉砕されていく。


「見つけた。」


岩石が再構築する前に砕いた岩の中に片手を突っ込んで岩石を動かしている何かを素手で掴んだ。

そのまま引っ張り出そうとするが、かなりの抵抗だ。

もう片方の手で足元に置いたツルハシを持ちなおして片腕だけで岩石を壊すと、抵抗するのに手一杯なのか岩石が再構築せずに砕けていく。


「ロウ!」

「うん!」


こうなればあとはロウのお家芸。

片手に持った何かを岩石から引き剥がすことに成功した。


「なんだこれ。」


引き剥がした何かは、触手を自在に操り伸縮させ腕に巻きついてきている。

見た目は、軟体といえばのタコを連想させる。


「お?何だ?腕が勝手に、こいつが動かしているのか。」


びくびくと勝手に動く左腕。

面白がっているところに全員集まってくる。

すると溶岩湖の下から何かが浮上し、溶岩が湖面から上に盛り上がっていく。

溶岩湖から溢れてくる赤黒い液体から身を守るためロウの地形変化で孤島を作り避難した。


「な、なんだよ、次は一体・・・。」


溶岩の暑さなのか冷や汗なのかはわからないが、汗と垂らしながらロウが恐れおののいている。

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