気持ちの伝え方
「僕ちょっと宿に戻ってポーション作ってくるね。」
「あんまり根を詰めすぎるなよ、ロウ。看病もしてくれたんだ。今日くらいはゆっくり休め。」
「うん、でもみんな冒険にも出たいだろうから。」
ああ、ぶっ倒れていた間はどこにも行ってないのか。
だが、これで今日、みんながいなければあの魔獣はどうにもならなかっただろうし、村が壊滅していたかもしれない。
もちろん、畑もこの体も破壊の限りを尽くされていただろうな。
タイミングも運も、結果的に良かったと言える。
「ロウ、ありがとうな。」
「うん、わかったから。ジュンもまだ腕完全じゃないんだからさ、ゆっくりしなよ。」
「そうする。」
なんか考えたら痛くなってきた。
畑の薬草はまだ萎れた状態で追肥の効果はまだ時間がかかるだろう。
掘建て小屋にごろ寝して目を瞑る。
微睡の中で親友の顔がまた浮かぶ。
ゲームもした、外でも走り回った、二人して迷子になって親に散々怒られた。
楽しかった夏、鮮烈に蘇る色とりどりの日々。
あいつは花が好きだった。
白以外の花。
自分が白い髪だから、そんな理由だったな。
そんなことはないと嗜めてシロツメクサの冠を被せてやった。
あの時、お前は泣いていたな。
なんの涙だったのだろうな。
単純に嬉しかったのか、悔しいことを思い出したのか。
ふと目を開けるとレイナがそばに座っている。
「あ、おじさん起きた?」
「ああ、レイナか。どうした?」
「ううん、なんでもない。ロウ、かっこよかったね。」
「そうだな。」
「おじさんもかっこよかったよ?」
「そうか?」
「うん、骨はめようとしてる時の真剣な顔、かっこよかった。」
膝を抱え、膝の上に頬を乗せて顔だけこちらに向けて話すレイナの顔には優しさが溢れているように見える。
「そうか。それは何より。」
寝そべらせた体を、左手を気遣いながら起こす。
レイナが手を差し伸べて起き上がるのを手伝ってくれたすぐあと、レイナと唇が触れあう。
「あ、すまん。」
「・・・わざとじゃないよ。ジュン、驚かないの?」
「いや、どうしたらいいかわからなくて固まってる。驚きが度を超えると動けなくなるもんだな。」
「ふふ、おじさん、可愛い。」
レイナは恥ずかしがるように陽の光のしたに駆け出す。
日にさらされた彼女の透き通るような白い頬が赤く染まっている。
「おじさん!薬草!元に戻ったよ!」
「どれどれ。」
眩しい日の光を存分に浴びて薬草や花々は生き生きと活力を取り戻していた。
レイナが寄りかかってきて頭を腕にくっつける。
「っ。」
「あ、ごめん、こっちだね。」
左から右に移動してまた寄りかかってくる。
こういう時は、今までこんなことなかったから、ドギマギしつつもレイナの右肩に手を置いた。
より、体重を預けてくる彼女を抱き止める。
「おじさん、私はずっとおじさんの味方だよ。村の人がおじさんを追い出したら、私の故郷に一緒に行こ。そこでまた、一緒に薬草とか作ろうね。」
「ああ、ありがとう、レイナ。」
「レイナ、抜け駆けは許さん。」
突然のドスの利いた声が後ろから聞こえて振り返ると、マリカが立っていた。
鬼のような形相とはまさにこのことを言うのか、と思わざるを得ないほどの怒気がこもった表情でこちらを凝視してくる。
「抜け駆けじゃないもーん。いいじゃない、減るものじゃないし。悔しかったらマリカもおじさんに告白すればいいじゃない!」
悪い顔で笑いながらレイナが逃げて行った。
逃げた、でいいんだよな?
「マリカ?」
急に二人きりになり先程の威勢はどこへ行ってしまったのか、俯いてモジモジと大人しくなるマリカ。
すると急に顔を上げて正面から突進してきた。
速い!
女子の速度じゃない!
どんっ、と胸に音を立てながら抱きつき、心臓の鼓動を聞くように顔を密着させてくる。
無言のまま刻々と時は過ぎていく。
慕ってくれていることに感謝をしつつ、ただどうしていいかはわからないまま。
とりあえず頭での撫でてみるか?
頭に手を乗せると、ビクッ、と体を硬直させて巻き付けた腕の力がこれまた女子ではない力で締め上げられたが、撫でていくと徐々に腕の力も抜け、体を預けるようになってきた。
「マリカ?」
「何。」
「あの魔獣を助けてくれてありがとな。」
「当たり前。」
「優しいんだな、マリカは。」
「今更。」
ずっと体勢を維持し続けたままの彼女をそっと抱きしめてみた。
あ、と短く声を漏らす。
また無言の時間を迎え、彼女から手を離すと更に腕の力を強めて離れまいとする。
「花に、水でもやるか?」
「もうちょっと、このまま。」
マリカを撫でる時間がもう少しだけ続き、満足したのか体から離れると水汲み場に行ってジョウロを取って戻ってきた。
マリカの花園に一緒に行く。
マリカは青や白などの寒色の花が好きで花園はとても涼し気な印象を受ける。
何もロウだけが花の世話をしているわけではない。
彼女たち独自の花園の管理は彼女たち自身で行っており、土や花の状態を事細かにロウが見て彼女らに伝えているだけだ。
もし肥料が足りなければキナコを呼んで彼女たちがキナコに土をどうしたいか伝えて維持を行っている。
花が枯れてしまうと、種をキナコが取り出してまた植えて育てるか、外で新しい気に入った花を見つけたのであれば、種をマジックボックスに保管して花園に新たに植え付けをする。
彼女たちなりに花園を楽しんでいる。
「ロウの鑑定眼鏡ほしい。」
「ああ、そうだな。あいつに仕事をさせっぱなしで申し訳ないな。」
「でもアリサがいるから。ロウはアリサに癒されてる。」
「はは、そうだな。ルインも、キャスもな。」
「ルインはそう。キャスは最近そうでもない。」
「そうなのか?」
「そう。キャスはロウが好き。でも私やレイナのジュンに対する好きと違う。」
「そうか。」
「ジュンは?好きって言われたら喜ぶ?」
「ああ、嬉しいな。」
「ジュン。」
「はいはい。」
「好き。」
「ありがとう、マリカ。」
「私はジュンに癒される。」
「そうか。」
「うん。あんなこと言ったけど、レイナのこともジュンが癒してほしい。」
水をあげ終わり、ジョウロを受け取る。
花の世話をするマリカと、マリカの花園が両方目に映り、その姿や景色は儚げで美しく、しばらくの間見惚れてしまっていた。
こんな歳下の子たちに手を出したら犯罪だな。
気持ちだけ、受け取っておこう。
未来ある若者が、自分のような枯れそうな男に躓いている場合ではないだろう。
気持ちだけ。
-
マリカと一緒に飯屋に行って、外でずっと看病をしているリオンのため、持ち帰りできる料理を頼み待っていると、ロウたちと居合わせた。
外で食事を取ることを伝えると、みなでリオンのところに向かうこととなり、料理も追加で注文し嫌な顔をされたが気にしない。
料理が出来上がり日も少し傾きはじめたころ、リオンのいる村の外に鹿たちも連れて向かう。
遠くから見たグリフは、すっかり寛いでいるように見え、リオンはグランの頭を膝の上に抱えながら寝てしまっていた。
「お、グラン。起きたか?」
ひそひそとリオンが起きないように話す。
目だけを動かして、眠っているリオンを起こさないようにじっとしている。
少し離れた場所にみなで座り込み、持ってきた料理を広げると、その料理の匂いにつられてかリオンが起きてしまった。
「ん、んー。寝ちゃった。なんかいい匂い。」
「流石はリオン。狩人の嗅覚は伊達じゃない。」
マリカの言葉に一同笑いあう。
リオンの手からすり抜けるようにグランが頭を抜いて座る姿勢を取った。
「あ!グラン!起きたんだね。良かったー。」
『リオン、感謝する。』
こちらの言葉ではわからない内容で、グリフはグランに何かを伝えている。
きっと、生き延びた理由でも話しているのだろう。
「ポイム、腹減ってるだろう?行ってこい。」
ポイムは猫のように伸びをすると一声鳴いて颯爽と森の中へ駆けて行った。
『ポイム、というのか、あやつもなかなか賢い。』
「そうだろう?グリフ。お前ら飯は?」
『ポイムと一緒だ。ここで狩りをする。』
「人は、襲う?」
レイナの言葉に場が凍り付いたように感じた。
『本来、人は襲わんし食わん。なにより肉がまずい。人の方からやってくるから、致し方なく応戦する。戒めのために食らう。それだけだ。』
グリフの回答が更に空気を重くした。
人が魔獣の住処を荒らした結果だ。
賢い魔獣であればあるほど、人との関係性は悪くなっていく。
村でわかったが、人は、正体がわからないがとにかく恐怖を感じるものには攻撃をする。
人を襲わないとわかっても、別の災いが降りかかるものとして排除しようとする。
「レイナ、故郷はどうだった?アルセスたちは受け入れられたのか?」
「あ、うん。旅の仲間って言ったらすぐに。王都からかなり離れてるし、自然に囲まれた場所だから。アルセスたちは故郷にはいないけど、ある意味魔獣は見慣れてるから。」
「それよりも、テイムされていない魔獣がここまで懐いている方がおかしいって故郷のテイマーに言われたよね。」
「ちっこいのは故郷のちびっ子たちに人気だった。」
女子三人の故郷は常に魔獣という危険と隣り合わせにいるから、魔獣を知ろうとしたのだろう。
三人の故郷が人情のある温かい場所のようで安心した。
「そうか。人気だったか。グリフ、これからどうするんだ?」
『そうだな、あの高い山があるだろう。そこの頂上にでも居を構えようと思う。他のグリュプスを呼び寄せるかはそのあとで判断しよう。』
「まだ、仲間がいるのか。」
『ああ、住処を追われたものが各地に散っている。この翼があればすぐにでも呼び寄せることもできよう。今はグランの静養が必要だ。だが。』
「ん?だが?」
『ジュン、貴様がこの人の里を追われるような事があれば、我らもここから離れよう。』
「え?」
「ジュンさん!!グリュプスをテイムしたんですか?!」
「ロウ、テイムをいつしたって言うんだ?」
「でもでも!」
そんなキラキラした目で見てくれるなよ。
「ロウ、テイムじゃない。だが今回のことで一番活躍したのはロウなんだがな。なぜだ?」
『ロウを従属しているのがジュン、貴様だろう。』
従えているわけじゃないんだがな。
従業員、字面的には従えていることになるが。
「難しいかもしれないが、従えているわけじゃない、慕うだとかそういう気持ちでここにいてくれているのだと思っている。仲間というやつだ。そうだな、そうしたらグリフ、グランもだが、仲間になってくれよ。ここにいるみなが仲間だ。」
『従属関係ではないと?変なことを言う人間だな。まあ良い。居て気持ちが良いからな。』
「ははー、ということはジュン。僕もグリフも仲間?」
「今そう言っただろう。アリサも全員な。」
俄かに信じがたい、ロウはそんな顔をしてグリフたちを眺めている。
「リオンも、グランを診てくれてありがとな。こうやっていろんな魔獣との関係が良くなればいつかきっとその身を助けてくれると思う。狩人なら余計にな。」
「うん!ジュンありがとう!ロウのポーション、本当に役に立ったよ。」
急にリオンが立ち上がってロウの目の前に来た。
何を始める気だ?
「リオン?」
「私、ロウが好き!アリサやルイン、キャスに負けないくらい!だからロウ!ジュンがこの村から出ることになったら一緒に故郷に帰ろうね!」
いきなりの宣言にロウはただ呆けてしまって、リオンの目を見ているだけになった。
「あら、いつ私がロウの事を?」「いやいやもうずっと前からでしょ。」「邪魔者が増えた!!」
新たなライバルの登場にアリサは平常心だが、ルインは戸惑っているようだな。
何が起きたのか理解ができずにいるロウの視界にぬらりと入る。
「ロウ、責任重大だな。」
アリサとルインとキャスに合わせてリオンも幸せにせねばならなくなったな。
恋の、季節か。
「いや、その、なんで僕?」
「かっこいいから。」
リオンの即答に首をかしげているロウと、口を手で隠して微笑みながらも背後に黒いオーラを感じるアリサと神妙な面持ちで頷いているルインが印象的だ。
ロウの立場を自分に置き換え、先ほどのレイナとマリカの気持ちを考えてみる。
気持ちだけを受け取って他の良い男を見つけてもらうと思っていた自分の気持ちが揺らいでしまう。
気持ちだけ、それは都合に良い逃げかもしれない。
二人のこと、もっと真剣に真摯に向き合わねばならないな。
そんなことを考えていると、レイナとマリカの二人が隣に座り込んできた。
「いいね、おじさん。リオンかっこいいね。」
「私、畑ではかっこよかったし。」
「ああ、そうだな。」
するとキャスがレイナとマリカを押しのけて隣に座り込んできて腕を絡ませてきた。
「ジュン、私ね、ロウとどっちか悩んだんだけど、大人の方がいいからジュンにするね。」
驚いた。
キャスもロウだと思っていたが。
決め方が雑な気もするが、普段見せないキャスの可愛らしくおしとやかな所作に心奪われてしまう。
ロウは三人、こちらも三人。
ロウの慌てぶりに目を見張るが、内心こちらも気が気ではない。
『どちらも有能な雄なのだろう?ジュン、ロウ。全員まとめて相手をすればいいのだ。』
男どもの気持ちを読み取ったのか、グリフがため息をつくように話しかけてきた。
そちら魔獣の世界とこちら人の世界は違うと思うが。
グリフの言葉でロウの覚悟は決まったようだ。
最近思うがロウはどんどん男らしくなっていくな。
少し嬉しいが少し遠い存在になっていく。
村のことはどうでも良く、平和であるからこそのこのひと時、ということか。
この世界で初めての大人数での食事は、一人で食べるよりも美味しいものだな。
ハーレムになっちゃった




