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飛来と排斥

ううん、眩しい。

ここは、目を開けているのか?

白い、何も見えん。

あれは、あれは、そうだ。

小さい頃に会った。

親友。

髪の白い、お化けみたいだとからかわれてたところを助けた。

夏の間そいつとたくさん遊んだ。

その年のその夏だけ。

でも親友だ。

後で聞いた。

そいつは、夏が終わって、死んでしまった。


「ゅん、ジュン!」


はっ、ここは。


「眠りながら泣いてるからどうしたかと思ったよ。」


ロウか。

というか思い出した。

この姿、親友の姿だ。

ここまで生きられなかった親友。

名前すら知らない。

知らなくても楽しかった。

忘れていた大切な思い出。

なんとなくだが、もう前の世界では自分も死んでいるのだろう。

そんな気がしてならない。

そして、親友が生きられなかった時間をこうして代わり親友の姿で、ここで生きる。

案外それがここに来た理由かもな。

この命、この姿を蔑ろにしてはならない。

ただわかってくれ。

ポイムやグリフォンの時は、そうしたかった。

結果として危機は去ったし命もあるのだから、許してくれ。


「ジュン、大丈夫?」

「ああ、心配かけたっ!っつ!」


しまった、左腕で地面を。


「あ、おじさん起きたー?大丈夫?」「安静は大事。」「三日は寝てたんだよ?」


三日?!


「そんなにか?!悪い、心配かけたな。とりあえず大丈夫だ。」

「ジュン、寝てる間は私たちで畑の水やりなどをしていただけど。」

「元気ないの、薬草。萎れちゃって。」


畑を見ると確かに薬草、のみならず花園まで萎れてしまっている。

地面が濡れている。

水やりを欠かさずやったのだろうな。

みな頑張ってくれた。


「原因はなんだろうな。キナコ、少し多めに栄養を土にあげられるか?ん?キナコ?」


キナコの様子までおかしい。

ふるふる震えが止まらない。


「おい、キナコ!」


ぷりん。

・・・分裂した。


「キナコ?」


キナコは分裂を終えると何事もなかったかのように畝に追肥を始めた。

赤いスライムを残して。

このスライム、洞窟で出会ったやつと同じか。

しかし全く動こうとしない。

いや時々ふるふる揺れたりしているのだが、その場から動かない。


「なんだこれ。」

「スライムはある程度栄養とかつけたら分裂するんだけど、キナコ、ずっと分裂しなかったよね。なんでいきなり分裂したんだろ。」

「ロウの鑑定で何かわからないのか?」

「うん、何も、スライムってだけ。ただ敵意は無いよ。」

「村の外の赤いスライム、足が早くて嫌いだけど、この子はなんだか違うね。少し色が濃い?」


そうなのか?

色々試してみるか。


「ロウ、魔鉄鋼を持ってきてくれ。」

「あ、うん。そっか。」


ロウもどうするかわかったようで、魔鉄鋼、白魔金の鉱石、返り血を浴びて汚れた七人の服、桶の水を持ってきた。

まず魔鉄鋼。

与えてみるとキナコと一緒で取り込んで、不純物と魔鉄をわけて精錬した。

白魔金も同様。

汚れた服を桶に入れると、これまたキナコと一緒で桶に飛び込み服を水ごと取り込んだ。

ただのキナコの色違いか。

うーん、害はなさそうだな。


「あそこの薬草はもう枯れるだけだな。あの薬草、食べていいぞ。」


すると赤いスライムはキナコの倍以上の速さで指定の薬草を取り込み、こちらに戻ってきた。


「はやっ!」


人の言うこともわかるし、素直だ。


「おじさん、このスライムの名前どうするの?」


名前?うーん。


「お前に今から名前をつけるぞ。気に入ったのがあったら教えてくれ。」


赤いスライムか。

リンゴ

イチゴ

スモモ

ハバネロ

トマト

ゼリー


「おじさん選ぶのださいー。」

「じゃあレイナはどんな名前をつけるんだ?」

「え?えっとねー。ザクロ?」

「・・・反応しないな。」

「えー。」

「アール!」

「・・・キャス、ダメなようだぞ?」

「ぴえぱお。」

「何語だそれ。」

「・・・ロゼ。」


お、動き出したぞ。


「ロウ!もう一度呼んでみてくれ!」

「え?ロゼ?」


おー、走り回っておる。

戻ってきた。

ロウに懐いているような、足元にまとわりついている。


「よし、お前の名前はロゼ。名付け親のロウの言うことは絶対に聞くこと。いいな。」

「え?待って!僕そんな大役できるわけ!」

「大丈夫よ、ロウ。ロゼと一緒に花を育てましょう。」

「あ、はい!早速アリサさんの花園行きましょう!」


単純だな。


「ロウ、ようやく笑顔が戻ったね。」

「そうなのか?リオン。」

「うん。」

「ジュンが起きなくてずっと、真剣で余裕のない顔してた。」


そうか。

リオンとルインの言葉で今日起きた時のことを思い出した。

ロウのあの顔をさせていたのは紛れもない自分だ。

もう彼にあんな顔をさせられないな。

踏ん張らねば、年長者として。


「ジュンから新たな決意を感じる。」

「はは、マリカは心でも読めるのか?」


和やかな空気も束の間、太陽が何かに隠される。

見上げると、空から何か降ってくるのが見えた。

何かを咥えている?

影が大きくなっていく。

その影は飛び去ったはずのグリフォンだった。

ボロボロの体の小さなグリフォンが咥えて、村の外に降り立った。

村が俄かにざわめき立つ。

今チェインたちは冒険に出ていてこの村にはいない。

ロウたちも走って村の道に出てきた。


「戻ってきた!」

「なんで!?」


村人たちが口々に騒ぎ、ギルド員たちや冒険者たちが村の外に出て行く。

気になったのはボロボロの小さな個体。

畑から柵を隔ててすぐの場所にいる大きなグリフォンと目が合う。

察するに。


「ロウ!この畑で一番品質のいい薬草を持ってきてくれ!先にあの魔獣のところに行ってるぞ。」

「ジュン!また行ったら!くそっ!」


ロウとアリサとロゼを残して他全員でグリフォンのもとに向かう。

既に三方を冒険者たちが取り巻いてそれぞれ武器をグリフォンに向かって構えている。

その武器ではグリフォンに傷を与えることはできない、だが冒険者としての矜持から武器を構えずにはいられないのだろう。

冒険者をかき分けて取り囲んでいる中心が見える。

ぐったりと横たわる小さな個体。

冒険者をかき分けて飛び出すと、ゆっくりと傷だらけの小さな個体に近づいていく。

グリフォンは全く敵意を感じさせない。

冒険者のグリフォンを取り囲んでも前に出られない戸惑いが至る所から感じられるのはこのせいだ。

そして、治せという傲慢な態度はなく、ここならこの子を治せる、治してくれる、という信頼と強者の毅然たる態度で小さな個体の前に現れる誰かを待っているように見えた。

グリフォンから目線を外し、小さい個体を見る。

薬師でも医師でも無いが、助かるか助からないかの瀬戸際、虫の息であることが容易にわかるほどだ。

足の肉は裂けて骨が見え、脛は骨が突き出している。

腹、肋が見え、背中にも大きく裂かれていて、目を覆いたくなるような状況だ。

とても、ポーションや薬草だけでどうにかなるようなもので無いように思えて仕方がない。


「これは酷い・・・。」

「治せるポーションはあるか?」

「ここまでのものは・・・。」

「できる限りのことをしよう。ロウはポーションを傷にぶっかけてくれ。あの飛び出た脛を元の位置に戻して、薬草の液を絞って振りかけてみよう。萎れていても、品質はまだいけるだろ?」

「うん、品質はいける。そもそもおかしな品質だから。暴れないかな。」

「暴れようがぐったり寝ていようがやれるだけのことをするだけだろ。」


ロウから薬草を受け取って脛に取り掛かった。

ロウは背中から、すぐにわかる傷口に消毒のポーションをありったけかけていき、回復のポーションを惜しまず振りかける。

萎れた薬草からは成分の抽出がうまくいかずに数が揃っていない。

ポーションが足りないとうろつくロウを見て、アリサは彼のマジックバッグからいつも冒険に出かけるときに持っていくポーションを取り出して渡し、ほかに必要なものをロウに聞いては畑に走って取りに行く。

レイナは脛の骨を元の位置に戻すために膝を押さえてくれている。

マリカは添え木と固定する布為の布を用意してきてくれた。

リオンは表情を確認しつつポーションを口の中に注いで様子を見ている。

最初手伝うことを戸惑っていたルインとキャスも、アリサのもとに走り、薬草集めに奔走した。

ロウのポーションは、一番簡単に調合できるポーションであったが、患部にかければ体本来の治癒力と再生力を早回しするように、みるみる傷が塞がり、深く肉がえぐれて欠損しても欠損部位が再生させることが可能というとんでもない性能を持っている。

飲めば血中を駆け巡り、直接かけるよりは効果も作用する時間も劣るが、徐々にだが確実に内部からも効果を存分に発揮していく。

ぐん、と筋肉が伸びて脛の骨が戻った。


「よし!レイナ!マリカ!」


レイナが添え木を当てて一緒になって足を抑え、マリカがキツく添え木と足を締め上げていく。


「ジュン!ポーション!」


ロウから投げ渡された二つのポーションを受け取って消毒、回復の順にかけた。

骨の周りの筋組織が再生していき、骨がついたかどうか確認できぬまま覆われてしまった。

薬草を絞って患部に薬液を滴らせ、様子を見る。


「ダメか。あ、いや。これは。」


リオンの飲ませていたポーションの効果が現れ始めた。

血液に乗ってポーションの成分が全身に行き渡り始めたようだ。

体にある無数の傷口が塞がっていく。


「ふうううう。」

「はあああ。」


ロウと一緒に小さい個体から離れて、背中を預けあってへたり込んだ。


「ジュン、腕は?」

「ん?何かあったか?ああ、忘れてた。」

「はは、うん。僕も、必死だった。」

「ロウ、よく頑張ったわね。」


アリサからロウに労いの言葉がかけられる。

ロウの方に振り返ると、いつもなら真っ赤になっているところだが、今日は普通だ。


「アリサもありがとう。すごく助かった。」


その爽やかな笑顔がアリサの心を貫いたのだろう、逆に真っ赤になっている。


「ルインも、キャスも、ありがとう。」

「っ!別に!」

「役に立った?まじ?よかった!」


こういう時キャスは素直なんだな。


「レイナ、マリカ、助かった。ありがとな。」

「おじさんが助けるなら私も助ける!あたりまえ!」

「縛り方があれでよかったのか不安。」

「マリカ、大丈夫だ。あれでいい。それにリオンの飲ませたポーションが効いてる頃だろう。」


リオンは抱えた魔獣の頭を膝の上に置いて、まだポーションを飲ませ続けている。


「おい、また魔獣を助けたのか?」


村人がこちらに言葉をぶつけてくる。


「ああ、なんか文句でもあんのか?」

「ああ、そいつがここを巣にしたらどうすんだ。俺らの生活が脅かされるじゃないか。」

「そうだ!この村に冒険者が訪れなくなったら商売できない!どうしてくれるんだ?!」

「もしそうなったらこいつを使って村おこしでもすればいいだろ?変化に順応できないやつが淘汰されるのは自然の摂理だろ?」


村人たちからは歓迎されていないようだな。


「何かあった時、今と同じセリフが吐けるのか、楽しみにしているよ。」


吐き捨てるように村人が言葉を残して村の中に一人また一人と帰っていく。

冒険者たちも武器を収めて村人に同行した。

人の流れとは全く逆に、ポイム、キナコ、ロゼがグリフォンに近づいて、ポイムは添い寝を、キナコとロゼは小さな個体の体の周りを這いまわって、止まってを繰り返し始めた。

大きなグリフォンも小さな個体の横に座り込む。


『ありがとう、人間。』


その場にいた全員が驚いたのは無理もない。

グリフォンが話し始めたのだから。


『我が子の息は整った。安らかに眠っているようだ。』

「喋れるのか・・・?」

『ああ、今は直接、貴様らの頭に語りかけている。人間にも色々いるのだな。我らを狩り殺す者もいれば、こうやって救う者もいる。貴様らに出会えたのは幸運だった。だが、諍いの種ともなってしまったようだな。』

「喋れるんなら都合がいい。んで気にすんな。さっき言ってただろ?いろんなやつがいる。もし諍いが発展したら、この村から出ていけばいいだけの話だ。」

「え?」

「ジュン?」

「どういうこと?」


視線が集まってきた。

これは前々から考えていたことだ。


「この畑はチェインの畑だ。借りてるものを返す、それだけの話だ。また新たに農園のできる場所を探せばいい。みんなにもできればついてきてもらいたいとは思っているが、それはまあみんなに任せるし、場所も決めてないし金もないから、どうなるかわからんがな。村人の話も聞いていただろ?今のうちにそうなった時のことを考えておいてほしいんだ。悪いな、守ってやりたいんだが、腕っ節も強くないし金もないし知識もないからな。」

「なんだーそんなことかー。辞めてどっかに一人で行っちゃうのかと思ったよー。」


レイナの言葉にみんなが頷く。


「もしそうなっても、私のすることは宿を引き払ってジュンの次の農園でロウと一緒に花園を作ることですね。」

「あ!ずる!私もロウに世話してもらうんだから!」

「花まじキレーだもんね。」

「僕はまだジュンの依頼を成し遂げてないから離れるつもりもないし、みんなとも離れたくないよ。新しくロゼとも仲良くなった。もっと、僕にいろんな世界を見せてくれるんだろうし、この農園で見たいから。そばにアリサとかが居てくれれば尚良いし。」

「アリサ、とか?」

「あ、いや、アリサと!と!」

「モテる男は辛いね、おじさん。」

「今日のロウはかっこよかったし、しょうがない。」

「ジュンさーん、私もついて行きますよー。」

「はは、そうかい。だそうだ、魔獣さん。こいつら救う者の中でもさらに変わり者って感じだな。今日は休んでくれ。どうせ誰も、あんたのこと傷つけられる奴はここにはいないからな。」


リオンは全部飲ませ終わって頭を撫でている。

小さい個体がこのことを覚えているのなら、リオンのことを一番に気にいるのだろうな。


『恩に着る、救う者たちよ。我が名はグリフ。グリュプスが長を務めるもの。そして我が子であるグランだ。』

「ジュン、だ。」「ロウ!」「アリサ。」「ルイン!」「キャス、なり。」「レイナ、レイナだよ!」「マリカ。」「リオン。」


『覚えたぞ。ありがとう。少し、休む。』


「ゆっくり休んでくれ。ポイム、リオンと代わって。」

「私はもう少しこのまま!」

「わかった。任せる。ポイム、キナコ、全力で全員を守ってくれ。」

「がう。」

「ロゼも、お願い。」


ポイムたち三匹は(はな)からそのつもりか。


「じゃあ、村に戻ろう。」


グリュプス騒動はとりあえずこれで一区切りだ。

村から鹿たちが出てきてポイムたちの周りを飛び跳ねる。

疲れた顔をしつつも、村人の言うことなど気にする様子もなく、みな満足気に村の中へと帰って行った。

現実だと、骨折した動物は安楽死を選択することがあるかと思います。

ファンタジーの世界では致命的なケガも回復させられる術があるので、夢があっていいです。

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