畑の仲間
昨晩の天気から一辺、澄み渡る空に暖かな日差しが眩しい。
彩られた畑も相まって自分の周囲が色に包まれているようだ。
「あ、ジュンさん。おはようございます。」
「眠れたか?」
「はい、意外にぐっすりと。ポイムさんありがとうございます。」
ポイムが役に立って何よりだ。
「あの、僕いろいろ考えたんですけど・・・。」
やはりダメだろうか。
この反応はあまり良い答えが聞ける反応ではないな。
「ここでまた、野宿ですか?」
後ろから女性の声がする。
「畑、随分と賑やかになりましたね。お久しぶりです、ジュンさん。」
「久々、にしては早いお帰りですね、アリサさん。」
アリサが帰ってきていた。
「あの、この女性は?」
「ひと月前くらいか、洞窟で出会ってね。」
「あの時は、どうもありがとうございました。ジュンさん、こちらの方は?」
「あ!ロウ、です!」
「こっちも洞窟で出会いました。二人とも洞窟内での縁ですね。」
まぁ、と口に手を当てて笑うアリサの姿は、この村を出て行ったときとは全くの別人で明るく、どこか吹っ切れたような印象を受けた。
「別れを、言ってきました。」
「そうですか。」
未来へ歩き出す選択をしたようだ。
ロウはどこか呆けたように彼女を見ている。
「綺麗・・・。」
口から感想が漏れている。
そんなロウを見て、どこか陰のある微笑みを彼に向け、そして畑の方に視線をずらした。
「今育てている薬草ですか?こちらは、まだ植え付けは。」
「そこには種を撒いて様子を見ているところです。あとは御覧のとおり、種を取るために枯れるまで栽培を続けます。」
「そうなんですか。ならジュンさん、この持久草はもうすぐ枯れます。種も結構取れそうですよ。」
「ロウさんは、植物に詳しいので?」
「あ、僕、鑑定持ちなんです。」
真っ赤になって答えるロウと優しく微笑むアリサ。
「そうなんですね。錬金術です?」
「いえ、魔術を、でも全然強くならなくて。」
「少し、よろしいですか?」
アリサがロウの手を持ち、手の甲を見た。
紋章のようなものが刻まれており、アリサの手を見るとアリサにも紋章が刻まれている。
ロウは触れられてから身動き一つせず、じっとアリサの顔を見ていた。
「どう見ても、魔術のクレストではなく錬金術のクレストですが、どうして魔術を?」
「あ、ひゃい、パーティメンバーから言われて、魔術も使えるんだからやってみろって。魔術もできる錬金術師なんてかっこいいから、なんておだてられて。今思えばそうですね、できなくて当たり前なのに、固執してしまって。」
「魔術も見せていただけませんか?」
「え?あ、はい。」
ロウが魔法を唱えると、燃え盛る火球が出現した。
大きさ、火力、申し分ないように見えるが。
アリサはロウの魔法に動じることなく火球を観察している。
「錬金術師でここまでのファイヤーボールを出せるのはロウさんだけでしょうね。よく、頑張りましたね。」
火球が消えた。
ロウを見ると、涙を流している。
「はい、ありがとうございます。ありがとう・・・!」
今まで褒められたことがなくそれでもひたむきに努力を続け、今、それが報われたのだろう。
あとからあとから、ロウの涙は溢れてくる。
昨日とはまったく別の、全てを洗い流す涙。
「ジュンさん、私をこの畑で働かせていただけませんか?今日は、そのお話をしに伺いました。」
「ええ、構いませんよ。とはいえ、まだこのような状況ですからすることもあまりないかと。それに、この家は。」
「ジュンさんは住んでいらっしゃらないのですよね。大丈夫です。宿をとりますから。宿と食事の代金もこちらで賄えます。」
ほぼボランティアの状態で働かせることになってしまうな。
「あの!ジュンさん!僕も働かせてください!!」
いきなりの大声で驚いたが、ロウもどこか吹っ切れたようだ。
どこか自信の無いおどおどした格好から、清々しい男らしさを感じさせる風貌に変わっていた。
「僕の錬金術と鑑定なら、きっと役にたてます!」
「アリサさん、ロウ、二人ともありがとう。よろしくお願いします。」
畑に一気に仲間が増えた。
「では、こちらを。」
何をするのでも道具は必要だ。
「こ、これ?!」
「ジュンさん?!」
二人驚いた顔をする。
そうだな、きっと貴重な物なのだろうがそもそもこれはロウが見つけた物だ。
「この白魔金で二人の得意とする武器を作ってきてください。洞窟に行くときいつも丸腰で怖い思いをしていましたから。」
「あの、ジュンさん!この鉱物の価値は!!」
「ロウ、それはきっと高いのだろう?でも、二人の価値に比べたらこんなもの、そこら辺の石ころと変わりない。アリサさん、余りが出たら二人で現金にでも還元して分けてください。」
ロウはこの鉱物を見つけても今のように驚いたり、感動したりしなかったのは、どうせ死んでしまうと心が動かずにいたせいだろう。
今、こうして驚いたりしてみせたのは、生きる希望を持っていることに他ならないと思っている。
二人、過去から新しい未来へ、その立会人になれたのは少し嬉しい。
「笑ってる・・・。」
「いいから、珍しいものを見るような目で見ないでください。さあ、行った行った!」
畑から二人を追い出して鍛冶屋に向かわせる。
畑をぼーっと眺めていると二人が帰ってきた。
「言われたとおり、依頼してきました。」
「ジュンさんはいいのですか?」
「ええ、武器ならここに。」
鍬、丸・角スコ、ジョウロを指さす。
「なるほど。」
ロウは素直に納得している。
「鍛冶屋に行く前に、ロウさんを睨みつける男女がいましたけど、彼らは一体?」
「僕の、元パーティメンバーです。でも追放されましたし、新しくここでやっていくと決めましたから大丈夫です。」
アリサがこちらを向いたので、頷く。
「そう、心強いですね。」
アリサから向けられた笑顔にいちいち顔を赤くするところ、初心なところは可愛いな。
「ロウ、宿は取ったか?」
「あ、まだ。」
「ほら。」
「これは?」
「クエストの報酬。それで部屋を決めてくるんだ。」
「はいっ!」
もう驚かず、元気よく駆けだすロウ。
力みすぎて今にも転びそうだ。
「アリサさん、心配だから見てきてくれると。」
「ええ、わかりました。」
笑いながら、ロウのあとを歩いて追いかけて行った。




