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鑑定の力

雨が上がる頃にはもうすっかり暗くなっており、村に帰るかここに留まるか選択を迫られている。

ポイム以外の有効戦力はない。

ロウより弱い、それは事実だ。

武器という武器もツルハシしかない。


「さて、どうしたもんかな。」


アリサの時もだが、歩きでこの森を抜けるとなるとそれなりに魔獣に遭遇する。

アリサが腕の立つ冒険者であったから切り抜けられたが。

仕方ない。


「ポイム、ロウをまず村に連れて行ってくれ。無事ロウを送り届けたらここまで戻ってきて、また村まで戻る。いけるか?」

「はっ?!」


んにゃ、と返事をしてロウに近づき、彼が背中に乗りやすいように座る。


「ジュンさん。」

「ポイムが走りやすいように魔獣が出たら魔法を使って、なんとしてでも逃げ切れ。魔法に強い弱いは関係ない。村に無事に戻るまで出し惜しみするなよ?」

「はいっ。」

「ポイム、頼んだぞ。死ぬなよ。」


頭を撫でて束の間の別れを惜しむ。

ポイムが森に駆け出した。

キナコと一緒にポイムの帰りを待つ。

騒がしい男女の声がしなくなったところ、あいつらもここを発ったようだな。

洞窟の入り口の隣、壁に背中をつけて前をずっと警戒する。

すると、一匹スライムがこちらにやってきた。

赤い。

ぽんぽん跳ねている。

跳ねるのをやめて立ち止まると、凄まじい勢いで這い回り始めた。

スライムの捕食の時間だ。

何かの液体をこちらにはきかけてくる。

移動しながらの攻撃だが、わざと外すとかはなく、すべてこちらに向かってくる。

少しずつ移動しながらスライムの攻撃をかわして、こちらの攻撃の機会を窺う。

動きが早く間合い、距離感が分かりにくいが徐々に狭まってきているように感じる。

このまま引きつけて、ツルハシで。

身を低くして赤いスライムに手が届くところまで、我慢する。

スライムが立ち止まる。

あとちょっとでこちらの間合いなのに。

スライムが液体を連射してきた。

背をつけていた壁に液が当たると、壁に穴を開けで下へと落ちる。

溶解液、当たれば死ぬ。

攻撃ができずそのまま避け続けていると、赤いスライムが目の鼻の先に。

スライムが、溶解液ではなく、直接体をアメーバのように広げて取り込もうとしてきた。

そこにキナコが赤いスライムに覆い被さる。

赤いやつよりも広く大きく早くキナコはかぶさり、キナコの中にスライムを取り込んだ。

スライムの二重構造。

キナコに完全に抑え込まれているのか、赤いやつは身じろぎせずに、キナコに溶かされていった。


「ふう、助かったよキナコ。」


キナコは体をぷるんとさせてた。

それからしばらく敵影はなく、無事にポイムが戻ってきた。


「よくやったな、ポイム。」


体を寄せて抱きつくように撫で回す。

ポイムは体を低くしてすぐ乗るように促した。

何か、あったか?

不安を抱きつつポイムに乗って暗い森の中を走った。

幸運にも魔獣に出会うことは少なく、出会ってもポイムよりも弱く足の遅い魔獣だったのだろう、難なく森を抜けられた。

門番はもう顔パスで中に入れてくれる。

チェインの家の前に、ロウの姿があった。


「無事か。」

「はい。」


顔が赤い、涙を流した跡がそのまま残っている。


「また、何か言われたのか?」

「・・・いいえ、ですがバッグを。」

「とられたのか?」


無言で頷き、涙を流し始めた。

ポイムが走るのを見越してそれについて行き、難なく村に逃げおうせたということか。


「どこにいる。」


指さす方はギルドの方。

ポイムから降りて麻袋を担いでギルドに向かった。

ギルドに着くと、見た顔が三つ、知らない顔が大勢おり、談笑をしていたが、こちらに気がつくと黙ってギルド内が静まり返る。


「おい、鞄はどこだ。」

「ほら、きたぜ!そんなもの持っていませんよ?チェインさんの居候さん?」

「中身は全部こちらでもらってギルドに渡したわ。いいお金になったわよ。中身も、バッグもね。」


キャハハ、と高笑いをする女子たち。

それに釣られて男子も、周りの男たちも笑い出す。


「そうか、ならいい。」


受付嬢の前に立った。


「話は聞いていましたよね。鞄を買い戻したいのですが。」

「はい、こちらはとても大切にされているようで状態はいいですが、ジュン様は買取できるのでしょうか。」

「これで、買取はできないでしょうか。」


麻袋から魔鉄の延棒を二本、白魔金の延棒を三本置いた。


「ちょ、ちょっと、お、お待ちください。白、魔金のインゴットが三本?!」

「偽物かどうかは確認してください。」

「は、はい。お待ちを。」


受付嬢が奥に走り去った。


「どうせそんなもんどっかから盗んできたんだろ?!」


笑い声からどよめきに変わるギルド内が面白くないのか男子が大きな声を出した。


「お前には関係ないだろ?パーティの一人を追放して置き去りにして見殺しにしようとしても、誰も関係ないのと一緒だ。それに、お前はこれが盗品だと証明できるのか?」


できるはずがない、全てキナコが精錬したものなのだから。


「んなっ?!誰が殺しなど!」

「言わせておけばこの白頭!」

「キモすぎ、マジムカつく。」


殺気立つ三人。

別にどうしてくれようと構わないがな。


「そこの三人、ギルド内での戦闘行為はご法度だよ。殺し、という言葉も気になる。後で私の執務室に来るように。あとジュン君、こんなものをこんなところで出されても困るよ。純度約100度の魔鉄と白魔金を出さないで欲しいかな。これこそ執務室で内々に取引するものだ。場所を弁えて欲しい。今日買取したマジックバッグはこの魔鉄のインゴット二つで結構だ。」


ギルドマスターがカウンターから声を出している。


「マジックボックスはありますか?」

「ああ、あるよ。」

「ならそれも交換してください。」

「この状況でそれ言う?いいよ。じゃあ魔鉄三本で手を打とう。ジュン君はさっさとギルドから出て行ってくれ。」

「クエストの素材の納品もお願いします。」

「君は・・・。まったく。」


麻袋に詰めた数個と魔鉄鋼と白魔金の鉱物をカウンターに出して納品を完了させる。


「これなら、魔鉄のインゴットを半分にして返すよ。」

「いいえ、現金で。魔鉄で食事はできませんので。」


受付嬢に耳打ちをして後ろに下げさせた。


「じゃあそこの三人、ついてきてくれ。」


ギルドマスターと三人が奥へと歩いていく。

入れ違いに受付嬢が古びた鞄と大きな箱を持ってきた。


「ジュン様、こちらになります。お受け取りください。」


全て受け取り、箱に二つを入れてからギルドを出た。

ギルドに、というよりあの三人にこれから目をつけられるだろうな。

畑を荒らすことはしないとは思うが、一人外に出る時は用心しよう。

箱をチェインの家に持ち帰り、畑にロウを招き入れて箱から鞄を取り出した。


「これか?」

「はい!これです!」


ロウの顔が晴れやかになる。

鞄を抱きしめてまた涙を流した。

箱を水場とは反対側に置き、桶を見ると水をたたえている。


「ジュンさん、これ。どうなってるんですか?」


ロウの声、これとはなんだ。

地面に座り込んでいる彼を見つけて近寄った。


「この土、どんな作物も育つ土ってなってますよ?そんな土見たことない・・・。それにこの回復草、消毒草もですけど、品質が+5になってます。薬草で自生しているもので品質は中間の0だったり生えてる場所が悪いと-1だったりするんですけど、ここのは凄いんですね。」


そんなものまで見えるのか。

これは見方によっては便利かもしれない。

なぜ育つのか、いつ頃が収穫時期なのか、種は生きているか、そういうものが全てわかるかもしれない。


「なあロウ、ここで一緒に栽培やらないか?」

「え、でも。」

「どうせ行くとこないんだろ?」

「・・・はい。」

「ただ、住むところはないし給金もない。今日のように洞窟に潜ることになる。」


条件としては最悪だな。

ロウにとってのメリットがない。


「少し、考えさせてください。あと、今日はここで眠ってもいいですか?」

「ああ、構わない。そこの軒下なら濡れずに済むだろう。」

「それじゃあ。すみません。今日はいろいろあってくたくたで。」


それもそうだろう。

それに、宿に一人で帰るのも恐怖だろうな。

ポイムに、ロウのそばで眠るように指示して、キナコを枕に眠りについた。

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